恩師のご著書「講演集」より
講演集、 三
「真実」は目に見える「形」ではない
形の中にほんとうの真実があるのとは違います。
一休和尚さんが檀家の法要を頼まれて、墨染の衣を着て出かけていくと、
「お前のような乞食坊主を誰が呼んだか、帰れ帰れ」と言われて、
家に入れてもいただけなかったのに、
お寺に帰って金襴の衣に着替えて出かけますと、
今度は「よくおいで下さいました。どうぞ奥へ、大和尚さま」と言って、
奥に通されたそうですね。一休さんは仏壇の前にその衣を脱いで、
そこへ置いて帰ってこられたのです。
「そんなものを置いてくれても困ります。
お経をあげてもらわねばどうにもなりません」と、檀家の方が言われますと、
一休さんは、「私がさっき来ました時は、
家にも入れていただけなかった。ところが、衣を替えてきたら、
どうぞどうぞと入れてくれたのですから、
あなたが有難いのは、衣なのです。
だから、衣に拝んでもらって下さい」と言って、
ご自身は帰えってこられたそうですね。
これは、形に囚われているから、こういう間違いを起こすのです。
形の中に真実はありません。
流行歌にもありますように、
「ボロは着てても心は錦」、心に錦さえ着ていれば、
服装など姿形は関係ないのです。