メタエンジニアの眼シリーズ(151)
『ビジョナリー・カンパニー』 KMB4136
このシリーズは文化の文明化プロセスを考える際に参考にした著作の紹介です。
『』内は,著書からの引用部分です。
書籍名;『ビジョナリー・カンパニー 4』 [2002]
著者;ジェームズ・C・コリンズ、ジェリー・I・ポラス 発行所;日経BP社
発行日;2012.9.24
初回作成日;R2.1.5 最終改定日;R1.
副題は「自分の意志で偉大になる」で、このシリーズの4冊目になる。ちなみに各巻の副題は、第1巻「時代を超える生存の原則」、第2巻「飛躍の法則」、第3巻「衰退の第5段階」となっている。
コリンズはマッキンゼー出身、ポラスはGE出身のスタンフォード大学教授で共著で書かれた。第1巻は1994年に出版され、5年連続全米でベストセラーとなり、100万人以上のアメリカのビジネスマンを夢中にさせた本とされている。日本でも、一時期流行語になった記憶がある古い著書の一つ。
ビジョナリー・カンパニーの定義は、以下。
・業界で卓越した企業である
・見識のある経営者や企業幹部の間で、広く尊敬されている
・私たちが暮らす社会に、消えることのない足跡を残している
・最高経営責任者(CEO)が世代交代している
・当初の主力商品のライフサイクルを超えて繁栄している
・1950年以前に設立されている
そして、3M、アメリカン・エキスプレス、ボーイング、GE、IBM、ジョンソン・エンド・ジョンソン、マリオット、メルク、P&G、ソニー、ウォルト・ディズニーなどが挙げられていた。
ビジョナリーとは「先見性」や「未来志向」を意味し、著者たちは調査の開始にあたり、フォーチュン誌、インク誌の企業ランキングから700社を選び出し、CEOにアンケートへの協力を依頼。集計により、リストの上位20社の特徴を徹底的に検証した、とWikipedia にはある。いわば、常識的な見方といってよいと思う。
しかし、この第4巻は少し違った見方をしている。「10X型企業」として、通常の10倍以上の速度で急成長した会社を選び出して、原因を調査し、絞り込んでいる。その母集団は、2万4百社。そこから、11回ふるいにかけて絞り込んだとある。(pp.25)
まず、現代を不確実性の時代として、このように述べている。
『時代の変化に受動的に反応しているのではなく、自ら何かを創造している。単に生き残っているのではなく、勝ち進んでいる。単に成功しているのではなく、躍躍進してる。すなわち、持続可能で偉大な企業をつくり上げているのである。』(pp.20)
絞り込みの条件は、3つある。
『われわれは、大混乱・不確実・不安定が望ましいとは思っていない。カオスを追い風に躍進する企業、指導者、組織、社会はないのだ。 注目すべきなのは、カオスにもかかわらず躍進する企業が存在するということだ。
どのように躍進しているのか。 われわれはまず、一定の条件に当てはまる企業を見いだした
(一) 経営基盤が脆弱な状況でスタートした、
(二) 不安定な環境下で目覚ましい成長を遂げ、偉大な企業になった、
(三) 不安定な環境を特徴づけるのは、制御不能で猛スピード、しかも破壊的な威力を持って押し寄せる嵐―といった条件である。』(pp.20)
そして、もっとも顕著な例として、サウスウエスト航空を選び、その経緯について詳細に語り始めている。
『 今回の研究テーマの本質を端的に示している10X型企業がある。サウスウエスト航空だ。一九七二年から二〇〇二年の間に航空業界で起きたことを振り返ってみよう。石油ショック、規制緩和、労働争議、航空管制官ストライキ、景気悪化、金利高騰、ハイジャック、倒産に次ぐ倒産、「九・ーー」―。一九七二年末時点では、サウスウエストは航空機三機しか保有していない弱小航空会社。どうにかして赤字転落を免れている状態で、 大手航空会社に簡単にひねりつぶされてもおかしくはなかった。にもかかわらず、一九七二年末にサウスウエスト株に一万ドル投じ、そのまま持ち続けたら、二〇〇二年末には千二百万ドル弱の資産を築いた計算になる。』(pp.21)
それまでの巻との違いについては、このように述べている。
『われわれは多くの学生や読者から同じ質間を受ける「以前の研究でも同じように偉大な企業の条件を探っている。特に「ビジョナリー・カンパニー時代を超える生存の原則」と「ビジョナリー・カンパニー2 飛躍の法則」。今回は何が違うのか』(pp.22)
違いは、置かれた経営環境が最悪で、逆境下で大成功した企業とその経営者を敢えて選んだ。従来は、平時における成功事例だった。
逆境下での大成功と失敗の最適事例は、南極点到達争いのアムンゼンとスコットとして、特にアムンゼンの成功理由を詳細に述べている。
『常日ごろからあらゆる事態を想定して準備を怠らないのがアムンゼン流だ。こうすることで、たとえ逆風に吹かれても十分に体力を蓄えているから余裕を持って対応できる。逆に言えば、追い風が吹いたときには一気に躍進できる。
ロバート・ファルコン・スコットはアムンゼンとは正反対だ。南極征服でアムンゼンと競うまでに何年もあったのだから、その気になればとことん・・・。』(pp.41)
彼は、ノルウエーからスペインまで自転車で行き、イルカの生肉を食べ、エスキモーに弟子入りしながら準備を進めた。そして、南極点への往路では、途中の補給処のありかと、それを結ぶ経路に念入りな目印を残した。
『南極点到達に向けて南緯八二度から最後の行進に取り掛かるときには、アムンゼンはいつもより余計に補給品を積み、南極点までの補給所をすべて見逃してもあと百マイルは行進できる態勢にした。片やスコットは必要最低限の補給品しか積まなかった。一切のミスが許されず、補給所をーつ見逃しただけで大参事は必至の状況だった。細部への目配りがアムンゼンとスコットの違いを象徴している。』(pp.43)というわけである。
一方のスコットは正反対で、結果は1か月遅れで南極点には達したが、帰路で補給処探しに手間どり、ある補給処の10マイル手前で凍死したことが、8か月後に発見された。どちらも、置かれた環境は同じだったが、準備と、ことにあたった時の実際の行動パターンが違ったというわけである。
ちなみに、「一切のミスが許されず、補給所をーつ見逃しただけで大参事は・・・。」は、ジェットエンジンの検査の確実性を保つための方策と一致する。ある欠陥が成長して、ついには破壊に至るサイズになると、その部品は破壊してしまう。エンジンの重要部材では、一度の検査で見逃しても、次の検査までは十分に安全である欠陥のサイズを、発見可能な最小サイズとして、検査方法を定めているのだ。
先ず挙げたのは、『すべての面で優れているわけではない』として、次の項目を挙げている。
『より創造的というわけではない。、
より先見の明があるわけではない。
よりカリスマ性があるわけではない。
より野心的というわけではない。
より運に恵まれているわけではない。
よりリスクテーキングというわけではない。
より英雄的というわけではない。
より大胆な手段に打って出ているわけではない。』(pp.47)
これらは。比較対象の他のリーダーたちと変わりはない。違いは、「制御不能」と「制御可能」の明確な区分けをするということのようだ。
『 10X型リーダーは、常に不確実な状況に置かれていることを認識している。外部環境は彼ら自身に大きな影響を与えるといっても、自ら外部環境を制御できないし、それが将来的にどう変わるのか予測もできない、と認識しているのである。これが「制御不能」。一方で10X型リーダーは、不可抗力や偶発事象によってすべての結果が決まってしまうとも考えていない。自分の運命がどうなろうと、それについては全面的に責任を負うつもりなのだ。つまり、自分の運命を制御するのは自分であるということだ。これが「制御」。』(pp.48)
そして、この考え方の実践に決め手となることを、次の3つに限定している。
『このような考え方を実践に生かすうえで決め手になるのが、10X型リーダーが見せる主要行動パターン三点セットだ。「狂信的規律」「実証的創造力」「建設的パラノイア」の三つである。三点セットに命を吹き込むのがやる気の原動力「レベルファイブ(第五水準)野心。』(pp.48)
このことは、平時でも変わりがない。
『10X型リーダーは、良い時でも悪い時でも警戒を怠らないという点で比較対象リーダーと異なる。穏やかで、先行き明るく、楽観的な状況下にあっても、「 いつなんどき逆風に見舞われてもおかしくない」と考え続ける。実を言うと、一〇〇%の確率で状況は何の前触れもなく突然悪化すると信じている。しかも非常に都合の悪いタイミングで、である。だから常に最悪の事態に備えておこうとするのである。』(pp.66)
特に「パラノイア」については、通常の意味では「妄想狂」になってしまうのだが、敢えて「建設的パラノイア」としている。どこが違うのか。それは『人をとりこにするほど魅力的な野心』(pp.69)に基づいている「PNF」だという。
P; paranoid 偏執狂
N; neurotic ノーローゼ気味
F; freak 変わり者
そして、特に「狂信的規律」については、次のように説明している。
『一 貫した価値観、一貫した目標、―貫した評価基準、―貫した方法をはじめ、徹底した「行動の一貫性」を示す。長い時間を経ても行動がぶれないということだ。』(pp.80)
その事例を、アメリカ合衆国憲法の起草者の考え方と一致させている。持続性と異常事態に対する柔軟性と併せ持つ規律のことだ。
『そこで、「建国の父」とも呼ばれる起草者は「修正条項」という独走的な仕組みを思いついた。人類史上最初の試みのーつであり、これによって憲法は有機的に進化していくのだ。建国の父が夢想だにしなかった状況が出現したとき、将来世代は必要に応じて憲法を柔軟に修正できる。同様に重要なのが、憲法の一貫性・安定性を確実にする仕組みだ。つまり、起草者は憲法修正のハードルを非常に高く設定したのだ。』(pp.255)
そして、最後に「要点」として「具体的で整然とした一貫レシピ」を挙げている。
『SMaCは「具体的である(Specific)「整然としている(Methodical)」「そして(and)」「一貫している(Consistent)」の頭文字を使った造語。不安定で刻々と変わり、情け容赦ない環境であればあるほどSMaCである必要がある。
SMaCレシピは永続性のある実践法一式であり、着実な成功を可能にする基盤になる。レシピ内容は明確・具体的。「何をやるべきか」「何をやってはならないのか」について明示しており、会社全体が一丸となって業務改善に取り組めるように作られている。何が実際に有効なのか実証的なデータで確かめ、さらに洞察力を働かせたうえでレシピ材料を用意しなければならない。それを象徴しているのが、サウスウエスト航空のハワード・パトナムが作った十項目リストだ。』(pp.258)
「十項目リスト」とは、いかなる状況下でも20マイルを毎日確実に行進し続けることであり、それについては、更に詳しい内容と、主な会社の実データの比較が示されている。不況な状態に直面してレシピを慌てて変えた企業は、成長できないという結論になっている。レシピの継続性は、少なくとも20年間と示している。
著者は、最後に『研究を終えて少しは楽観的になり、未来に希望を抱くようになった。』(pp.342)と結んでいる。
『ビジョナリー・カンパニー』 KMB4136
このシリーズは文化の文明化プロセスを考える際に参考にした著作の紹介です。
『』内は,著書からの引用部分です。
書籍名;『ビジョナリー・カンパニー 4』 [2002]
著者;ジェームズ・C・コリンズ、ジェリー・I・ポラス 発行所;日経BP社
発行日;2012.9.24
初回作成日;R2.1.5 最終改定日;R1.
副題は「自分の意志で偉大になる」で、このシリーズの4冊目になる。ちなみに各巻の副題は、第1巻「時代を超える生存の原則」、第2巻「飛躍の法則」、第3巻「衰退の第5段階」となっている。
コリンズはマッキンゼー出身、ポラスはGE出身のスタンフォード大学教授で共著で書かれた。第1巻は1994年に出版され、5年連続全米でベストセラーとなり、100万人以上のアメリカのビジネスマンを夢中にさせた本とされている。日本でも、一時期流行語になった記憶がある古い著書の一つ。
ビジョナリー・カンパニーの定義は、以下。
・業界で卓越した企業である
・見識のある経営者や企業幹部の間で、広く尊敬されている
・私たちが暮らす社会に、消えることのない足跡を残している
・最高経営責任者(CEO)が世代交代している
・当初の主力商品のライフサイクルを超えて繁栄している
・1950年以前に設立されている
そして、3M、アメリカン・エキスプレス、ボーイング、GE、IBM、ジョンソン・エンド・ジョンソン、マリオット、メルク、P&G、ソニー、ウォルト・ディズニーなどが挙げられていた。
ビジョナリーとは「先見性」や「未来志向」を意味し、著者たちは調査の開始にあたり、フォーチュン誌、インク誌の企業ランキングから700社を選び出し、CEOにアンケートへの協力を依頼。集計により、リストの上位20社の特徴を徹底的に検証した、とWikipedia にはある。いわば、常識的な見方といってよいと思う。
しかし、この第4巻は少し違った見方をしている。「10X型企業」として、通常の10倍以上の速度で急成長した会社を選び出して、原因を調査し、絞り込んでいる。その母集団は、2万4百社。そこから、11回ふるいにかけて絞り込んだとある。(pp.25)
まず、現代を不確実性の時代として、このように述べている。
『時代の変化に受動的に反応しているのではなく、自ら何かを創造している。単に生き残っているのではなく、勝ち進んでいる。単に成功しているのではなく、躍躍進してる。すなわち、持続可能で偉大な企業をつくり上げているのである。』(pp.20)
絞り込みの条件は、3つある。
『われわれは、大混乱・不確実・不安定が望ましいとは思っていない。カオスを追い風に躍進する企業、指導者、組織、社会はないのだ。 注目すべきなのは、カオスにもかかわらず躍進する企業が存在するということだ。
どのように躍進しているのか。 われわれはまず、一定の条件に当てはまる企業を見いだした
(一) 経営基盤が脆弱な状況でスタートした、
(二) 不安定な環境下で目覚ましい成長を遂げ、偉大な企業になった、
(三) 不安定な環境を特徴づけるのは、制御不能で猛スピード、しかも破壊的な威力を持って押し寄せる嵐―といった条件である。』(pp.20)
そして、もっとも顕著な例として、サウスウエスト航空を選び、その経緯について詳細に語り始めている。
『 今回の研究テーマの本質を端的に示している10X型企業がある。サウスウエスト航空だ。一九七二年から二〇〇二年の間に航空業界で起きたことを振り返ってみよう。石油ショック、規制緩和、労働争議、航空管制官ストライキ、景気悪化、金利高騰、ハイジャック、倒産に次ぐ倒産、「九・ーー」―。一九七二年末時点では、サウスウエストは航空機三機しか保有していない弱小航空会社。どうにかして赤字転落を免れている状態で、 大手航空会社に簡単にひねりつぶされてもおかしくはなかった。にもかかわらず、一九七二年末にサウスウエスト株に一万ドル投じ、そのまま持ち続けたら、二〇〇二年末には千二百万ドル弱の資産を築いた計算になる。』(pp.21)
それまでの巻との違いについては、このように述べている。
『われわれは多くの学生や読者から同じ質間を受ける「以前の研究でも同じように偉大な企業の条件を探っている。特に「ビジョナリー・カンパニー時代を超える生存の原則」と「ビジョナリー・カンパニー2 飛躍の法則」。今回は何が違うのか』(pp.22)
違いは、置かれた経営環境が最悪で、逆境下で大成功した企業とその経営者を敢えて選んだ。従来は、平時における成功事例だった。
逆境下での大成功と失敗の最適事例は、南極点到達争いのアムンゼンとスコットとして、特にアムンゼンの成功理由を詳細に述べている。
『常日ごろからあらゆる事態を想定して準備を怠らないのがアムンゼン流だ。こうすることで、たとえ逆風に吹かれても十分に体力を蓄えているから余裕を持って対応できる。逆に言えば、追い風が吹いたときには一気に躍進できる。
ロバート・ファルコン・スコットはアムンゼンとは正反対だ。南極征服でアムンゼンと競うまでに何年もあったのだから、その気になればとことん・・・。』(pp.41)
彼は、ノルウエーからスペインまで自転車で行き、イルカの生肉を食べ、エスキモーに弟子入りしながら準備を進めた。そして、南極点への往路では、途中の補給処のありかと、それを結ぶ経路に念入りな目印を残した。
『南極点到達に向けて南緯八二度から最後の行進に取り掛かるときには、アムンゼンはいつもより余計に補給品を積み、南極点までの補給所をすべて見逃してもあと百マイルは行進できる態勢にした。片やスコットは必要最低限の補給品しか積まなかった。一切のミスが許されず、補給所をーつ見逃しただけで大参事は必至の状況だった。細部への目配りがアムンゼンとスコットの違いを象徴している。』(pp.43)というわけである。
一方のスコットは正反対で、結果は1か月遅れで南極点には達したが、帰路で補給処探しに手間どり、ある補給処の10マイル手前で凍死したことが、8か月後に発見された。どちらも、置かれた環境は同じだったが、準備と、ことにあたった時の実際の行動パターンが違ったというわけである。
ちなみに、「一切のミスが許されず、補給所をーつ見逃しただけで大参事は・・・。」は、ジェットエンジンの検査の確実性を保つための方策と一致する。ある欠陥が成長して、ついには破壊に至るサイズになると、その部品は破壊してしまう。エンジンの重要部材では、一度の検査で見逃しても、次の検査までは十分に安全である欠陥のサイズを、発見可能な最小サイズとして、検査方法を定めているのだ。
先ず挙げたのは、『すべての面で優れているわけではない』として、次の項目を挙げている。
『より創造的というわけではない。、
より先見の明があるわけではない。
よりカリスマ性があるわけではない。
より野心的というわけではない。
より運に恵まれているわけではない。
よりリスクテーキングというわけではない。
より英雄的というわけではない。
より大胆な手段に打って出ているわけではない。』(pp.47)
これらは。比較対象の他のリーダーたちと変わりはない。違いは、「制御不能」と「制御可能」の明確な区分けをするということのようだ。
『 10X型リーダーは、常に不確実な状況に置かれていることを認識している。外部環境は彼ら自身に大きな影響を与えるといっても、自ら外部環境を制御できないし、それが将来的にどう変わるのか予測もできない、と認識しているのである。これが「制御不能」。一方で10X型リーダーは、不可抗力や偶発事象によってすべての結果が決まってしまうとも考えていない。自分の運命がどうなろうと、それについては全面的に責任を負うつもりなのだ。つまり、自分の運命を制御するのは自分であるということだ。これが「制御」。』(pp.48)
そして、この考え方の実践に決め手となることを、次の3つに限定している。
『このような考え方を実践に生かすうえで決め手になるのが、10X型リーダーが見せる主要行動パターン三点セットだ。「狂信的規律」「実証的創造力」「建設的パラノイア」の三つである。三点セットに命を吹き込むのがやる気の原動力「レベルファイブ(第五水準)野心。』(pp.48)
このことは、平時でも変わりがない。
『10X型リーダーは、良い時でも悪い時でも警戒を怠らないという点で比較対象リーダーと異なる。穏やかで、先行き明るく、楽観的な状況下にあっても、「 いつなんどき逆風に見舞われてもおかしくない」と考え続ける。実を言うと、一〇〇%の確率で状況は何の前触れもなく突然悪化すると信じている。しかも非常に都合の悪いタイミングで、である。だから常に最悪の事態に備えておこうとするのである。』(pp.66)
特に「パラノイア」については、通常の意味では「妄想狂」になってしまうのだが、敢えて「建設的パラノイア」としている。どこが違うのか。それは『人をとりこにするほど魅力的な野心』(pp.69)に基づいている「PNF」だという。
P; paranoid 偏執狂
N; neurotic ノーローゼ気味
F; freak 変わり者
そして、特に「狂信的規律」については、次のように説明している。
『一 貫した価値観、一貫した目標、―貫した評価基準、―貫した方法をはじめ、徹底した「行動の一貫性」を示す。長い時間を経ても行動がぶれないということだ。』(pp.80)
その事例を、アメリカ合衆国憲法の起草者の考え方と一致させている。持続性と異常事態に対する柔軟性と併せ持つ規律のことだ。
『そこで、「建国の父」とも呼ばれる起草者は「修正条項」という独走的な仕組みを思いついた。人類史上最初の試みのーつであり、これによって憲法は有機的に進化していくのだ。建国の父が夢想だにしなかった状況が出現したとき、将来世代は必要に応じて憲法を柔軟に修正できる。同様に重要なのが、憲法の一貫性・安定性を確実にする仕組みだ。つまり、起草者は憲法修正のハードルを非常に高く設定したのだ。』(pp.255)
そして、最後に「要点」として「具体的で整然とした一貫レシピ」を挙げている。
『SMaCは「具体的である(Specific)「整然としている(Methodical)」「そして(and)」「一貫している(Consistent)」の頭文字を使った造語。不安定で刻々と変わり、情け容赦ない環境であればあるほどSMaCである必要がある。
SMaCレシピは永続性のある実践法一式であり、着実な成功を可能にする基盤になる。レシピ内容は明確・具体的。「何をやるべきか」「何をやってはならないのか」について明示しており、会社全体が一丸となって業務改善に取り組めるように作られている。何が実際に有効なのか実証的なデータで確かめ、さらに洞察力を働かせたうえでレシピ材料を用意しなければならない。それを象徴しているのが、サウスウエスト航空のハワード・パトナムが作った十項目リストだ。』(pp.258)
「十項目リスト」とは、いかなる状況下でも20マイルを毎日確実に行進し続けることであり、それについては、更に詳しい内容と、主な会社の実データの比較が示されている。不況な状態に直面してレシピを慌てて変えた企業は、成長できないという結論になっている。レシピの継続性は、少なくとも20年間と示している。
著者は、最後に『研究を終えて少しは楽観的になり、未来に希望を抱くようになった。』(pp.342)と結んでいる。
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