ささやかな幸せ

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『漂流記の魅力』

2020-04-01 20:12:13 | 
『漂流記の魅力』 吉村昭 新潮新書
 日本には海洋文学が存在しないと言われるが、それは違っている。例えば―寛政五(一七九三)年、遭難しロシア領に漂着した若宮丸の場合。辛苦の十年の後、津太夫ら四人の水主はロシア船に乗って、日本人初の世界一周の果て故国に帰還。その四人から聴取した記録が『環海異聞』である。こうした漂流記こそが日本独自の海洋文学であり魅力的なドラマの宝庫なのだ。
 私はなぜか漂流記が好き。吉村昭さんの『漂流』はもちろん、ゴールディング『蠅の王』、ヴェルヌ『神秘の島』などなど。だから、題名を見て思わず手に取った。
 「若宮丸」の水主たちの苦労の末の日本帰還の話が主。日本へ帰るために世界を巡っての船旅での帰還希望者と通訳として同行したロシアに残る予定の日本人との確執、日本に着きながらロシアの船に留め置かれ錯乱してしまった者など生々しい。
 帰還者の口述を『環海異聞』にまとめた蘭学者は、大黒屋光太夫と比べ帰還者たちが無学で教養に欠けていると評した。しかし、吉村昭はこれに異をとなえる。名家に生まれ船頭をつとめた大黒屋光太夫は漢字の素養があったが、水主たちは、船頭の指示に従うだけで漢字など知らなくてもよかったからだ。水主たちは、見聞した記憶の内容がすばらしく、生来の頭脳のよさを示していると吉村は言う。このあたたかいまなざしが好き。
 『大黒屋光太夫』を読みたくなった。
コメント
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