1989年(日本では1990年)に公開された、アンドレイ・コンチャロフスキー監督によるアメリカ映画。原題は『Tango & Cash』。
しばらく無敵状態だったシルベスター・スタローン先生が、アーノルド・シュワルツェネッガー氏の猛追を受けて焦られたのか、ムリして役柄の幅を広げようと試行錯誤され、ことごとく失敗して長い低迷期に突入しちゃう、これはその先陣を切った作品と言えそうです。
先生が演じられたのはロサンゼルス市警に勤めるレイモンド・タンゴ刑事で、同じポリスアクション映画でも『コブラ』で演じたマリオン・コブレッティとはほぼ真逆のキャラクター。スリーピースの高級スーツとおしゃれな眼鏡でキメたスタイルに、S&W M36チーフスペシャルという可愛い使用拳銃。言葉遣いも上品で暴力よりも頭脳で事件を解決させる優等生。
ただし後半になると結局タンクトップ姿で元気にマシンガンを撃ちまくりますからw、この時点ではまだ本気でイメチェンされる気は無かった模様です。
ことごとく失敗、なんて書きましたけど、映画として面白くないワケじゃ決してありません。むしろ『コブラ』よりアクションの見所は多いし、スタローン先生のユーモアセンスは相変わらずなのに、なぜか今回はちゃんと笑えます。それで手応えを得たことが、この後のコメディー2連発(『オスカー』と『刑事ジョー/ママにお手上げ』、いずれも大コケ)に繋がっちゃったのかも?
それはたぶんスタローン先生の大いなる勘違いで、内面が二枚目すぎる先生にコメディーは基本的に向いてない、と私は思うワケです。
なのに、なぜ今回の『デッドフォール』はうまくいったかと言えば、相棒のガブリエル・キャッシュ刑事を演じたカート・ラッセル兄貴による功績がかなりデカいんじゃないでしょうか?
一見、スタローン先生と似たタイプの筋肉アクションスターなんだけど、そのキャラは実に対照的。根っからの三枚目気質でいつもふざけてないと気が済まないタイプ、に見えるんですよね。だから下らないジョークが板についてる。
中盤、ラッセル兄貴扮するキャッシュ刑事が敵の眼をあざむく為に女装するくだりがあるんだけど、兄貴だからこそギャグとして成立する。これをもし先生がやってたら大惨事になるところでしたw
スタローン先生のユーモアが笑えないのは、たぶんセンスが無いからじゃなくてキャラに合ってないから。だけど今回は隣にラッセル兄貴がいてくれるお陰で上滑りしない。
インテリのタンゴ&お調子者のキャッシュっていうキャラ設定が、そんな2人の持ち味を上手く活かしてる。先生1人だとやっぱり無理があるんだけど、めっぽうガラの悪い兄貴との対比でちゃんとインテリに見えるんですよね。
今回のあって無いようなストーリーは、ロス市警で検挙率No.1を競うタンゴ&キャッシュを社会的に抹殺すべく、ジャック・パランス率いる犯罪組織が罠を仕掛け、潜入刑事殺しの罪を被せて投獄。その刑務所にいる囚人たちは二人が逮捕してブチ込んだ極悪人ばかりでw、組織が手を下さずとも生きては戻れないだろうっていう算段。
もちろん二人は腕力をもって脱獄し、暴力を駆使して組織のアジトを突き止め、マシンガンを搭載したスーパー4WD車で真正面から突っ込んで行くという緻密な作戦で、バキュン!バキューン!バリバリバリバリ!ドッカーン!!と悪党どもを全員地獄に送って満面の笑顔。ザッツ・ハリウッド! ザッツ・'80年代!
そんな映画ですw
スタローン先生とラッセル兄貴の2大スターが競演し、刑事物でありつつ脱獄映画の面白さもあり、格闘、銃撃、カーチェイス、爆破とアクションメニューもフルコースで全てがド派手。ついでに笑いもお色気も取り揃えた徹頭徹尾「娯楽」しかない素晴らしい作品。もちろん批評家筋は酷評の嵐だけどw、私は大好きです。
セクシーショットは、先生扮するタンゴ刑事の妹=キャサリンを演じたテリー・ハッチャーさん。後にTVシリーズ『新スーパーマン』のヒロイン=ロイス・レイン役で脚光を浴び、『デスパレートな妻たち』のスーザン役でゴールデングローブ賞を受賞、『007/トゥモロー・ネバー・ダイ』ではボンドガールを演じるなど大活躍されてます。