映像作品で名探偵・金田一耕助を演じた俳優たちを、Wikipediaに基づき(そしてパロディや番外編的なものは除いて)列挙すると、映画版が片岡千恵蔵、岡 譲司、高津清三郎、池部 良、高倉 健、中尾 彬、石坂浩二、渥美 清、西田敏行、鹿賀丈史、豊川悦司。
テレビ版は岡 譲司、舟山裕二、金内吉男、古谷一行、愛川欽也、小野寺 昭、中井貴一、片岡鶴太郎、役所広司、上川隆也、稲垣吾郎、長谷川博己、池松壮亮、吉岡秀隆、加藤シゲアキ、といった顔ぶれ。
加えて舞台やラジオドラマも挙げていくとキリがなく、これほど多くの俳優が演じてる「架空の人物」は空前絶後かも知れません。
だからこそ、同一人物でも演じる俳優によって味わいが違ったり、ストーリーの解釈が創り手によって変わる楽しさが「金田一耕助シリーズ」の肝じゃないかと私は思ってます。
中でも『悪魔の手毬唄』を初めて映像化した東映の1961年劇場版は、究極の異色作と言えるかも?
まず、これが生涯一度きりの金田一役となった高倉健さんの、この出で立ち!
スーツ姿は片岡千恵蔵シリーズを踏襲したにせよ、グラサンにオープンカーという軽薄さは「健さん映画」として観てもかなり異色。
唯一、石坂浩二シリーズの坂口良子さんを彷彿させる、天真爛漫な旅館の女中さんだけが「金田一映画」っぽさを感じさせます。
その女中さん相手に、金田一がよく喋るんですよね! 実写版『ゴルゴ13』が「チョー無口な殺し屋を演じる健さん」を楽しめばいい映画だったように、本作も「やたらおしゃべりな健さん」を楽しむべき映画と言えそうです。
なにせ金田一のキャラだけでなくストーリーも原作とかけ離れてて、手毬唄になぞって人が殺されていく「見立て殺人」の要素すらバッサリ削除されてる!(最初の殺人シーンで偶然ラジオから手毬唄が流れるだけ)
これは監督の渡辺邦男さんがボツにしたシナリオを、脚本家の結束信二さんが原作を読まずに書き直した(!)ことによる改編で、本来ヒロインである筈の青池リカ(石坂浩二シリーズで岸惠子さんが演じた役)も登場しない!
で、その替わりに(?)金田一探偵に白木静子(北原しげみ)という美人秘書がいる!
白木静子は原作シリーズの第1作『本陣殺人事件』のみに登場するキャラだけど、片岡千恵蔵シリーズでレギュラー化され、本作にも受け継がれた模様です。
ほか、石坂浩二シリーズで若山富三郎が演じた磯川警部に、神田 隆。
ちなみに本作における金田一耕助は警視庁「嘱託」の探偵という設定。いわばフリーランスの刑事で、これはもう金田一モノであることを忘れて「若き健さんの刑事モノ」として楽しむのが得策かと思います。
入浴シーンまでサービスしてくれるし!
けど、それだけじゃない。本作では石坂浩二シリーズで永島暎子が扮した「里子」がヒロインになるんだけど、演じる若手女優(当時)の志村妙子がとってもキュート!
当時まだ高校生だった志村妙子さんは、東映ニューフェイス第6期生としてデビュー後、俳優座から文学座へと移籍され、いつしか「杉村春子の後継者」と言われるほどの大女優に成長。
その頃には芸名を「太地喜和子」と改め、本作の約11年後にゲスト出演されたTVドラマ『太陽にほえろ!』第11話では山さん(露口 茂)を誘惑しまくる悪女役で、番組屈指(おそらくナンバーワン)のお色気シーンを演じて下さいました!
「1970年代半ばには、大河ドラマ『風と雲と虹と』で共演した俳優、露口茂の名前を理想の男性として挙げていた」ってWikipediaに記されてるけど、きっかけはこの『太陽〜』第11話だったかも知れません。