いよいよ始まる「’80年代」という一大イベントの前夜祭みたいに、1979年10月からTBS系列の水曜夜8時枠で賑やかにスタートしたのが、『噂の刑事トミーとマツ』という伝説的なポリス・コメディー。
同時期にやはりTBS系列で始まった『3年B組金八先生』と並んでサプライズヒットを飛ばし、延長を重ねて’81年3月まで全65話が放映され、さらに’82年の第2シリーズ全41話も加えて通算106話。バディ物の刑事ドラマとしては『相棒』『あぶない刑事』に次ぐ成功作と言えましょう。
制作は、同じ放映枠であの坂上二郎さんを主役に迎えて『夜明けの刑事』『新・夜明けの刑事』『明日の刑事』をヒットさせた、あの大映テレビ。
国広富之&松崎しげるという意表を突いたキャスティングも、シリアス人情路線だった『夜明けの〜』シリーズから内容を180°転換させた大胆さも、大映テレビのアナーキーさと’80年代ジャパンの勢いがあればこそ、だったかも知れません。
☆第2話『トミーの初恋・夢見街』(1979.10.24.OA/脚本=長野洋/監督=井上芳夫)
クラブ「バッカス」のバーテンダー・田島(沖田駿一)が他殺体で発見され、富士見警察署・捜査課の刑事たちが捜査に乗り出します。
で、「バッカス」に務めるホステスたち(ホーン・ユキ、鶴間エリetc)への聞き込みを命じられたのが、女性を大のニガテとする新米刑事“トミー”こと岡野富夫(国広富之)。
若くてハンサムで母性本能をくすぐるタイプのトミーが、ギラギラしたオヤジどもの相手に飽き飽きしてるホステスたちの巣(マンション)に飛び込めば、当然こんな羨ましい状況に。
結局なにも聞き出せないどころか、ホッペやスーツにしこたまキスマークと香水の匂いをつけられ、仕方なく着替えようと自宅に戻ったら、その姿を姉の“サッチ”こと幸子(志穂美悦子)に見つかって……
「仕事サボって一体ナニしてたのっ!?」
言い訳するスキもなく、富士見署でインストラクターを務める武術家サッチの背負い投げを食らうハメに。そりゃこんな姉ちゃんと同居してたら女性が怖くもなるでしょう。
「あら、そういう事だったの。ごめんね、てへ!」
「そんなんだからお嫁に行けないんだよ!」
「言ったな、この!」
そんな牧歌的な姉弟喧嘩に昭和という時代を感じます。そしてお懐かしや林隆三さん演じる捜査課長=御崎警部が振るう愛のムチにも。
「もういっぺん行って来い! なにか掴めるまで戻って来るんじゃないっ!!」
「そっ、そんな……」
そんな羨まぴぃ〜!!って、先輩刑事で相棒の“マツ”こと松山進(松崎しげる)が聞いたら悶絶&激怒しそうだけど、今回はトミーが主役なんで出番少なめ。
番組が始まったばかりで、しかも刑事ドラマとしては前例が無いほど振り切ったコメディーなもんで、まずは人気も実力も保証済みの国広さんで様子を見ようって算段なんでしょう。(歌手の松崎さんはこれが連ドラ初出演)
てなワケで、今度は直接「バッカス」に赴くトミーだけど、結果は同じw
今度は高級酒をしこたま呑まされそうになったトミーが、ひときわ若いホステスを見て驚きます。
「マリちゃん!?」
「富夫さん……!」
トミー以上に驚き、その場から逃げ出したホステス=真理子(石原初音)は、かつてトミーの実家にいた“お手伝いさん”なのでした。
孤児で、中学を卒業してすぐ住み込みで働くなんて設定は、当時でもリアリティーが感じられなかったかも知れません。
が、創ってるスタッフの人たちにはまだ、貧しかった戦中戦後の記憶が残ってる。まさに当時が時代の転換期であり、過渡期だったんだと思います。
「富夫さんはずいぶん立派になりましたね……すっかり刑事さんらしくなって」
「どうして僕が刑事になったこと知ってるの?」
「風の噂かしら……うふふ」
故郷に戻ったはずの真理子がなぜか東京にいて、しかもクラブのホステスなんて似合わない仕事をしてる。
イヤな予感を覚えたトミーは、勇気をだして再びホステスたちの巣を訪ね、ホーン・ユキさんのおっぱい攻撃に耐え抜いて、殺された田島がユスリの常習犯だったという情報をついに引き出します。
ということは、ユスられてた被害者たちの中に田島を殺した犯人がいる可能性が高い。
徹底的な聞き込みの結果、“おやっさん”こと高村刑事(井川比佐志)が有力すぎる情報を掴んで来ます。
どうやら畑中(江木俊夫)という運送会社のドライバーが半年前、配達中に田島をトラックで轢きかけたらしく、ほんのかすり傷だったのに田島がしつこく治療費を要求し、事故が会社にバレることを恐れた畑中は言われるまま払い続けた。
で、給料だけじゃ払い切れなくなり、畑中の妻が「バッカス」で働く羽目になったという。
「その奥さんの名前は?」
「ああ、たしか真理子とかいったな」
「!!」
だからマリちゃんがあんな仕事を……
妻まで巻き込んでしまった畑中が、いよいよ思いつめて田島を殺したに違いない!と推理し、きっとヤツはマリちゃんに会いに来るだろうと確信したトミーは、連日徹夜で彼女のアパートを張り込むのでした。
↑ここでようやく合流した松山先輩は、このありさまw スケベで粗暴で短足で顔が必要以上に黒く、そして何より不真面目。刑事ドラマの主人公としては画期的なキャラクターで、“アナーキー”大映テレビの面目躍如です。
で、昼間は一般企業の事務員として働く真理子を尾行し、ついに畑中の隠れ家に辿り着くのですが……
「あなた、逃げて!」
真理子に追跡を妨害された上、高所恐怖症のため階段を登れなくなったトミーは、あえなく撃沈。ここまで情けない主人公もまた画期的でしょう。
そんなトミーを責め立てるマツに、彼の後見人である本庁の相模管理官(石立鉄男)がいつものカミナリを落とします。
「目くそが鼻くそを笑うとはお前たちのこった、まったくいい勝負だな! ま、たまには失敗もやむを得んが……」
「そうですよね、失敗は成功の元って言いますからね!」
「バカヤローッ!! 俺はたまには失敗してもやむを得んと言ったんだ、お前たち一度でも成功したことがあるかーっ!?💢」
マツみたいな男には絶対なりたくないけど、その果てなきポジティブ思考には憧れを禁じ得ません。ウジウジ悩んでばかりの自分に心底ウンザリしてる今日この頃の私です。トミコトミコトミコォーッ!!💨
で、行方をくらませた畑中を誘き出すべく、真理子を泳がせるように指示されたトミーは、またもや寝ずの番。
畑中を捕える為というより真理子のことが心配で、雨に打たれても張り込みをやめないトミーを見かねて、真理子は彼をアパートに招き入れるのでした。
「富夫さんは、ご両親いっぺんに(交通事故で)失くしちゃったけど、まだお姉様がいらっしゃるでしょ? 私たちには誰もいなかった」
「…………」
故郷に戻っても身寄りはなく、孤独な日々を送ってた真理子にとって、同じ孤児である畑中との出逢いは特別なもので、お互いどうしても手放せなかった。
「私にはあの人しか、あの人には私しかいなかったんです」
「マリちゃん……」
「富夫さん……私、本当は……」
「え……なに?」
「本当はあなたが好きだったの! 抱いて! アレ見せて! しゃぶらせて!」
「ええーっ、ダメだよマリちゃん! 誰か助けてえーっ!!💦💦」
↑ていうのは実は冗談で、真理子が何か言いかけたところで畑中が現れ、追いかけたトミーは再び階段を駆け上がるハメになり……
まったく同じ轍を踏みそうになったところで、駆けつけたマツがあの台詞を叫びます。
「またかよ、この腰抜け! お前なんかトミーじゃねえ、トミコだ! トミコーッ!!」
「!!!」
トミーがトミコと呼ばれてハイパー激怒し、いきなりスーパーコップに豹変してあっという間に犯人を逮捕しちゃう。
これが毎回のお約束になるんだけど、メインライターの長野洋さんにそんなつもりは全然なく、第1話で気弱なトミーが犯人に立ち向かうキッカケとして、1回きりのつもりで使ったアイデアなんだそうです。
それが好評で回を追うごとエスカレートし、トミーの耳がピクピク動いたり、立ち回りもどんどんアクロバティックになって特撮ヒーロー化していっちゃう。
ストーリー自体もどんどん荒唐無稽になっていくし、キャスト陣の芝居もアドリブの応酬が増える中、井川比佐志さんお一人だけシリアス演技を貫いておられるのがまた可笑しくて、私も大いにハマったもんです。
だけど今回のレビューはまだ試行錯誤中の第2話で、ギャグもアクションも控えめだし、『夜明けの刑事』シリーズのヒューマニズムが残ってたりもします。
一件落着かと思いきや、ラストに哀しいどんでん返しが待ってました。
「田島を殺したのは、私です」
「えっ?」
「そんなバカな!」
「本当なの。マリちゃんがウチに来て何もかも話してくれた」
畑中夫婦へのユスリをエスカレートさせた田島は、独立資金として100万円を要求した挙げ句、許しを乞いに来た真理子をチョメチョメしようとした。
そりゃこんな形相で襲い掛かられたら、私だってこうしちゃうだろうと思います。
で、真理子はすぐ自首しようとしたけど、夫の畑中が全力で阻止した。なぜなら、二人で毎晩チョメチョメしてつくった子供が、彼女のお腹に宿ってるから。
たとえ正当防衛が認められたとしても、刑務所行きは免れない。二人の愛の結晶を、そんな場所で産ませたくない。だから畑中が罪を被ったのでした。
孤児どうし、温かい家庭をつくるのが二人の夢だった。それが、ちょっとした事故を誤魔化そうとしたばかりに……
「勘弁してくれ。みんな俺のせいだ」
「いいのよ。夢が破れても、その分だけ夢を見ることが出来たんですもの」
「そんな事あるもんか! これからだよ! これからお前たちの本当の生活が始まるんじゃないか!」
「そうだよ! キミたちの夢は決して破れてなんかいない! これからだよ、これからキミたちの本当の夢が大きく広がるんだよ!」
もちろん決して容易な道じゃないだろうけど、まだこんなに若い二人なら、きっとやり直せることでしょう。
「お前、彼女のこと好きだったんじゃないか?」
「嫌いになる男がいますか?」
「まあ、そうだな。タバコ」
「今は吸いたくありません」
「オレにくれって言ってんだよ」
「タバコぐらい自分で買ったらどうですか!」
「いいじゃないかよ、オレは先輩だぞ?」
「イヤですよ、もう!」
こんなにシリアスなストーリーでも、最後はやっぱりバカをやって終わるのが『トミーとマツ』の流儀。そこはスタート時からブレてません。
かくも突き抜けた感じが大映テレビの個性であり、これに限っては’70年代も’80年代も関係無いのかも知れません。
この作品、初期の22話分しかDVD化されておらず、交通課婦警の“マリッペ”こと森村万里子(石井めぐみ)が頭角を表し、相模管理官が降格して課長に就任する第1シリーズの後半から第2シリーズが現在は観られない。
本放映時、第1シリーズは裏で『あさひが丘の大統領』をやってたもんで、私はリアルタイムで観てないんですよね。だから私にとっての『トミーとマツ』はマリッペがいる第2シリーズなんです。DVDマガジンでもいいから商品化熱望!
素晴らしい演技を披露されたゲストの石原初音さんは、1975年の『必殺仕置屋稼業』における「おはつ」役でデビューされた後、映画『杳子』や平凡パンチ、週刊プレイボーイ等のグラビアで素晴らしいヌードも披露。
刑事ドラマは『特捜最前線』第100話にもゲスト出演されてますが、芸能活動そのものが短かったようで、数少ない出演作の1本として本作は貴重なものになるかと思います。
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