言わずと知れた1982年公開のリドリー・スコット監督、ハリソン・フォード主演によるSF映画のカルト大作にして金字塔。フィリップ・K・ディックの小説『アンドロイドは電子羊の夢を見るか?』を映画化した作品です。
舞台は2019年のロサンゼルス、なんと今から1年後というチョー近未来! もちろん1982年当時、ましてや原作が発表された'68年当時の感覚だと遠い遠い未来だったワケです。
それまでのSF映画で描かれた未来の地球は、文明が極度に発達した管理社会か、あるいは核戦争後のディストピアかの二種類だったんだけど、『ブレードランナー』はそのどちらにも属さない全く新しい未来世界を創り出しました。
それは根っからのビジュアリストであるスコット監督が、誰もやらない独自の世界観を構築する事にこだわり、東洋趣味を全開にさせた上、'30~'40年代の探偵小説やハードボイルド映画をモチーフにする事によって生まれた、究極のレトロ・フューチャー。
環境破壊の影響でずっと雨が降ってる荒廃した未来なのに、なぜか陰鬱な気分にならないのは、そんな暗くて混沌とした世界の中で「それでも、生きてゆく」人々の活気が感じられるのと、'30~'40年代を意識した映像に懐かしさを覚えるからかも知れません。
肉体労働や性的慰安の為に造られた人造人間=レプリカント達の一部が反乱を起こし、賞金稼ぎみたいな特捜刑事=ブレードランナーが彼らを捜索し、追跡、そして処分するという、ストーリー自体はごくシンプルなもの。
だけど、主人公のブレードランナー=リック・デッカード(ハリソン・フォード)が全然ヒロイックじゃないんですよね。拳銃が無いとレプリカントとマトモに闘えないし、丸腰で逃げる女性レプリカントを背後から撃ち殺すし、クライマックスは敵ボスとの一騎討ちかと思いきや、泣きそうな顔で逃げ回った挙げ句、ビルから落ちそうになった所を敵に助けてもらっちゃう始末。
私が『ブレードランナー』を初めて観たのは名画座の2本立て上映で、1984年頃。『インディ・ジョーンズ/魔宮の伝説』を観て、ハリソンの格好良くて人間味溢れるヒーローぶりに惚れ込んだ直後だったもんで、デッカードのヘナチョコぶりには心底ガッカリしましたw
それが後にビデオソフトが発売され、2度、3度と観直す内に、多くの映画ファンがそうなったのと同じように、私も本作の深さと独自性に魅了されるようになりました。
前述の通り「未来なのに懐かしい」レトロ・フューチャーと、和洋折衷のヘンテコ世界が生みだす摩訶不思議な魅力。そして実はシンプルな刑事ドラマとしての面白さに加え、寿命を設定されたレプリカント達が訴えかける「生命の尊さ」という普遍的テーマ。
初公開時にはヒットせず、評価もされなかった作品がビデオの普及によってカルトな人気を集め、再評価され、実は'82年に公開された『ブレードランナー』はリドリー・スコット監督の本来目指した形とは違ってる事実も知られるようになり、ちょうど10年後の1992年に「ホントはこうしたかったんだ」バージョンの『ブレードランナー』すなわち「ディレクターズ・カット/最終版」が公開され、これも私は劇場で観賞しました。
そのバージョンでは、オリジナル版公開時に「ストーリーが解りにくい」というクレームにより後付けしたハリソンのナレーションが全て削除され、「ハッピーエンドにしろ」という注文に対応して追加撮影したエピローグもばっさりカット。そして主人公=デッカード自身も実はレプリカントだった!という裏設定を匂わせるカットが逆に追加されました。
で、CG技術の進化を受けて細かいアラをデジタル修正し、さらに一部を撮り直して完成させたスコット監督の執念の賜物が、2007年に公開された『ブレードランナー/ファイナル・カット』。私が新作『ブレードランナー2049』公開の直前、友人A君と一緒に台風のなか観に行ったホントの最終バージョンです。
個人的には、ナレーションがあった方が解り易く、フィルムノワールな雰囲気も強調されて良いような気がするし、デッカード自身がレプリカントであるという設定には面白みを感じないんだけど、監督が「これこそ真の『ブレードランナー』だ!」と仰るなら、それはそれで納得するしかありません。
そもそも本作の魅力は設定やストーリーとは違う部分にあるワケですから、より完成度の高い「ファイナル・カット」が究極の『ブレードランナー』であるという意見に異論はありません。
やっぱり、観れば観るほど味わい深い映画です。本当に何度観ても飽きません。『ブレードランナー』の未来描写を模倣した作品をさんざん観て来たにも関わらず、オリジナルの魅力は全く色褪せてません。
未見の方、あるいは一度観たけどよく解らなかったと仰る方には、あまり筋を追わず世界観を楽しむことに集中して、もう一度じっくり再見されることをオススメしたいです。
ただ、ハリソン・ファンとしては、デッカードにもうちょっとカッコいい見せ場があっても良かったのにって、いまだに思ったりはします。
ヒロインのショーン・ヤングといい、レプリカント役のルトガー・ハウアーやダリル・ハンナといい、皆さんそのキャリアの中で最も輝いてると言っても過言じゃないくらい、キャラクターが魅力的なんですよね。それだけに主役のハリソンだけ損してる感が強いw それでもやっぱ格好良いんですけどね。
さて、2017年、まさかの続編『ブレードランナー2049』が公開されました。主役は『ラ・ラ・ランド』のライアン・ゴズリングだけど、ハリソンも30年後のデッカードとして再登場してくれます。その感想は、また次回に。
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