どう考えても無謀だろうと思ってたのに、ホントに創られちゃった『ブレードランナー』の、リドリー・スコット製作、ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督、ライアン・ゴズリング主演による、正真正銘の続編です。
それが無謀だと思ってた理由の1つに、前作に主演したハリソン・フォードがえらく『ブレードランナー』という作品を嫌ってた事実が挙げられるんだけど、それは『スター・ウォーズ』シリーズとて同じこと。30年も経てば嫌な記憶も薄れ、作品への評価も変わり、メジャー大作でまた注目されたい気持ちも湧いて来るのが人情ってもんで、ハリソンも元ブレードランナー=リック・デッカードとして再登場してくれました。
『ブレードランナー』はスターの魅力で見せる種類の映画じゃないんだけど、もしハリソン・フォード主演でなければ私は繰り返し観賞することもなく、作品自体の魅力が理解出来ないまま終わってた筈で、やっぱあくまでハリソンありき。ハリソンが出なければ続編もスルーしたと思います。
さて、その内容と感想ですが……(ネタばらしはしませんが、観賞前で先入観を持ちたくない方は読まないで下さい)
前作から30年後のロサンゼルスやサンフランシスコが舞台で、やはり気候不順は更に進み、雨を通り越して雪が降り続く未来世界。
繁華街は相変わらず和洋折衷なんだけど、より整然と管理されてる印象で、前作で感じた人々の活気やノスタルジーによる妙な居心地良さが、今回は感じられませんでした。
いま現在の世界における未来への絶望感が如実に反映されてて、とてもリアルだとは思うんだけど、この続編は映画ファンに前作ほど熱狂的には愛されないだろうなって、私は思いました。
ストーリーも、前作のB級テイストが鳴りを潜め、とても高尚な本格SFに昇華された感じがして、ちょうどリドリー・スコット監督の旧作『エイリアン』と最新作『エイリアン:コヴェナント』との違いに似てる気がしました。
それに伴い刑事物テイストも薄くなり、ハリソンが出てること以外で私が本作を好きになる理由が、ほぼ無くなっちゃいました。物凄い傑作なのかも知れないし、これも2回、3回と観ればハマっていくかも知れないけど、私は今のところ是非もう一度観たい!っていう気分にはなってません。
『映画秘宝』のライターさんが「優等生すぎる」「謎を全て明かすことに意義があるのか?」みたいな批判を書かれてましたが、私も全く同感です。
前作にあったスキとか矛盾、愛嬌みたいなものが、この続編には見当たらないんですよね。たぶん、前作が何度観ても飽きない理由って、そこにあったような気がするワケです。
ヴィルヌーヴ監督に非は無いと思います。もし今のスコット監督が撮ったら、もっと冷たい世界になってるかも知れません。ヴィルヌーヴ監督はとても誠実に、多分とても正しい『ブレードランナー』の続きを創造された。問題は、観客がその正しさを好むか好まないか。
どんなお話なのかさわりだけ書きますと、ライアン・ゴズリング扮するブレードランナー「K」は最初からレプリカント・ハンティング用に造られたレプリカントで、人間たちから差別され、肉体を持たないA.I.の恋人=ジョイ(アナ・デ・アルマス=画像)だけが唯一の理解者という、孤独な日々を送ってる。
で、旧型レプリカントを処分した際に、さらに旧型の女性型レプリカントの遺体を見つけたことがキッカケとなり、単なる製造物じゃないかも知れない自分自身のルーツを探っていくことになる。その謎の鍵を握るのが、30年前にレイチェル(ショーン・ヤング)を連れて失踪した元ブレードランナー=デッカードってワケです。
つまり、これは人造人間「K」のアイデンティティー探求の物語であり、とても切ない結末といい、スピルバーグ監督がキューブリック監督の遺稿を映画化したSF大作『A.I.』によく似てるとも思いました。
だから、これが『ブレードランナー』の続きなんだということをあまり意識せず、アンドロイド「K」のピノキオ的なお伽噺として観るのが正解かも知れません。前作も実質はレプリカント側にドラマがあったワケで。
とは言いつつ、一度観ただけで容易に評価出来ない作品であるのは確かで、そこはやっぱ紛れもなく『ブレードランナー』の続編なんだなぁと思います。真の評価は、DVDやBlu-rayのソフトが発売されてから下されるのかも知れません。
ハリソン・ファンとしての満足度は、決して低くありません。デッカードの出番は映画が後半に入ってからだけど、贔屓目ぬきで俄然そこから面白くなったように感じたし、ストーリーの肝を担ってる点でも『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』の時と同等に重要な存在でした。
ただ、前作の若きデッカードのニヒルな感じが全然無くて、いつも通りの「ハリソン・フォード」だったのが、ちょっと残念。前作の時はニヒルにやり過ぎたと反省し、もう老人だからって事もあって抑えた演技をされたんでしょうけど、私はニヒルなまま歳を取ったデッカードが見たかったです。
でも、後半はすっかりデッカードの話になってたし、ちゃんとアクションシーンもあるし、思わぬサプライズ・ゲストとのご対面もあり、ファン必見の作品であることは間違いありません。
どうやら世間じゃ賛否両論まっぷたつで、暗い映画ゆえ興行的にも厳しい感じ。前作の時と同じですw だから、この続編も長い眼で見て行くべきかと思います。
思い入れある作品の続編ゆえ色々書きましたけど、完成度はとても高く、観て損した気分になる映画じゃない事だけは確かです。
前作やハリソンのファンじゃない方にも、独特な地球の未来像を描いたSF映画として、あるいは人間とは何ぞや?を考えさせられる哲学映画として、そして切ないラブストーリーとしても、一見の価値は充分に有り!とオススメしておきます。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます