八曲署管内でジャーナリストが殺された事件の犯人が、13係に所属する同僚刑事?
そのショックと好奇心の入り混じった、複雑な心境の花森一子(多部未華子)ですが、とにもかくにも真相を究明すべく、孤独な捜査を続行します。
まずはガラさん(佐野史郎)を尾行してみると、いつも入院中の奥さんを見舞いに通ってる事が判明しました。と同時に、ガラさんは一子の尾行を速攻で見破ります。
「お前、そんな格好で尾行して気づかれないとでも思ったのか?」
「はい」
(笑)
いきさつを聞いたガラさんは、一子の嗅覚に興味を示します。
「お前の鼻はそんなに敏感なのか?」
それを確かめるべく、ガラさんは一子を警察犬訓練所に連れて行きます。迷惑そうな訓練士の田村和正さんw(田口トモロヲ)をよそに、優秀な警察犬のミハイルは明らかに、一子をライバル視してるw
そんな両者を競わせる実験によって、一子には並みの警察犬じゃ嗅ぎ分けられない微かな匂いをも嗅ぎ分ける、驚異的な嗅覚が備わってる事が判明します。
この場面で、犬と張り合いながらチョコマカと動く、多部ちゃんのロリポップな姿を見て、私は大いに萌えましたw 可愛いもんは可愛いんだから仕方がない。
そもそも『デカワンコ』は、森本梢子さんの少女マンガを原作にしたドラマです。
森本さんは、前作『ごくせん』のヒロインがジャージしか着ないキャラだった反動で、次のヒロインには思いっきり可愛い洋服を着せたかった。それがロリータファッションに繋がり、じゃあその格好が最も似つかわしくない職場は?と考えて、警察を舞台にしたw
その発想だけでも充分に面白い(企画は成立する)のに、さらに「警察犬並みの嗅覚を持ってる」設定を加え、おまけに『デカワンコ』なんていうキャッチーなタイトルまで生み出す、その感性と飽くなき探求心には脱帽あるのみ。本当に素晴らしいと思います。
さて、一子が今度はコマさん(吹越満)を尾行すると、彼は秋葉原のメイド喫茶に入ったばかりか、嫌がるメイドの1人(志村玲那)の腕をつかみ、何やら言い寄るという実に怪しい行動をとります。
ヤナさん(大倉孝二)を尾行すればスキンヘッドの男に札束を渡すわ、チャンコ(石塚英彦)を尾行すれば謎の男から封筒を受け取るわで、どいつもこいつも見るからに怪し過ぎますw
しかし、こうして一子が捜査活動するプロセスの中で、各刑事のプライベートを視聴者に紹介ながら、それが全部ギャグにもなってるという、脚本=伴一彦さんの構成力もまた素晴らしい!
で、その捜査結果をガラさんに報告する一子ですが、ガラさんは笑います。チャンコが受け取った封筒は趣味の落語(寄席)のチケットで、コマさんが言い寄ってた相手は姪っ子(変なバイトを辞めさせようとしてただけ)。
そしてヤナさんが札束を渡したスキンヘッド男は別れた女房の弁護士で、養育費の支払いだったというオチがつき、一子はガッカリするやらホッとするやら。
「そんなに手柄を立てたいか?」
「手柄?」
「違うのか?」
「考えてなかったです」
早く犯人を逮捕しないと、被害者が浮かばれない。その純粋な正義感だけで、拙いながら懸命に捜査してる一子の姿を見て、ガラさんは嬉しいような切ないような、複雑な表情を浮かべるのでした。
「現場百回、でしたよね!」
一子は諦めず、再び犯行現場に向かって走りだします。ここで流れるBGMが「ジーパン刑事のテーマ(青春のテーマ)リミックス週末篇」なんですよね!
原曲は『太陽にほえろ!』で新人刑事が走ったり格闘したりするアクション場面に欠かせない、定番中の定番ミュージックであり、あのメインテーマに次いで有名な曲です。私みたいな『太陽』フリークは、このテーマ曲を聴くと条件反射的に全力疾走しちゃう位です。(けっこうマジな話w)
そんな音楽をバックに「多部ちゃん走り」が見られるなんて、このドラマはまさに「神」ですよ!
だって『太陽』フリークにとって「ジーパン刑事のテーマ」が流れる瞬間と、タベリストにとって「多部ちゃん走り」が見られる瞬間ってのは、どっちもMAXに気分が高揚するハイライトシーンなワケです。
『太陽』フリークとタベリストの両方を兼ねてる私なんか、この場面を観るたびアドレナリンが分泌され過ぎて、ゲップとオナラとクシャミが同時に出そうになっちゃいます。
さて、残る容疑者はキリ(手越祐也)とデューク(水上剣星)の若手コンビのみ。と思ったら、この2人が新たに捕まえて来た暴力団関係者が、密告刑事の正体を知っていた!
上の画像7枚目は、その男から情報を聞き出す為に我らが「落としのシゲさん(沢村一樹)」が使った、捨て身の落としテクニックを目撃してしまった時の、一子、キリ、デュークの姿です。
「何とも言えない顔」としか形容しようが無い、本当に何とも言えない顔をしてますw 特に多部ちゃんのあの表情は、たぶん二度と拝見出来ないレアなもの。
この3人をあんな何とも言えない顔にさせた、決して見てはいけないシゲさん捨て身の落としテクニックとは……? 答えは、VAP社から絶賛発売中のDVD&Blu-rayでお確かめ下さいw
ところが、シゲさんのお陰で最有力容疑者が浮かんだというのに、13係の刑事たちは浮かない顔。ドラマはここで、一気にシリアスモードへ。どうやら本当に、13係の仲間が密告刑事=殺人者だったようです。
「ガセ情報でおびき出すぞ」
捕まえた暴力団関係者をオトリにし、ニセの取引情報を流す。密告刑事はまんまと引っかかり、取引に使うコインロッカーに証拠品を残しました。だけど、その刑事の行方は判らない。
一子は、コインロッカーの奥に残った、1枚の布切れを見つけます。
「わたし……居場所、判ります」
密告刑事=ガラさんは、犯行現場であるビルの屋上にいました。まるで、仲間たちに見つかるのをじっと待ってたかの様に……
ボス(升 毅)を除く13係のメンバー全員が駆けつけますが、主任のシゲさんは一子に全てを託します。
「ガラさん……自首して下さい。そのつもりですよね? だって、わざわざ自分が犯人だって、教えてくれたじゃないですか」
ガラさんは、自分の匂いが付いた布切れを残す事で、一子に居場所を示したワケですね。
「……すまん」
13係メンバー全員の怒りを代表して、コマさんのパンチが炸裂します。
「ガラさん……なんでだよ? 言えよ! なんでなんだよ!?」
「……断ち切らなきゃと思ってた。だけど……ズルズル来てしまった……」
こうなってしまった背景には、奥さんの入院費用など色んな事情があったんでしょうけど、あえてそこまで語らせない脚本が、また素晴らしいと思います。
「花森。ワッパ(手錠)だ」
シゲさんは、一子に非情な命令を下します。ガラさんと一番つき合いが短いのが一子だから…って事もあるでしょうけど、若手にそういう試練を与え成長させるのもまた、刑事ドラマの定番なんですよね。
一子は、涙を堪えながらガラさんと対峙します。みんなが一子を邪険に扱う中で、唯一理解を示し、優しく接してくれた先輩刑事です。
「お前が13係に来やがったせいだ」
「え……?」
「デカになった頃の志しを思い出させてくれた。正義を貫き、市民を守るんだ……そう思ってた」
「正義……」
正義と悪は、表裏一体。正義感が強い人ほど、挫折するとダークサイドに陥り易いのかも知れません。一子にはまだ解らないけど、日々その誘惑と闘ってる先輩刑事たちは、やるせない気持ちだろうと思います。
ガラさんは、両手を差し出します。
「手錠かけろ」
「……出来ません……やっぱり出来ません!」
ガラさんは静かに歩み寄ると、一子の手をとって自ら手錠をかけさせます。その瞬間、一子の眼から、ずっと堪えてた涙がポロポロとこぼれ落ち、再び「ジーパン刑事のテーマ’97リミックス」が流れます。
『太陽にほえろ!』のアクションシーンに多用されたジーパン刑事のテーマを、こんな感傷的な場面で使っちゃう演出のセンスが凄いと思うし、それに対応する小西康陽さんのアレンジもまた素晴らしいです。
だけど一番凄いのは、ここぞ!っていう絶妙なタイミングでこぼれ落ちる、多部ちゃんの涙ですよ!
これは偶然じゃない。恐らく多部ちゃんは、その涙が最も効果的に使える瞬間を、0コンマ1秒単位で計算してる。どの作品を観ても、彼女の涙は常に完璧なタイミングで流れ始めてる。私はもう、怖いですw
演じるキャラクターと完全に同化し、その感情に任せて演技するタイプの俳優さんには、こんな芸当は出来ないかも知れません。そもそも、花森一子みたいに極端なコミックキャラクターと同化するなんて不可能ですよねw
多部ちゃんがどんな役柄を演じても違和感が無い=無理を感じさせないのは、役と一体化するからじゃなくて、逆に自分自身と切り離して演じる(感情をコントロールする)テクニックを持ってるから。
常にクールなんですよね。多部ちゃんの中じゃ、ヘン顔も涙も同じレベルの演技なんだろうと思います。だからヘン顔の応酬に痛々しさを感じさせないし、そこからシリアスな涙のシーンへのシフトチェンジも、無理なく自然に出来ちゃうワケです。
共演者の佐野さん、沢村さん、吹越さん等にも、そういう部分じゃ多部ちゃんと共通する資質があるように思います。だから『デカワンコ』は神クオリティーなんですよね。
「ガラさん! 現場百回、忘れません!」
連行されていくガラさんの背中に、一子が声を掛けます。振り返らないガラさんだけど、その顔にはむしろ、爽やかな微笑みが浮かんでました。
ガラさんもきっと、心の底ではダークサイドから抜け出したかった。一子という汚れを知らない存在に救われたワケで、我々視聴者も暗い気分にならずに済みました。
だけど同僚刑事たちの胸の内には、悔しさと寂しさの入り混じったような、複雑な感情が残りました。刑事たちはその場から動かずに、黙ってビルの谷間の夕陽を見つめます。
冒頭ファーストショットの夕陽は、この時に刑事たちの眼に映ってた夕陽なのかも知れません。この夕陽が象徴するものは、正義。ガラさんみたいに見失わないよう、その眼に焼きつけなくちゃいけません。
そして……
場面変わって、13係の刑事部屋。どんなにシビアな事件が描かれても、ラストシーンは刑事部屋(言わばホーム)で和む刑事たちの姿で締めくくるのも『太陽にほえろ!』の黄金パターンです。
「おい、そこのフリフリ。明日からマトモな服着て来い」
「マトモです。それに私、おいじゃありません」
一子の返答には2つ、おかしな点があります。彼女の服装は刑事としてマトモじゃないし、「おい」っていうのは単なる掛け声で、先輩は彼女を「フリフリ」と呼んだのですw
「わたしには花森一子っていう名前があるんです。早く憶えて下さい」
「イチゴ?」
「違います。数字のイチにコと書いて一子です」
「じゃあ、ワンコじゃねーかよ」
「よし、決まりだな。ワンコ、お手。おすわり」
こうして、一子のニックネームは「ワンコ」になりました。『太陽』も番組初期(マカロニやジーパン)こそ登場回の早い段階で徒名が決まってましたが、4代目のボン(宮内淳)あたりから、ラストシーンで命名されるパターンが定着してました。
「で、ワンコ。お前は俺達のこと憶えたのかよ?」
「はい。皆さんの匂い、しっかり憶えました」
「俺達の、匂い?」
「はい。『正義』の匂いがします!」
『太陽』のラストショットがボス(石原裕次郎)のストップモーションに決まってたのと同じように、『デカワンコ』の締めは一子の「○○の匂いがします!」がお約束になります。
一子が感じる匂いは、その回で描かれるテーマを言い表してます。初回のテーマは「正義」すなわち、あの夕陽なんですよね。だから、ファーストショットでそれを見せたんじゃないでしょうか?
エンディングの主題歌は「まきちゃんぐ」さんの『愛と星』。爽やかな歌声とメロディーで、この番組によくハマってたと思います。
そんなワケで『デカワンコ』は、事前に想像してた痛々しい代物とは全く違う、確実に笑えて同時にホロッとさせられる、神クオリティーのドラマでした。
脚本、演出、音楽、共演陣の素晴らしさもあるけど、それらが100%の力を発揮出来たのは間違いなく、中心に多部未華子という安定感バツグンな若手女優さんがいたから。
こういうドラマが成功した例は少なく、私は最初に『太陽にほえろ!』と出逢った時以来の衝撃を、この『デカワンコ』第1話で味わうことが出来ました。
以降、冒頭にも書いた通り、私は多部未華子さんの虜になり、女優さんの出演作を片っ端から追いかけるという、40ウン歳にして初めての経験をすることになります。
そして同じように多部ちゃんの虜になった「タベリスト」のオジサンたちと出逢いw、一緒に多部ちゃんの出演舞台を観劇するなど交流を持つ事にもなります。その事実は少なからず、孤独な私に生き甲斐を与えてくれました。
『太陽にほえろ!』と同じように、私の人生を変えた2番目に重要な作品が『デカワンコ』と言えましょう。
PS. コメディ作品のレビューは難しいです。その面白さは芝居の「間」にありますから、文字ではとてもお伝え出来ません。なので皆さん、DVD&Blu-rayを買って下さいw
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