特命課の刑事たちによる必死の捜査で、「桜井刑事が無抵抗な犯人をいきなり射殺した」と決めつける証言に、いくつもの矛盾点がある事が判って来ました。
しかも「あれは人殺しだ!」と誰よりも感情的になってた警備員には、かつて自分の息子がピストル強盗を犯し、駆けつけた警官に射殺されたという過去があった。
本当は何も見てなかったのに、警察への憎しみが偏見を生み、桜井(藤岡 弘)が最初から犯人に殺意を抱いてたように思い込んだのでした。
そして客のサラリーマンには大怪我によるトラウマがあり、血を見ると卒倒しちゃう弱点があった。殺された店員の死体が目の前にあって、ずっと顔を背けてたのに、そんな自分が恥ずかしくて周りの証言に合わせてたというw、お粗末な顛末。
しかし、自分に不利な証言ばかり揃った時には半笑いだった桜井が、同僚刑事たちによってそれが覆されると、なぜか忌々しそうな顔をします。彼はやはり、頭がおかしくなったのでしょうか?w
さて、残るは店長(山本 清)のみですが、彼には今のところ、桜井を陥れる事によって得られるメリットが見当たりません。やはり、犯人(風間 健)に何かされたらしい女子店員=三沢美保(日向明子)が、謎を解く鍵になりそうです。
女性担当の(?)二枚目インテリ刑事=紅林(横光克彦)が、真実を証言するよう美保を説得します。
「許して下さい……私、何も言えないんです」
「なぜですか、桜井刑事に何も言うなと言われてるんですか? あなたがどう言おうとね、私は桜井刑事を信じてる。あなたは嘘をついてるんだ!」
「!!」
強盗の現場となったクローバー金融の店内で、再び証人喚問が行われます。
逃げようとした犯人を、桜井が背後から撃ったと証言する店長を、橘刑事(本郷功次郎)が追及します。店長がいた位置と当時の姿勢では、桜井の姿も犯人の姿も見えてなかった事が証明され……
反論に窮する店長に、神代課長(二谷英明)があえて助け舟を出します。
「代わりに聞こう。この増井さん(店長)が、なぜ嘘をつく必要があったのかね?」
「自分の行為を正当化したかったからです」
橘刑事は、特命課チームで調べ上げた数々の事実に基づく、ほぼ確信に近い推理を語ります。
あの夜、犯人に銃口を向けられ、真っ先に殺されそうな勢いだった店長は、何とかして犯人の怒りを鎮めようと必死だった。
で、犯人が汗だくになってる事に気づき、ハンカチを差し出すと、近くにいた三沢美保にも「君もハンカチをお貸しして」と促したらしいのです。
店内は停電状態でエアコンも効かず、犯人だけじゃなく全員が汗だくになっていた。殊に三沢美保はブラウスが透けて、乳首の形までしっかり浮き上がってる。
そんな美保に犯人の視線が釘づけになってる事に気づいた店長は、しめた!とばかりに、こんな事を言い出したのです。
「そうだ、三沢くん。あなた、この方の汗を拭いて差し上げて」
「!?」
それが何を意味するか、そこにいた全員が解っていた事でしょう。自分が生き延びる事のみに必死な店長は、さらに犯人をそそのかします。
「この子は、オトコを知らないカラダですから……あちらの隅で。私どもは眼をつぶっておりますから」
橘の推理を黙って聞いていた桜井は、この場に三沢美保が連れて来られてる事に気づいて動揺します。
「おいっ、やめろ!」
しかし、橘は店長への追及を緩めません。
「あんたの行為は、まるでポン引きだ!」
「やめろぉ… やめろと言うんだぁ! ライダーパァーンチッ!!」
ライダーパンチと聞こえたのは私の空耳かも知れませんがw、まるで改造人間みたいに強靭な肉体を誇る桜井に殴られ、橘は数メートル吹っ飛んだ挙げ句、壁に叩きつけられます。並みの人間なら木っ端みじんになった事でしょう。
「それ以上喋ることを俺が許さん! 査問会とは何の関係も無いことだ!」
「いや、あるよ。俺はコイツがなぜ嘘をついたか、それを証明したい」
ここからは長台詞になるので、早口トークの船村刑事(大滝秀治)がバトンタッチします。
「私から言おう。増井さん、あなたは男として上司として恥ずべき行為をした。それをあなたは犯人説得のための手段だったと、そう思い込んで正当化しようとした。だから見てもいないのに悪いのは一方的に桜井刑事だった、犯人に殺意は無かったと、そういう嘘をついた!」
「言いがかりだ! 私は見た! 犯人は逃げようとしただけなんだ!」
残念ながら、店長が嘘をついてる事を裏付ける、決定的な証拠はありません。頼みの綱は、三沢美保の証言のみ。査問会を代表し、神代課長が心を鬼にして彼女に尋問します。
「あなたのいた位置からは全てが見えていた筈です。犯人がなぜ桜井刑事に背中を向けたか、お答え頂けませんか?」
「………………」
勇気を振り絞った美保が、長い沈黙を破って口を開こうとした瞬間、桜井が割って入ります。
「俺が言う! 俺は最初からヤツを殺すつもりで来た。木谷のヤツは許せん! 人質を取って立てこもる、それだけで死刑に値する。だから俺が処刑した!」
射殺した本人がそう言ってる以上、もはや仲間の刑事たちも庇いようがありません。
「……どうやら、これで結論が出たようだな」
査問委員長が採決を下そうとした時、ついに美保が口を開きます。
「違う!」
「違わん! 木谷は俺を見て逃げようとした! だから俺は撃った! 俺は最初からヤツを逃がす気は無かったからだ!」
「違います!」
「この人は錯乱をしてるんだ!」
「錯乱なんかしていません! 私は、本気で犯人を殺そうとしたんです!」
「!?」
ついに……桜井が必死に隠し通そうとして来た真実が、美保自身によって明かされました。
桜井が犯人と対峙したあの時、犯人が美保の衣服を切り裂くのに使ったナイフが、美保の眼の前に落ちていた……
そう、犯人は、美保がそのナイフで自分に斬りかかって来たから、振り返って美保を撃とうとした。だから桜井はとっさの判断で、犯人を射殺したワケです。
桜井が査問会に遅刻したあの日、その事実を絶対に言わないよう、彼は美保に会って釘を刺していたのでした。
だけど、それを言わなければ桜井の立場がどうなってしまうか、美保にも想像がつきます。だから彼女は最初、真実を証言するつもりでいたのですが……
「言ってどうなる? いいかい、言えばね、警察はキミにその理由を聞きたがる。キミがなぜ犯人を殺そうとしたか、犯人に何をされたか、キミはマスコミの晒し者にされてしまうんだよ!」
桜井は、100%自分自身を犠牲にして、美保の女性としての尊厳を守ろうとした。
なぜ、そうまでして? もしかして桜井は、彼女に惚れてしまったのか? あるいは、見返りとして彼女のカラダを要求するつもりなのか?w 私と違って、桜井にそんな煩悩は一切ありません。
「来月、キミは式を挙げる予定なんだろ?」
そう、結婚を間近に控えた美保にとって、あんな野獣に処女を奪われたこと自体が致命傷になりかねない。桜井は、何の縁もゆかりもない彼女の未来を守るため、まさに無償の愛を捧げてるワケです。
「いいかい? キミが黙ってる限り、晒し者は俺だ。殺人か正当防衛か、世間の眼は俺だけに向けられる。キミは何も見なかった。犯人に何もされなかったんだ。いいね?」
そんな桜井を救うために今、美保もまた、自分を100%犠牲にして真実を打ち明けてる。無償の愛を返してるワケで、これは究極の純愛と言っても過言じゃありません。
「桜井さんは、私を助けて下さったんです! 私が犯人を殺そうとしたから! 犯人が私を撃とうとしたから! だから、だから桜井さんは撃ったんです!!」
ジャンジャカジャーン!……♪星の揺れる港を~ 二人見てたあの日よ~……
ここでチリアーノの唄う主題歌『私だけの十字架』が流れて、我々視聴者は号泣ですよw 非情に徹して真実を追及した橘刑事が、最後の最後、美保に歩み寄って深々と頭を下げ、涙を滲ませる姿にも感動しました。
どうですか? 『特捜最前線』って、めちゃくちゃ面白くないですか? 私自身、当時は食わず嫌いして敬遠してたんだけど、こんなに面白い番組だったとは!って、大人になってから再発見した次第です。
セックスをほのめかす事すらタブーな『太陽にほえろ!』じゃ絶対に描けないストーリーだし、描けたとしてもこんな泥臭い世界は似合わないでしょうw
1970年代っていう時代背景と、藤岡弘という(この人ならあり得る!って思わせる)根っからストイックな俳優さんがいればこそ成立するドラマであり、唯一無二だろうと私は思います。
『太陽にほえろ!』と同じく長寿番組ですから、エピソードによってクオリティーのムラはあるでしょうけど、おおむね観て損はしない作品です。
若くして亡くなられていますよね、残念です……