









拳銃を持っていながら、弾丸はいざという時のみ、それも敵が1人ならば1発しか装填しない。
そんなゴリさん(竜 雷太)の流儀は『太陽にほえろ!』という番組の、拳銃に対する……と言うより人命に対する考え方、そのスタンスを象徴してました。第1話『マカロニ刑事登場!』に早くも、その設定が登場してるんですよね。
着任したばかりのマカロニ(萩原健一)が犯人(水谷 豊)を追い詰め、銃を向けるんだけど、いざとなると撃てなくて立ちすくんじゃう。
そこに駆けつけたゴリさんが代わりに撃たれて、マカロニが介抱してるスキに犯人は逃げてしまい、それを見たボス(石原裕次郎)が「馬鹿野郎っ、貴様それでも刑事か!」って一喝する。
すっかり凹んだマカロニが、入院してるゴリさんを見舞いに行って「人を撃てない奴に刑事は務まらないって言うんなら、俺はもう辞めます」なんて泣き言をこぼすもんだから、記念すべき第1発目のゴリパンチを食らっちゃうw
「ボスが怒鳴ったのは、お前が撃たなかったからじゃない。犯人を逃がしたからだ! 人が撃てなくてクビになるんだったら、俺なんかとっくに……」
ゴリさんはそこで、枕元に置いたホルスターから拳銃を抜いてw、引き金を引く。弾丸は入ってない。そんなゴリさんの流儀を認めてるボスが、撃たなかった事を非難する筈が無いってワケです。
病室に拳銃を持ち込んでる描写が、今となってはあまりに現実離れしてるんだけど、当時のドラマじゃ普通の事だったんです。特に『太陽』はアメリカ映画の影響を受けてますから、番組初期は刑事達がみんな、自宅に銃を持ち帰ってました。
それはともかく、この場面はちょっと説明不足だったかも知れません。銃に弾丸が入ってないのは、場所が病院だからとも解釈出来ちゃうし、あれだけで視聴者がゴリさんの主義を理解するには、かなりの脳内補完が必要になりそうです。
なので、ゴリさんのそんな設定は、第14話『そして拳銃に弾をこめた』であらためて語られる事になります。
ゴリさんが拳銃に弾丸をこめないのは、不用意に犯人や人質の生命を奪わない為なワケだけど、それは両刃の剣で、すぐ撃つべき時に撃てない危険性も秘めてる。
この回では、犯人を追跡中に全く想定外の一般人が不意に現れ、撃たれてしまう。ゴリさんがすぐに威嚇射撃でもしていれば、その人は撃たれずに済んだかも知れない。
刑事のヒューマニズムがいきなり裏目に出ちゃうという、とても厳しい世界観。『太陽にほえろ!』は、単に刑事をヒーロー扱いして描くドラマじゃないって事が、ここでハッキリと示されました。
マカロニ編の最終回である第52話『13日金曜日マカロニ死す』では、拳銃に弾丸をこめてなかったばかりにゴリさん自身が撃たれてしまう。
現場に入る前に弾丸をこめようとしたゴリさんを「らしくないねぇ」なんて言って、マカロニがからかうもんだから、ゴリさんは拳銃を空にしたままだった。
脚を撃たれただけの第1話と違って、今回のゴリさんは生死をさまよう重態です。怒りと自責の念とで、頭に血が上ったマカロニは大暴走!……てな展開になって行きます。
そんなワケで、ゴリさんを苦しめてばかりの「弾丸をこめない主義」だけど、ゴリさんは信念を曲げません。恋人の道代(武原英子)が初登場する第122話『信念に賭けろ!』では、それが逆に功を奏する事になります。
犯人が道代を人質にとってゴリさんの拳銃を奪うんだけど、弾丸が無いもんだから役に立たず、恋のスペシャル・ゴリパンチを食らう羽目になっちゃう。
ふだん『太陽』を観てない(つまりゴリさんの流儀を知らない)視聴者がこの場面だけ観たら、物凄いご都合主義な展開だと思うでしょうねw
それと厳密に言えば、リボルバー拳銃の場合は弾倉に弾丸が入ってなければ、見た目ですぐ判る筈なんですよね。そこはまぁ平和の国ニッポンですから、犯罪者にすらそんな知識は無かったって事で、よろしいんじゃないでしょうか。
さて、1977年にロッキー(木之元 亮)が加入して以降、’82年に殉職するまでの5年間、ゴリさんはコルト・トルーパーMk-III(357マグナム)の4インチを愛用する事になります。
この銃は以前ご紹介した通り、他のメンバー達が使ってたコルト・ローマンMk-IIIと同じフレームの兄弟モデルなんだけど、見た目のイメージは随分と違います。
なぜならトルーパーのフレーム上部には、より精確な射撃を可能にする為の、可動式の照準器が搭載されてるから。その分だけサイズが大きくて、武骨にも見える。
ローマンは上部に溝が彫られてるだけなんで、トルーパーよりもスリムで携帯し易いんだけど、精確な射撃には向いてない。だけど素早く抜いて撃てるから、初期のスコッチ(沖 雅也)なんかは好んでローマンを使ったワケです。
反対にゴリさんは、出来れば銃は使いたくないし、どうしても使わざるを得ない場合は、間違って相手の急所を撃ってしまわないよう、出来るだけ狙いを外さない銃を使いたい。だからトルーパーなんです。
それだけ射撃にこだわりを持つゴリさんですから、銃が絡む主演エピソードもダントツで多かったりします。主演作以外でも、立てこもり犯を狙撃しないといけない事態になると、ゴリさんがライフルを構えるパターンが定着してました。
だけど今回はコルト・トルーパーの紹介記事ですから、ライフルは除外して「拳銃」にまつわるエピソードの中から、代表的な3作をレビューしたいと思います。
第451話『ゴリ、勝負一発!』は、いきなり冒頭から新宿駅西口→地下街へと移動しながらの銃撃戦で幕を開けます。現在では絶対に撮影不可能なシチュエーションです。
で、とんでもない人混みの中、犯人に1発でも撃たせたら大惨事になっちゃう状況ですから、犯人が銃を構えた瞬間に、ゴリさんとドック(神田正輝)が同時に撃って射殺するという、超ハードな展開。
死んだ犯人は大学生で「異常なガンマニア」と判明w ガンマニアってだけでも白い眼で見られるのに「異常な」とまで言われたら救いようがありませんw
で、彼には海外の射撃場で知り合ったAという仲間がいて、お互い射撃の腕を競い合うライバルだった。そのライバルを奪われたAは、ゴリさんとドックに挑戦して来るワケです。
先に狙われて右腕を負傷したゴリさんは、まだ何も知らないドックを海外出張(射撃場の捜査)に行かせて、自分が囮になろうとする。
だけど、いくらゴリさんでも利き腕を負傷した状態では、プロ級の腕前を誇るAに対して勝ち目は無い。しかもAが使う拳銃は、スイッチの切り替えでフルオート射撃も出来ちゃうマシンピストル=モーゼルM712なんです。
このモーゼルってのはドイツが誇る名銃で、命中精度も抜群だったりする。外観も独特で、あの『スター・ウォーズ』のハン・ソロ(ハリソン・フォード)が愛用する光線銃も、このモーゼルをベースにデザインされた物。
日本の刑事ドラマで使うにはあまりに特殊な銃で、まさに「異常なガンマニア」という設定があればこそ。そこでゴリさんも、滅多にドラマには登場しない、スペシャルな拳銃で対抗する事になります。
ゴリさんが選択したのは「ヘンメリー」。射撃競技で使われるスポーツピストルで、もちろん狙いは外さないし、反動も軽いから負傷した右腕でも使えない事は無い。ただし、1発しか弾丸を装填できない銃なんです。まさにゴリ、勝負一発!
それにしてもフルオートで無限に撃ちまくって来る敵を相手に、たった1発しか撃てない拳銃でゴリさんは、果たして勝てるのか? 勿論、殉職編じゃないから勝つに決まってるんだけどw、どうやって勝つのかが大きな見所になってます。
また、ドックが海外に行ってる間、ゴリさんのガードを務めるのがスコッチである事も、見逃せないポイントかも知れません。かつて激しく対立した2人のコンビネーションには、長年のファンとして感慨深いものがあります。
それに射撃の腕前といい冷静な判断力といい、撃つ時は一瞬たりとも躊躇しない非情さといい、こんな時にスコッチほど頼りになる相棒はいませんから。逆に敵からしてみれば、邪魔で邪魔でしょうがないワケです。
さて、Aはどうしたか? 何しろ異常なガンマニア(笑)ですから、やる事がムチャクチャです。聞き込み先で待ち構え、スコッチが車に乗り込む瞬間を狙って、別の車で運転席めがけて突っ込むワケですよ!
それでゴリさんにもスイッチが入っちゃう。血まみれで動けなくなったスコッチが必死に呼び止めるのも聞かずに、ゴリさんは単身で決闘の地へと向かって行く。
これは『太陽』史上でも屈指のハードさが堪能出来る、ゴリさんのGUNアクションを代表する1本だと思います。
第523話『ゴリさん、死の対決』は、ゴリさんが殉職する直前のエピソードにして、なぜゴリさんが拳銃に弾丸をこめなくなったのか、その原因となった事件を描いた作品です。
10年前(つまり番組がスタートする直前)にゴリさんは、人質をとって立てこもった凶悪犯を射殺したんだけど、実は肩を狙って撃ったのに心臓に当たっちゃった。
原因は、銃の磨耗による照準の狂い。ゴリさんのミスじゃないし射殺自体やむを得ない状況だったんで、誰も責めたりしないのに、ゴリさんは刑事を辞めようとするほど打ちのめされる。
「銃器を扱う人間は、そういった不測の事態も含めて責任を持たなきゃいけない」
それ以来、ゴリさんは警視庁随一とも云われる射撃の腕を、必要最小限にしか使わなくなったワケです。
そんな事情を知らない新米刑事のボギー(世良公則)は、射撃訓練でちょっと的を外しただけで、銃を分解して入念にチェックするゴリさんを見て、嫌みに感じちゃう。ボギー自身は百発百中で的を外してる人だからw
で、そんなゴリさんが殺し屋に生命を狙われます。10年前に射殺した犯人の母親(根岸明美)が、暴力団の弱みを握って殺し屋を雇わせたのでした。
例によってゴリさんは、あえて自分を狙わせようとします。
「囮になると言うのか、ゴリさん。相手はプロだぞ?」
「山さん。俺もプロです」
このやり取り、いくらなんでも格好良すぎですw でも、10年間も番組を観続けて来たファンならシビれますよね。とんでもない修羅場を、とんでもない回数切り抜けて来たゴリさんはまさに、究極のプロフェッショナル。
ファンなら、そんなゴリさんの背景を熟知してる。だから、何も知らずにゴリさんを「キザなヤツ」とか言う新米ボギーが、ほんと青臭く見えちゃうw
そんなボギーが、ゴリさんと一緒に殺し屋と対決する羽目になります。テフロン加工された対戦車用の撤甲弾をぶっ放す恐ろしい敵を、着実に追い詰めて仕留めちゃうゴリさん。
車ごと爆破されてもピンピンしてるし!w ゴリさんが超人的にタフな人である事も、10年前から繰り返し描かれて来ましたから、我々ファンはまぁ慣れっこなんだけど、この回はちょっとやり過ぎたかも知れませんw
それはともかく、ゴリさんのそんな姿を見せつけられたら、さすがのボギーもシャッポを脱ぐしかありません。ボギー登場からゴリさん殉職までの間、わずか1ヶ月。新人教育係としてのゴリさん、最後の仕事でした。
そして90分スペシャル=第525話『石塚刑事殉職』。銃とは切っても切れないキャラクターだったゴリさんの最終回だけに、ここでは『太陽』史上で最も壮絶な銃撃戦が描かれました。
ジーパン(松田優作)の殉職編と同じく、ヤクザ軍団から1人のチンピラを守りながらの銃撃戦なんだけど、敵の数は倍以上、20人はいたように思います。
トルーパーの装弾数は、わずか6発。しかも場所は工場の中という狭い空間ですから、身を隠して弾丸を入れ換える余裕は、恐らく無い。そんな状況下で敵は20人。
さて、まずゴリさんはどうしたか? 恐らく『太陽』では初めて描かれた戦法だと思うんだけど(他の番組でも観た記憶はありません)、見張りの雑魚を3人ほどゴリパンチで眠らせ、そいつらの銃を拝借して(予備用に)プールするんですよね!
格好良かった。めちゃくちゃ格好良かった。ゴリさん、死なないでぇー!って、思いましたw 格闘スキルにおいてもナンバーワンだったゴリさんだからこそ、この戦法がサマになるワケです。
で、いざ撃ち合いが始まったら、まさに息つく間もないジェットコースター状態で、『ダイ・ハード』も真っ青の大激戦。四方八方から乱射しながら1メートル手前まで迫って来る敵を、銃をとっかえひっかえ撃ちまくるゴリさん!
ゴリさんだからこそ許され、またゴリさんでなければサマにならない、まさにスペシャルなGUNアクションでした。
こうして振り返ると、ゴリさんってキャラクターは本当に、有り得ないほど格好良く描かれてますよね。ボンボン刑事役の宮内淳さんがDVDのオーディオコメンタリーで、やたら「ゴリさんはいいよなぁ」「ゴリさんだけズルいよなぁ」ってw、愚痴っておられたのも無理からぬ事です。
つくづく、ゴリさんは『太陽にほえろ!』を代表するキャラクターであり、竜雷太さんにとっても一世一代の当たり役でした。
さて、コルト・トルーパーですが、ゴリさん以外にもスニーカー(山下真司)が4インチを使ってました。最初は中型オートマチックを持ってたのに、ほとんどストーリーに活かされないまま、気がつけばトルーパーに替わってました。
スニーカーが登場してからしばらくの間、地味なストーリーばかりで銃撃戦が描かれること自体が無かったんですよね。半年経った頃の第399話『廃墟の決闘』で、ようやく本格的な銃撃戦が描かれ、スニーカーのトルーパーが活躍しました。
その翌週、第400話『スコッチ・イン・沖縄』で本格復帰したスコッチが使ってたのが、トルーパーの6インチ。私は当時、それを44マグナムだと思い込んでて、ガンマニアの友人に思いっきりバカにされた悔しい思い出がありますw
だけど今となっては、テレビに映るモデルガンをパッと見て、すぐに機種が見分けられる自分でなくて、本当に良かったと思いますw
やがてスニーカーはコルト・パイソン4インチ、スコッチは44マグナム(S&W・M29)の8・3/8インチを使うようになり、トルーパーの6インチはロッキーに受け継がれます。
そして’82年、ロッキーとゴリさんが相次いで殉職し、トルーパーを使う刑事はいなくなりました。5年もの間、ゴリさんの片腕として大活躍したトルーパー4インチは、竜雷太さんに寄贈されたそうです。
『大追跡』でも藤竜也さんや柴田恭兵さんに愛用されたコルト・トルーパーですが、私にとってはやっぱ、永遠に「ゴリさんの拳銃」なんですよね。
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