ハリソン君の素晴らしいブログZ

新旧の刑事ドラマを中心に素晴らしい作品をご紹介する、実に素晴らしいブログです。

『太陽にほえろ!』#521―3

2018-12-05 00:00:15 | 刑事ドラマ'80年代









 
春日部(世良公則)の度重なるドジ……というより短気のせいで、銀行強盗を働いた田上(河合 宏)を何度も取り逃がした挙げ句、彼が拳銃を入手してしまうという最悪の事態を招いちゃいました。

「カネも無くなった、仲間にも裏切られたとなると……危険ですな」

「ああ、田上にこれ以上事件を起こさせちゃいかん」

山さん(露口 茂)とボス(石原裕次郎)の表情にも、いつもの余裕が感じられません。

一方、春日部は田上の恋人=裕子(立枝 歩)のアパートに上がり込み、強引に田上の居所を聞き出そうとしますが、威圧的になればなるほど裕子は頑なに口を閉ざします。

それでも愚直に詰問を繰り返す春日部を、後からやって来た山さんがたしなめます。

「止めないで下さい。田上を逃がしたのは俺の責任です。どうしても俺がやります!」

「やめろと言ってるんだ。捜査というのは1人で勝手にやるもんじゃない。お前、そんなことも分かってないのか。表で張り込め」

「…………」

「表で張り込めと言ってるんだ」

「……はい、命令には従います。でも、最後の行動だけは自分で決めます。誰が何と言おうと、俺の人生ですから」

その言葉どおり、翌朝、春日部はせっかく応援に駆けつけたドック(神田正輝)を置き去りにして、田上に呼び出された裕子を一人で尾行します。

裕子がタクシーを拾って向かった先は、銃撃戦でよく使われるヒューム管工場。ヘイチ号でついて来た春日部は、そこで拳銃を持った田上と鉢合わせします。

田上は震えながらトリガーを引きます。これだけの至近距離なら、いくら相手が射撃の素人でも春日部は無事じゃ済まなかった筈ですが、運良く田上の拳銃は弾切れでした。

その銃はブローニング、すなわち全弾撃ち尽くすと「スライド・オープン」の状態になるオートマチック・ピストルですから、トリガーを引くまで弾切れに気づかないってことは有り得ないんだけど、この日本でそんなこと知ってるのは、まぁごく一部のマニアだけ。たぶん神田さんや世良さんは気づいてたでしょうけど、そんなリアリティーは無視しちゃうのが当時の常識だったんですね。

役に立たなくなった拳銃を春日部に投げつけ、田上はなおも逃走します。それを追って春日部が走り出した瞬間に流れるのは勿論、あの名曲中の名曲「ジーパン刑事のテーマ」! 別名「青春のテーマ」で、いくら時代が変わってもこの曲が流れると『太陽にほえろ!』らしさが全開になります。

ドックやラガー(渡辺 徹)、ましてジプシー(三田村邦彦)にこの曲は似合わないけど、春日部=ボギーだとちっとも違和感がありません。この瞬間、世良さんがいよいよ七曲署の一員として、我々視聴者に認識されたワケです。

さて、歌のステージじゃ華麗すぎるアクションを見せて来た世良さんが、『太陽』では一体どんな立ち回りを見せてくれるのか?

さぞやスタイリッシュなアクションが見られるかと思いきや、春日部刑事が披露したのはなんと、ただひたすら田上の脚にしがみつくというw、スタイリッシュのスの字も無いぶざまな姿。

だけど、その格好悪さにこそ、もう何があっても絶対に逃がさない!っていう春日部の必死な想いと、この役に全身全霊で取り組む世良さんの本気が感じられます。

そしてこれもまた、マカロニ刑事(萩原健一)へのオマージュなんですよね。第2話『時限爆弾 街に消える』の中盤でショーケンさんが全く同じことをやってました。

ジーパン(松田優作)やスコッチ(沖 雅也)の華麗なるアクション、ゴリさん(竜 雷太)やテキサス(勝野 洋)のダイナミックなアクションも無論すばらしいんだけど、土足で顔面を踏まれながらも愚直に食らいつく、この究極に泥臭い立ち回りこそが青春アクションドラマ『太陽にほえろ!』の原点であり、真骨頂なんだと思います。

今回のストーリーが第1話のリメイクであることには気づかなかった私だけど、この場面がマカロニへのオマージュであることはすぐに分かりました。そりゃもう、胸が熱くなりましたよ。

で、遂に田上の腕に手錠を打った春日部は、離れた場所から山さん、ゴリさん、ドック、ラガーがずっと見ていたことに気づきます。(ジプシーはたぶん京都へ向かってますw)

「そりゃ無いですよ、俺一人しゃかりきになって……みんな高みの見物ですか」

不満そうな春日部に、ゴリさんが笑顔で言います。

「そう思うか? 山さん、ドック、ラガー、みんなハラハラしどおしだよ」

そう、加勢したいのはヤマヤマでも、新人刑事を成長させるためあえて手を出さないのも、七曲署藤堂チームの伝統と言えます。そこには「お手並み拝見」の意も含まれるかと思いますが、春日部のスッポン戦法は確実に先輩たちのハートを掴んだことでしょう。

「……感激ですよ」

「お前の人生は確かにお前のものだ。だがな、人間一人では生きて行けないんだ。解るか?」

「はい」

そう言う山さんたちは実際、高みの見物してただけでイマイチ説得力が無いんだけどw、単純な春日部は山さんのいぶし銀にコロッと騙されたようですw

「裕子……」

春日部と同じく泥まみれの顔で、田上はドックの横にいる裕子を睨みますが、春日部がすかさずフォローを入れます。

「彼女はな、最後までお前を庇おうとしたんだよ。それだけは忘れるな」

田上を演じた河合宏さんは『太陽』新人刑事候補の1人だったそうで、後に第700話『ベイビー・ブルース』にもゲスト出演されますが、レギュラー入りは叶いませんでした。

七曲署の刑事としては線が細すぎると私は思うけど、マイコン(石原良純)よりはマシだったかも知れませんw 後に『電撃戦隊チェンジマン』など特撮ヒーロー物で活躍されますから、似合わない刑事役はやらなくて正解だったんじゃないでしょうか。

さて後日、春日部は中盤で見せたダサいのよりちょっとマシな帽子を被って、あらためて捜査一係室に出勤します。

ちなみに世良さんの帽子姿が見られるのは、この登場編オンリーワン。前任のロッキー刑事(木之元 亮)も最初は帽子を被るキャラだったけど、全力疾走シーンがやたら多い『太陽』では(すぐ脱げそうになって)邪魔にしかならず、いつの間にか被らなくなってました。

それはともかく、なぜ春日部がイマイチ似合わない帽子を被って来たのか、一係の同僚たちには理解できません。

「分かりませんか? ハンフリー・ボガードですよ。今日から俺のことをボガー……いや、ボギーって呼んで下さい」

新人刑事のニックネームは伝統的に先輩刑事たちが決めるもんだけど、ドック以降は自ら名乗るパターンも増えて来ました。

ドックは着任早々「ドックって呼んでくれよ」なんて、普通は言わんやろ~な台詞でやや違和感があったけど、春日部の場合は藤堂チームがあだ名で呼び合ってるのを数日間見てきた上でなので、まぁ自然な流れかと思います。

けど、本人が提案した「ボギー」というあだ名に、同僚たちは全員大爆笑w

「ボガードっていうよりアボカドじゃねえか?」

そう言うドックはともかく、本人としては不本意なあだ名であろうゴリさんやジプシーからすれば、ボギーの名は格好良すぎて納得いきません。

ところがボスは、春日部の希望をあっさり認めちゃいます。

「まぁいいだろ。お前、今日からボギーだ」

「さすがボス! 有難うございます!」

「冗談じゃないですよ、こんなヤツのどこがボギーなんですか!」

「慌てるな。同じボギーでもな、お前のはゴルフのボギーだ」

「は?」

「なるほど、ゴルフのボギーというのはチョンボして1つ多いヤツですよ」

「パーですか?」

「いやいや、もひとつ駄目なボギー」

ここで再び全員大爆笑w

春日部こと「ゴルフのボギー」は慌てて抗議しますが、もちろんボスは聞く耳を持ちません。

「文句言うんだったらお前、チョンボにするぞ。ん?」

そう言ってボスは、ボギーの帽子を取り上げます。

「ああっ、ボス!」

それを目深に被ってポーズを決めたボスは、日活時代の盟友=宍戸錠にソックリなのでしたw (おわり)


同じプロットを基にしながら、'72年と'82年それぞれの時代背景、ショーケンさんと世良さんのキャラクター、それぞれの違いにより味わいも全く違う作品になってるのが面白いです。

けど、それより何より一番大きな違いは、ボス=石原裕次郎さんの出演場面の長さ、かも知れませんw 説明するまでもなく、大病から生還されたばかりの裕次郎さんは一係室から一歩も出ず、それによって山さんが担う役割も10年前とは随分と変わりました。

ドック、ラガー、そしてボギーの加入により『太陽』が再び活気を帯びて来た時期ではあるんだけど、やがて裕次郎さんが体力の限界を迎えて降板=番組が終了することを思うと、ボスの出番が極端に減ったこの時期こそが「終わりの始まり」と言えなくもなく、すぐに訪れるゴリさんの殉職もまた象徴的に思えて、とても複雑な思いにかられます。

なお余談ですが、このブログは前にやってたブログのリメイクであり、ほとんどの記事はちょっと加筆修正しただけの言わばコピペなんだけど、今回の『ボギー刑事登場!』は完全な書き下ろしです。

実に久々の長編レビューを、よりによって1年で最も仕事が忙しい時期に書く羽目になっちゃいましたw 正直しんどかったけど、予定した順番通りに記事をアップせずにいられない生真面目なハリソン君を、どうか誉めてやって下さいw
 

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2 コメント

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Unknown (キアヌ)
2018-12-05 20:53:44
すばらしい!
愛にあふれています!!

世良さんはベイシティーコップやクライムハンターみたいなキメキメでなかったんですね!
赤のジャケットが好みです!!
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>キアヌさん (ハリソン君)
2018-12-05 23:06:25
キメキメの世良さんも無論カッコいいんだけど、ボギー刑事みたいな三枚目を演じてもスタイリッシュさが隠しきれない世良さんは『探偵物語』の優作さんに通じるものがあるかも知れません。結局、キマる人は何をやってもキマるんですよね。
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