翌日もしっかりと雨。こんなキャンプでも、大きなタープ(天蓋)を張ってその下に机と椅子を置けば寛げるのだが。しかし今回はキャンピングではなく登山だった。行動食のはずのミックスナッツとビーフジャーキーをかじりながら、小さな空間の中で原稿を書いて過ごす。
昼前に町まで下りた。近距離とはいえブーツにゴアテックスのスパッツと防水パーカーという出で立ちである。登山道は中央を雨水が流れているので慎重に下る。
町は木を燃やす懐かしい匂いがしていた。今でも薪で風呂を沸かす家屋があるのだ。これだから奥多摩はいい。湧き水を飲んでから奥多摩温泉もえぎの湯へ。無色無臭に近い湯に浸かってじっと黙想した。
奥多摩にはどこか切ない、いい郷愁がある
ふと思いついて奥多摩駅に寄り、落とし物の届けを調べてもらった。やはりウォッチキャップはなかった。まあいい。これで諦めがつくというものだ。それから駅前にある唯一のスーパーマーケットで食パンを買う。
「このへんで本を売ってるところはありますか?」
「ああ本ね、この先を行って左側のね、橋を渡ったところのコンビニに売ってますよう」
助かった。こうなったらどんな本でもいい。とにかく活字が読みたい。しかし目当ての店に入ると、置いてあるのは車やマンガの雑誌だけであった。一冊一冊を丁寧に立ち読みしたが面白くもなんともない。手ぶらで出るのもためらわれたので醤油煎餅を購入。そこからまた暗い山道を登りキャンプに帰った。テントの中は心地良い閉鎖感がある。清潔で暖かい。しかし何となく全てに興味が持てなくなっているのが分かった。横になっていたが午後3時には寝てしまった。
目覚めたときにはすっかり暗くなっていた。夜7時を過ぎている。チキンラーメンを作って胃に収め、それから再びシュラフにくるまって考え続けた。雨は上がったようだ。ときどきランプをつけて地図を眺める。気温が低いためか電池の性能が低下し、ランプは次第に暗くなっていく。暫く休ませるとまた明るさを取り戻すのだが、面倒なので消して黙想。どのみちこれから登山など出来はしないのだ。
夜の虫と風の音を耳にしながら、ひたすら考え続ける。風が松の葉を鳴らして渡っていく。松籟(しょうらい)というやつだ。日本語には本当に美しい表現があると思う。
やがて夜が明けた。これまでになく外が明るいから、ついに晴れたのが分かった。しかし僕は気力がすっかり低下してしまったようだ。今回はこれで帰ろう。
晴れた日は忙しくなる まずは全ての装備を乾かす
さよなら またいつか
追:この記事は粋人soroさんの『No Blog,No Life!』“秋の外秩父。”、『お江戸日和。』“鳥写真集”~にトラックバック