会津の旅館『原瀧』にて
ここの朝飯はゴーカです
旅館で食べる朝飯は美味い。
塩鮭。あじの開き。味付き海苔。生卵。お新香。
あるいはロースハムが二枚畳んであって、ミニトマトが添えてあったりする。ロースハムには、なぜかマヨネーズがしぼってあったりする。
素朴と申しますか、清貧とも言えるような品々なのだけれど、これがどういうわけか食欲をそそるのであります。
「いただきます!」の挨拶ももどかしく、完爾と飯をかっこむ。一膳目はあっという間に平らげる。少し慌てた様子で(何故?)女中さんに声を掛け、二膳目をつけていただく。
親戚一同の集まりなどでも、だいぶご高齢の叔父さんが、二膳三膳と、ご飯をお代わりする。
「ちょっと、もうやめておきなさい」
と奥さんに注意されているのだが、叔父さんは言うことをきかない。
「朝飯は出陣のエネルギーだっ!」とおっしゃる。それを眺めている親戚一同、内心ハラハラしている。
「ぽっくり逝かないでよ」
と、いかにも身内らしい心配をしている人もいる。
こんなところで朝飯食ってみたい
これに対して、ホテルの朝食はだいぶ様子が違う。
バイキングなどと称して、大皿にベーコンだのサラダだのを盛りつけ、あらかじめ配置しているところが多い。客人たちは大人しく行列して、各々料理を取り分けていく。
前を進む人の足取りが重い。
所在なげに首すじをかいている方もいらっしゃる。
全体に、「飯なんかどうでもいいしぃ」という雰囲気がある。
自分も何となくアンニュイな気分になって着席すると、お隣には何らかの事情がありそうな中年のカップルがおいでになる。不味そうに、かつけだるそうにコーヒーをすすっている。
そうなのだ。ホテルの朝飯は、けだるいのであります。少しヤル気がないんであります。
かちかちに冷えて固まったベーコンをつつきながら、
「美味い朝飯はどこだ...」
と、朝飯の疑問は果てしなく続いていくのでありました。
モーローとしながらも、ポットに湯を沸かす。
トースターにパンを放り込む。
「ふああ、あ...」といった音声を発しながら、ベーコンを取り出す。フライパンに並べて火に掛ける。このあたりで、だいぶ意識がはっきりとしてくる。
朝の風景である。すべてはルーティン化していて、自動的に身体が動いている。
(こういう作業、今まで何回くらいやったのかな)
ふと、埒もないことを思う。
(えっと、一人暮らしを始めたのが、だいたい20年前だろ。その半分はちゃんと朝飯を作ってたとして、え~、10年間か)
そこから計算を始めようとするが、すぐにバカの壁に突き当たる。
(まあ、正確なところは、今日は別にいっか。何も正確である必要はないからな...)
それにしても、と埒もない思いは続く。
(いろんな朝飯があったわけだよなあ、うむ。こうやってベーコンが焼ける匂いを嗅げば、やはりキャンプの朝を想い出さずにはいられないものなあ)
焼けたパンにバターをなすりつけ、皿にのせる。自らの脂にまみれたベーコンを、フライパンから引き上げる。
(キャンプの朝飯は、間違いなく美味い飯だな。風に吹かれて、朝日を浴びて。ありゃあ、数ある朝飯の中でもダントツだ!)
今やすっかり目が覚め、
『美味い朝飯とはいかにして食ったものであるか』
的な考察に夢中になってくる。作業が止まってしまったのを見て、細君が黙って続きを引き受ける。
(あとは旅館、民宿の朝飯。あれもキャンプの朝飯に、勝るとも劣らないね)
追:この記事は『不埒な天国~Paradiso Irragionevole~
』
“Burro di Beppino Ocelli”、
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何らかの事情で、うら若い子女二人と飲んだりする機会が訪れたのであります。京成立石の、串揚げ屋さんであります。酔っ払いにならないやふに!
後述:なーんちゃって、実は編集者との打ち合わせでありました。“事情”つーても、僕の場合はそんなもんなのであります。
京成立石というところは、寅さんで有名になった東京都は葛飾区にあります。
初めて訪れたのだけれども、なんというか、葛飾の雰囲気が前面に押し出された、非常にパワフルなところでありました。
午後の1時とか2時頃から開店する店(飲みメイン)が何軒かあり、そういったところは何とかスケジュールをやりくりして、開店時刻くらいには到着しておかないといけない。
人気のある食材が、すぐに売り切れてしまうからなんですな。
何となれば。
平日の昼過ぎ、大多数の人々がキチンと労働に励んでいらっしゃる時間帯に、僕はノレンをくぐったのであります。
これを社会的背徳行為と言わずして、ナンと言ふ。
当然、僕は少しうつむき加減になり、窓(開けっ放し)から外をちらちらとのぞいたりする。
自然、外では配送関係のお兄さんなどがテキパキと働いていらっしゃる。
必然、彼らも我々をちらちら眺める。
「いいないいな、オレも飲みたいな。こんなトラック放り出して、そっちに参加しちゃおうかな」
なぞと推測出来る視線もあるし、あるいは
「くっそーおまえら、バチが当たるぞバチが!」
なぞと推測出来る、あからさまな視線もある(ような気がする)。
「俺だって仕事のためだかんな。事情があんだからな事情が...」
ふと、連れの子女を見てみると、
「我他人の視線なぞ全く意に介さず。すべてこともなし」
という不敵かつ悠然たる振る舞いで、度数25の焼酎を摂取している。
どうも僕はあれですな、気が小さいようなんですな。
何はともあれ、実に面白い体験がでけました。モノクロで写真を何枚か撮ったはずなので、そちらもいずれupしてみようと思いますです。