誰にでも、一度は訪れてみたい憧れの国があると思う。
「陽光輝く南仏へ!」
「モルディブの世界一美しい海でダイビングを」
「オーストラリアに行ってカンガルーを食べたい!」
人それぞれ、動機も様々であろう。
そして、現代のように海外旅行が身近になってくると、憧れの国も複数になってくる。
昔はそうではなかった。
海外旅行など、一生に一度、行ければいいなという程度だった。
そうなると当然、行きたい国・地域というのは一つに絞られてくる。
僕の場合、それはアメリカのニューヨークだった。

本棚の1部をN.Yコーナーにあてた
僕は20代から30代まで、アメリカ文学にハマっていた時期がある。
特に好きだったのは、どれもニューヨークを舞台にしたものだった。
ジェイ・マキナニー、ポール・オースターといった新進作家が流行していた頃でもあった。
中でも、ローレンス・ブロックの書いたマット・スカダーという探偵物シリーズに一番のめりこんだ。
「コロンバスサークルから西60丁目に入り...」
などという記述を読んでは、主人公がそこを歩いている姿を想像(妄想)した。
さらにニューヨークを舞台にした映画を観て、妄想力に磨きを掛けた。
おかげで、一度も行ったことがない街なのに、いろんな地名を憶えてしまった。
例えば、ソーホーという地域があるが、これはSOHOと書く。
サウス・オブ・ハウストンストリートの頭文字をとったもので、文字通りハウストンストリートという通りの南側一帯を示した俗称なのだ。
それからトライベッカ(TriBeCa)。
これも同じくトライアングル・ビロウ・カナルストリートの頭文字をとったもので、カナルストリートのビロウ(下側)、ハドソン川とブロードウェイの間にある三角形の地域の俗称だ。
こういう、普段は何の役にも立たない知識を身につけてしまった。
しかししかし、実際にはニューヨークを訪れたことはないのだ。
これは悔しいし、恥ずかしい。
42歳にもなって、ウンチクをたれるヘンクツな男にはなりたくない。
時は巡り、2008年。ついに僕はニューヨーク旅行へ行くことになった。初めてそのチャンスがやってきたのだ。
国際免許を取得した。
海外で使える銀行口座も開設した。
折りしも円高傾向。ドルも少々、用意しておいた。
旅立ちは10月2日、成田から。さあ、読者諸賢よ。あのセントラルパークへ、クライスラービルディングへ、グッゲンハイム美術館へ、ヒアウィゴーであります!