
世界初のマジック&缶詰料理ショー!
車は東北自動車道を下りて県道へ入った。
最初に見つけたコンビニエンスストアで、予備のマスクや軍手を購入する。
「これから先、精神的に相当ショックを受ける光景が待っています。僕自身、1回目に訪問したあとは、しばらくショック状態から抜けられませんでした」
せんとくんが語る。
「それをどうやって克服したかというと、僕はすぐに2回目の訪問に来ました。ようするに慣れさせたわけですね。今回はとりあえず感じたことを話し合って、感覚を共有するようにしましょう。話すことでだいぶラクになりますから」
やがて車が石巻港に近づくと、せんとくんの言葉が現実となって現れた。
逆さまになり、数台が折り重なったままの乗用車。
燃えたあとの黒い家屋群。
布団や服、鍋など家の中にあるべき物が、往来に散らかって濡れている。
外壁が残っている建物も、中を覗くと空っぽだ。津波がすべて流し去ったのだ。
「うわっ...」
言葉が出てこない。
僕も、コピーライターのせんとくんも、作家でもある小石師匠も、普段は言葉を紡ぎ出すことで仕事をしている。それなのに、その悲惨な光景を表す言葉が一切出てこない。
ただ、
「うわっ」
「ウソだろ」
感嘆符ばかりが口から出てくる。
テレビの映像で見たはずの光景が、目の当たりにすると、まるで印象が違う。現実のこととは思えないほどの惨状が、本当に起こったのだと、実感するのであります。

頑丈な大型トラックも破壊し尽くされていた
港付近を一周した後、木の屋石巻水産の鈴木君が雑居ビルに案内してくれた。
そこは満潮時でも冠水しないエリアだ。そのビルに入っているスナックで1回目の慰問公演を行うのであります。
まずは前座の缶詰料理ショー。
コンビーフを使った『コンビーフ・タルタル』、サバ味噌煮缶を使った『サバ味噌ごま油』など数品を作りながら、缶詰や食べ物に関するトークをしていく。出来上がった料理はどんどん試食してもらうが、好評をいただいたのでほっとした。

次は小石師匠のマジックショーだ。
話のキレが素晴らしい。ひと言ひと言で笑いが起こる。さすがプロの芸人なのであります。
最後は全員集合で写真を撮った。
あとで見てみると、慰問に行った我々より、被災した方々の笑顔のほうが数段輝いていた。
つづく
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