この連載も、はや8回目を迎えた。
どうやら、このまま年を越しそうである。
みなさま、どうぞどうぞ良いお年を。
どこを撮っても絵になる街、ラグーサ
カルタジローネを脱出するのに、手間取った。
SS514という高速道路に乗ればいいのだが、途中で標識が消えてしまうんであります。
いつの間にか、坂を登り始めている。
カルタジローネは山の上だから、いったん下って行かないといけない。
三度ほど“下って登って”を繰り返したあげく、SS514が工事中であることが判明。
こうなると『RAGUSA→』という標識だけを頼りに進むしかない。
必然、予定とは違う道を進むことになる。
SSではないから、道路が荒れている。
八ヶ岳あたりの農道を走っているような具合になってくる。
あまつさえ、レモン畑のあいだに突入したりする。
「こんなところのはずはない」
「Uターンしたほうがいいよ」
「よしきた」
しかしUターンしてみると、『RAGUSA→』という標識はしっかりとその道を示している。
ものすごーく疑いながら(この疑いよう、イタリアに行ったことのある人ならうなずけるでしょう)も、ともかく車を進めていくのであります。
「迷い道、くねく~ね~♪」と、渡辺真知子の気持ちになりつつ、ようやくラグーサの新市街に入る。
ところで、ラグーサというのは新市街と旧市街に分かれております。僕が見たい景色というのは、新市街のどこかから、旧市街を見下ろしたものなのだ。
その場所がまた、分からない。
チェントロ(街の中心部)に車を駐めて、足で探すことにする。
今夜の宿もとっていないこともあり、次第に気分が焦ってくる。
本当は暮れゆく中の旧市街を撮りたいのだけど、そうも言ってられない。
息が“はかはか”としてくる。
やはり俺は興奮しているのだ。
興奮のあまり、一人称も「僕」ではなくなるのだ。
ある細道を下ろうとすると、通りに面した家の中にいるオヤジが、首を振った。そして
「...」
という風に、そっと指で方向を示した。
むろん、我々は言葉を交わしてはいない。
「旧市街の見える場所は?」なんて訊いてもいない。
見知らぬオヤジの静かな暗示を信じて、坂道を下りていくと...。
とうとう俺はここまで来た
これが、ラグーサなのであります。
丘の上に広がるバロック都市、ラグーサの旧市街なのであります。
これが全体像 早くも街の灯りがまたたく
自分がそこに立っていることが実感出来ない。
とにかくシャッターを切った。
ここは観光スポットになっているらしく、観光客が何人もやってくる。
陽が沈み、石畳が冷たくなってくる。
ああ、読者諸賢よ。ここが十数年のあいだ夢みてきた、ラグーサなのであります。
えいやっと、もう1枚追加
翌朝、ラグーサの後ろから陽が昇った