【28日目】7/23(金) Cacabelos → Trabadelo
せっかくの個室だったのに、隣の部屋のスペイン人の若者が携帯電話でしゃべる声がうるさかったので、昨夜は耳栓をして寝る羽目になった。
スィナも良く眠れなかった様子だ。
やっぱスペイン人、迷惑だ~。
夜中に小雨が降ったらしく、中庭に干していた洗濯物が全く乾いていない…。
アルベルゲの自動販売機で買ったコーヒーだけを飲み、肌寒い中、8:00に出発。
しばらくは車が通る道路沿いを歩く。
今日のスィナは体調がすぐれないらしく、かなり遅れて歩いてくる。
たぶん、一昨日の山歩きの疲れが今頃出てるんだと思う。
途中、何度も立ち止まってスィナの到着を待ち、また進んでは待つという状態。
一度、待てど暮らせどスィナが来ないので、本気で心配したこともあった。
でも、カミーノは1本道で、次々に他の巡礼者が通り過ぎて行くので、スィナに何かあればすぐに分かるだろうと、辛抱強く待った。
ほんとに調子いい時と悪い時の差が激しいね、この人は。
この辺りまで来ると、またワイン畑がたくさん出現している。
Villafranca del Bierzoに入る手前に、Puerta de Perdón(赦しの門)の看板。
病気や怪我などの理由により、Santiagoまで到達できない巡礼者も、ここまで来ると巡礼を達成したものとみなされる。
実際にSantiagoまで行かなくても赦されるのが、この門を潜った巡礼者。
もちろん私たちは、最後まで歩きますよ
足も大丈夫だしね。
ところで昨日か一昨日あたりからよく見かける男性がいる。
荷物は持たず、ブルーの毛布らしきものだけひょいと肩から担いで、フラフラと巡礼路を歩いている。
町では物乞いをしていたし、巡礼者なのか、浮浪者なのか判断が難しいところだ。
今日はその人が何度も私たちの前に現れる。
私もスィナも、なんとなくこの人のことは警戒しながら歩いている。
Villafranca del Bierzoに近付くと、向こうから馬に乗ったおまわりさんらしき人たちがやってきたので、ちょっと安心。
「写真を撮らせて下さい」と言うと、わざわざ立ち止ってくれた。
教会で礼拝し、10:00過ぎにようやく朝食タイム。
町の真ん中にあるバルで、いつものようにトーストやコーヒーを注文。
後から巡礼者が2名入って来て、2つ隣のテーブルについた。
当然の流れとして、スィナが「どこから来たの?」と話しかける。
巡礼者のみんながみんな、このようにコミュニケーションを好むわけではないけど、スィナは必ず初めて見る人には話しかけて素性を知らなければ気が済まない。
お陰で私もずいぶんたくさんの巡礼者と話をすることができたもんだ。
スィナが声をかけた相手は、フィンランドから来た姉弟だった。
彼らはLeónからスタートし、今日はバスに乗って、7/25のSantiago入りを目指すそうだ。
休みが短いのと、体力にあまり自信がないので、今回初めてとなる巡礼は、さわりだけにしておくらしい。
驚いたことにこの2人、リュックの重さは15kgほどもある。
しかも、すでに不必要と思われるもの8.7kg分は途中の郵便局からSantiagoに送ったそうだ。
それでもまだ、15kg…。
明らかに荷物多すぎ。
よくよく聞いてみると、「もしもの時に備えて、着替えとか、電化製品とか色々持ってきちゃってて…」と言うのだけど、あなたたちの旅行はたったの10日間ですよね?
8.7kgを郵送しても、そのリュックの中に、まだ不必要なもの入ってますよね
彼らは、スィナと私がフランスから歩いて来て、しかも荷物が少ないことに驚いていた。
これでも私のリュックは重いほうだと思うのだけど。
私のリュックより、スィナのリュックの方がさらに軽いよ。
人って、これぐらいの荷物で1カ月以上巡礼できるんだよ。
フィンランド姉弟に別れを告げ、バルの外に出ると、テラスに例のスペイン語堪能なベルギー人の女の子が友達と座っていた。
スィナが寄って行って、延々と立ち話をしている間、私はせっかくだからVillafrancaの町を見ておこうと思い、周辺のお店のショーウインドーなどを眺める。
ずいぶん経ってからスィナが戻って来て、「ねえねえ、聞いて。あの子、足の故障で巡礼をここで中断するんだって」との報告。
そうなんだ、かわいそうに。
「見せてもらったけどね、足の小指がもげ落ちそうになってるの!」と、背中がゾクッとするような報告まで。
「あなたも一緒に来て見ればよかったのに」って、見たくないよそんな悲惨な光景!
さあさ、出発しましょ。
町を通り抜けていると、ふとアウトドア用品などが売られている店を見かけ、スィナに「ねえ、ストックの先っちょ買わなくていいの?」と聞くと、「グッドアイデア!」ということで、店に立ち寄ることに。
っていうかさ、なんでPonferradaで買っておかなかったのさ?
スィナはストックの使い方が悪く、体重をかけすぎるので、すでにラバーが擦り減り過ぎて、金属がむき出し状態。
石畳やアスファルトを歩くと、カツカツ音が鳴る。
店員さんにはストックの先を見せるだけで、何を言わんとしてるかすぐに理解してくれ、ささっと交換してくれた。
しかもそのゴム製の先っちょ、2個でたったの50セント!
あまりの安さにびっくりだ。
これならスィナのような使い方をしてすぐに擦り減っても、気軽に新しいものと交換できる。
余談だが、スィナが持っているストックはかなり安いらしい。
山道を歩いているとき、スィナが「ああ~、やっぱりストック買ってよかったわ。安いのにずいぶん役立つわ」というようなセリフを連発するので、「???ストックって結構高価だと思うけど?」と言うと、「そんなことないわよ。友達がお金払ってたけど、15ユーロぐらいしかしてなかったと思うわよ」とのコメントが返ってきた。
まさか。
「いやいや、そんな安いはずないよ。私のストックなんて1本100ユーロ近くするよ」と言うと、心底びっくりされた。
ところで、元々のスィナの話では、「St. Jean-Pied-de-Portで木の杖を買ったら、宿の人に『歩き慣れてないのなら、ちゃんとしたトレッキング用のストックを使いなさい』と言われたので、急きょ買った」とのことだったけど、今の話を聞く限り、その場に一緒にいた友達が買い与えてくれたのね。
で、自分でお金払ってないから、正確な金額も知らないってことね?
う~ん、何から何まで他人任せな人だね。
オランダからフランスまでも、その友達の車で連れてきてもらったらしいし。
そりゃ旦那や息子がスィナの単独巡礼を心配するはずだ。
ご家族のみなさ~ん、カミーノでのスィナの面倒は私が見てますから、大丈夫ですよ~。
スィナはしょっちゅう家族にSMSを送り、私との巡礼を報告しているので、まだ会ったこともないスィナの家族や親せきは私のことを熟知しており、誰かからSMSが来るたびに「ユウコによろしく」との一言が添えられている。
なにはともあれ、このあたり(=ヨーロッパ)でのストックの値段は分からないが、後に別の人に聞いてみたら「それほど高いものではない」と言ってたので、スィナの言うこともまんざら間違いではないらしい。
にしても、15ユーロは安すぎでは?
せめて50ユーロじゃない??
さて、ストックの先が無事補修され、上機嫌のスィナと共に町を抜ける。
広場ではマーケットが開かれており、新鮮な野菜や果物が売られていた。
果物欲しいけど、重くなるから今日は我慢しようかな。
教会を見学し、橋を渡ってVillafrancaの町を出る。
通りがかりの地元の人に聞いた通り、橋を渡ってすぐにスーパーがあったので、スーパーで水とロレアルのトラベルサイズのシャンプーを購入。
ああ、Bed Bugにやられた腕がかゆいよぉ。
虫さされの跡が、昨日よりさらに増えてる気がするし。
日本から持ってきたムヒではあまり効果がないみたいなので、どこかの薬局で薬を買おうかなあ。
Villafrancaから先はカミーノが二手に分かれる。
いつもながら、森の中を通る道を選択したつもりだったのだが、気がつけばいつの間にか国道沿いの道に来ていた。
進行方向右手は交通量の多い道路、左にはPereje川が流れている。
しばらく進んでランチ休憩。
あまり良い休憩場所もないので、ガードレールのようなところに腰かける。
昨日買ったハムやチーズを食べきってしまわないといけないので、今日のサンドイッチは具がてんこ盛りの豪華バージョン。
次々と通り過ぎる巡礼者を眺めていると、楽しそうな人、疲れた表情の人、様々だ。
今日はスィナが頻繁に息子とSMSや電話をしている。
訪問が遅れていた長男夫婦と孫に、今日こそは会える。
今、長男らは車でこちらに向かっているので、私たちがどこら辺を歩いているか知らせる必要がある。
で、いつもながらスィナは地図など見てないし、毎日の行程管理はしていないので、息子と電話で話しながら、私に「ねえ、今どの辺?なんていう場所?」としきりに聞いてくる。
どうやらこの辺りはマイナー過ぎて、地名を入れてもカーナビで表示されないようだ。
とりあえず、次に到着するのがPerejeという小さな村なので、そこで落ち合うことに。
お嫁さんはスペイン人だから、大丈夫。
道々人に聞けばちゃんとたどり着けるよ。
今日は朝からソワソワしていたスィナだが、ここへ来てソワソワ度が最高潮に達する。
しきりに通り過ぎる車を気にしている。
いや、まだここまでたどり着いてないよ。
それに巡礼者が歩いていたら、向こうから分かるからさ。
そして今日はイマイチ体調不良だったはずなのに、ここから猛烈にスィナの足が速くなる。
最愛の息子と孫に会えるのが嬉しい気持ちは分かるが、もうちょっと落ち着こうよ~。
ついにPerejeに到着すると、ソワソワが最高潮をさらに通り越す。
バルが1軒あり、テラスがあるので、そこが一番格好の待ち合わせ場所だと思うのだが、とにかく落ち着かないスィナは、いつもならテラスを好むのに、「ここは暑すぎるわ」と言ってバルの中に入ったかと思うと、また出てきて、「やっぱりあっちのアルベルゲにしましょうか。国道に近いから見えるんじゃない?」とスタスタ歩いて行く。
もう、私が何を言っても全く耳に入らず、誰も彼女を止められない。
そんなスィナが、かわいい。
でも、迷惑…。
で、結局はまたバルに入りコーラを注文したのだけれど、今度は「やっぱり中は暑いわ!」と、外のテラスに移動。
そうだね、テラスの方が車が通った時に見えるしね、テラスにしとこうね。
Perejeを通る国道は1本だし、間違いようもない場所。
しかも村はとても小さいので、村の真ん中を通る1本道のすぐそばに私たちが座っているテラスがあり、見落とされる心配はない。
が、スィナはじっと座っていられず、「あなたはここで待ってて。私、国道まで出て見てくるから!」と、飛ぶように行ってしまった。
おいおい、あんたがじっとしてなくてどうする?
待ち合わせ時にウロウロしないのは鉄則じゃないのか?
アジア人はめったにいないから、息子たちが車で通った時に私を見れば分かるかもしれないけど、スィナがここに座ってるのが一番いいのではないか?
しばらく待っていると、ようやくスィナが息子のクリス、お嫁さんのアナマリア、そして孫のノアと一緒に戻ってきた。
どうにか途中で無事に出会えたようだ。
アナマリア曰く「実はこの道、3回ぐらい通ったのよ。あなたが座ってるのを見て、クリスと『スィナの姿が見えないけど、もしかしてあれがユウコかな?でも他にもアジア人って何人もいるのかな?』って話してたのよ~!」とのこと。
ほらぁ、だからスィナ自身がウロウロ動き回っちゃいけないんだってば。
スィナの孫、ノア君は1歳半。
もう、本当に天使のようにかわいい
アナマリアもとてもかわいく、スィナの長男であるクリスも結構かっこいい。
話を聞く限り、2人ともかなりのエリートのようだ。
イギリス留学中に出会い、2年前にスペインで結婚して、今はベルギーのブリュッセルに住んでいるらしい。
ノア君はオランダ語、スペイン語、フランス語、英語の全てを理解してるようだけど、まだ何も言葉は発さないとか。
最初にしゃべるのは何語だろうね?
アナマリアが「これ飲んでみる?」と持ってきてくれたのが、スペインでClara de LimónまたはClara con Limónと呼ばれる飲み物。
ビールにレモンジュースを混ぜたものだ。
普段はビールを飲まない私だけど、これはちょっと甘くてすっきりおいしい!
それにコーラと同じく、ビールの炭酸が夏のスペインの気候にピッタリ合ってる。
その後、このクララに夢中になり、巡礼中何度も飲むことになる。
ちなみにクララにもいくつか種類があるらしいけど、私はひたすらレモンバージョンを頼み続けた。
しばらくバルで休憩し、スィナと私は次の村まで歩き、クリスたちはCacabelosの近くに取ってあるホテルへと向かった。
あとで車で迎えに来てくれて、一緒にディナーする予定。
スィナはカミーノを歩き始めた時から、このイベントを楽しみにしていたので、家族水入らずで楽しんで欲しいと思っていた。
が、いつの間にか私もその家族イベントに当然のように組み込まれていた。
良いんだろうか…。
Perejeから4kmほど歩いたところにある、Trabadeloにて、本日の歩行は終了とする。
すでに時間は17:30になっているけど、途中休憩していたのであまり距離は歩いていない。
今日はスィナにとって特別な日だからね。
スィナは「今日は息子と会う特別な日だから、門限を延長してもらえるよう、アルベルゲと交渉しなくっちゃ!」と張り切っている。
この村には公営、私営の2軒のアルベルゲがあるようだ。
最初に私営の方を訪ねてみた。
6ユーロで、結構小奇麗な様子。
が、そんなことよりスィナの決断を後押ししたのは、「門限は何時ですか?」と聞いた時に返ってきた、「門限は特にありません」という答えだった。
よって、このアルベルゲに即決。
門限もなく、ルンルンのスィナ。
シャワーと洗濯の後、いつもより念入りに化粧をし、さっきアナマリアにもらったばかりの、スィナの歳にしてはかなり短めのワンピースに着替える。
スィナは同じような形のワンピースで、もう少し丈が長めのものをカミーノに持ってきていて、いつもそれをディナー用に着ていたのだけど、スィナの好みを知っているアナマリアが同じタイプで新しいものを買ってくれたようだ。
スィナの誕生日が近いので、誕生日プレゼントらしい。
さすがのスィナも「ねえ、これちょっと短すぎない?」と聞いてきたけど、「いいんじゃない?似合ってるよ」と言っておいた。
アルベルゲは普通の2階建の家のような造りになっており、私たちが通された部屋には2段ベッドが4台置いてあった。
私たちの部屋には2人、別の部屋にも数人巡礼者がいたが、知っている顔はひとつもなかった。
夕方、クリスが車でアルベルゲまで迎えに来てくれ、彼らが宿泊しているホテルへと向かう。
車に乗るのは約1カ月ぶり。
スィナも私も、その久しぶりの感覚にとまどう。
く、車って、早い…。
何より複雑な気分にさせられたのは、今日1日かけて歩いてきた道を、車ではほんの20分ぐらいでビュ~ンと戻れてしまうこと。
ああ、昨夜泊まったCacabelosをもう通り過ぎたよ…。
クリスたちはCacabelosからカミーノを外れてさらに10~15分ほど車で進んだところにあるホテルに泊まっている。
ブドウ畑の真ん中にぽつんと建つ、石造りで中世風の雰囲気ある建物だ。
このホテルは、当時ヒッピーだったオーナーが'72年に建てたもので、この辺りのブドウ畑もみんな自社のものらしい。
ホテルに一歩足を踏み入れて驚いたことは、「れ、冷房が効いてる!」だった。
そうか、今まで冷房設備のないバルやアルベルゲをハシゴしてたけど、やっぱりちゃんとしたホテルにはちゃんとした冷房設備がついてるんだ、と当たり前のことに感心する。
クリスらが宿泊している部屋も、中世の田舎の家みたいな感じでとても落ち着く内装。
スィナと私が奇麗なバスルームに感動してると、アナマリアが「シャワー浴びて行ってもいいわよ」と言ってくれた。
ありがたいけど、大丈夫です。
私たち、アルベルゲのシャワーに慣れてますから。
ホテルのレストランへ向かう途中、お土産物屋さんを物色。
地元のワインなどはもちろんだけど、さすがに高級ホテルなので、お土産も洒落たものがたくさんある。
私はここで、スィナの誕生日プレゼントを探す。
スィナの誕生日は7/27。
それまでに何かプレゼントを買いたいと思っていたが、カミーノ上でこれと言ったものを見つけられなかった。
もっと早い段階でLeón辺りで買っておいても良かったのかもしれないが。
問題は、巡礼中なのでかさばらず軽いものを選ばないといけないこと。
奇麗にラッピングされた石鹸やハンドクリームなんかもあるんだけど、とにかく軽いもの、軽いもの…。
結局、ポプリが入った巾着にした。
スィナに見つからないようにそっと買い、ギフトラッピングもしてもらった。
レストランのテラスで、まずは飲み物を注文。
おいしいおつまみまでついて来て、スィナと私はいたく感動する。
優しいアナマリアが、「私のも食べてくれていいわよ」と譲ってくれた。
テラスでおしゃべりをしている間、クリス、アナマリア、スィナの3人が交代でノアの様子を見に部屋に戻る。
ノアは眠ってるようだけど、長時間1人にしておくのは心配だ。
スィナはこれまでの巡礼体験を誇らしげに息子たちに語っている。
着ている服は毎日手洗いで洗濯していること、意外と乾かないことも多いということを話していると、アナマリアが「でも半乾きの洗濯物をカバンに入れてると、臭わない?」と。
う~ん、しごくまっとうな意見でございます。
ワイルドな生活を続けていたので、あまり気にしてなかったけど、普通の人はそういう疑問を持つわな。
あと、「本とか持ってきてるの?」と聞かれたので、「荷物が重くなるのが嫌なので、持ってきてない」と言うと、「でも読みたくならない?」と。
最初の頃は何か読む物がないと物足りなかったけど、だんだん巡礼生活が板についてくると、活字がなくても大丈夫になった。
むしろ、疲れてるので本など読みたくない気分の時も多かった。
アナマリアが、「Sex and the Cityの本を買ったんだけど、あのドラマ好き?」と聞くので、「うんうん、好き好き!」と言うと、「じゃあ、私のあげるわ」と言ってくれた。
「え、いいよ、くれなくても…」(実は重いから嫌)と言っても、「いいのいいの。私はまだ読みかけだけど、あなたにあげるわ。それに、そんなに重くないのよ」と言って、わざわざ部屋まで取りに戻ってくれた。
本はペーパーバックなので確かに重くはない。
でも、巡礼中って、「1グラムでも軽くしたい!」という意識が働いてるので、複雑な気分…。
アナマリアのせっかくの親切を断り切れず、泣く泣く本を譲ってもらう。
ところで一体いつまでこのテラスでドリンク飲んでるんだろう?
ここに座ってからずいぶん経つし、だんだん日が沈んできたよ。
ディナーはいつ始まるのだ~?
結局ディナーテーブルに移動したのは21:00頃だった。
やはり、ここはスペインであった。
しかも、宿泊予約をした際に、ディナーテーブルも予約しておいたのに、なぜかディナーの予約が入っていなかったようだ。
私たちはとりあえずテーブルにつくことができたが、後から到着した客と店員がもめている様子。
う~ん、やはり、ここはスペインであった。
ディナーはクリスとアナマリアのおごりで、「何でも食べたいものを注文していいよ」と言ってくれた。
安い巡礼者用メニューばかりしか見たことのなかったスィナと私は、普通に高級なメニューを見てどぎまぎ。
全てスペイン語で書いてあるので、アナマリアがいちいち説明してくれた。
う~ん、セットメニューじゃないなんて、何をどうやって注文したらいいか分からない!
前菜などはみんなでシェアすることにして、メインはそれぞれが注文。
もう、サラダもいつもの巡礼者メニューについて来て飽き飽きしてる、ツナ入りのEnsalada Mixta(ミックスサラダ)じゃなくて、ベビーリーフとかも入ってるし、くるみやチーズもトッピングされていて、それだけで舞い上がってしまうスィナ&私。
ああ、天国
スィナと長男のクリス。
クリスはお金持ちなはずなのに、鼻緒の切れたビーチサンダルなどを履いており、「これ、もう8年ぐらい履いてるかも」って言ってた…。
家族のイベントに参加させてもらって恐縮です…。
メインには思い切って牛肉のサイコロステーキを選んでみたら、「久しぶりにスペインでちゃんとした牛肉らしい牛肉を食べた」って感じ。
付け合わせに相変わらずポテトフライはついてきたけど(笑)、いちじくのコンポートみたいなのもついてきたとこが巡礼者メニューとは違う点。
最後のデザート代わりに、お店から勧められて、ショットグラスに入ったかなり強いお酒(スペイン語でchupitos)を飲む。
消化を助けるらしいけど、私はあまりに強すぎて無理。
スィナはワインもたくさん飲んだのに、Chupitosに大喜びだった。
(味をしめ、その後の巡礼中もChupitos, Chupitosとうるさかった…。)
最後にホテルのオーナーが各テーブルに挨拶に訪れ、スィナと私が巡礼者であることを知ると、特別にワインの小ボトルをプレゼントしてくれた。
う、嬉しいけど迷惑…。
帰り際、スィナがそのワインボトルを「はい」と私に渡す。
え?明日も持てってこと?
すっかり日も暮れて真っ暗になった23:00頃、クリスの運転する車に送られてアルベルゲに到着。
同じ部屋の2人はすでに眠っていて真っ暗な部屋にそーっと入り、ささっと歯磨きだけ済ませるとワインのボトルを抱いたまま音を立てないよう気を使いつつベッドにもぐりこむ。
長い1日だった。
本日の歩行距離:約15km
本日の歩数:24,643歩
せっかくの個室だったのに、隣の部屋のスペイン人の若者が携帯電話でしゃべる声がうるさかったので、昨夜は耳栓をして寝る羽目になった。
スィナも良く眠れなかった様子だ。
やっぱスペイン人、迷惑だ~。
夜中に小雨が降ったらしく、中庭に干していた洗濯物が全く乾いていない…。
アルベルゲの自動販売機で買ったコーヒーだけを飲み、肌寒い中、8:00に出発。
しばらくは車が通る道路沿いを歩く。
今日のスィナは体調がすぐれないらしく、かなり遅れて歩いてくる。
たぶん、一昨日の山歩きの疲れが今頃出てるんだと思う。
途中、何度も立ち止まってスィナの到着を待ち、また進んでは待つという状態。
一度、待てど暮らせどスィナが来ないので、本気で心配したこともあった。
でも、カミーノは1本道で、次々に他の巡礼者が通り過ぎて行くので、スィナに何かあればすぐに分かるだろうと、辛抱強く待った。
ほんとに調子いい時と悪い時の差が激しいね、この人は。
この辺りまで来ると、またワイン畑がたくさん出現している。
Villafranca del Bierzoに入る手前に、Puerta de Perdón(赦しの門)の看板。
病気や怪我などの理由により、Santiagoまで到達できない巡礼者も、ここまで来ると巡礼を達成したものとみなされる。
実際にSantiagoまで行かなくても赦されるのが、この門を潜った巡礼者。
もちろん私たちは、最後まで歩きますよ
足も大丈夫だしね。
ところで昨日か一昨日あたりからよく見かける男性がいる。
荷物は持たず、ブルーの毛布らしきものだけひょいと肩から担いで、フラフラと巡礼路を歩いている。
町では物乞いをしていたし、巡礼者なのか、浮浪者なのか判断が難しいところだ。
今日はその人が何度も私たちの前に現れる。
私もスィナも、なんとなくこの人のことは警戒しながら歩いている。
Villafranca del Bierzoに近付くと、向こうから馬に乗ったおまわりさんらしき人たちがやってきたので、ちょっと安心。
「写真を撮らせて下さい」と言うと、わざわざ立ち止ってくれた。
教会で礼拝し、10:00過ぎにようやく朝食タイム。
町の真ん中にあるバルで、いつものようにトーストやコーヒーを注文。
後から巡礼者が2名入って来て、2つ隣のテーブルについた。
当然の流れとして、スィナが「どこから来たの?」と話しかける。
巡礼者のみんながみんな、このようにコミュニケーションを好むわけではないけど、スィナは必ず初めて見る人には話しかけて素性を知らなければ気が済まない。
お陰で私もずいぶんたくさんの巡礼者と話をすることができたもんだ。
スィナが声をかけた相手は、フィンランドから来た姉弟だった。
彼らはLeónからスタートし、今日はバスに乗って、7/25のSantiago入りを目指すそうだ。
休みが短いのと、体力にあまり自信がないので、今回初めてとなる巡礼は、さわりだけにしておくらしい。
驚いたことにこの2人、リュックの重さは15kgほどもある。
しかも、すでに不必要と思われるもの8.7kg分は途中の郵便局からSantiagoに送ったそうだ。
それでもまだ、15kg…。
明らかに荷物多すぎ。
よくよく聞いてみると、「もしもの時に備えて、着替えとか、電化製品とか色々持ってきちゃってて…」と言うのだけど、あなたたちの旅行はたったの10日間ですよね?
8.7kgを郵送しても、そのリュックの中に、まだ不必要なもの入ってますよね
彼らは、スィナと私がフランスから歩いて来て、しかも荷物が少ないことに驚いていた。
これでも私のリュックは重いほうだと思うのだけど。
私のリュックより、スィナのリュックの方がさらに軽いよ。
人って、これぐらいの荷物で1カ月以上巡礼できるんだよ。
フィンランド姉弟に別れを告げ、バルの外に出ると、テラスに例のスペイン語堪能なベルギー人の女の子が友達と座っていた。
スィナが寄って行って、延々と立ち話をしている間、私はせっかくだからVillafrancaの町を見ておこうと思い、周辺のお店のショーウインドーなどを眺める。
ずいぶん経ってからスィナが戻って来て、「ねえねえ、聞いて。あの子、足の故障で巡礼をここで中断するんだって」との報告。
そうなんだ、かわいそうに。
「見せてもらったけどね、足の小指がもげ落ちそうになってるの!」と、背中がゾクッとするような報告まで。
「あなたも一緒に来て見ればよかったのに」って、見たくないよそんな悲惨な光景!
さあさ、出発しましょ。
町を通り抜けていると、ふとアウトドア用品などが売られている店を見かけ、スィナに「ねえ、ストックの先っちょ買わなくていいの?」と聞くと、「グッドアイデア!」ということで、店に立ち寄ることに。
っていうかさ、なんでPonferradaで買っておかなかったのさ?
スィナはストックの使い方が悪く、体重をかけすぎるので、すでにラバーが擦り減り過ぎて、金属がむき出し状態。
石畳やアスファルトを歩くと、カツカツ音が鳴る。
店員さんにはストックの先を見せるだけで、何を言わんとしてるかすぐに理解してくれ、ささっと交換してくれた。
しかもそのゴム製の先っちょ、2個でたったの50セント!
あまりの安さにびっくりだ。
これならスィナのような使い方をしてすぐに擦り減っても、気軽に新しいものと交換できる。
余談だが、スィナが持っているストックはかなり安いらしい。
山道を歩いているとき、スィナが「ああ~、やっぱりストック買ってよかったわ。安いのにずいぶん役立つわ」というようなセリフを連発するので、「???ストックって結構高価だと思うけど?」と言うと、「そんなことないわよ。友達がお金払ってたけど、15ユーロぐらいしかしてなかったと思うわよ」とのコメントが返ってきた。
まさか。
「いやいや、そんな安いはずないよ。私のストックなんて1本100ユーロ近くするよ」と言うと、心底びっくりされた。
ところで、元々のスィナの話では、「St. Jean-Pied-de-Portで木の杖を買ったら、宿の人に『歩き慣れてないのなら、ちゃんとしたトレッキング用のストックを使いなさい』と言われたので、急きょ買った」とのことだったけど、今の話を聞く限り、その場に一緒にいた友達が買い与えてくれたのね。
で、自分でお金払ってないから、正確な金額も知らないってことね?
う~ん、何から何まで他人任せな人だね。
オランダからフランスまでも、その友達の車で連れてきてもらったらしいし。
そりゃ旦那や息子がスィナの単独巡礼を心配するはずだ。
ご家族のみなさ~ん、カミーノでのスィナの面倒は私が見てますから、大丈夫ですよ~。
スィナはしょっちゅう家族にSMSを送り、私との巡礼を報告しているので、まだ会ったこともないスィナの家族や親せきは私のことを熟知しており、誰かからSMSが来るたびに「ユウコによろしく」との一言が添えられている。
なにはともあれ、このあたり(=ヨーロッパ)でのストックの値段は分からないが、後に別の人に聞いてみたら「それほど高いものではない」と言ってたので、スィナの言うこともまんざら間違いではないらしい。
にしても、15ユーロは安すぎでは?
せめて50ユーロじゃない??
さて、ストックの先が無事補修され、上機嫌のスィナと共に町を抜ける。
広場ではマーケットが開かれており、新鮮な野菜や果物が売られていた。
果物欲しいけど、重くなるから今日は我慢しようかな。
教会を見学し、橋を渡ってVillafrancaの町を出る。
通りがかりの地元の人に聞いた通り、橋を渡ってすぐにスーパーがあったので、スーパーで水とロレアルのトラベルサイズのシャンプーを購入。
ああ、Bed Bugにやられた腕がかゆいよぉ。
虫さされの跡が、昨日よりさらに増えてる気がするし。
日本から持ってきたムヒではあまり効果がないみたいなので、どこかの薬局で薬を買おうかなあ。
Villafrancaから先はカミーノが二手に分かれる。
いつもながら、森の中を通る道を選択したつもりだったのだが、気がつけばいつの間にか国道沿いの道に来ていた。
進行方向右手は交通量の多い道路、左にはPereje川が流れている。
しばらく進んでランチ休憩。
あまり良い休憩場所もないので、ガードレールのようなところに腰かける。
昨日買ったハムやチーズを食べきってしまわないといけないので、今日のサンドイッチは具がてんこ盛りの豪華バージョン。
次々と通り過ぎる巡礼者を眺めていると、楽しそうな人、疲れた表情の人、様々だ。
今日はスィナが頻繁に息子とSMSや電話をしている。
訪問が遅れていた長男夫婦と孫に、今日こそは会える。
今、長男らは車でこちらに向かっているので、私たちがどこら辺を歩いているか知らせる必要がある。
で、いつもながらスィナは地図など見てないし、毎日の行程管理はしていないので、息子と電話で話しながら、私に「ねえ、今どの辺?なんていう場所?」としきりに聞いてくる。
どうやらこの辺りはマイナー過ぎて、地名を入れてもカーナビで表示されないようだ。
とりあえず、次に到着するのがPerejeという小さな村なので、そこで落ち合うことに。
お嫁さんはスペイン人だから、大丈夫。
道々人に聞けばちゃんとたどり着けるよ。
今日は朝からソワソワしていたスィナだが、ここへ来てソワソワ度が最高潮に達する。
しきりに通り過ぎる車を気にしている。
いや、まだここまでたどり着いてないよ。
それに巡礼者が歩いていたら、向こうから分かるからさ。
そして今日はイマイチ体調不良だったはずなのに、ここから猛烈にスィナの足が速くなる。
最愛の息子と孫に会えるのが嬉しい気持ちは分かるが、もうちょっと落ち着こうよ~。
ついにPerejeに到着すると、ソワソワが最高潮をさらに通り越す。
バルが1軒あり、テラスがあるので、そこが一番格好の待ち合わせ場所だと思うのだが、とにかく落ち着かないスィナは、いつもならテラスを好むのに、「ここは暑すぎるわ」と言ってバルの中に入ったかと思うと、また出てきて、「やっぱりあっちのアルベルゲにしましょうか。国道に近いから見えるんじゃない?」とスタスタ歩いて行く。
もう、私が何を言っても全く耳に入らず、誰も彼女を止められない。
そんなスィナが、かわいい。
でも、迷惑…。
で、結局はまたバルに入りコーラを注文したのだけれど、今度は「やっぱり中は暑いわ!」と、外のテラスに移動。
そうだね、テラスの方が車が通った時に見えるしね、テラスにしとこうね。
Perejeを通る国道は1本だし、間違いようもない場所。
しかも村はとても小さいので、村の真ん中を通る1本道のすぐそばに私たちが座っているテラスがあり、見落とされる心配はない。
が、スィナはじっと座っていられず、「あなたはここで待ってて。私、国道まで出て見てくるから!」と、飛ぶように行ってしまった。
おいおい、あんたがじっとしてなくてどうする?
待ち合わせ時にウロウロしないのは鉄則じゃないのか?
アジア人はめったにいないから、息子たちが車で通った時に私を見れば分かるかもしれないけど、スィナがここに座ってるのが一番いいのではないか?
しばらく待っていると、ようやくスィナが息子のクリス、お嫁さんのアナマリア、そして孫のノアと一緒に戻ってきた。
どうにか途中で無事に出会えたようだ。
アナマリア曰く「実はこの道、3回ぐらい通ったのよ。あなたが座ってるのを見て、クリスと『スィナの姿が見えないけど、もしかしてあれがユウコかな?でも他にもアジア人って何人もいるのかな?』って話してたのよ~!」とのこと。
ほらぁ、だからスィナ自身がウロウロ動き回っちゃいけないんだってば。
スィナの孫、ノア君は1歳半。
もう、本当に天使のようにかわいい
アナマリアもとてもかわいく、スィナの長男であるクリスも結構かっこいい。
話を聞く限り、2人ともかなりのエリートのようだ。
イギリス留学中に出会い、2年前にスペインで結婚して、今はベルギーのブリュッセルに住んでいるらしい。
ノア君はオランダ語、スペイン語、フランス語、英語の全てを理解してるようだけど、まだ何も言葉は発さないとか。
最初にしゃべるのは何語だろうね?
アナマリアが「これ飲んでみる?」と持ってきてくれたのが、スペインでClara de LimónまたはClara con Limónと呼ばれる飲み物。
ビールにレモンジュースを混ぜたものだ。
普段はビールを飲まない私だけど、これはちょっと甘くてすっきりおいしい!
それにコーラと同じく、ビールの炭酸が夏のスペインの気候にピッタリ合ってる。
その後、このクララに夢中になり、巡礼中何度も飲むことになる。
ちなみにクララにもいくつか種類があるらしいけど、私はひたすらレモンバージョンを頼み続けた。
しばらくバルで休憩し、スィナと私は次の村まで歩き、クリスたちはCacabelosの近くに取ってあるホテルへと向かった。
あとで車で迎えに来てくれて、一緒にディナーする予定。
スィナはカミーノを歩き始めた時から、このイベントを楽しみにしていたので、家族水入らずで楽しんで欲しいと思っていた。
が、いつの間にか私もその家族イベントに当然のように組み込まれていた。
良いんだろうか…。
Perejeから4kmほど歩いたところにある、Trabadeloにて、本日の歩行は終了とする。
すでに時間は17:30になっているけど、途中休憩していたのであまり距離は歩いていない。
今日はスィナにとって特別な日だからね。
スィナは「今日は息子と会う特別な日だから、門限を延長してもらえるよう、アルベルゲと交渉しなくっちゃ!」と張り切っている。
この村には公営、私営の2軒のアルベルゲがあるようだ。
最初に私営の方を訪ねてみた。
6ユーロで、結構小奇麗な様子。
が、そんなことよりスィナの決断を後押ししたのは、「門限は何時ですか?」と聞いた時に返ってきた、「門限は特にありません」という答えだった。
よって、このアルベルゲに即決。
門限もなく、ルンルンのスィナ。
シャワーと洗濯の後、いつもより念入りに化粧をし、さっきアナマリアにもらったばかりの、スィナの歳にしてはかなり短めのワンピースに着替える。
スィナは同じような形のワンピースで、もう少し丈が長めのものをカミーノに持ってきていて、いつもそれをディナー用に着ていたのだけど、スィナの好みを知っているアナマリアが同じタイプで新しいものを買ってくれたようだ。
スィナの誕生日が近いので、誕生日プレゼントらしい。
さすがのスィナも「ねえ、これちょっと短すぎない?」と聞いてきたけど、「いいんじゃない?似合ってるよ」と言っておいた。
アルベルゲは普通の2階建の家のような造りになっており、私たちが通された部屋には2段ベッドが4台置いてあった。
私たちの部屋には2人、別の部屋にも数人巡礼者がいたが、知っている顔はひとつもなかった。
夕方、クリスが車でアルベルゲまで迎えに来てくれ、彼らが宿泊しているホテルへと向かう。
車に乗るのは約1カ月ぶり。
スィナも私も、その久しぶりの感覚にとまどう。
く、車って、早い…。
何より複雑な気分にさせられたのは、今日1日かけて歩いてきた道を、車ではほんの20分ぐらいでビュ~ンと戻れてしまうこと。
ああ、昨夜泊まったCacabelosをもう通り過ぎたよ…。
クリスたちはCacabelosからカミーノを外れてさらに10~15分ほど車で進んだところにあるホテルに泊まっている。
ブドウ畑の真ん中にぽつんと建つ、石造りで中世風の雰囲気ある建物だ。
このホテルは、当時ヒッピーだったオーナーが'72年に建てたもので、この辺りのブドウ畑もみんな自社のものらしい。
ホテルに一歩足を踏み入れて驚いたことは、「れ、冷房が効いてる!」だった。
そうか、今まで冷房設備のないバルやアルベルゲをハシゴしてたけど、やっぱりちゃんとしたホテルにはちゃんとした冷房設備がついてるんだ、と当たり前のことに感心する。
クリスらが宿泊している部屋も、中世の田舎の家みたいな感じでとても落ち着く内装。
スィナと私が奇麗なバスルームに感動してると、アナマリアが「シャワー浴びて行ってもいいわよ」と言ってくれた。
ありがたいけど、大丈夫です。
私たち、アルベルゲのシャワーに慣れてますから。
ホテルのレストランへ向かう途中、お土産物屋さんを物色。
地元のワインなどはもちろんだけど、さすがに高級ホテルなので、お土産も洒落たものがたくさんある。
私はここで、スィナの誕生日プレゼントを探す。
スィナの誕生日は7/27。
それまでに何かプレゼントを買いたいと思っていたが、カミーノ上でこれと言ったものを見つけられなかった。
もっと早い段階でLeón辺りで買っておいても良かったのかもしれないが。
問題は、巡礼中なのでかさばらず軽いものを選ばないといけないこと。
奇麗にラッピングされた石鹸やハンドクリームなんかもあるんだけど、とにかく軽いもの、軽いもの…。
結局、ポプリが入った巾着にした。
スィナに見つからないようにそっと買い、ギフトラッピングもしてもらった。
レストランのテラスで、まずは飲み物を注文。
おいしいおつまみまでついて来て、スィナと私はいたく感動する。
優しいアナマリアが、「私のも食べてくれていいわよ」と譲ってくれた。
テラスでおしゃべりをしている間、クリス、アナマリア、スィナの3人が交代でノアの様子を見に部屋に戻る。
ノアは眠ってるようだけど、長時間1人にしておくのは心配だ。
スィナはこれまでの巡礼体験を誇らしげに息子たちに語っている。
着ている服は毎日手洗いで洗濯していること、意外と乾かないことも多いということを話していると、アナマリアが「でも半乾きの洗濯物をカバンに入れてると、臭わない?」と。
う~ん、しごくまっとうな意見でございます。
ワイルドな生活を続けていたので、あまり気にしてなかったけど、普通の人はそういう疑問を持つわな。
あと、「本とか持ってきてるの?」と聞かれたので、「荷物が重くなるのが嫌なので、持ってきてない」と言うと、「でも読みたくならない?」と。
最初の頃は何か読む物がないと物足りなかったけど、だんだん巡礼生活が板についてくると、活字がなくても大丈夫になった。
むしろ、疲れてるので本など読みたくない気分の時も多かった。
アナマリアが、「Sex and the Cityの本を買ったんだけど、あのドラマ好き?」と聞くので、「うんうん、好き好き!」と言うと、「じゃあ、私のあげるわ」と言ってくれた。
「え、いいよ、くれなくても…」(実は重いから嫌)と言っても、「いいのいいの。私はまだ読みかけだけど、あなたにあげるわ。それに、そんなに重くないのよ」と言って、わざわざ部屋まで取りに戻ってくれた。
本はペーパーバックなので確かに重くはない。
でも、巡礼中って、「1グラムでも軽くしたい!」という意識が働いてるので、複雑な気分…。
アナマリアのせっかくの親切を断り切れず、泣く泣く本を譲ってもらう。
ところで一体いつまでこのテラスでドリンク飲んでるんだろう?
ここに座ってからずいぶん経つし、だんだん日が沈んできたよ。
ディナーはいつ始まるのだ~?
結局ディナーテーブルに移動したのは21:00頃だった。
やはり、ここはスペインであった。
しかも、宿泊予約をした際に、ディナーテーブルも予約しておいたのに、なぜかディナーの予約が入っていなかったようだ。
私たちはとりあえずテーブルにつくことができたが、後から到着した客と店員がもめている様子。
う~ん、やはり、ここはスペインであった。
ディナーはクリスとアナマリアのおごりで、「何でも食べたいものを注文していいよ」と言ってくれた。
安い巡礼者用メニューばかりしか見たことのなかったスィナと私は、普通に高級なメニューを見てどぎまぎ。
全てスペイン語で書いてあるので、アナマリアがいちいち説明してくれた。
う~ん、セットメニューじゃないなんて、何をどうやって注文したらいいか分からない!
前菜などはみんなでシェアすることにして、メインはそれぞれが注文。
もう、サラダもいつもの巡礼者メニューについて来て飽き飽きしてる、ツナ入りのEnsalada Mixta(ミックスサラダ)じゃなくて、ベビーリーフとかも入ってるし、くるみやチーズもトッピングされていて、それだけで舞い上がってしまうスィナ&私。
ああ、天国
スィナと長男のクリス。
クリスはお金持ちなはずなのに、鼻緒の切れたビーチサンダルなどを履いており、「これ、もう8年ぐらい履いてるかも」って言ってた…。
家族のイベントに参加させてもらって恐縮です…。
メインには思い切って牛肉のサイコロステーキを選んでみたら、「久しぶりにスペインでちゃんとした牛肉らしい牛肉を食べた」って感じ。
付け合わせに相変わらずポテトフライはついてきたけど(笑)、いちじくのコンポートみたいなのもついてきたとこが巡礼者メニューとは違う点。
最後のデザート代わりに、お店から勧められて、ショットグラスに入ったかなり強いお酒(スペイン語でchupitos)を飲む。
消化を助けるらしいけど、私はあまりに強すぎて無理。
スィナはワインもたくさん飲んだのに、Chupitosに大喜びだった。
(味をしめ、その後の巡礼中もChupitos, Chupitosとうるさかった…。)
最後にホテルのオーナーが各テーブルに挨拶に訪れ、スィナと私が巡礼者であることを知ると、特別にワインの小ボトルをプレゼントしてくれた。
う、嬉しいけど迷惑…。
帰り際、スィナがそのワインボトルを「はい」と私に渡す。
え?明日も持てってこと?
すっかり日も暮れて真っ暗になった23:00頃、クリスの運転する車に送られてアルベルゲに到着。
同じ部屋の2人はすでに眠っていて真っ暗な部屋にそーっと入り、ささっと歯磨きだけ済ませるとワインのボトルを抱いたまま音を立てないよう気を使いつつベッドにもぐりこむ。
長い1日だった。
本日の歩行距離:約15km
本日の歩数:24,643歩