第２章 トラキアへ ２０９

　アエネアスとトリタス、この二人の結びつきが二つの民族を太い絆で結ぼうとしていた。
　砦の建設、宿舎の建築、原野を開いての耕作とトロイ人たちは、せっせと働いた。浜に槌音は響き、耕作の足音は原野にこだました。
　彼らには、程近い未来が見えている、その未来に手を伸ばして触れてみたかった。
　目標に向かって、身体を動かす、生きる意欲が明日を築いていく、彼らは燃えていた。夏の長い一日も短かった。
　石を積む、切り出した木材をくみ上げる。なしていく仕事の成果が見える。日々の仕事が進む。
　蒔きおろした種が芽吹いてくる、原野を開いての茶色の大地、芽吹いた新しい緑が整然と列を敷いている。
　人々の生と自然との融和を太陽が促し、風が増幅して運ぶ。
　アエネアスは、その風景をたずさわる人々とともに汗を流して造っている。そして、その背中を息子ユールスに見せた。
　彼ら皆がひとつの目標に向かう。その目標にともに汗を流して進んでいく、アエネアスは、その姿に、その風景に陶酔した、皆でひとつのものを創り上げていく、その充実感に浸った。