『アエネイスミッション』[Aeneas Mission ]

建国の使命を抱くアエネイスのフアストミッションは自軍団自民族引き連れて炎上壊滅するトロイからの脱出である。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY            第5章  クレタ島  119

2012-09-10 07:10:17 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『お~いっ!操舵担当っ!右へ廻るのだっ!右方回頭、あの小島のかみが目当てだ』
 『判りました!』
 船は大きく傾いで回頭していく、降帆のタイミングがおくれていた。風を受けて左舷の船べりが海面と同じになる、波をかぶる、船は大きく傾いだ。その状態に輪をかけるように船上の者たちが左に寄せつけられる、積荷もよってくる、横転寸前までに傾いだ。
 オキテスも左舷のへりに叩きつけられた。アミクスが大声をあげて何かをわめいていた。
 『者ども右へよれっ!』『右へだ!』
 目の色を変えての叱咤であった。危機の最中に何とか帆は降ろされていた。船は安定した航走姿勢を取り戻していた。
 オキテスは大きなゆれから立ち上がった。
 『おっ!アミクス!船の具合は?』
 『何とか危機をしのげたようです』
 『危なかった、全くだ。ご苦労、船内の整備に当たってくれ』
 『判りました』
 イリオネスがオキテスに声をかけてきた。
 『おう、オキテス。ドキッとしたぜ、もう大丈夫か?』
 『え~え、何とか危機をしのいだようです』
 『そうか、安堵した。よろしく頼む』
 『軍団長、あと、半刻くらいで停泊予定地に着きます』(この物語では、半刻は1時間くらいとしています)
 『そうか、よし判った』

 パリヌルスは、この情景を後方から見ていた。彼は回頭の前に降帆を指示していた。船団は回頭地点にさしかかった。全船に目をやり降帆を確認して、手信号で3隻の一斉回頭を指示した。
 3隻は、揃って波を割り、回頭する。その様子は、右舷を少々沈め、傾げての回頭である。洋上における船の舞踊を見ている感があった。
 パリヌルスは、頭のなかに敵と洋上で交わす決戦のイメージを描いていたのである。