『アエネイスミッション』[Aeneas Mission ]

建国の使命を抱くアエネイスのフアストミッションは自軍団自民族引き連れて炎上壊滅するトロイからの脱出である。

第10章  アキレスとヘクトル  17

2008-02-18 07:42:24 | トロイ城市は炎上消滅の運命であった。
 ヘクトルは、退かせた軍を城壁内に入れた。彼は、トロイ城市の運命を担う一国の将として、スカイア門前に起った。城壁の上からは、老王のプリアモスが、母のへカベが、彼の姿をみとめ、城壁の中に入るように声をかけるが、ヘクトルは応じなかった。
 ヘクトルは、今日の作戦の失敗を自分が負うべきであるとの一念を胸に抱いていた。アキレスが生きている限りトロイの安泰は望むべくもないのだ。アキレスを倒してこそ、愛する妻、愛し幼な子の父として生きれるのだ。トロイを護るのは俺なのだ。
 『ヘクトル!そんな所で敵を待つな、中に入れ!』 『ヘクトル!中に入りなさい!』 叫ぶ声を風が運び去る。
 ヘクトルの心の叫びは、『アキレスを倒す!トロイを護るのは、俺なのだ!』 強く自分に言い聞かせた。
 アキレスが生きている限り、この俺が生きられない。トロイ一国の興廃をこの一戦に賭ける気構えが出来た。

第10章  アキレスとヘクトル  16

2008-02-16 08:02:13 | トロイ城市は炎上消滅の運命であった。
 アキレスの軍は、スカマンドロス河の河畔で激戦を展開した。敵兵と斬り結んだアキレスは、敵の打ち込みの力に負けた。河の急流に落ちた。思いのほか流れが速く、そして、深さもあった。思うように流れから脱出できない。アキレスは身の危機を覚えた。駆けつけた兵が、長槍の石突きをアキレスにつかませ、引き揚げた。この兵のおかげで、なんとか危難から逃れたアキレスは、兵に感謝して安堵した。
 今日の戦いを城壁の上から見ている老王プリアモスは、門の開閉を指示しながら、自軍を助けていた。城壁の高みから見ていたプリアモスはじめ側近と一部の将や王の妻女たちは、アキレスの猛烈極まる奮闘を目にして恐怖した。
 アキレスは、敵の正体を見極めずに追撃していたことに気がついた。
 『ヘクトル!ヘクトルはどこだ!』彼は大声をあげた。彼は一隊を率いて、ヘクトルをもとめた。方向を転じてヘクトルを探した。

第10章  アキレスとヘクトル  15

2008-02-15 08:23:27 | トロイ城市は炎上消滅の運命であった。
 風向きがアキレスの軍に幸いしている。風は敵に目潰しの砂塵を吹きつけた。
 戦闘は激しく展開されている。アキレスは、手当たり次第に敵をなぎ倒してゆく、敵将ポリトロス、エケクロス、デカリオン、リグモス、アレオスの5将も倒し戦場の大地を血で染めた。軍団の将兵たちも怯むことなく敵を倒していった。
 ヘクトルは、自分自身を叱咤するが、現状は、ヘクトルに自軍の劣勢を知らしめた。ここは退くべき局面と判断した。直ちに後退を指示し軍を退いた。
 トロイ軍は、二つに分かれて軍を退いた。一軍はトロイ城市内に逃げ込み門を閉ざして中にこもった。もう一軍はスカマンドロス河の上流に向かって逃げた。アキレスの軍はこの軍を追撃した。戦場は移動した。この軍に追いついたアキレスの軍は、敵を滅多滅多に槍突き、斬撃を浴びせ、討ち倒した。アキレスも敵将4人を剣を奮い斬り倒した。
 トロイ軍は、兵員の不足を補うために年も幼い少年を戦いに参加させていた。アキレスは、彼等12人の少年兵を捕らえ、部下に命じて、自陣に連れ帰らせた。

第10章  アキレスとヘクトル  14

2008-02-14 08:20:59 | トロイ城市は炎上消滅の運命であった。
 海面を渡ってきた海風が、アキレスの頬をなぜて吹きすぎた。攻撃のときが訪れた。緊張が全身を走った。
 アキレスの軍団では、指令の意志伝達に戦鼓を使っていた。アキレスの指示で伝令の兵が軍団の中を駆け抜けた。各所で戦鼓が鳴り響き、軍団は、力強い一歩を踏み出した。進発である。戦鼓のリズムが早くなってくる、歩調が速くなる。将兵たちの戦意が昂ぶってきた。
 彼等は、平原に布陣している敵、ヘクトル率いるトロイ軍を目指して進んだ。舞い上がる砂塵は、渦を巻いてたちのぼった。
 ヘクトルは、平原の中央に散開、布陣して、連合軍を、アキレスの軍を待ち受けていた。トロイ軍の右翼は、アエネアスの軍団である。連合軍左翼のアキレスの軍団は、アエネアスの軍団と対峙した。アキレスは押し進む、アエネアスは、自軍の劣勢を見とめ、後退の命令を下し軍団を退かせた。アエネアスの軍団が退いていく、対峙していた間隔が開いた。その開いた間合いにトロイ軍がなだれ込んできた。両軍の干戈は激しく交わった。

第10章  アキレスとヘクトル  13

2008-02-13 08:20:37 | トロイ城市は炎上消滅の運命であった。
 統領のアガメムノンにつれて、諸将がアキレスの陣営に集まってくる。アガメムノン、オデッセウスは、槍にすがって歩いて来る。ちょっと傷ましい風景であった。諸将が集ってアキレスを中心にぐるりと円陣を組んだ。アキレスは、昨日の件を含めて、開戦以来の経緯を簡単に述べたあと、戦線への復帰を皆に告げた。皆は喜び、その感激には新たなものがあった。
 戦線への復帰を宣言したあと、向こう三日間の戦闘計画を明らかにした上、今日の作戦計画を周到に打ち合わせた。
 オデッセウスの采配で、牛羊を屠り、出陣の儀式を行った。アキレスの軍団をはじめ全軍団の意気がいやがうえにも高められた。意気は高揚していく、そのエスカレートは頂点に達した。将たちは、彼等の戦意を煽り励ました。
 時を見計らって、アガメムノンは、アキレスに声をかけ、戦線復帰への感謝の意を述べたあと、
 『アキレス。あの件は大変に済まなかった。改めて、深く謝る。許せよ。オデッセウスを通じて約束したことを果たす。気持ちよく納めてくれ。それで俺の胸がおさまる。』
 『アガメムノン。そのことについては、貴方の気持ちのおさまるようにしていただけば、私はそれでいい。』
 二人は、快く和解した。二人の心の中のわだかまりは氷解したのである。

第10章  アキレスとヘクトル  12

2008-02-12 09:06:23 | トロイ城市は炎上消滅の運命であった。
 朝食を終えた軍団の将兵たちは、部隊編成に忙しく立ち回っている。将兵たちは、近づいてくる新しい軍装に身をかためたアキレスに目を見張った。将兵たちの動きの渦が彼を押しつつんだ。突如、湧き上がるアキレスコール、彼は、ちょっぴり照れて、彼等の喊声を抑えた。アキレスの凛とした声が響いた。
 『諸君!我等の軍団は、今日より、改めて、トロイ軍の殲滅に向かう。この戦いの戦端を開いて、今日までの10年間に、戦場に散った我等の仲間は、1000人に及ぶ。彼等の仇を討つ!いいな!また、昨日、俺の親友、パトロクロスが敵将ヘクトルにやられた。この仇をも合わせてトロイを討つ!徹底的に叩きのめす。判ったな!俺はヘクトルを必ず倒す!戦いは、我等が勝利する。敵に挑んで、これを討ち倒せ!怯むな!』
 アキレスは、自軍団を励ました。将兵たちの心意気は天を衝いた。
 アキレスは、進発のときを待っている。軍団の背を押す海風のおきるときを待っていた。

第10章  アキレスとヘクトル  11

2008-02-09 08:42:24 | トロイ城市は炎上消滅の運命であった。
 アキレスは、ヘパトスから、出来上がったばかりの絢爛の軍装を受け取った。鎧をまとい、兜を頭につけた。そして、昇りくる朝日を仰いだ。プリセイスの捧げ持つぶどう酒の大杯を受け取り、うやうやしく朝日に掲げたあと、半量を大地に注いだ。ヘパトスの捧げ持つ、燦然と輝く楯を手にとるや、左手に持ち、帯剣を引き抜くや、高くかざし、今日の戦いの勝利を誓約した。凛としたその声は、朝のしじまを裂いて響いた。
 ヘパトスは感動した。アキレスの軍装に精魂を打ち込んだ夜を徹しての労苦が報われた。大杯にあるぶどう酒を二人で飲み干した。あの母にして、この子。ヘパトスは、瞼に焼き付けた。無事帰国したときには、この話をと、心に情景を描き収めた。
 パトロクロスなきあとアキレスは、将兵の中から三人を選び副官としていた。儀式のあと彼等のうちの一人を呼び、アガメムノン、ネストル、オデッセウスに伝言を、あとの二人には、将兵たちに朝食を済まさせ、軍団の編成、陣立てをするように指示した。アキレスの率いる軍団の兵数は、参戦時には5000人を数えていたが、今日に到る10年間の間に4000人に減っていた。1000人に及ぶ将兵が、このトロイの大地に露となって消えていたのである。

第10章  アキレスとヘクトル  10

2008-02-08 08:09:59 | トロイ城市は炎上消滅の運命であった。
 アキレスには、続けている朝の儀式があった。それがあの事件以来、途絶えていたのである。その儀式が、また、今日から復活するのである。その儀式とは、陣営の東、山の頂から昇る朝日、ひときわ大きい朝日に祈ることであった。
 彼は、何も考えない、何の思いもない、しかし、ぶどう酒を捧げて、敬うだけの祈りであった。だが、軍団の将兵たちは、その姿、その背中を見つめて、感動を覚えていたのである。
 アキレスが出てくる。ヘパトスが入って来る。
 『おう、ヘパトス!早いじゃないか。出来上がったか。出来栄えはどうだ。一緒に見ようではないか。』 一息して、また声をかけた。
 『ヘパトス!俺の朝の儀式だ。お前も俺と一緒にどうだ。出来上がった軍装をまとって、それをやる。来い!』
 ヘパトスは、きびすを返して、朝の儀式の場へとアキレスとともに歩んだ。
 海は、山おろしと陸風とでざわついている。イデー山の頂がこがね色に輝き、ひときわ、でっかい太陽が、朝日が、昇ってきた。

第10章  アキレスとヘクトル  9

2008-02-07 08:26:01 | トロイ城市は炎上消滅の運命であった。
 2月29日 朝の光がトロイの戦野を明け染めていく。春は風が強い、イデーの山から吹き降ろしてくる風と陸風があいまって、戦野に砂塵を舞わせていた。
 両軍は、陣立てに取り組んでいる。各将は迷いながらの陣立てである。想定した戦場に予定の作戦計画で挑むのだが、両軍ともに、今日の戦いの流れが見えていない。昨日の激戦の疲れが、今日の厭戦気分をかもし出していた。ヘクトルといえども疲労を感じていたのである。
 アキレスは、心に傷を受けたとはいえ、肉体的な疲労は少ないといえた。彼の率いる疲れ知らずの軍団の動きが両軍の注目のかなめであった。
 アキレスの陣営には、出来上がったアキレスの使う楯と軍装をたずさえて、ヘパトスが戸口に立って、衛兵に案内を乞うていた。

第10章  アキレスとヘクトル  8

2008-02-06 08:09:14 | トロイ城市は炎上消滅の運命であった。
 アキレスは、鎧と楯について、へパトスと事こまかに打ち合わせた。
 『アキレス様。明朝一番に貴方様の陣に、私が持参いたしましょう。』
 『では、へパトス。頼む。』 彼は工房を辞し、プリセイスの待つ陣営に帰った。
 プリセイスは、愁傷のアキレスを、明日から命を賭けて闘うアキレスを、心を尽くして愛した。アガメムノンは、プリセイスには手をつけてはいなかったのである。
 床についたアキレスは、プリセイスを引き寄せた。彼女を初めて抱いたときのときめき、指先に感じた肌の滑らかさ、下腹部の茂みの感触、そして、更に指先を秘所にすすめた。暖かさと潤い、彼は、自分に似せない優しさで彼女の秘所を愛撫した。彼女は、アガメムノンのもとで、一日千秋の思いで過ごしたアキレスとの空白の日々、その気持ちをこめて、アキレスの陽のものを心をこめて愛おしんだ。二人は、結ばれた。愛合は濃密を極めた。
 へパトスの工房では、ふいごが火を噴き、職工たちはアキレスの軍装の製作に精を尽くしている。へパトスは、精巧堅剛の武具の仕上げに精魂を打ち込んで仕上げていった。それはアキレスに勝利を約束するものづくりであった。
 戦野の真ん中に野営の陣を張ったヘクトルは、明日はアキレスが来ることを予想していた。陣構えを考えている。トロイ軍と援軍の焚き火が各所で焚かれていた。
 来るなら来てみろアキレス!トロイは我が城市、平和で人情豊かなこの城市、この城市は俺が護る!
 我が友パトロクロスの仇敵ヘクトル!必ず倒す。倒して友に報いる。
 アキレスとヘクトル、互いの心は燃えていた。