『アエネイスミッション』[Aeneas Mission ]

建国の使命を抱くアエネイスのフアストミッションは自軍団自民族引き連れて炎上壊滅するトロイからの脱出である。

第10章  アキレスとヘクトル  7

2008-02-05 08:02:10 | トロイ城市は炎上消滅の運命であった。
 アキレスの考えは、ヘクトルに奪われた鎧と兜、敵に奪われた楯のことであった。あの鎧の欠点は、えりの構造にあった。のど部分が露出するのである。楯にも、通常よりも堅剛さを望んでいた。そうこう考えている間に、へパトスの工房に着いた。アキレスは、工房の入口に立った。
 工房では、10人余りの職工が汗をうかべて仕事に励んでいる、その中から、頭領と思われる男が、アキレスを認めて、入口の方へ歩んでくる、歩き方が少々ぎこちない。アキレスの方から、その男に言葉をかけた。
 『やあ~、へパトスではないか。いつ、ここへ来た。』 アキレスは、親しい仕ぐさでへパトスの肩を抱いた。
 『あ~、アキレス様では、如何がなされた。そのようなさみしい風情のアキレス様にお会いするのは初めてです。私は、このトロイの戦場には、10日前くらいに着きました。まあまあ、おくつろぎ下さい。』
 『へパトス。俺の大切な友パトロクロスが逝った。まだ聞いていないのか。彼が、俺の軍装で戦場に出て、ヘクトルにやられた。ヘクトルに俺の鎧、兜が奪われた。明日から、友の敵討ちに戦場に出向く。鎧、兜、楯がいる。無理を承知で頼むのだが、明朝までに造って欲しい。頼みたい。引き受けてくれ。頼む。』
 『判りました。やりましょう。お引き受けいたします。』 へパトスは、二つ返事で、これを引き受けた。

第10章  アキレスとヘクトル  6

2008-02-04 08:31:23 | トロイ城市は炎上消滅の運命であった。
 アキレスは、明日から使用する武器と楯、身に着ける鎧と兜等について考えをめぐらせて歩を進めていた。武器の優劣は闘いを制する、これは洋の東西を問わず、今も昔も変わらない。アキレスの使っている武器は、他の将たちとは違っていたのである。他の将たちの中には所有している者がいたかもしれないが、ヘクトルは使ってはいなかった。ヘクトルの使っている剣と槍の穂先は、青銅である。アキレスの剣と槍の穂先は、時代の最先端である鉄で造られていた。この時代、鉄は黄金よりも高価であった。青銅と鉄の材質の差違は、武器の優劣を決定していた。青銅製の刃物に比べて堅剛性が秀れていた。次にいえることは重量である。青銅の方が、鉄よりも一割強重いのである。青銅製の武器よりも軽い鉄製の武器の方が、設計の自由度が高く、機能性の秀れたものが造れたのである。
 アキレスの使っていた剣と槍は、他の将たちのものより、少々長く、剣合時の間合いの距離に影響した。そのうえ、バランスよく出来ており使い勝手がすこぶる良かったのである。刃先の鋭利性も青銅の剣をはるかにしのぎ、斬撃に有利であった。
 アキレスの鍛えぬかれた腕、秀れた武器は闘う対手を制していたのである。

第10章  アキレスとヘクトル  5

2008-02-02 07:57:55 | トロイ城市は炎上消滅の運命であった。
 日は暮れて、かがり火が焚かれ、パトロクロスの死に沈むアキレスの陣営の者たちは、涙で哀悼に尽くした。ミュルミドンの将兵たちも、今日のパトロクロスの姿を思い浮かべて悲涙を流した。アキレスは、命脈の鼓動のない友の胸に顔をうずめて、何事かを話しかけ、遺体に涙をしみこませた。
 ネストル、オデッセウス、メネラオス、デオメデス、アイアースの諸将をはじめ、主だった将たちが哀悼に陣営を訪れた。アガメムノンは、プリセイスを伴い、哀悼の意を伝え、アキレスの愁傷を慰めた。プリセイスは、そのまま、アキレスのもとにとどまった。プリセイスにとっても、パトロクロスの優しかった日々が思い出されて、とめどなく涙が流れた。
 連合軍の陣中には、アテネの軍装と武具のへパトス工房が鍛治工房を開いていた。この工房では、将兵たちの軍装や武具の供給と修理の一切に携わっていた。
 諸事、一段落したアキレスは、この工房に足を運んだ。

第10章  アキレスとヘクトル  4

2008-02-01 08:24:17 | トロイ城市は炎上消滅の運命であった。
 パトロクロスの遺体を、やっとの思いで自軍のものとした。
 将兵たちの手で運ばれてくるパトロクロスの遺体は、身体は裂け、血と戦場の塵芥がこびりつき、目も当てられない無惨な姿であった。
 アキレスは、パトロクロスを目にした。すかさず、すがりつくアキレス、つきあげてくる悲しみで彼は号泣した。やがて、涙の乾くときが訪れ、友の遺体から離れた彼の胸には、重く凄まじい決意がされていた。
 アキレスは、友の遺体を清め、陣営のしかるべき場所に安置するように指示をして、外に築いてある望楼の高みに昇った。怒れる獅子は、斯くあろうかと思われる猛々しさで大声をあげて咆哮した。その声は、野獣の遠吠えにも似て長く尾をひいて遠くにまでとどいた。
 今日の一日は長かった。茜に染まった空が、静かに藍色に変わっていく、風が血の匂いを運んでくる。戦場には、激戦の余韻が立ち込めていた。
 ヘクトルは、負けたくないの一念を噛みしめながら、戦野のど真ん中に野営の陣を張った。