『アエネイスミッション』[Aeneas Mission ]

建国の使命を抱くアエネイスのフアストミッションは自軍団自民族引き連れて炎上壊滅するトロイからの脱出である。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY            第5章  クレタ島  123

2012-09-14 06:45:17 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『軍団長、オキテス隊長、私から予定を話していいですね。オロンテス、夕食の準備は半刻もあればいいな』
 『充分です。先着の私どもの手で準備を整えます』
 パリヌルスは、太陽の位置を見てうなづいた。
 『半刻すぎから夕食としよう。全員のここまでの苦労を充分に癒してやろうではないか。オロンテス、セレストスとアレテスに指示して、船長、副長たちを集めてくれ』
 『軍団長、オキテス隊長、明日からの航海の予定ですが、私の航海経験による思いですが、クレタには、1日と約半日、2日の航海で着くと考えています。それに天候の具合ですが、雲行きに少々の懸念があります。1日の余裕を見て、都合3日の予定を立てています。これについては、このあとの打ち合わせで説明します』
 オロンテスが手配を終えて場に戻ってきた。
 『みんなが集まったら連絡があります』
 『判った。オロンテス、お前たちが、この浜に着いたときの状況について簡単に話してほしい』
 『判りました。皆さんも察していられると思うが、浜に散在している住まいの数からみて、住民の数は60人から70人くらいではないでしょうか、彼らはあの樹木の茂みに逃げ込んだままです。私たちを海賊と勘ちがいしているようです。おびえていることは確かです。接触しようとしましたが、浜頭とも話が出来ない状態です』
 『判った。それについては軍団長と話して、やるだけのことはやってみる』
 アレテスが船長、副長たちが集まったことを知らせに来た。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY            第5章  クレタ島  122

2012-09-13 06:36:51 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 到着早々である休んでいる間がないパリヌルスは、オキテス、オロンテスに声をかけた。
 『おう、お疲れ、お疲れ。オキテス、危機一髪だったな』
 『おう、あれは肝を冷やしたぜ。俺としたことが、、、ハッハッハ』
 『無事が何よりだ。それにしても素早い対応だったな。お前の操船指示の適確さだ。ところで軍団長を交えて、打ち合わせをやりたい。いいか』
 『いい、やろう。パリヌルス、お前に一任だ』
 『オロンテス、お前、時間はどうだ?』
 『ちょっとの間ならかまいません。私が軍団長を呼びに行ってきます』
 間をおかずに四人が顔を揃えた。
 『諸君、ご苦労!打ち合わせだな、始めよう』
 軍団長のひと言で打ち合わせが始まった。
 『いま、この浜に着いて早速だが、今日、このあとのことを打ち合わせておきたい。用件の第一は、これからの予定、それが決まれば、船長副長たちを集めて指示をする。第二は、このメンバーで、明日からの航海予定を簡単に打ち合わせておきたい。これには統領の出席をお願いしたい。これだけを夕食前に済ませておきたい』
 パリヌルスは。一同と目を合わせた。承諾の目線が返ってきた。
 『ところで、オロンテス『パン』つくりの作業の方は、うまい具合にいっているかな?』
 『ほぼ、予定どうりにことを運んでいます。安心してください。夕食には焼きたてのパンを全員に渡せます』
 『そうか、それはよかった。話は前後したが、オロンテス、お前がこの浜に着いたときのことを簡単に話してくれないか。状況によっては対応を考えなければならない』
 『判りました。まず、一番目の用件を済ませましょう。夕食の準備都合もあります。その件についてはそのあとで話します』

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY            第5章  クレタ島  121

2012-09-12 06:45:49 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 海浪に翻弄されながらも身軽な舟艇が浜に到着してきた。ギアス以下数名がとび降りて、一帯の安全を確かめた。
 続いて統領が乗船している二番船が浜に着いた。パリヌルスの船団が少々間をおいて到着した。オロンテスの配下の手すきの者たちが彼らを出迎えた。
 彼らは航海の無事を喜びあって歓声をあげた。オロンテスは統領を出迎えた。
 『統領。この地までの長旅、ご苦労様です。先ず、この一杯の水をお飲みください』
 オロンテスは、杯に満たした汲みたての水を統領に手渡した。
 『お~お、有難う』
 アエネアスは水を口に運んだ。
 『う~っ!これは、うまいっ!』
 彼は一気に飲み干し、二杯目を催促した。
 『この水は程近くの茂みの中で湧き出している水です。口当たりに冷たく、とてもうまい水です。私たちが偶然に、この水が湧き出している浜に到着したのです。ラッキーと言うほかありません』
 オロンテスは船から降りた者たちにも声をかけた。
 『さあ~、皆もも飲んでください。喉をうるおしてください』
 皆を案内した箇所には、樽になみなみと水が満たされていた。
 『おっ!これはうまい水だ!』『うまい水だ!』 の一声をあげて水を飲んだ。
 大勢の者たちが水樽を囲んで水を口に運んだ。水のうまさが彼らを感動させた。
 オロンテスの心配りが彼らの長旅の疲れを一蹴した。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY            第5章  クレタ島  120

2012-09-11 07:13:31 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 停泊予定地に先着しているオロンテスは忙しかった。浜の小高いところに見張りの者を配置して海を見張らせていた。その見張りの者からの報告がきた。
 『オロンテス船長、洋上に船影を認めました。船1隻と舟艇と思われる2隻ですが』
 『先ず、間違いはないだろう。刻も頃合だ。狼煙を上げろ、急げっ!』
 『はっ、はいっ!判りました』
 見張りの者は浜へとって返し、準備しておいた枯れ枝の山に火入れした。煙が昇っていく、3点1流しの狼煙信号を上げた。彼は『目指す浜はこちらだぞ!』 といいながら狼煙を懸命にあおった。
 オキテスは、彼方の浜に黒々とあがる狼煙信号を目にした。
 『お~っ!やってくれるわい、オロンテス。狼煙信号とは気が利いている』
 彼は、すかさずアミクスを呼んだ。
 『アミクス、あれを見ろ!狼煙だ。操舵の者に、潮の流れをよんで、あの狼煙の浜を目指すように言ってくれ』
 『判りました』
 アミクスは、オキテスの指示を操舵の者に自分の言葉で伝えた。船は狼煙の浜を目指して波を割って進んだ。
 オキテスは後続のパリヌルスの船団に目を移した。
 『パリヌルスは何をやっているのだ。3隻の船が舳先を並べて回頭したかと思うと一列縦隊に戻る』
 オキテスは首を傾げて考えた。
 『まあ~、いいか』
 船団は、北からの風を右真横からうけ、抗いながら狼煙の浜を目指して進んだ。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY            第5章  クレタ島  119

2012-09-10 07:10:17 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『お~いっ!操舵担当っ!右へ廻るのだっ!右方回頭、あの小島のかみが目当てだ』
 『判りました!』
 船は大きく傾いで回頭していく、降帆のタイミングがおくれていた。風を受けて左舷の船べりが海面と同じになる、波をかぶる、船は大きく傾いだ。その状態に輪をかけるように船上の者たちが左に寄せつけられる、積荷もよってくる、横転寸前までに傾いだ。
 オキテスも左舷のへりに叩きつけられた。アミクスが大声をあげて何かをわめいていた。
 『者ども右へよれっ!』『右へだ!』
 目の色を変えての叱咤であった。危機の最中に何とか帆は降ろされていた。船は安定した航走姿勢を取り戻していた。
 オキテスは大きなゆれから立ち上がった。
 『おっ!アミクス!船の具合は?』
 『何とか危機をしのげたようです』
 『危なかった、全くだ。ご苦労、船内の整備に当たってくれ』
 『判りました』
 イリオネスがオキテスに声をかけてきた。
 『おう、オキテス。ドキッとしたぜ、もう大丈夫か?』
 『え~え、何とか危機をしのいだようです』
 『そうか、安堵した。よろしく頼む』
 『軍団長、あと、半刻くらいで停泊予定地に着きます』(この物語では、半刻は1時間くらいとしています)
 『そうか、よし判った』

 パリヌルスは、この情景を後方から見ていた。彼は回頭の前に降帆を指示していた。船団は回頭地点にさしかかった。全船に目をやり降帆を確認して、手信号で3隻の一斉回頭を指示した。
 3隻は、揃って波を割り、回頭する。その様子は、右舷を少々沈め、傾げての回頭である。洋上における船の舞踊を見ている感があった。
 パリヌルスは、頭のなかに敵と洋上で交わす決戦のイメージを描いていたのである。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY             第5章  クレタ島  118

2012-09-07 07:29:22 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 船団は、北からの風に押されて南下を続けていく、パリヌルスの胸算用では、日没に充分な余裕を持って到着する予定としていた。海峡にこのように願ってもないような、船団を押すいい風が吹いているとは知ってはいなかった。船上の者たちは、この海域で如何なることがおきようとも、その事態に対応する余裕が出てきていた。パリヌルスは舳先に立って、風景を見ながら停泊地に至るまでのことに集中して考えていた。時折、太陽を見上げ位置を確認しながら考えた。
 南下を続ける船団の威容は、浜で眺める者たちを圧倒している。見物の者たちには『これは、何事か?』 と首を傾げさせた。海上で行き交う小船、漁船の者たちの怪訝な目線も感じられた。
 先頭を行くオキテス、後続のパリヌルスも方向を転じる海上の目安点を考えていた。
 後続のパリヌルスから、松明信号が送られてきた。
 『おいっ!アミクス。信号だ。松明信号を読み取れ!』
 『判りました。信号がうまくありません。読み取りにくい、ちょっと待ってください』
 『何といってきている』
 『読み取れました。内容は、『右手、小島、曲がれ』です』
 オキテスは、視認するべく前方、右手方向に注意を払った。
 目当ての小島は、7~8キロも先にある小島である。どうにか見つけた。
 彼は、操舵している者に向けて大声をあげた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY            第5章  クレタ島  117

2012-09-06 07:26:42 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
  片や、パロス島は、ポッチャリした洋ナシ形状の島である。島の面積は約160平方キロメートル、この島には、ひとつの山(724メートル)がほぼ中央部にあり、360度海岸に向けてなだらかな斜面を広げている。平地は北東部と南西部に広がっている。島の西部にはいくつもの小島があり、古代のこの時代、海賊の巣窟でもあった。パロス島は白く美しい大理石の産地である。ナクソスとパロスの海峡海域には、常と言っていいくらいに強めの風が吹いており、ウインドサーフインに最適の条件を備えた海域でもある。

 この時代、この二つの島の地域がどう呼ばれていたかは定かではない。パリヌルスがオロンテスに船団を集結させる停泊予定地に選んだ浜は、現在の呼称で Chrissi Akiti から Drios に至るゴールデンビーチと呼ばれている一帯の浜の箇所であったらしい。

 統領の乗っているオキテスの船が先頭になって船団は南下してる、そして、パリヌルスが率いる3隻の軍船が後続していた。この船団が発している雰囲気が両側の浜を威圧しているように思われる、いや、威圧しているのである。浜には見物人が増えてきていた。何事が起こるのかと怪訝な表情で眺めている彼らの目線を船上の者たちが感じていた。見物している者たちの中には、海賊を稼業としている者たちの目線もあった。
 『アミクス、お前どう思う、この船団の隊形、後続の軍船が奴らを威圧し、牽制していることは間違いない』
 オキテスは、風風感知器で風力を測りながら、浜を眺め、アミクスに話かけていた。


 *昨日の投稿で変換ミスをやりました。深くお詫びいたします。
 終わりから2行目です。
 この産地から  を  この山地から   と訂正いたします。

                      山田 秀雄

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY            第5章  クレタ島  116

2012-09-05 07:01:05 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『隊長っ!』
 『おっ、アミクス来たか。帆をあげる指示を出すのだ。風だ!いい風が来る』
 アミクスは、展帆を指示した。まだ、櫂をあげるところではない。漕ぎかたは漕いでいる。3スタジオンくらい進んだ。風が頬をなでて通った。オキテスは風をはらみ始めた帆に目をやった。
 『隊長っ!いい具合に風を捕らえています』
 『漕ぎかたを止めろ!帆走のみで進む。全員に伝えろ。この海峡にはいい風が吹いている。アミクス、風が吹いていることを後続の船団に松明信号で伝えろ。以上だ。すぐかかれ』
 『判りました』
 アミクスはオキテス隊長の勘働きに舌をまいて感服しながら作業をこなした。
 この海峡海路に常にといっていいくらいに風のあることを船団の誰も知ってはいなかった。この風は船団にとって思いがけない幸運であった。

 この海峡海域には、日頃強めの風が吹いており、現在、ウインドサーフインを楽しむ人たちで賑わうゴールデンポイントでもある。

 ナクソス、パロスの両島の海岸はなだらかで広い。ナクソス島には、南北に連なる山地が島の中心より東側にあり、パロス島の山は低いながらも島の中央部にひとつある。ナクソス島はキクラデス諸島の中でも最大級の島であり、その面積は430平方キロメートルと広い。水資源の乏しいキクラデス諸島の中にあって、とってもといっていいくらいに水に恵まれている島なのである。そのうえ島の地は肥沃であり、畜産と並んで、オリーブ、オレンジ、レモン、イチジクとともに多くの種類の野菜、果物、農作物で島の経済が支えられている。また、大理石の産地でもある。山脈ともいえるくらいのやまの連なりが北から南にかけて島の3分の2くらいまで連なり、その連なりの終点にこの諸島で一番高い『ザス山(1004メートル)』がある。この山の連なりに雲が集まり、恵みの雨をこの島に降らすのである。この産地から海峡に面する西海岸に向けて広く平野が広がっているといった地勢の島である。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY             第5章  クレタ島  115

2012-09-04 06:43:45 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 船団は朝明けの穏やかな海洋を泡立て、波を割って南下した。吹きすぎていく微風では、展帆は適当ではないと判断を下していた。
 舳先に立っているオキテスは、左にナクソス島の海峡に突き出た突端と、そして、右にパロス島の海岸線が視野にはいってきた。彼は方角時板を取り出して時間経過の見当を計った。中心の棒がつくる影を見つめた。
 『ふっふ~ん、これくらいか。まあ~、こんなものだろう』
 デロス島の停泊地を離岸してからの時間を振り返った。今様時間で3時間くらいが経っていた。
 船団は、ナクソス、パロスの両島が迫った海峡の一番狭い箇所に迫っていた。両島の間が5キロメートルくらいと想われる箇所である。彼は狭い海峡の真ん中を進むよう操舵の者に指示を出した。そうした次に、じいっと両島の浜を見つめた。
 このような地勢のであったら、海の深さは深くはないであろうと想像した。真ん中を行けと言ったパリヌルスの言葉を思い出していた。
 『お~い、アミクス。操舵のものに伝えるのだ。どちらの浜へも片寄るな真ん中を行けと伝えろ』
 アミクスは船尾へと伝達にとんだ。
 次にオキテスは両岸の浜に慎重に目を移し、状況を探った。海賊の類を探った。今のところその類の者と思われる姿は見当たらなかった。
 それから、前方を進んでいく小型の漁船の帆のはらみと船速に注意を払った。帆がはらんでいる、船足が加速している。
 『来たな、風だ!アミクス、アミクスっ!』
 オキテスは大声をあげた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY            第5章  クレタ島  114

2012-09-03 07:06:40 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『判りました。諸君、そのようなわけだ。我々がデロスを出航するのは、明朝、陽の出の刻とする。いいな』
 オキテスはぐっと押した。
 『そのあとパリヌルスの船団が後続することになっている。いいな』
 オキテスは一同と目を合わせた。
 『軍団長、以上です。続いて、彼の紹介を願います』
 『お~お、今、ここにいるこの男を紹介する、皆よろしく頼む。この者は名をクリテスと言う、クレタ島出身の者だ。デロスのアポロン神の神官の引き合わせで我々の大事を手伝う。一同よろしく頼む』
 彼らは名を名のり、手を握り交わして気持ちを通じ合わせた。
 『では、念押しだ。明朝、陽の出の刻、デロスを出航する、いいな!アミクスにギアス、皆に伝えてくれ。では場を解く』
 『判りました』
 『軍団長、この旨、統領によろしくお伝えください』
 『判った』
 秋の夜は静かに更けていく、冴えた月照は、荒涼としたデロス島の風景を照らし出していた。

 デロス島の東には島嶼が少ない。昇り来る朝陽の第一射が届いた。彼らの船はデロスの停泊地の岸を静かに離れた。船は船首を真っ直ぐ南に向けて航走し始めた。船を押す風は微風である、彼らは漕いだ。調子をとる木板の打音は朝のしじまを破って響いた。舟艇は先行く船の右手後方に位置して続いた。
 オキテスは、5スタジオンくらい離れて遊弋してくるパリヌルスの3隻の船影を認めていた。