『アエネイスミッション』[Aeneas Mission ]

建国の使命を抱くアエネイスのフアストミッションは自軍団自民族引き連れて炎上壊滅するトロイからの脱出である。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  1370

2018-09-14 08:29:59 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 テカリオンの話を聞いてアエネアスは、どのようにうなずこうかと考える。
 今の我々は、二種類の船舶、戦闘艇と新々艇を建造している、今後においての船のニーズはと考える。
 アエネアスは焦点をぼかして、言葉短くテカリオンに対応する。
 『それはそれは、そのような評価をしてもらっているとは嬉しいかぎりです。今後ともよろしく願います』
 イリオネスが先を促すようにテカリオンに話しかける。
 『テカリオン殿』と声をかける、オキテスが『軍団長!』と声をあげる。
 『軍団長、テカリオン船長と声がけしてください。殿はつけてほしくないそうです』
 『おっ!そうか』と応えて言葉をかけなおす。
 『テカリオン船長、このたび、引き渡しを予定している船舶2艇を見ていただけましたかな?』
 『はい、見ました。衝角構造、そして、新舵構造の新しい形態の船を見せていただきました。明日の午後、私を乗せて試走するとパリヌルスから聞いています。期待に胸躍る想いです』
 『パリヌルスがそのように言っていましたか、そうですか』
 『イリオネス軍団長、今、船主が船に求めているのは船足の速さと海賊対応です。彼らは船足の速い船を喜びますね。その欲求を満足させてやれば船主連中が喜びます』
 『そうですか、船足の速さですか、解りました。これは我らが考えるべき課題ですな。これを追求して船造りを進めます。パリヌルスにオキテス、考えるべき課題が見えるではないか。そういうことだ』
 テカリオンによって考えるべき方向が示唆される、船談義が終わろうとしている。
 会所の傍らの場所では、接待担当の者が浜焼きスタイルの会食準備をしている。また、ほど遠くない浜の一隅においても浜焼きスタイルの夕食の場つくりが進められている。
 テカリオンは、その風景を目にして対応を思案する。
 彼は心の内でつぶやく『彼らは、人と人との交わりについて知っている。充分に答えよう』と心する。
 アエネアスに声をかける。
 『統領、私、少々中座の失礼をします。招いていただいた者らを連れてまいります』
 『お~お、そうしてください。浜も程なく終業の頃となります』
 夕食の場つくりの担当者が会所に姿を見せる。
 『オキテス隊長、交易船の皆さんの夕食の場つくりが程なく出来あがります』
 『おっ!そうか。解った。ごくろう!』
 オキテスがテカリオンにその旨を伝える。
 『テカリオン船長、乗り組みの皆さんにも夕食の場に来ていただくように伝えてください、パリヌルスと私が向こうで待っています』
 『お~、それはそれは、言葉に甘えます。馳走になります』
 テカリオンが自船に戻っていく。
 キドニアから集散所の業務を終えた連中が帰ってくる、イリオネスに今日の業務報告を終える。
 パリヌルスがギアスに声をかける。
 『おう、ギアス、いいタイミングで帰ってきたな。用事がある、交易船の漕ぎかた連の夕食会をやる。その接待方をやってくれ。場所はあそこだ。オキテス隊長と俺が向こうで待っている。一行を連れてきてくれ。お前らの夕食もそこでやればいい。そのように準備する』
 パリヌルスは、夕食の場つくりの担当者に指示する。
 パリヌルスとオキテスが一行の夕食の場へ歩を向けた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  1369

2018-09-13 08:40:03 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 三人が舳先をクレタ海に向けて陸揚げされている完成戦闘艇2艇の前に立つ、テカリオンが艇首から帆柱の先に向けて目線を移してゆく、西に傾いた陽が2艇に映えている、彼が声をあげる。
 『お~お、まぶしい!陽の光に映える船を見あげる、その姿が晴れ晴れとしているではないか、感動するな!』
 テカリオンは、出来あがっている戦闘艇の艇体を手でなぞりながら念入りに見ていく。パリヌルスに声をかける。
 『なあ~、パリヌルス、この前に受けとった船で2本帆柱4枚帆については、そのいいところをよく理解している。そして、また、新構造の舵とはこれ如何にだ?これまでの櫂舵に比べてどうだ』
 『それはだな、操舵操作、操舵効果が違う。方向転換時の操船操作感覚が全く違う。いわく言い難しだ。試走で体感してくれ』
 テカリオンは艇尾の新構造の舵を見ながら問いかける。
 彼は操舵棒を握る、動かす、動作する方向水切り板の動きに注目している。考えている、質問しようと口を開きかけるが、それをためらう。
 続けて、艇尾より舳先にかけて見ていく、衝角構造体の突端には石で造られた構造体が埋め込まれている、衝角構造体構造を確かめて2艇の仕上がりの点検を終える。
 『おう、パリヌルス、俺の船に関する希望をほぼ満足させてくれている。重畳!よくできている、あとは明日だ』
 三人は会所に戻る、テカリオンがアエネアスとイリオネスに体を向ける。
 『建造の場及び私が建造を依頼した船を見せていただき、ありがとうございました』
 『如何でしたか?出来立て稼働5日目の建造の場、そして、建造依頼の船2艇を見ていただいて』
 『見ました、見ました。建造の場も、また、建造を頼みました船も見せてもらいました』
 テカリオンが両人と目を合わせる。改めて口を開く。
 『私がアテネにおいて、よく目にするのは大型船の造船所です。オキテス隊長からうかがうところ、中型船の建造所であるとのこと、私の感じたところを申し上げると、非常にいい着眼ですな』
 二人と顔を合わせる、話を続ける。
 『こちらで造られた船を2船ですが客に引き渡していますが、帆張り走行時の船速の速さと安定した走行に高評価をもらっています。そのうえ1枚帆に比べて帆張り操作が手軽に手早くできることが喜ばれています。客からの問い合わせも来ています。これからもよろしく願います』
 これを聞いて、アエネアスとイリオネスは事情の真偽がどうあれ、見えていない事情に未来を安心していいものかと考えた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  1368

2018-09-12 08:12:22 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 三人が向かうのは船台の場である。
 『では、テカリオン殿、これからは船長と声がけします。よろしく願います。パリヌルスもそのように声がけを頼む』
 『おう、承知した』
 『オキテス隊長、それでいいよろしくな』
 『船長、ここが船の組み立て作業の船台です。只今、三基において作業しています』
 『大型船を建造する船台ではないな』
 『そうです、我らが建造するのは中型船です』
 『ほう、中型船か』
 三人は、足を停めることなく歩を進めていく。
 『こちらが部材製作の場です。ここにおいて、用材を製材し、部材の製作をしています。この先には建造の用材の置き場があります』
 テカリオンが部材のひとつを手に取る、触れてみる、部材の材質、仕上がり具合を吟味し確かめる。
 『いい材質の原木からの部材だな。これなら、出来あがった船に信頼がおける。部材の製作も丁寧な仕事がしてある』
 『そのように言っていただけると私も胸を張れるというものです』
 『いやあ~、オキテス隊長、よくぞ船舶建造の場を見せてくれました。船台の場の作業風景をもう一度、納得できるよう見てみたい』
 『解りました』
 三人は、船台の場に歩を運ぶ。
 テカリオンは、作業者らの作業ぶりを注意深く見つめる。
 現場を指揮し、適切に指示を出しているドックスの立ち居振る舞いに目をとめる。
 船台の場では戦闘艇3艇の初期工程の作業が進められている。
 テカリオンがオキテスに尋ねる。
 『隊長、現場において作業を監督、指示している者は?』
 『船棟梁のドックスです。目にとまりましたか』
 『船造りの棟梁もだが、現場において作業する者らの確かな技術、技能が目にとまった。また、彼らの作業に対する仕事ぶりの真摯さも立派といえる。建造の場にオーラが立つわけだ』
 『そのように評価いただくとはありがたいことです』
 『両人に伝えておく。このテカリオが心から感動した。これならいい船ができる、信頼のおけるいい船ができる!注文主も安心して、ここで造られた船を使うというものだ!』
 『テカリオン船長、ありがとうございます。今の言葉、私らの励みになります。営業担当している私が自信を待って客対応にあたれます』
 オキテスがテカリオンに向けて手を差し出す、その手を力強く握るテカリオン、その姿勢でパリヌルスと目を合わせる、二人はうなずき合う。
 テカリオンがパリヌルスに声をかける。
 『おう、パリヌルス、俺が引きとる船を見る』
 三人は、完成している2艇の戦闘艇が置かれている浜に向かった。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  1367

2018-09-11 07:13:28 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 前回の訪問から時日を経て、今、目にした浜の風景を見てとったテカリオンが腰を下ろす、統領におもむろに話しかける。
 『統領、浜の風景が変わりましたね!驚きです』
 『そうですか。船舶建造の責任担当の意向があり建造の場を造り換えた。そういうことです』
 『いやいや、凄い!この情景の様変わりは!新しく構築された造船場ではありませんか』
 『何かを生み出す、創り出す、その母体設備を造成した。そういったところです』
 『これは見てみたい!見せていただいてよろしいですかな』
 イリオネスがテカリオンに答える。
 『え~え、どうぞ、どうぞ!オキテスに案内させます』
 オキテスがテカリオンに言葉をかける。
 『テカリオン殿、出来あがったばかりの船舶建造の場です。改善のところがあれば言ってもらえるとありがたい、私が案内します』
 『オキテス隊長、世話をかけます。行きますか』
 『あの~、その前に、オロンテスが伝えたいことがあるといっています』
 『オロンテス殿、何でしょう?』
 『テカリオン殿、遠いところをご苦労でした。夕食の件ですが、この会所でしていただくように準備しています。側近の方も一緒してください』
 『そうですか、それは、ありがとうございます。遠慮することなく馳走になります。一緒するのは二人です』
 『解りました。それから、船に乗り組みの方らの夕食も浜のほうに準備します。人数を聞かせてください』
 『それについては気を使わないでください』
 『いえ、この件については、統領が準備するようにと言っています。気にしていただくような準備ではありません。ささやかそのものです』
 『そうですか、オロンテス殿。言葉に甘えます。者どもが喜びます。何よりもここで食すパンは、逸品です。当方の人数は38人です』
 『解りました。では、のちほどに』
 テカリオンがアエネアスに向けて礼を述べる。
 『統領、それから、軍団長殿、配慮遠慮なくいただきます。今夕は我々一同、言葉に甘えて馳走になります』
 オロンテスは、テカリオンとの夕食準備の打ち合わせを終えて場を去っていく。
 『オキテス隊長、行きますか』と声をかけてテカリオンが起ちあがる、オキテスもパリヌルスも起ちあがる。三人は建造の場へと歩を向ける。
 テカリオンは、様変わりしたニューキドニアの浜の風景を眺める。
 よく目にしているアテネとその近郊にある大型船の造船所の風景を思い浮かべる、二人に声をかける。
 『建造の場を見た感じでは、まだ新しいですな』
 『そうです。建造の場は、出来あがって今日が六日目です。建造作業を開始して今日が五日目です』
 歩き始めてほどなく三人は、前面にクレタ海を望む浜に陸揚げされている完成した戦闘艇2艇の前に立つ、テカリオンが見つめる。
 パリヌルスが話しかける。
 『テカリオン、これが製作の指示をもらって建造した船だ。明日の午後に試走することにしている』
 テカリオンが2艇を見て廻る、新舵構造に目をとめる、首をかしげる。
 『新構造を施したな。建造の場を見せてもらってから見るとする。オキテス隊長、俺を呼ぶのに殿づけはやめてほしい』
 『はあ~、それでは私からテカリオン殿に声がかけにくい』
 『そうか、名無しで、船長と呼んでくれ。すきにしてくれ!ハッハッハ!』
 三人は建造の場へと歩を進めた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  1366

2018-09-10 06:39:59 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 交易船の停泊地点は、船の用途の関係で喫水が深い、テカリオンの船は小麦を積んで入港してきている、水深との関係で停船地点が浜より少々遠い、4分の1スタジオン(約50メートル)くらい波打ち際から沖である。
 交易船が停まる、パリヌルスが波打ち際に立つ、タイミングが一致する。
 ハシケで海に乗り出す、交易船に漕ぎ向かう、船べりによりつく、待ちかねている船上のテカリオンと目が合う、二人同時に声をあげる。
 『テカリオン!』
 『パリヌルス!』
 声が風に飛ぶ、かろうじて耳にする。
 テカリオンが船べりの上に立つ、ハシケに飛び移る、肩を抱き合う二人、顔を見合わせる、肩を抱く。
 『おう、パリッ!元気だったか?』
 『変わりはないか?テカリオン!』
 二人は見つめ合う、合わさる目と目、再びガシッと肩を抱く、久々の邂逅である。
 『パリヌルス、統領以下、彼らに変わりはないか?』
 『おう、変わりはない!』
 『行こうか』
 二人が浜に目を移す、浜には統領ら三人の姿がある。
 二人の乗るハシケが浜に近づく、膝頭くらい深さの浅瀬に到る、テカリオンが飛び降りる、浅瀬を走る、浜に上がる、統領に駆け寄る。
 『統領!元気でしたか?』
 『おう、テカリオン!よう来てくれた!これこの通りだ、元気だ!』
 二人は手を握り合う、テカリオンはアエネアスの力を感じ取る。
 次いで、イリオネスと目を合わせる。
 『軍団長!変わりはありませんか?』
 『おう、変わらずだ。テカリオン殿も元気そうで何よりだ。待っていたぞ、会えてこの上なくだ!』
 二人は手を握り合う。
 続けて、オキテスと顔を合わせる。
 『オキテス隊長、元気でしたかな?』
 『これこの通り元気です。テカリオン殿も変わりなく?』
 『おう、元気そのものだ!』と言って手をさしのべる、差しだされた手を力を込めて握るオキテス、互いの元気を確かめ合う。
 テカリオンの到着を耳にしたオロンテスが姿を見せる。
 『おう、オロンテス殿、昨日はありがとう!久々に口にしたパン、旨かった!者共もあごが落ちないようにと手で支えていた』
 『旨い言い回し、そのように言われると私が舞いあがりますよ』
 挨拶を交わし終える、一同は、場の会所へと歩み始める。
 会所に着く、席に就く、オロンテスの気遣いで準備されているぶどう酒と堅パンが供される。
 再び一同が顔を合わせ、互いの達者を喜び合う。
 アエネアスがテカリオンに世情を問いかける、テカリオンがアエネアスの問いかけに詳しく話す、話が弾む。
 話が小康する、テカリオンが起ちあがる、浜の風景を見てとる。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  1365 

2018-09-07 08:14:07 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 もう1艇の試走に取り組む、パリヌルス、ダックスら一同が試走する戦闘艇に乗り込む、海面を泡立てる、浜を離れていく。
 海上の試走条件に変わりがない、パリヌルスとダックスが艇上において試走チエックについて話し合う、難なく試走を終える。
 『おう、ダックス、ご苦労であった。昼めしが遅くなったな、許せ。ところで、明日の午後にだが、注文主のテカリオンを乗せて戦闘艇の試走をする。操船をよろしく頼む』
 『了解しました。準備を整えて建造の浜で待ちます』
 『この件については、俺からオキテス隊長に話しておく。両艇とも点検整備は入念にな』
 『解りました』
 パリヌルスは、オキテスと明日の件を打ち合わせる。
 『おう、その件了解した。俺からダックスに伝えることがあるかな?』
 『あ~あ、それはない。ドックスに伝えてほしいことがある。戦闘艇の引き渡しに関して、添付する諸具を整えてほしい。その件についての打ち合わせを頼む』
 『了解した。俺の方も営業活動に関する素案をまとめ終わった。事前に渡す販促ツール件よろしく頼む。出発の前日に受け取りたい。出発日は11日に予定している』
 『解った』と応えて、パリヌルスはオキテスの席場をあとにする。
 彼は自分の席場に戻ってくる、場を見まわす、場の管理をさせているサネダスを呼ぶ。
 『おう、ごくろう!販促ツールの出来あがり具合はどうだ』
 『はい、うまく予定通りに進んでいます。指示されているセット組数は明日の昼には出来あがります』
 『そうか、それは重畳!新々艇の姿形図、仕様書きと図面は、明朝には渡せる、必要とする販促ツールセット組数、仕上げ期限について明朝打ち合わせる。以上だ』
 『了解しました』
 パリヌルスは打ち合わせを終える、空腹を覚える、昼めしを簡単に済ませ、建造の場に歩を向ける。
 『おう、ドックス、建造作業の具合は、順調かな?新々艇の構造の諸仕様打ち合わせをやりたい。手を離せるか?』
 『大丈夫です。やりましょう』
 ドックスの答えが返る。
 『パリヌルス隊長!』との呼び声が耳に届く。
 『おう、ここだ!何か用か?』
 手をあげて大声で答える。
 張り番担当の者がパリヌルスの前に立つ。
 『隊長!交易船が入港してきます。テカリオンの交易船ではないでしょうか』
 『おっ!そうか。解った』
 パリヌルスはドックスに声をかける。
 『ドックス、新々艇の件、あとにする』
 パリヌルスは、張り番の者とともに交易船入港の浜へ向けて駆けだした。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  1364

2018-09-06 07:33:46 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『おう、ダックス、ごくろう!パリヌルス隊長の要請だが、完成している戦闘艇2艇の試走をやってほしい』
 オキテスがパリヌルスの要請をダックスに伝える。
 『解りました』
 ダックスがパリヌルスと顔を合わせる。
 『パリヌルス隊長、完成戦闘艇の試走ですね。了解しました。早速、準備に取りかかります』
 パリヌルスとダックスら一同が完成した戦闘艇が陸揚げされている所へと向かう。
 二人は波打ち際に立つ、海に目を移す、試走条件を確かめる、想定コースの沖を見つめる、風が西から来ている、海上に白兎が飛ぶ状況を見る。
 『パリヌルス隊長、いい条件だと考えられます』
 『準備ができたようだ。ダックス、行くぞ!』
 試走する戦闘艇が波を割り始める、パリヌルスは舵座に張り付く、操舵担当のカイクスの操舵と操舵効果の体感に神経をとがらせる、艇の航走状態のチエックについてはダックスに一任する。
 艇が小島の南端を過ぎる、西風を受けて北進する、パリヌルスがカイクスの操舵とその効果をチエックする、改造ヘルメス艇の走行、操舵効果が酷似している。
 彼は言葉にはせず、その状態にうなずく。
 『カイクス、東進への方向転換から俺が操舵する。直前で交替する。いいな』
 『解りました』
 艇は、西風を受けて小島の西を北上する、漕ぎかたの懸命の漕ぎ、カイクスの操舵、航走状態を体感する。
 方向転換点に近づく、操舵を交替する、操舵棒を握るパリヌルス。
 ダックスの指示が飛ぶ、艇が帆張り、東に向けて波を割る。パリヌルスが緩急をつけて、大きくジグザグ走行操舵をする、その効果を試す、結果を感受する、操舵感覚が予想していた通りに体に伝わってくる。
 舳先の波割り抵抗、艇尾の振れ具合を研ぎすませた神経に感じとる、声が自然に喉を突いて出る。
 『なるほど』次いで『この切れ具合、操舵効果、方向転換時の艇の状態、この状態こそ、走行に、方向転換に妥当なのだ!納得!』とうなずく。
 彼は一連の作業を終えて、舵の操作をカイクスと替わる。
 ダックスに声をかける。
 『ダックス、試作戦闘艇に比べて、この戦闘艇の走りはどうだ?』
 『はい。新しいだけに海との親和性が固く感じます』
 『ほう、船が新しい、海との親和性?なるほどな。そんなことも考えられるか』
 『船が新品である特徴です。これがなければ中古船になってしまいます』
 『解った。理解した。操船してみてどうだ?この艇に不具合があるかな』
 『はい、全く不具合はありません、全て万全です。注文主への引き渡しに一点の不備もありません』
 『ありがとう。もう、1艇のほうも試走を行う』
 『解りました』
 一行は浜に帰り着く、試走を終えた艇を点検整備して陸に揚げる。
 次に試走する戦闘艇を海に浮かべた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  1363

2018-09-05 06:08:23 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 場の会所に姿を見せるオロンテスにイリオネスが気づく。
 『おう、オロンテス、帰ったか。ごくろう!』
 『はい、只今、帰りました。報告の前に伝えます。明日、午後にテカリオンが浜に来ます。今日、キドニアの集散所で顔を合わせました。明日、午前中いっぱい、キドニアでの用件があるようです』
 『そうか、解った。この件、パリヌルスに伝えたか?』
 『はい、浜で会い、伝えました。明日、軍団長を囲んで仕事の運びを打ち合わせる段取りを話し合いました。よろしく願います』
 『おう、了解した』
 『私は、今日の報告を終えたら、小麦の在庫を調べ、仕入れの考えをまとめようと考えています』
 『そうだな。その件について考えをまとめておいてくれ。テカリオンの次回の訪問予定を聞いて考えなければな』
 『解りました』
 オロンテスは、今日の結果報告を終える、パン工房へ歩を運ぶ。
 セレストスを呼ぶ、小麦の在庫量をチエックする、明日と明後日の諸事を打ち合わせる。
 浜でで働く者らが今日の業務を終え、夕食の時をすます、彼らの今日が終わる。
 浜は暮れていく、月がくっきりとした光を投げおろす、星の輝きが冴えてきている、季節の進みを感じさせる気が漂ってきていた。

 多忙の一日の朝が明ける。
 テカリオンの訪れる日は、彼らに取って多事多忙の日である。
 彼らは、交渉事の準備をする、それなりの準備を整えて身構える。
 イリオネスとオロンテスは朝から場の会所において、小麦の仕入れ計画の打ち合わせ、小麦代金の決済の準備を整える。
 パリヌルスは、完成している戦闘艇2艇の引き渡し価格、引き渡し条件と引き渡し要領をイリオネスと打ち合わせる。
 『おう、パリヌルス、テカリオン対応について、統領の意向は話し合っておく。事の成り行きは、テカリオンと話し合わなければ見えないところもある』
 『そうですね、軍団長。私は、戦闘艇の品質、性能の分野について彼と話し合います。引き渡し価格とそれらに係わる件についてはよろしく願います』
 『心得た。任せろ!その件については、統領とも充分に話し合って対処する』
 二人は打ち合わせを終える。
 パリヌルスは、陽の高さを見て頃合いを確かめる、オキテスのいる席場へと歩を運ぶ。
 『おう、オキテス、今日のことだが、テカリオンに戦闘艇の引き渡しをする。軍団長とは打ち合わせを終えた。お前の方から何かあるかな?』
 『その件については、俺の方からは、これと言ってない』
 『昼まで時間がある。引き渡す戦闘艇の試乗をやっておきたい。ダックスと漕ぎかたに操船を頼みたいだが』
 『おう、いいだろう。すぐ、連中を呼ぶ。待ってくれ』
 オキテスが作業の場にいる一人を呼ぶ、手配する。
 待つことなく連中一同が顔を見せた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  1362

2018-09-04 07:56:24 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 彼は思考を続ける。
 パリヌルスは、船の方向転換時における舵のきれ具合とその効果のほどを思考する。考えぬいて装着した新舵構造である、舵の操作時に発生する船速と舳先部の波割り時の抵抗および艇尾部のスベリ抵抗と振れ具合を考える。もしこの時に不具合があるとすれば、何をどのような構造にすれば課題解決の糸口とすることができるのかを考えた。しかし、あの操舵の効果が新々艇の長所であるかもしれない。
 戦闘艇は、いま設計途上にある新々艇に比べて艇体が少々長くできている、故に操舵具合として受け入れているのかと推察する。
 これについては、『それはそれでいい!』とする。今更、構造を改めることを考えないとする。
 新々艇は、日常使用する気軽さが売りの中型船である、改造ヘルメス艇が舵操作にムダ、ムリを感じさせない効果性で方向の転換をしたのではなかろうかと推考する。
 テカリオンが浜に来る、戦闘艇を引き渡す、新々艇を売り込む、どちらの船舶も新構造を施している船だけに船に関する詳細を把握しておきたいとそれに努めている。
 『世の中の諸事に対処する、結構、難儀なものだな。自分一人で対処するより、多数で対処することのほうがのちのち有利な結果となる。まあ~、不思議と言えば不思議だな』
 彼は、有利な結果は、不思議であると感じる。
 『まあ~、なんでもいい!勝ちに不思議あり、負けに不思議なしだ!不思議を招き寄せる!だな』と結論づける。
 
 オロンテスがキドニアから帰ってくる、彼は、テカリオン情報を持ち帰る。
 『おう、パリヌルス、明日だが、ここへテカリオンが来る。今日キドニアで会った。午前中はキドニアで仕事があるらしい、午後には浜に来るのではと考えられる』
 『そうか、どれくらい滞在するといっていた?』
 『それについては聞いていない。俺は明日、明後日の二日間は、こちらにいるよう段取りしている』
 『そうか、了解した。明日、テカリオンの顔を見て、仕事の段取りを打ち合わせる。お前のほうは買い付ける小麦の件がある。俺の方は、船の引き渡しと船に関する諸々の件がある』
 『そうだな、どちらも多忙だな』
 『明日、アサイチに軍団長と仕事の段取り、対テカリオン対策を話し合う。それでどうだ!』
 『おう、、いいだろう。俺は、これから小麦の在庫調べ、そして、方針を考える』
 『解った。軍団長に今日の報告をするのだろう。その時に今、打ち合わせたことを話し合っておいてくれ』
 『おう、解った。対応、準備等打ち合わせておく』
 『おう!』
 二人の打ち合わせが終わる。
 オロンテスは場の会所へと歩を向けた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  1361

2018-09-03 05:09:51 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 場を去っていくギアスをパリヌルスが呼び止める。
 『おう、ギアス!』
 『何でしょう?』
 『チョット話したい。ヘルメス艇のほうへ行く』
 パリヌルスがギアスに話しかける。
 『試走で感じた件だ。評価の話し合いの席では話さなかったことがある。浜に帰ろうと南進しようと方向を転じたときに感じたヘルメスの動態だ。カイクスからも話を聞きたい。彼を呼んでくれ』
 『解りました』
 ギアスがカイクスを呼びに走る、待つことなくカイクスを連れて戻るギアス。
 『お~、カイクス、ごくろう。ちょっと聞きたいことがある』
 三人は、陸にあげられているヘルメス艇の左舷側に立つ、ヘルメス艇に取り付けてある衝角構造体を目でなぞる、艇体の舳先から艇尾の舵部分を注意深く観察する。
 『おう、カイクス、お前はヘルメスの操舵を担当している。今日の試走で2回の転進の舵操作をした。何かを感じなかったか?』
 『はい、感じました。これはいつもと少々感覚が違う、この方向転換の現象を含んでのヘルメス艇の改造なのかなと理解しました』
 『そうか、それなら話がはやい。二人とも俺の話を聞いてくれ』
 パリヌルスが話を進める。
 『カイクスの言ったようなことは、この改造では考えてはいない。二人ともよく聞いてくれ。カイクス、俺の言う操舵時の感覚だが、俺と同感かを思い出して考えるのだ、いいな』
 パリヌルスが鋭い目つきで二人と目を合わせる。
 『方向転換操舵時、舳先及び艇尾に振れが生じる、その振れ方が、これまで の振れ方と少々違っているように感じられた。それでだギアス!』
 パリヌルスがギアスと目を合わせる。
 『お前にやってもらいたいのは、明日からのヘルメスの航走で操舵時に感ずる艇の舳先及び艇尾の振れの感覚をつかんでくれ』
 『解りました』
 『それでだなギアス、お前としての結論が出たら、三人で試走して意見交換をする。以上だ』
 『了解しました』
 『この件は、改造には関係がない。そのようなわけだが、この状態が新々艇の長所になるということだ。現在のところ、これは俺ら三人だけが知っている』
 『隊長、新々艇の長所になるということは?』
 『それはだな、新々艇の船としての長所であり、売りの長所でもあるということだ』
 『俺としては、改造ヘルメス艇の試走で初めて気づいたことである。明日だが戦闘艇の試走をやって、この件の状態分析をやる』
 パリヌルスは、二人としっかり目を合わせる、話し続ける。
 『ギアスにカイクス、明日だがキドニアで空き時間に、この件の試走やってくれ』
 パリヌルスは、二人との打ち合わせを終えた。