伊藤浩之の春夏秋冬

いわき市遠野町に住む元市議会議員。1960年生まれ。最近は遠野和紙に関わる話題が多し。気ままに更新中。

萩尾望都「なのはな」

2020年10月09日 | 読書
 「なのはな」は震災でおばあちゃんを失った孫が、原発事故後の生活の中から希望を見いだしていくお話、「なのはなー幻想『銀河鉄道の夜』」は、ジョパンニ線(常磐線)でおばあちゃんと再会する孫のお話、そして、甲斐よしひろさんの「立川ドライブ」に構想を得た「福島ドライブ」は、震災と原発事故による喪失感を描いているようだ。

 そして後の3作品は原発問題を扱った「プルート夫人」「雨の夜ーウラノス伯爵」「サロメ20××」だ。これらの作品では使用済み核燃料のバックエンド対策をはじめとした原子力発電所にまつわる諸問題を戯曲風に描き、原発政策の危険性を知らせようとする内容となっている。プルート夫人、すなわちプロトニウムは、数万年という時のを経て人類がいなくなった後も残り続け、「なんてつまらないんでしょ」「愛しているのにみんな消えてしまったわ」とつぶやく。最終処分を人類が管理できない可能性を太く打ち出すなど、3作品を通じて原子力政策の問題点を具体的に示していた。

 ただ「雨の夜」は、原子力政策への懐疑を綴りながら、ラストで「この世界に降り続く雨の音から誰も逃れられはしない」と結ぶ。原子力発電所が林立する現実を受け入れざるを得ないような響きがあり、もう少し、新たな希望を膨らませることができるラストにできなかったのかと若干の不満が残った。

 コミックは2011年から2013年に描かれたものだ。原発事故直後の時期で、福島に残った住民も、放出された放射性物質に対する不安がをだまだ強く持っていた時期だろう。

 作者は2つの災害のショックで何も手につかない状況になっている時、チェルノブイリで菜の花で除染をしているという話を聞き、菜の花が希望につながることを願って作品を仕上げたという。だからなのか、作品そのものが現実を踏まえたメッセージ性の強いものに仕上がっていると思う。

 他にも震災や原発事故を扱った作品はいくつか読んだ。福島には帰れないという作品が一方的だったことを反省し、続編で、福島に帰るお話を書いた絵本もあった。作家のみなさんが作品を制作する上でも、様々な葛藤があったのだろうが、そういう作品を知ると、まずは呼んでみることを心がけた。

 「なのはな」も当時、話題になった作品だというのだが、全く認識になかったことが恥ずかしい。もっと情報収集のアンテナの感度を強くしておくべきだったと反省する。


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