IAEAの報告書はある程度予測された。
報告署は、海洋放出の計画は国際的な基準に合致するとともに、放出による人や環境への放射線の影響は無視できるほどわずかであるものの、この報告書は日本政府の海洋放出を推奨するものでも支持するものでもないとした上で、IAEAは国際社会に透明性と安心感をもたらすために放出開始後も監視活動を続けるという内容という。
事故原発で発生する汚染水から放射性物質を取り除いた処理水。処理水には水として存在するため取り除くことができないトリチウム(三重水素)が含まれる。この処理水のトリチウムを1,500ベクレル(bq)以下まで希釈した上で、沖合1kmまで海底トンネルで誘導し海洋に放出する。
2014年に開かれた市議会の特別委員会で私は、福島第一原発のトリチウムの排出量は年間で海に2兆bq、気体(水蒸気)として2兆bq、合計4兆bqで、管理上の目標は22兆bqと東電に確認していた。確認のきっかけは、モニタリング井戸からくみ上げた地下水のトリチウム濃度を1,500bqより低減し海洋に放出する計画・地下水バイパス計画だった。計画による年間のトリチウム放出量は最大5億ベクレルとされていた。
ここでは汚染水が直接海洋に漏れ出す量は勘案されていないが、地下水バイパス計画に限って言えば放出されるトリチウムは、事故前の原発から放出されていた量よりはるかに小さい。従って計画の実施には問題がないと考えられた。この時、漁業者は国に、「関係者の同意なしにはいかなる処分もしない」という約束をさせた。
この事実を確認した私は、原発から放射性物質が放出されてきた歴史的な経過などの事実なども含めて地下水バイパス計画には問題がないことを、国や東電が国民に向けて説明することを求めていた。風評被害を抑制するために国民に化学的知識を普及する必要があること、また、地下水バイパス計画実施の事実上の決定権を、計画の承認という形で漁業者に持たせた結果、その計画実施の責めが漁業者に向けられる事態を避けるためにも、国民に向けた説明の最前線に国や東電が立つ必要があると考えられたからだ。
また、こうした知見を国民が共有することは、エネルギー源としての原発に今後どう対応していくかの国民的議論の基礎を据えることにもなると考えていた。
私自身は、事故の危険性や使用済み核燃料の廃棄方法が確立できないこと、また、基準値内とはいえ放射性物質を排出することが明らかな原発に頼ることなく、再生可能エネルギーに転換を進めることが大切だと思っているし、安定的に運用するための技術開発に力を尽くすことが必要だと思っている。
しかし、これを最終的に判断するのは国民だ。その国民が広く事実を知ることが大切だと考えていたのだ。
私の思惑は別にして、残念ながらこうした取り組みは十分にされないまま、処理水対応の国の小委員会が海洋放出を含む対応策を報告したのを受けて、2021年に国は海洋放出とする方針を公表した。
昨年(2022年)になって、一定期間、国は、トリチウムの性質などを含む処理水放出の安全性に関する広報を強め、その効果の検証をした。記憶では国民に理解が多少広がるなど効果があったようだが、その取り組みは十分とはいえない。こうした取り組みを継続的に、さらに厚く進めていくことが、風評発生を防ぐ上で後とも重要なのだろうと考えている。
IAEAの報告書は、こうした説明を国が強め進める上で一助になることは間違いない。しかし、報告書を金科玉条にして、処理水放出に突き進むことは許されない。風評被害発生の懸念が引き続きあり、何よりも関係者が放出に同意していない。
実際に被害を受ける可能性がある関係者・住民をないがしろにして放出することは、これまで原発事故の影響から被災地の復興に協力してきた人々を踏みにじることにほかならない。少なくとも関係者が放出に同意できる条件を広げることが、今、国や東電が実行すべき取り組みだと思う。
私は、処理水の海洋放出に関係者をはじめ住民が同意できないその責任は国や東電にあると考えている。被災地の漁業者や住民が、国や東電を信頼出来ていない。そこにこそ理由があると考えている。
事故発生の後、廃炉に向けた作業で大小の事故が発生し、時として発表が遅れたり、後に事故が明らかになるなどの事態がたびたびあった。そのたび、東電や国に対する住民の不信はつのった。また、関係者・住民の懸念をよそに処理水の海洋放出を決定したことも不信に拍車をかけたに違いない。
国や東電に対してつのってきた不信。この問題を解決するためには、この間、国や東電がしてこなかったこと、すなわち、率先して正直に説明する、特に今回問題になっている処理水や海洋放出の安全性を率先して説明を繰り返し、国民的、世界的な理解促進を図ることしかないのではないだろうか。
こうしたことに責任を持った姿勢が関係者・住民に理解されてこそ、国や東電に対する信頼も高まるだろうし、もし、その後に風評などが発生した際の補償の継続的な実施にも信頼感を高めることができるだろう。
とはいえ、放出に向けての準備はほぼほぼ終っている。放出用の海底トンネルは完成しており、原子力規制委員会の審査も受け、後は実施を待つばかりになっている。
工事開始前に、国が関係自治体の意見を聞いた際、福島県の内堀雅雄知事と大熊町長、双葉町長は、着工の事前了解を伝え、国には「風評被害がおきないよう新たな風評を発生させないとの決意のもと、万全な対策を講じてほしい」と求めていた。この時、私は漁業者をはじめとした関係者の了解を待って県等が事前了解するという姿勢が必要ではないかと思ったものだが、いずれにせよ、この事前了解を踏まえてトンネルの工事が始まった。
ただ、県知事や本市市長もそうだが、関係者の合意を何よりも優先にするよう求める発言を繰り返している。漁業者をはじめ住民、そしてその意を受けて、国や県に対応を求める関係自治体や地方議会。こうした声を率直に受け止めて国や東電が行動することが必要だろうと思う。
工事着工の事前了解の有無は、処理水の海洋放出実施の行方を左右する最後の物理的な抵抗手段であったが、これはすでになくなっている。今後は、国や東電の言質が海洋放出実施の抵抗物となるが、過去の言質にしっかりと責任を持つかどうかは、それこそ信頼できるかどうかの分岐点にもなるものだ。
また、あわせて言えることは、あの原発事故からしばらくは、国のエネルギー政策では原発は後景に下がっていたが、昨今、原発に依存する政策に転換している実体がある。原発に頼ったエネルギー政策を展開するのかどうかを国民的議論で決定していく。政府が海洋放出に関して国民に説明すること、そしてそこで国民が得られる知見は、国民的議論の基礎を据えることにもなるだろう。
ともあれ、IAEAの報告署が公表された今、処理水の海洋放出の問題に、国や東電、そして地方自治体や議会がどのように向き合っていくのか、関心をもって見守っていきたい。
報告署は、海洋放出の計画は国際的な基準に合致するとともに、放出による人や環境への放射線の影響は無視できるほどわずかであるものの、この報告書は日本政府の海洋放出を推奨するものでも支持するものでもないとした上で、IAEAは国際社会に透明性と安心感をもたらすために放出開始後も監視活動を続けるという内容という。
事故原発で発生する汚染水から放射性物質を取り除いた処理水。処理水には水として存在するため取り除くことができないトリチウム(三重水素)が含まれる。この処理水のトリチウムを1,500ベクレル(bq)以下まで希釈した上で、沖合1kmまで海底トンネルで誘導し海洋に放出する。
2014年に開かれた市議会の特別委員会で私は、福島第一原発のトリチウムの排出量は年間で海に2兆bq、気体(水蒸気)として2兆bq、合計4兆bqで、管理上の目標は22兆bqと東電に確認していた。確認のきっかけは、モニタリング井戸からくみ上げた地下水のトリチウム濃度を1,500bqより低減し海洋に放出する計画・地下水バイパス計画だった。計画による年間のトリチウム放出量は最大5億ベクレルとされていた。
ここでは汚染水が直接海洋に漏れ出す量は勘案されていないが、地下水バイパス計画に限って言えば放出されるトリチウムは、事故前の原発から放出されていた量よりはるかに小さい。従って計画の実施には問題がないと考えられた。この時、漁業者は国に、「関係者の同意なしにはいかなる処分もしない」という約束をさせた。
この事実を確認した私は、原発から放射性物質が放出されてきた歴史的な経過などの事実なども含めて地下水バイパス計画には問題がないことを、国や東電が国民に向けて説明することを求めていた。風評被害を抑制するために国民に化学的知識を普及する必要があること、また、地下水バイパス計画実施の事実上の決定権を、計画の承認という形で漁業者に持たせた結果、その計画実施の責めが漁業者に向けられる事態を避けるためにも、国民に向けた説明の最前線に国や東電が立つ必要があると考えられたからだ。
また、こうした知見を国民が共有することは、エネルギー源としての原発に今後どう対応していくかの国民的議論の基礎を据えることにもなると考えていた。
私自身は、事故の危険性や使用済み核燃料の廃棄方法が確立できないこと、また、基準値内とはいえ放射性物質を排出することが明らかな原発に頼ることなく、再生可能エネルギーに転換を進めることが大切だと思っているし、安定的に運用するための技術開発に力を尽くすことが必要だと思っている。
しかし、これを最終的に判断するのは国民だ。その国民が広く事実を知ることが大切だと考えていたのだ。
私の思惑は別にして、残念ながらこうした取り組みは十分にされないまま、処理水対応の国の小委員会が海洋放出を含む対応策を報告したのを受けて、2021年に国は海洋放出とする方針を公表した。
昨年(2022年)になって、一定期間、国は、トリチウムの性質などを含む処理水放出の安全性に関する広報を強め、その効果の検証をした。記憶では国民に理解が多少広がるなど効果があったようだが、その取り組みは十分とはいえない。こうした取り組みを継続的に、さらに厚く進めていくことが、風評発生を防ぐ上で後とも重要なのだろうと考えている。
IAEAの報告書は、こうした説明を国が強め進める上で一助になることは間違いない。しかし、報告書を金科玉条にして、処理水放出に突き進むことは許されない。風評被害発生の懸念が引き続きあり、何よりも関係者が放出に同意していない。
実際に被害を受ける可能性がある関係者・住民をないがしろにして放出することは、これまで原発事故の影響から被災地の復興に協力してきた人々を踏みにじることにほかならない。少なくとも関係者が放出に同意できる条件を広げることが、今、国や東電が実行すべき取り組みだと思う。
私は、処理水の海洋放出に関係者をはじめ住民が同意できないその責任は国や東電にあると考えている。被災地の漁業者や住民が、国や東電を信頼出来ていない。そこにこそ理由があると考えている。
事故発生の後、廃炉に向けた作業で大小の事故が発生し、時として発表が遅れたり、後に事故が明らかになるなどの事態がたびたびあった。そのたび、東電や国に対する住民の不信はつのった。また、関係者・住民の懸念をよそに処理水の海洋放出を決定したことも不信に拍車をかけたに違いない。
国や東電に対してつのってきた不信。この問題を解決するためには、この間、国や東電がしてこなかったこと、すなわち、率先して正直に説明する、特に今回問題になっている処理水や海洋放出の安全性を率先して説明を繰り返し、国民的、世界的な理解促進を図ることしかないのではないだろうか。
こうしたことに責任を持った姿勢が関係者・住民に理解されてこそ、国や東電に対する信頼も高まるだろうし、もし、その後に風評などが発生した際の補償の継続的な実施にも信頼感を高めることができるだろう。
とはいえ、放出に向けての準備はほぼほぼ終っている。放出用の海底トンネルは完成しており、原子力規制委員会の審査も受け、後は実施を待つばかりになっている。
工事開始前に、国が関係自治体の意見を聞いた際、福島県の内堀雅雄知事と大熊町長、双葉町長は、着工の事前了解を伝え、国には「風評被害がおきないよう新たな風評を発生させないとの決意のもと、万全な対策を講じてほしい」と求めていた。この時、私は漁業者をはじめとした関係者の了解を待って県等が事前了解するという姿勢が必要ではないかと思ったものだが、いずれにせよ、この事前了解を踏まえてトンネルの工事が始まった。
ただ、県知事や本市市長もそうだが、関係者の合意を何よりも優先にするよう求める発言を繰り返している。漁業者をはじめ住民、そしてその意を受けて、国や県に対応を求める関係自治体や地方議会。こうした声を率直に受け止めて国や東電が行動することが必要だろうと思う。
工事着工の事前了解の有無は、処理水の海洋放出実施の行方を左右する最後の物理的な抵抗手段であったが、これはすでになくなっている。今後は、国や東電の言質が海洋放出実施の抵抗物となるが、過去の言質にしっかりと責任を持つかどうかは、それこそ信頼できるかどうかの分岐点にもなるものだ。
また、あわせて言えることは、あの原発事故からしばらくは、国のエネルギー政策では原発は後景に下がっていたが、昨今、原発に依存する政策に転換している実体がある。原発に頼ったエネルギー政策を展開するのかどうかを国民的議論で決定していく。政府が海洋放出に関して国民に説明すること、そしてそこで国民が得られる知見は、国民的議論の基礎を据えることにもなるだろう。
ともあれ、IAEAの報告署が公表された今、処理水の海洋放出の問題に、国や東電、そして地方自治体や議会がどのように向き合っていくのか、関心をもって見守っていきたい。
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