伊藤浩之の春夏秋冬

いわき市遠野町に住む元市議会議員。1960年生まれ。最近は遠野和紙に関わる話題が多し。気ままに更新中。

遠野和紙・楮保存会が視察研修に出かけた

2022年07月21日 | 遠野町・地域
 孫は、今月2歳の誕生日を迎える。連休を利用して会いに来てくれたのだが、うれしい限りだ。もっとも、おのおかげで室内用の遊具をプレゼントすることになったわけだが、組み立ててみると、滑り台、ブランコとも、気が向くと喜んで遊んでくれた。それはそれでうれしいし、遊ぶ孫のかわいさも倍増するようだ。とりあえずのろけておきたい。

 それはともかく、保存会の視察は、12日に道の駅「安達」内の二本松市和紙伝承館で上川崎和紙の取り組みを、13日に山形県白鷹町で深山和紙の取り組みを伺ってきた。
 どちらも古くからの産地だったというが、現在は、和紙制作の伝統を維持することに苦労していることは変わらないようだ。


  二本松市・上川崎和紙

 二本松市の上川崎和紙は、平安の中頃に歴史が遡り、「みちのく紙」と呼ばれたそうだ。紫式部や清少納言たちに愛された「まゆみがみ」は、ここで漉かれたといわれているという。しかし、現在は需要が激減し、10年前には5軒ほどあった生産者が現在は1軒と伝承館のみで、今後、1軒に後継者ができる見込みという。

 伝承館は、旧安達町の時代に当時の町長が和紙の継承を模索し、道の駅に整備したものだという。人流のある道の駅に整備され、指定管理者で運営されているが、売り上げには厳しいものがあるという。

 4つの畑と施設裏手の土手に楮を育成し、通常は5本のところ、太い楮を作り上げるため1株に3本程の枝を残し育成しているというが、楮の育成や紙料(楮の繊維)づくりまでの手順は、私たちがボランティア活動で実施しているものと変わらない。

 土手の楮を拝見してきたが、密集して育っていた。これでは草刈り等管理が大変そうだと思いながら見たが、実際、ここでの草刈りは株の隙間に潜り込んでの手刈りで対応しているという。大変だ。おそらく、株から伸びた根から生えた新芽をそのまま育てているのだろう。



 伝承館内を見回すと、和紙をはじめ、和紙を活用した人形、うちわ、ランプシェードなど様々な製品が並んでいた。写真は購入してきた和紙人形。



 他に、市内小中学校の卒業証書用紙を提供し、紙漉きをはじめ様々な体験の受け入れもしているという。ちなみに中学3年生の場合、体験費用は無料なのだが、小学生は有料という。

 この施設、紙漉きに必要なものは何でも揃っているという感じだった。特に、4面をもった回転式の和紙の乾燥機はすごいと思った。しかし、設備も立地条件もいい伝承館だが、行政から支給される指定管理料含めても経営がかつかつとは・・。


  山形・白鷹町・深山和紙

 2つ目の視察先、山形県白鷹町の深山町「深山和紙振興研究センター」で話しを聞いた。



 センターは和紙工房と、和紙製品の販売スペースで構成されている。




 深山和紙は、約400年前に始まったと伝えられ、当時から「上り紙」として江戸まで届けられていたという。和紙の材料は楮とノリウツギ(糊空木)を使うという。

 遠野の場合は楮とトロロアオイを使う。トロロアオイは、根っこから粘りのある成分「ネリ」を抽出する。ネリは、水に溶かし粘性を高めることで、楮の繊維が水に攪拌された状態を保つために使われる。

 深山和紙のノリウツギはアジサイの仲間で林縁部に自生するらしい。もしかしてこの花見かけたことがあるかもしれない。まあ、それはともかく、この植物の皮から抽出される粘性物質を「にれ」と呼び、トロロアオイから抽出する「ネリ」と同様の役割を担う。その存在は以前から聞いていたが、実物がこれと認識したのは初めてだ。敷地内に植えられていたノリウツギを撮ってきた。




 深山和紙では、その製造工程を保存するために深山集落で「和紙運営委員会」を組織しているという。メンバーは9人だとか。

 また楮の生産は営農部が担当しているが、メンバーは運営委員とほぼ同じだという。ちなみに集落の世帯数は70戸だとか。ノリウツギは、山林に自生するものを利用し、山に入って大きな物を探し、山林の所有者の許可を取って採取してくるという。

 ちなみに、一般的に和紙漉きは寒冷な季節に行われる。温度が高いと粘性成分のネリが分解し、求められる効果を発揮しなくなるからだ。深山では漉き船(楮やネリを水に溶かし込んだ紙料を入れる容器)に冷却装置を入れて紙料(和紙の材料)を冷やし、夏場でも紙漉きが可能だという。ただ、紙質はいまいちだとか。それでも、夏場でも天然成分を使って紙漉きの練習をできるということはうらやましい限りだ。

 旧安達町時代に作られた二本松市和紙伝承館もそうだが、ここ白鷹町の深山和紙の研究センターでも、設備は遠野和紙以上に整っているという印象を受けた。深山では運営委員会のメンバーにより整備されたものもあるようだが、おそらく現場と行政の距離の違いないのではないかと、あらためて思った。小さい自治体だからこそ、そこにある資源のある現場近くで意思決定がスムーズにできる。本市のように大きな自治体になると、現場近くには権限の小さい出先機関しかなく、意思決定の権限は広い域内にたくさんの現場を抱えた本庁となってしまう。現場近くでの課題は1つだが、そこから離れた本庁は複数の現場を抱え、場合によっては30も40も抱える課題の1つ、つまりその他大勢のうちの1つの課題でしかなくなる。ここらに設備整備の違いが現われているような気がする。

 研究センターには楮の白皮を打解する装置があった。うらやましい。



 打解は、和紙の白皮を石版の上でカシの棒や木槌を使って叩きほぐす作業だ。叩いて薄く薄くのばして繊維をばらばらにしていくのだが、これがなかなか大変な作業だ。繊維がほぐれるまで、長時間にわたって叩き続ける必要があり、疲れる作業なのだ。

 機械が代ってやってくれるならこれ程うれしいことはない。説明では、難しい構造の機械ではなく、町工場等でも作れるものだという。予算があるかどうかが問題とはなるが、整備できるといいのになぁ・・。

 白鷹町には、深山和紙を使ったしらたか人形がある。以前に、他で人形作りを学んだ方が白鷹人形研究会を組織し、和紙人形作りを始めたのだそうだ。当初メンバーは数十人(20名ほどと聞いた記憶があるが・・)いたそうだが、高齢化等により現在は2名まで減少したという。この方達は、当初、趣味的に人形制作をしていたのだそうだが、町から本格的な制作を依頼された時、あらためて人形制作を学び直して取り組んできたらしい。研究会の建物は、センターの近くにある。



 和紙の素材の味を活かしたかわいらしい人形なのだが、住宅事情等の時代の変化もあって、現在はなかなか売れないのだとか。現在は小さい人形やブローチ等小物の創作・製作を続けているというが、この技術が喪失していくとするなら、とてももったいない。



 しかし、こうして生産地での和紙製造工程の保存の取り組みを聞いてみると、どこも苦労しているという印象は受ける。しかし、それぞれの産地の有志の方々の努力が、細々とながら古来からの伝統を守る力になっていることも知ることができる。こうした姿勢に学びながら、遠野和紙・楮保存会の活動も続けていくことが必要なのだろう。

 さて、2日間の視察研修を受けて、保存会としてはさっそく楮畑の下刈り作業が来週行われる。暑くなりそうだが、熱中症に気を付けながらしっかり作業をしようと思う。


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2 コメント

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また作業なのですね (Unknown)
2022-07-22 17:32:29
視察お疲れさまでした。
そして、また早速作業なのですね。
熱中症とともに、コロナの感染にも気をつけながらの作業になるかと思います。
くれぐれも無理をなさらぬよう、ご自愛ください。
それと、お子さんの件ののろけ、これはこの時期にしかできないことですので、どんどんのろけていいと思いますよ。
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ありがとうございます (伊藤浩之)
2022-07-23 12:38:49
ありがとうございます。
孫とは離れて暮らしているので、そんなにのろける機会は少ないと思います。

また、遠野和紙・楮保存会の場合、作業がその使命ですから。熱中症に注意しながらしっかり作業をしたいと思います。

ただ、作業日は月に2日だけですので、それほど負担は大きくないかも。

地域おこし協力隊の場合、これがほぼ毎日。頭が下がります。作業日に畑に行ったのに草が余り伸びていないということもあり、協力隊の力は大きいです。
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