伊藤浩之の春夏秋冬

いわき市遠野町に住む市議会議員。市政や市議会、日常の活動などを紹介していきます。

2月定例会の「訴えについて」の賛成討論を紹介します

2017年03月19日 | 市議会
 いわき市議会2月定例会に提出された「訴えについて」は、高裁判決を受けた議案だったために、当初の提案に含まれず、追加提案となったものでした。

 しかも控訴の期限の問題から先議案件として6日の採決が求められているものでした。全会一致で採択をされましたが、日本共産党市議団としては質疑を終えた後、あえて賛成討論に立ちました。

 要約すれば、裁判で問題になった差し押さえが効力を発揮する時期の認定については、高裁判決の考えを採用して良いと考えるが、職員の不法行為が認定されている部分があり、かつ本件が裁判で争われていることから、引き続き、その是非を司法の場に判断を求めることが妥当と考える、という内容です。

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「訴えの提起について」の賛成討論

 10番、日本共産党いわき市議団の伊藤浩之です。

 私は、議案第78号、訴えの提起について、賛成する立場から討論をいたします。

 本案は、東日本大震災によって滞納処分の執行停止をしていた市税等の滞納について、滞納者に国税還付金が発生したことから、滞納処分の執行停止を取り消し、同還付金を差押えたことについて、原告である滞納者から、執行停止取り消しの通達が、手元に届いた以前に差し押さえるのは違法だとして、損害賠償を求めた訴訟に関わるものです。



 この訴訟では、滞納処分執行停止取り消しの効力発揮の時期が論点になりました。

 原告は、執行停止取り消しの通達が、手元に届いた時点で、効力が発揮されると主張していることに対して、本市は本人への通知は訓示規定に過ぎないので、取り消しを決定した時点、つまり決済がされた時点で効力が発生すると主張して、その是非が争われてきました。

 福島地方裁判所いわき支部の一審判決では、本市の主張が入れられて原告敗訴となったものの、仙台高等裁判所で行われた二審判決では、本市の主張が退けられ、原告に精神的慰謝料を含めて155万6,116円と平成27年8月14日から支払いが終了するまでの間、年5分の割合による金員、つまり遅延損害金をつけて、損害賠償金として支払うことを命じています。

 その理由は2点にまとめられています。

一つは、滞納処分停止取り消しにいたる経過に対する疑義の問題です。

 本市は、滞納執行停止取り消しの決済が効力発生ととらえて、決済、これに続いて差し押さえという経過を経たと主張しています。

 しかし、高裁判決は、平成27年3月30日午後1時20分にいわき税務署に債権差押通知書を送達した後、市役所に戻った職員が取り消し通知書及び控訴人宛差し押さえ調書謄本を「作成」し、決済を受け、2通一緒に封書に封かんしたとしました。

 つまり、差し押さえの後に滞納執行停止の取り消しが行われていることから、国税還付金の差し押さえは滞納処分停止による差し押さえの執行停止中にされたと違法性を認定しているのです。

 この認定に関わり、原告への通達文書の番号や日付への疑問に対する本市の説明が合理的なものではなく、信頼が置けないという判断から、実際の差し押さえは、滞納処分停止の意志決定の前に行われたもの、すなわち、差し押さえをした後に、そのために必要な体裁を整えたと不法行為を指摘されています。

 これに対して先の質疑で本市は、高裁の認定は事実と異なっており、「滞納処分停止を取り消す起案・決済後」に「差し押さえ調書を作成・決済」し、これをもって決済した日と同日の午後1時20分に、いわき税務署に差し押さえ調書を送達し、国税還付金等を差し押さえ」、その後、滞納処分停止取り消し通知書と債権差押え謄本を一つの封書に封かんしたとして、認定は誤りだったと指摘しているところです。

 さらに滞納処分停止の取り消しと、差押え決済の前後については、これを処理する収納支援システムに滞納処分停止の取り消しデータを入力しなければ、差し押さえ通知書の出力ができない仕組みになっているとして、本市の事務手続き上に瑕疵がなかったことは、この点でも確認できることを主張しているところであります。

 もう一つは、滞納執行停止取り消しの効力が発揮される時期の問題です。

 本市は、差押えを執行した後に福島県を通じて行った総務省への照会の回答を受けて、効力発生の時期は本市が意志決定をした時点、すなわち滞納執行停止の取り消しを決済した時点であり、本人への通達は、訓示規定、大胆に意訳をすれば、たんなるお知らせにすぎないので、通達の本人への到達が効力発生の時期とはならないと主張しました。

 これに対して仙台高裁は、滞納執行停止の取り消しは、滞納者にとって「極めて重大な不利益処分」であり、「処分者」すなわち本市と「被処分者」すなわち原告との間の「法律関係を変動させる行政処分の効力発生時期は、原則として、それが相手方に告知されたときであると解すべき」として、通達の原告への到達が執行停止取り消しの効力発生時期であるとしています。

 また、その根拠となる見解は、「国税徴収法の解説」、「条解国税徴収法」、「国税徴収法基本通達逐条解説」、「国税徴収法逐条通達集」、「市町村事務要覧(税務1)」という文献で採用されているとし、「本件差し押さえをしたことにつき、いわき市長には、国賠法上の過失がある」との判断から本市の主張をしりぞけました。

 つまり判決は、滞納執行停止取り消しの時期についての本市の考えもまちがっているし、具体的な差し押さえの事務取り扱いにも違法性があると、認定したわけです。

 私はこうした判決を読んだとき、後者の滞納執行停止取り消しの効力の時期の問題については、市民に対して行政が説明責任を果たしながら丁寧に対応していく上でも、仙台高裁の下した判断が妥当という心証を持ちました。

 行政の対応が市民を苦しめることがあるという事例は、これまでも見てきたところであります。

 本定例会の代表質問で、渡辺議員が発言した被保険者資格証明書の所持者が、病気を訴えても短期保険証が交付されなかった事例も、現在は病気の訴えがあった場合は短期保険証が交付されるよう取り扱いが変更されたように、市民を苦しめる問題がある対応でした。

 また同じく被保険者証に関わって、震災による収入減で生活設計が狂い、国保税を滞納してしまった加入者が、定期的な通院が必要な家族を抱えた苦しい生活の中で、分割納付の約束をして納付を始めたにもかかわらず、資格証が送られてきたと衝撃を受けた事例を聞いています。

 この事例では、電算処理による作業では、該当する滞納者に資格証が自動的に発行されてしまうことから送付されてしまったもので、後に短期保険証が届けられたようでありますけれども、一言事前に説明があれば、市民にいらぬ苦しみを与えることにはならない事例でした。

 こうした不親切で丁寧さにかける事例は、行政に対する不信の念をいたずらに市民に醸成し、市民と行政の良好な関係を壊すことにつながりかねず、市民との「共創」によるまちづくりという理念にもマイナスの要因となるものと思います。

 こうした観点から見ても、高裁判決で示された滞納執行停止取り消しの効力発生時期を、本人に文書が到達された時点とする考えには合理性があるものと思います。

 その立場から見れば、本議案には反対をして、高裁判決を確定すべきという立場をとることが妥当と思います。

 しかし、同時に、判決の差し押さえをした後に、その差し押さえを妥当なものとするために必要な体裁を整えたという不法行為の認定に対しては、先に述べたとおり、事実認定に誤りがあると、本市が主張している現実があります。

 先の滞納執行停止の取り消しについての判断は法制度の解釈上の問題であることから、本市の対応としては、この解釈に基づいて今後の事務取扱の方法を改めるという対応となります。

 しかし、不法行為の認定は職員の処遇にもかかわる問題と考えられることから、これが司法の場で認定され、かつ事実誤認という本市の反論があることを考えれば、「訴えの提起」の議案に反対し、議会として現時点での司法判断の是非に結論を出すのではなく、最終的な判断を司法に求めることが妥当な選択と考えています。

 本市が上告しようとする最高裁では、憲法判断と判例違反しか判断する必要がありませんが、法令違反や事実誤認については原審、すなわち高裁判決を破棄することができるとも聞いています。

 以前、会社所有の土地を、経営者である佐藤栄佐久元知事の実弟が県発注工事の受注業者に売却したことが、佐藤元知事の収賄にあたるとして収賄罪に問われた事件がありました。

 当初、約1億7,000万円の収賄として訴えられたものが、地裁判決で1億円が削られ、高裁判決で約7,000万円が削られて、最終的には収賄額がゼロになった事件です。

 にもかかわらず最高裁第一小法廷は、土地を思うように処分できない状況では、土地の売買代金が時価相当額であっても、土地の売買による換金の利益は県知事の職務についての対価性を有し賄賂に当たると解するのが相当だという高裁判決を支持し、佐藤元知事に有罪の判決を下しました。収賄額ゼロでも収賄罪で「有罪判決」になったのは前代未聞だと識者から声があがる、すっきりしない判決となった例があります。

 本市の上告にあたっては、今回の損害賠償請求事件に対して、明確な司法の判断が下されるよう、最高裁の深い審議を期待して、議案第78号、訴えの提起について賛成の意を表明し、私の討論を終わります。


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