雲のたまてばこ~ゆうすげびとに捧げる詩とひとりごと

窓の雨つぶのような、高原のヒグラシの声のような、青春の日々の大切な箱の中の詩を、ゆうすげびとに捧げます

小景

2011年05月16日 | ポエム



 小景

 それは日が暮れた後の青い時間だった。
昼間は買物客でにぎやかな通りを、人々は無口に家路を急いでいた。
すでに閉店した一軒の店のショーウィンドーの明かりだけが、
そんな暗い通りをオレンジ色に照らしていた。
人々はほとんど、そのことを意識せずに歩き去ったが、
それでも一度は、暗い通りにその全身をライトに浮かび出されていた。
 しばらくして、何も無いショーウィンドーに一人の女が入って来た。
薄暗くてよく分からないが、そう若い女ではなかった。
そして長く赤い布で、ウィンドーの飾り付けをしているらしかった。
 辺りは、もうすっかり暗くなり、人々の流れもいつか絶えていた。
それでもショーウィンドーの明かりは、暗い通りを照らしていた。
そして女は、ただひとり忙しそうに、狭いショーウィンドーのなかを動き回った。
あたかもスポットライトに照らされた一人の踊り子のように‥‥。

(1973?)






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