マジェスティック 特別版 価格:¥ 1,575(税込) 発売日:2003-12-06 |
記憶喪失というシチュエーション、漫画やドラマでしか知らないが現実ではどうなんだろう。ぼくの周りでそういった事態に至った人っていない…と思う。
実際、記憶を失うと一口に言うが、英会話に堪能な人はその会話力まで喪失するのだろうか。また、ピアノを弾ける人がキオクソーシツと同時に弾けなくなってしまうのだろうか。どこからどこまで、いつからいつまで記憶がなくなるものなんだろう。単純な疑問がいくつも沸いてくる。
「ここはどこ、わたしはだれ?」
といった理解だけでは済まない複雑な「?」がありそうだ。
第2次大戦直後のこと、ヨーロッパ戦線で戦士したはずの青年が海岸に漂着したところを散歩中の老人に発見される。その青年とは町のヒーロー、幼少からみんなのリーダーで誰からも慕われ尊敬を集めていたから、町全体が歓びに沸いたが、実は、その青年、記憶を失くしていたのだ。息子の戦死の報にすっかり萎れていた父親は元気を取り戻し、自ら所有する映画館(荒れるに任せていた)を復興させようと決意する。町の有志の協力を得て立派に立ち上がったシアターの名が「マジェスティック(威風堂々)」。そう今お話している映画のタイトルである。
「な~んだ、映画の話かぁ」
と、白けないで最後まで読んで欲しい。町のひとびとのなかには率直に喜ぶ人が大半だが、キオクソーシツなんて聞いたことないと疑問を覚える人だっている。折りしも彼の恋人(復員後の結婚を約束していた)が彼の生還を聞き帰省したばかり、彼女に本物か確かめさせようと画策する。
まあ、このあたりがハラハラドキドキ。観客は既に彼の存在を知っているのだが、それでもドキドキ感が高まるのは何故なんだろう。それはきっと共犯意識? だって、町の人たちみんな好い人ばかりでとても素敵なんだ。だから、がっかりさせたくない気持ちが強まる。
映画館の売店を担当する老嬢、昔、小学校の先生だった人で復員して来た彼、ルークを教えたこともある。歓迎のセレモニーの席で、
「あなたにピアノを教えたのは私よ、あなたは優秀な生徒でリストを上手に弾いたじゃない。」
こんな空気を読めないオバちゃんっているもんだが、スリル満点だ。
「果たして彼ってピアノを弾けるの?」
自分自身が弾けたらどうってことないんだろうが、自分が弾けないだけに、さらにドキドキが激しくなる。
ネタバレは禁じ手だと思うのでここらで切り上げる。ぼくが面白かったのはまさにこの当たりだ。もっとも「ショーシャンクの空に」、「グリーンマイル」とぼくたちにいろんな「希望」の形を見せてくれたフランク・ダラボン監督とくれば、「赤狩り」としてハリウッドを大きく揺さぶったマッカーシー旋風、いわゆる非米活動委員会が舞台の背景にあり、この証人喚問から無実を主張できるのかが見どころなんだと思うし、メッセージはさらに深いところにある。それでも映画的な楽しみに充分浸れるのは、伏線が縦横無尽に散りばめられ、しかも地雷のように適切に効果を上げる脚本が素晴らしいからだ。何度観ても飽きない。これを一度っきりで、
「観たよ」
とは言わせない。息子たちよ、もう一回観なさい。