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>日本では「異業種転職」が極めて難しいワケ。採用する側もチャレンジできない

2022年05月05日 03時00分19秒 | 雇用と職のこと
日本では「異業種転職」が極めて難しいワケ。採用する側もチャレンジできない


リーマンショックはジワジワと経済をなぎ倒し、ジワジワと回復させるようなトレンドを取りました。バブル崩壊は社会システムの在り方を根本から変えざるをえないような時代の転換を強いました。

それに対して、コロナショックは一部の領域に「突然死」を強いるような冷酷な始まりで、さらには身体的なリスクを通じて「わかりやすい恐怖」を多くの人に与えた本当に酷い出来事です。
※写真はイメージです(以下同)


 現在は政治的な事情もあり、「普段通りの生活」に戻っていこうとしています。株価も実体経済をまったく反映しないまま、人為的に盛り上がっていっているようです。そうして不安ムードに対して注目が弱まっていく間、多くの人がすでに職を失ったことが忘れられ、まだこれから失う人が出てくる恐れが高まってきています。  

当然、コロナショックの推移にかかわらず、仕事を失ってしまった当事者は新しく仕事を探さなければなりません。 


コロナ禍で深刻化する「業界格差」
  人材エージェントの多くは「特定の領域しか動いてない」と言い、仕事量の減少や偏りに対して自分のクビを心配する人もいます。リーマンショック後には大手エージェントもリストラや内定取り消しを行っていました。その頃の様相に似たものを感じているのかと思います。  

リーマンショック時は、全業種の採用が壊滅的な状況になっていきました。ただし、今振り返れば実体経済に影響が出ていく動きがゆっくりでした。コロナ禍の現在は格差が如実になっています。医療関連やIT系、物流会社などの業界は引き続き採用は継続されていて、むしろ旺盛です。天下り団体のような財団法人も派遣社員を募集したりもしています。 

 しかし、ダメージが直撃した産業、具体的には外食やアパレル、小売、レジャーなどは壊滅的な状態が長引くでしょう。これから現場のスタッフの呼び戻しというのはあるでしょうが、全員を呼び戻すことはありません。一人ずつ様子を見てです。  

では、そうした業種から締め出された人は、採用が継続されている業界に行けばいいのかというと、そうすんなりとはいきません。 

 医療関係はそもそも無資格者の需要はほとんどありません。IT系は元々そんなに人数が必要ではなく、量より質の採用です。以前の記事でも述べましたが、増える売り上げと負荷はデジタル処理が頑張ってくれていますので、追加の人員はそんなにいらない構造です。  

物流系の仕事は存在する場所が偏っているために自分の通勤圏にあるかどうかということもあるうえ、単純に運ぶ業務以外のホワイトカラーの領域は高い専門性が求められるため、経験者でないとなかなかこなせません。単純に運ぶだけの仕事もかなり慣れが必要であるため、手垢のついていない若年層が当然好まれます。 

 職種では経理や情報システムなど会社を最低限運営するために必要な機能や、食品や物流などの現場担当が継続的に動いているくらいです。たまに案件が出ると、わっと候補者のエントリーが集中して大変な騒ぎになります。 

 盛り上がっている領域の間には高い壁があり、ちょっと蜘蛛の糸が垂れてくると、それにあっという間に取り合いになるという様相を呈してきています。 

「挑戦的な採用」が実現しない構造的問題
 残念ながら業種をまたいで仕事を変えるのは本当に難しいです。それは働く人の能力が難しいという意味ではなく、採用する側の問題といえます。採用するほうも「思い切り」が必要であり、選考における担当者の説明責任が求められるからです。  きちんとした会社ほど社内での説明ができないので、挑戦的な採用をできません。


「経験業種が違っても、この人ならできると思うんですよ」と担当者が思ったとしても、上司や人事が「でもさ、もっとドンピシャの業界経験の人が来るのを待っていれば、それに越したことないじゃない」と一言言ったら、それを論破できないのです。  景気悪化局面においては尚更。今回、ダメージを受けた業種に属している人は仕事探しにおいて本当に苦しいと思います。  

ここから当面は、企業組織における採用というのは混沌とした状態が続くでしょう。経営者としては「苦しいときほど優秀な人材も採りやすいだろうし、苦しい局面を超えて成長するためにいい人はほしい」というビジネスマンとしての思考回路があります。  


しかし、その一方で経営者も一人の人間として「少なくともここからしばらく続くであろう不透明な時期だけでも、居場所を死守したい」とも考えます。悲しいかな、人間は自分さえよければとりあえずいいという人が大半です。  

そうなると、人は雇いたいものの、「優秀でよく働いて自分たちの言うことに従順で、必要であればいつでも残業をいとわないタイプで、願わくば20代。あとコミュニケーションスキルもあって、外見も陰気なのはダメ。あ、念のため言い忘れないように、自分のライバルになりかねない即戦力なんてもってのほかね」という人材を望みます。  

もちろんそんなことは求人票には書いてありませんので、意気揚々と「あんなことできます、こんなことやってきました」という意欲溢れる採用希望者がやってくるので、なかなか採用に至りません。


新卒採用や外注委託にも甚大な影響
 新卒採用でも、本来は特殊外部要因によって左右させるべきではありません。ですが実際はいつか見た風景ですが、外部要因から受ける業績悪化に連動するように動きます。自社内の余剰人員を減らすためには、対象となる従業員や労働組合と延々と面倒くさい説得をしなければならないことや、知った顔を切ることは辛いので後回しにします。なので、未来ある若者への扉を閉めることで「人員増加を回避。自然減があるから、スリム化だ!」と落ち着けてしまいます。  


外注委託についてもこうした局面において大きく動きが出ます。「会社としてこれからどうなるかわからないから全ての支出を絞る。その一環として外注委託は減らして社員でまかなう」という判断をする会社は非常に多い。一見理解できる判断ではあるものの、普段からの根本的な使い方が間違っている会社も珍しくありません。  


本来、業務委託で取り組むべき仕事は、専門性が高いものの常時ニーズがないような領域であったり、社員の人件費負担を費やすほどの付加価値はない領域です。専門性が高い業務の場合は社員でまかなえないので、つまり一時的にやらないということ。普段から特に取り組む必要性もそんなになかった可能性があります。  

また、社員に付加価値が高い業務をいったん放置させて低い付加価値の業務を行わせることは、普段から社員がやっていたことの付加価値がそんなに高くないことである可能性があります。  


さりとて切られてしまった当事者である場合、契約打ち切りを言い渡されたとしても、決して怒ってはいけません。特に専門性が高いと認識されて委託を受けていた場合は、本来やらなくてもいいかもしれないことに高いお金を払ってくれていた余裕のある会社なので、切られたとしても大人の態度を振る舞い、縁をつないでおくべきです。  

もちろん能力や経験の差はあれど、もはや相性を引き寄せる運などの要素が大きく影響するような採用市場の様相が続いていくと見ています。


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