住人が1人ずつ消えていく…大島てるが語る「平凡な一軒家が“恐怖の事故物件”に豹変するまで」
8/16/2020
事故物件の調査をしていると、ときに不可解な物件と出会うことがあります。私が特に気になるのは、なぜか同じ場所で繰り返し事件や事故が発生している物件。偶然という言葉で片付けようにも、どこか説明しきれない“何か”が残ってしまう……。そんなケースに遭遇することもあるのです。 【写真】この記事の写真を見る(5枚)
今回はそうした事例から、少し背筋が寒くなるような事故物件をご紹介しましょう。(全2回の1回目/ 後編に続く )
三世代同居の一軒家で起きた悲劇
今から10年ほど前、神奈川県の新興住宅地からほど近い一軒家に、20代の男とその母親、そして祖母の3人が同居していました。他に父親や兄弟はいなかったものの、3人とも血がつながっている、いわゆる三世代同居の形でした。
その一軒家で最初に“事件”が起きたのは、年末も近づいた冬のこと。まずは家の中で、男の母親が亡くなっているのが見つかったのです。何か病気を患っていて、医師に看取られながら亡くなった……というわけではなく、40代での突然死だったこともあり、事件性がないかを確認するために、警察が捜査を始めました。
すると、同居していた男と連絡がとれないことが判明し、警察はその行方を追いました。しかし、それから数日後、男は姿をくらますことなく、自宅に帰ってきました。そこで警察が事情を聴いたところ、男は突如「自分が首を絞めて殺した」と話し始めました。母親と口論になり、思わず首を絞めてしまった、と……。
突然の“自白”に、その場にいた警官も騒然としたのではないかと思います。ただ、妙なことに、数日前に亡くなった母親の死体には、首を絞められたような跡など見当たらなかったのです――。
母親は病死として片付けられた
たとえ「私が殺しました」と名乗り出る人がいたとしても、遺体に他殺の痕跡がなければ、警察も動きようがありません。その後、司法解剖も行われましたが、やはり母親の死因は急性心不全と判断され、男の奇妙な供述は謎のまま、この一件は神奈川県警によって病死として片付けられたのです。
しかし、それからわずか1週間後。その男が、今度は駅前の交番を訪れ、「口論になり、首を絞めて殺した」と再び警官に告げました。しかし、今回は母親ではなく、祖母を殺したと言うのです。
警察が自宅に向かうと、そこには……
すぐに警察が自宅に向かうと、そこにはマフラーで首を絞められ、殺された祖母の遺体がありました。今度は紛れもない窒息死で、男はすぐに逮捕されました。
その後の供述によると、母親の死のあと、祖母と2人でどう暮らしていくかを話し合っているうちに意見が対立し、将来を悲観した男が祖母を殺害した……との経緯だったことが判明しました。
しかし、なぜ母親が病死した際に「私が殺した」と嘘をついたのか、そして、その場で口にした「口論の末に首を絞めた」という“供述”を、なぜ1週間後に現実のものにしてしまったのか、という点は、謎のままで終わってしまいました。
事故物件は思わぬ“結末”を迎える
こうした、非常に特殊な形で2人の住人が相次いで亡くなった事故物件は、一体どんな家なのか。事件後、私自身も実際に現場に行ってみようと思いながら、タイミングを見つけられないでいました。
すると、1カ月もしないうちに、驚くべきニュースが飛び込んできました。その家が火事に遭い、焼け落ちてしまったというのです――。
原因は放火の疑いが強いとのことでした。確かに、母親と祖母が亡くなり、男も逮捕されてしまったことで、その家は空き家状態でした。放火魔にとっては、絶好のターゲットだったのかもしれません。 少し話が逸れますが、放火というのは、実はけが人も死者も出ないケースが多いのです。かつて、ある無職の男が、建設中の木造住宅ばかりを狙って火を付ける、という事件がありました。
「こんな幸せそうな家に引っ越すなんて許せない」という嫉妬心からの犯行だったようですが、どれも作りかけの家ですから、当然誰も住んでおらず、犠牲者はいませんでした。
これはある種、放火魔の典型例と言えると思います。放火魔の心理は理解したくありませんが、燃えやすいものに火を付けて、メラメラと火柱が上がる光景をみることでスカっとする……といったことなのでしょうか。彼らにしてみればモノが燃えれば十分で、物理的に誰かを傷つけてやろう、といった意志は案外ないのかもしれません。
そう考えると、空き家になった一軒家はまさに狙い目です。新聞やテレビで事件のことを知れば、今はそこに誰も住んでいないこともわかります。その後、私が訪れたときには、すでに家は取り壊され、現場は完全に更地になっていました。