女性芸術家にハラスメント行為の「ギャラリーストーカー」 被害者が語った実態「卑猥な言葉に固まる」(AERA dot.) - Yahoo!ニュース
女性芸術家にハラスメント行為の「ギャラリーストーカー」 被害者が語った実態「卑猥な言葉に固まる」
3/7(木) 10:32配信
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コメント367件
AERA dot.
美術大の展示会場では。若い作家へのハラスメント行為をする来場者が問題になっている=2020年2月、東京都内
若い女性芸術家などに作品の展覧会場で話しかけ、食事やデートに誘ったり、性的な言葉をかけたりとハラスメント行為をする「ギャラリーストーカー」が問題になっている。作品の購入をにおわせ、会場を離れられない「弱み」に付け込むなどして、相手につきまとうという。芸術大では学生を守ろうと、会場での「警告」や警察との連携などの対策を始めている。
【写真】相次ぐ美大生へのハラスメント行為に、大学からの注意喚起のチラシはこちら
* * *
「乳首を出さないことに、こだわりがあるんですか」
セルフポートレートの作品を撮り続けている写真家・マキエマキさんは8年前、東京・銀座で開いていたヌード作品の展覧会の会場で、50歳ほどの男性から話しかけられた。
バストトップを出さない作品しか撮っていないと伝えると、男性はさらに聞いてきた。
「おしりは出していますけれど、おしりは大丈夫なんですか」
マキエさんはこれまでも、作品を展示した場で「旦那さんとセックスしていますか」と聞かれたことがあった。周囲にほかの来場者がいるのに、「おしり」「おっぱい」「性器(実際はもっと卑わいな言葉)」「セックス」など、露骨な言葉を交えて話しかけられたこともあったという。
そのような行為をする人は、多くが30~60代の男性で、特に50代前後が目立つ印象だが、見た目は「ごく普通の人」ばかり。作品を見に来た来場者の中から、「この人」と見分けることは困難だ。
「いかにも『いやらしい感じのおじさん』ではなくて、なかにはすごく好感の持てるような方もいます」
そしてマキエさんは、明らかに女性に向かって性的な言葉を吐きつけたいだけの人だと判断した場合、「不快ですよ」とはっきり伝えて会話を打ち切っているという。
「でも、社会経験の浅い、若い女性作家さんだと、笑顔を引きつらせながら30分も固まっている状態だったりします」
露骨に性的な言動を口にしなくても、作品については最初の二言三言だけで、その後は異性関係や連絡先などを聞いてきたり、「食事に行こう」「今度会わないか」と誘ってきたりする人もいる。問題ない相手と思って名刺を渡したところ、作品や活動とは関係のないメッセージや不快な画像を送ってくる人もいる。
作家としては、来場者から「作品を気に入っている」と話しかけられれば、最初から無下にはできない。「作品を買ってくれるのでは」と期待もする。そして嫌な思いをすることがあるからといって、本人がギャラリーにいないわけにもいかない。
そんなマキエさんに、
「休みの日にギャラリーに行って若い女性作家と話をするのが楽しみ」
「ニコニコしてくれるので、キャバクラに行くより全然コスパがいい」
そんなことを悪びれずに言う人もいるのだという。
マキエさんは、ため息をつく。
「本当に当たり前のように目にする光景で、個展を開くと毎回、そういう人が必ず現れます。女性だけのグループ展を開くと、『ああ、また来たか』という感じです。体感としては20人に1人くらいですが、作家の年齢が若くなると、その割合はもっと増える感じがします」
■最初は行為を「認識できない」
マキエさんが初めて「ギャラリーストーカー」を目の前にしたのは、作家活動を始めた9年前、50歳のころだった。怒りが湧くというより、何が起こっているか認識できなかったという。
ほかの女性作家に聞くと、被害に遭って1カ月後、ひどい場合では10年ほどたってから忌まわしい記憶がよみがえり、「あれはギャラリーストーカーだったのでは」と気がついたというケースもあったという。
3/7(木) 10:32配信
367
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AERA dot.
美術大の展示会場では。若い作家へのハラスメント行為をする来場者が問題になっている=2020年2月、東京都内
若い女性芸術家などに作品の展覧会場で話しかけ、食事やデートに誘ったり、性的な言葉をかけたりとハラスメント行為をする「ギャラリーストーカー」が問題になっている。作品の購入をにおわせ、会場を離れられない「弱み」に付け込むなどして、相手につきまとうという。芸術大では学生を守ろうと、会場での「警告」や警察との連携などの対策を始めている。
【写真】相次ぐ美大生へのハラスメント行為に、大学からの注意喚起のチラシはこちら
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「乳首を出さないことに、こだわりがあるんですか」
セルフポートレートの作品を撮り続けている写真家・マキエマキさんは8年前、東京・銀座で開いていたヌード作品の展覧会の会場で、50歳ほどの男性から話しかけられた。
バストトップを出さない作品しか撮っていないと伝えると、男性はさらに聞いてきた。
「おしりは出していますけれど、おしりは大丈夫なんですか」
マキエさんはこれまでも、作品を展示した場で「旦那さんとセックスしていますか」と聞かれたことがあった。周囲にほかの来場者がいるのに、「おしり」「おっぱい」「性器(実際はもっと卑わいな言葉)」「セックス」など、露骨な言葉を交えて話しかけられたこともあったという。
そのような行為をする人は、多くが30~60代の男性で、特に50代前後が目立つ印象だが、見た目は「ごく普通の人」ばかり。作品を見に来た来場者の中から、「この人」と見分けることは困難だ。
「いかにも『いやらしい感じのおじさん』ではなくて、なかにはすごく好感の持てるような方もいます」
そしてマキエさんは、明らかに女性に向かって性的な言葉を吐きつけたいだけの人だと判断した場合、「不快ですよ」とはっきり伝えて会話を打ち切っているという。
「でも、社会経験の浅い、若い女性作家さんだと、笑顔を引きつらせながら30分も固まっている状態だったりします」
露骨に性的な言動を口にしなくても、作品については最初の二言三言だけで、その後は異性関係や連絡先などを聞いてきたり、「食事に行こう」「今度会わないか」と誘ってきたりする人もいる。問題ない相手と思って名刺を渡したところ、作品や活動とは関係のないメッセージや不快な画像を送ってくる人もいる。
作家としては、来場者から「作品を気に入っている」と話しかけられれば、最初から無下にはできない。「作品を買ってくれるのでは」と期待もする。そして嫌な思いをすることがあるからといって、本人がギャラリーにいないわけにもいかない。
そんなマキエさんに、
「休みの日にギャラリーに行って若い女性作家と話をするのが楽しみ」
「ニコニコしてくれるので、キャバクラに行くより全然コスパがいい」
そんなことを悪びれずに言う人もいるのだという。
マキエさんは、ため息をつく。
「本当に当たり前のように目にする光景で、個展を開くと毎回、そういう人が必ず現れます。女性だけのグループ展を開くと、『ああ、また来たか』という感じです。体感としては20人に1人くらいですが、作家の年齢が若くなると、その割合はもっと増える感じがします」
■最初は行為を「認識できない」
マキエさんが初めて「ギャラリーストーカー」を目の前にしたのは、作家活動を始めた9年前、50歳のころだった。怒りが湧くというより、何が起こっているか認識できなかったという。
ほかの女性作家に聞くと、被害に遭って1カ月後、ひどい場合では10年ほどたってから忌まわしい記憶がよみがえり、「あれはギャラリーストーカーだったのでは」と気がついたというケースもあったという。
アーティストや研究者でつくる「表現の現場調査団」が、2020年12月~21年1月に芸術家らを対象に実施したアンケートによると、ハラスメント行為の被害を経験したことがある人は、回答者1449人の約8割にのぼった。
被害者を年齢別に見ると、若い世代ほど多く、そのなかで20代の女性では7割超が被害を受けていた。そして被害者全体の約9割が「しばらく時間がたってから、それがハラスメントに当たる行為だったと気づいた経験がある」と答えていた。
同調査団がまとめた「『表現の現場』ハラスメント白書2021」には、こう書かれている。
<アート分野の自由記述欄には、ギャラリーストーカーの被害体験の報告が非常に多かった。ギャラリーストーカーがストレスであるために展覧会や表現活動を控えるケースも見られる>
■美術大学は対策を強化
芸術家をめざす若者らが通う美術大学では近年、ギャラリーストーカー対策を強化している。
武蔵野美術大では21年度の卒業・修了制作展で、来場者が学生につきまといを繰り返す事案が発生し、それ以降、ギャラリーストーカー行為に厳しい目を向けるようになった。
同大教務チームによると、確認されたケースで最も多いのは「長時間にわたって一方的に話しかける」行為。さらに「執拗に個人情報を聞き出す」「プライベートに会うことを誘う」「卑猥な言動」「盗撮」「写真撮影の強要」「作品に対して高圧的に批評する」などだ。
「ひどい場合は警告書を手渡したり、そのような行為を2度と行わない旨の誓約書を書かせたりします」
と、同チームの担当者は言う。地元警察に相談し、悪質なギャラリーストーカーが現れた際の連携の流れも整えているという。
さらに同大は、卒業・修了制作展に向けた教職員用の「不審者対応マニュアル」と、学生用の「安全の確保と通報のマニュアル」を作った。
来場者には、チラシや立て看板などでギャラリーストーカー行為への注意喚起をするとともに、そのような行為をした人物に対しては退場を求めたり、警察へ通報することを伝えている。1月にあった今年度の制作展では、警備員の見回り頻度を倍に増やしたという。
「来場者からの作品への真摯な批評、感想というのは非常に貴重であり、ありがたいと思っております。学生も作家としてそれを自覚して、大学もそれがあっての美術教育だと認識しています」(同)
その一方でギャラリーストーカー行為は、学生の社会や関係者との大切な接点を逆手にとった「非常に卑怯な行為」と大学は言う。
東京造形大も、卒業制作展の会場を警備員や教職員が定期的に見回り、学生に対してはギャラリーストーカー対策として、「作品に関係のない質問には答えないこと」「不審な人物と遭遇したり見かけたりした場合は、直ちにその場を離れ、近くの教職員に連絡すること」と伝えたという。
そのほか、女子美術大や多摩美術大、東京藝術大、日大芸術学部も、同様な対策をとっているという。
■ようやく被害に光が
「女性作家が個展を開くと、『変なおじさん』が来る」
記者はそんな話を、30年ほど前からしばしば耳にしてきた。それが「ギャラリーストーカー」として認識されるようになったのは、ごく最近のことだ。
マキエさんは、悔しさを訴える。
「ギャラリーストーカーの被害についてSNSに投稿すると、男性から『無視すればいい』『気にするな』と返ってくることがあります。男性からすれば、その被害がさほど深刻なものととらえられてこなかった実情があります」
ギャラリーストーカーによる被害は深刻な一方、マキエさんのように当事者が声を上げることはまれだ。
「その場から逃げることもできず、声を上げにくい人間を狙ってくる彼らの行為は卑劣です。一度、その味をしめた彼らは、社会が声を上げなければ、行為をやめないでしょう」(マキエさん)
(AERA dot.編集部・米倉昭仁)
被害者を年齢別に見ると、若い世代ほど多く、そのなかで20代の女性では7割超が被害を受けていた。そして被害者全体の約9割が「しばらく時間がたってから、それがハラスメントに当たる行為だったと気づいた経験がある」と答えていた。
同調査団がまとめた「『表現の現場』ハラスメント白書2021」には、こう書かれている。
<アート分野の自由記述欄には、ギャラリーストーカーの被害体験の報告が非常に多かった。ギャラリーストーカーがストレスであるために展覧会や表現活動を控えるケースも見られる>
■美術大学は対策を強化
芸術家をめざす若者らが通う美術大学では近年、ギャラリーストーカー対策を強化している。
武蔵野美術大では21年度の卒業・修了制作展で、来場者が学生につきまといを繰り返す事案が発生し、それ以降、ギャラリーストーカー行為に厳しい目を向けるようになった。
同大教務チームによると、確認されたケースで最も多いのは「長時間にわたって一方的に話しかける」行為。さらに「執拗に個人情報を聞き出す」「プライベートに会うことを誘う」「卑猥な言動」「盗撮」「写真撮影の強要」「作品に対して高圧的に批評する」などだ。
「ひどい場合は警告書を手渡したり、そのような行為を2度と行わない旨の誓約書を書かせたりします」
と、同チームの担当者は言う。地元警察に相談し、悪質なギャラリーストーカーが現れた際の連携の流れも整えているという。
さらに同大は、卒業・修了制作展に向けた教職員用の「不審者対応マニュアル」と、学生用の「安全の確保と通報のマニュアル」を作った。
来場者には、チラシや立て看板などでギャラリーストーカー行為への注意喚起をするとともに、そのような行為をした人物に対しては退場を求めたり、警察へ通報することを伝えている。1月にあった今年度の制作展では、警備員の見回り頻度を倍に増やしたという。
「来場者からの作品への真摯な批評、感想というのは非常に貴重であり、ありがたいと思っております。学生も作家としてそれを自覚して、大学もそれがあっての美術教育だと認識しています」(同)
その一方でギャラリーストーカー行為は、学生の社会や関係者との大切な接点を逆手にとった「非常に卑怯な行為」と大学は言う。
東京造形大も、卒業制作展の会場を警備員や教職員が定期的に見回り、学生に対してはギャラリーストーカー対策として、「作品に関係のない質問には答えないこと」「不審な人物と遭遇したり見かけたりした場合は、直ちにその場を離れ、近くの教職員に連絡すること」と伝えたという。
そのほか、女子美術大や多摩美術大、東京藝術大、日大芸術学部も、同様な対策をとっているという。
■ようやく被害に光が
「女性作家が個展を開くと、『変なおじさん』が来る」
記者はそんな話を、30年ほど前からしばしば耳にしてきた。それが「ギャラリーストーカー」として認識されるようになったのは、ごく最近のことだ。
マキエさんは、悔しさを訴える。
「ギャラリーストーカーの被害についてSNSに投稿すると、男性から『無視すればいい』『気にするな』と返ってくることがあります。男性からすれば、その被害がさほど深刻なものととらえられてこなかった実情があります」
ギャラリーストーカーによる被害は深刻な一方、マキエさんのように当事者が声を上げることはまれだ。
「その場から逃げることもできず、声を上げにくい人間を狙ってくる彼らの行為は卑劣です。一度、その味をしめた彼らは、社会が声を上げなければ、行為をやめないでしょう」(マキエさん)
(AERA dot.編集部・米倉昭仁)