窓ガラスを割り、ハンマーで殴る…首都圏で「荒っぽい強盗事件」が多発する深刻なワケ
10/22(火) 6:02配信
一連の事件を巡って合同捜査本部は、実行役が被害者宅に多額の現金や貴金属があることを知っていたとみている。犯行グループが事前にリフォームの飛び込み営業などを装って住宅に上がり込み、資産状況を確認していた可能性がある。ダイヤモンド・オンライン
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首都圏で一般住宅を狙った強盗事件が相次いでいる事を受け、警視庁とさいたま、千葉、神奈川の各県警は合同捜査本部を設置し、8月以降に発生した計14事件を重点的に捜査する方針を固めた。これまで逮捕された実行役はいずれもSNSに投稿された「荷物の運搬」「ホワイト案件」「日給5万円」などのうたい文句に誘われ、指示役に秘匿性の高い通信アプリ「シグナル」で運転免許証などの写真を送信。「逃げても捜し出す」「家族を殺す」などと脅され、がんじがらめにされていた。(事件ジャーナリスト 戸田一法)
● 窓ガラスを割って侵入し ハンマーで殴る荒っぽい手口
14事件は(1)8月27~28日にさいたま市で強盗致傷、(2)同29日に千葉県八千代市で強盗予備、(3)同31日にさいたま市で強盗予備、(4)同日に神奈川県厚木市で強盗致傷、(5)9月3日に同県鎌倉市で強盗致傷、(6)同18日にさいたま市で強盗致傷、(7)同26日に千葉県船橋市で強盗未遂、(8)同28日に東京都練馬区で強盗致傷、(9)同30日に東京都国分寺市で強盗致傷、(10)10月1日に埼玉県所沢市で強盗致傷、(11)10月9日に千葉県船橋市で強盗致傷、(12)10月15日に横浜市で強盗殺人、(13)10月16日に千葉県白井市で強盗傷害、(14)10月17日に同県市川市で強盗致傷―だ。
いずれも未明の時間帯に高齢者が住む住宅の窓ガラスを割って複数人で侵入し、住民を粘着テープなどで拘束して金品を奪うという荒っぽい手口が共通している。(12)は男性(75)がテープで手足のほか、顔にもテープが巻かれており、死因は全身打撲による失血死。鈍器で繰り返し殴られたとみられ、複数箇所が骨折していた。
(14)は、室内にこじ開けられた金庫やタンスの引き出し、犯行に使われたとみられるテープやハンマーが散乱。就寝中に襲われて拉致・監禁された女性(50)のおびただしい血痕が残されていた。
逮捕された容疑者らの供述によると、強盗であることを知らず、高額報酬を目当てに指示された場所に到着して初めて知らされたケースもあった。ほかにも犯行の後日、報酬を受け取るために指示された場所に向かうと再び犯行を強制されたり、スマホなど所持品を奪われて監禁されたりする事件なども起きている。
これまで事件に関与した30人以上が逮捕されているが、そのうち(14)に加担した男(21)は神奈川県警都筑署に名乗り出て「闇バイトに応募して強盗に加担したが嫌になった」「ほかの事件にも関与している」などと話しているという。
● SNSを通じて離合集散を繰り返す 犯罪者集団の「トクリュウ」
こうしたお互いの素性を知らず、SNSを通じて離合集散を繰り返す犯罪者集団を警察庁は「匿名・流動型犯罪グループ」(トクリュウ)と定義している。
元々は特殊詐欺で多く見られたパターンだが、2022~23年に表面化した「ルフィ事件」では広域強盗・強盗殺人にまで闇バイトの募集が拡大していたことが明らかになり、警察庁は各都道府県警本部に態勢の強化を指示。各本部で捜査を担当する刑事・組織犯罪対策部門が専従班を組織するなど目を光らせている。
しかし、そもそもトクリュウは匿名性の高いSNSで連絡を取り合い、犯行の時だけ顔を合わせるというケースがほとんど。指示役が誰なのか、実行役が何人なのか、収益の分配はどうなっているのかなど、募集された闇バイトは何も知らされておらず、末端である実行役を摘発しても全容解明は困難を極める。
実際に一連の首都圏強盗事件で逮捕された男(23)は「松本と大谷と名乗る人物から指示を受けていた」と供述。指示役は複数いると見られるが、当然に会ったこともなければ、どこにいるのかも分からないという状況だ。
筆者の後輩である全国紙社会部デスクによると、アプリのアカウント名は30以上が使われているのが確認されている。松本や大谷のほか「赤西」「中川」「橋口」といった人名とみられるものや、「徳川家康」「織田信長」「明智光秀」「夏目漱石」など歴史上の人物、「JOJO」「Drヒルルク」などアニメの登場人物、「B」「G」などアルファベットもあったという。
このうち複数が3件以上の事件に関与しているとみられるが、いずれも同じ指示役が組織した実行役のグループで利用。犯行が発覚した後、捜査の追跡を逃れるため、一定期間を過ぎたら別のアカウントに乗り換えていた可能性があるという。
● リフォーム業者装い ターゲットを下見
一連の事件を巡って合同捜査本部は、実行役が被害者宅に多額の現金や貴金属があることを知っていたとみている。犯行グループが事前にリフォームの飛び込み営業などを装って住宅に上がり込み、資産状況を確認していた可能性がある。
(12)の事件があった現場周辺では、水道管検査や宝石商を名乗る男が相次いで近隣の住宅を訪問。(9)や(14)の事件があった周辺でも、リフォーム業者を名乗る男が営業で訪れていたという。
前述の社会部デスクによると、男らを自宅に上げた住人の何人かは「工事とは関係ない場所をのぞき込んでいるようで、不審に思った」「いま思うと、挙動がおかしかった」などと感じていたという。
(9)の事件に関与したと見られる男はリフォーム業の経験があり、被害者の女性は昨年末、飛び込みの業者に高額な工事を依頼していたことから、顧客名簿が事件に悪用されていた疑いも浮上している。
いずれにしろ、指示役は自ら現場に赴くことはなく暗躍し、下見から強盗の実行まですべて闇バイトで募集した人物に押し付けていたわけだ。さらには実行役に顔を見られないようにするためか、奪った金品の回収役もいたようで、その役割を果たしていたとして職業不詳の女(30)や大学生の男(21)も逮捕されている。
● 闇バイトは極刑になりかねない愚行 警察庁は「勇気を持って」「確実に保護」
言うまでもなく、強盗罪は5年以上の有期刑と重罪で、怪我をさせた場合(強盗致傷罪)や死亡させた場合(強盗致死罪)はさらに重くなる。強盗殺人罪となれば犯行の態様によっては死刑の可能性さえ出てくる。
これだけ社会を不安に陥らせ注目された事件に全国の警察が手をこまねいているはずはなく、威信を掛け総力を尽くすのは必至だ。そうなれば実行犯が逃げ切るのは極めて難しいだろう。闇バイトは「高額報酬」をうたい文句にしているが、わずか数万円のために人生を棒に振るどころか、極刑にさえなりかねない愚行なわけだ。
それでもわずかでも手元に入るならまだしも、報酬を受け取るために指定された場所に出向くと次の事件を強制されたり、暴行・監禁されるという有り様で、指示役は闇バイトを捨て駒やトカゲの尻尾どころか、虫けらほどにも思っていないのは間違いない。
募集の際に免許証などの個人情報を提出してしまっていたため、指示役の脅迫に屈してしまっている面は否めない。
しかし、警察庁はこう呼びかけている。「勇気を持って抜け出し、すぐに警察に相談を」「警察は相談を受けたあなたや、ご家族を確実に保護します」