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人間中心ではなく自然を軸とした地域社会のデザイン-TERAKOYA読書会Ⅵ-第1回

2020-12-23 15:52:07 | 地域貢献

「街道ぜんぶが学びの場」と称して、Youtubeでのライブ配信やZoomでのセミナーなどオンラインとリアルをおりまぜて開催した日光街道太陽のもとのてらこや

日本ES開発協会Youtubeチャンネル▼

例年以上に、街道沿いのまちの方たちの温かなおもてなしをいただき、ご縁を深める道のりとなりました。
それぞれのまちには、モノも人も往来しさまざまな働き(仕事)が混ざり合う「街道」という資産をもったまちとしての誇り・気概があり、他のまちとも道でつながりヨソモノを温かく迎え入れる越境人材としての気質が流れていました。
だからこそ、このような制約ある状況の中でも力強く行動するまちの方たちの存在がより際立ったのではないかと感じています。

一方、このイベントを開催する前の10月に、「都道府県魅力度ランキング」が発表されました。
なんと、日光街道のゴール地・日光東照宮を含む栃木県は、最下位。手前の埼玉県は38位。古河や日光東往還がある茨城県は42位。
いずれも、なんだか残念な結果となり、皆で「何でだろうねえ」としばし議論をする場面がありました。
「魅力」をどう定義するか、という点がありますが、12回このイベントを開催し、まちのさまざまなご縁の方たちと交流を深めてきたわたしたちにとっては、日光街道沿いには魅力あるまちが連なっています。

そこには、「つながりの豊かさ」「越境人材の存在」「接点を増やす場づくり」といった視点から捉えた魅力があり、
「このまちに関わりたい」「このまちを応援したい」「このまちを紹介したい」という気持ちを高めてくれます。
結果、直接的な住民を増やすことはできませんが、少しずつ「関係人口」を増やしていくことには寄与しているのではないかとも考えています。

このコロナ禍で、過密な東京を抜け出し地方で暮らすという選択肢も増えてきました。
でも、地方には地方の、つながりが強い故の大変さも存在しています。
わたしたちが関わる「働く」というコトは、それぞれの地域の特性の中で暮らしかたが育まれ、そこから自ずと働き方が形づくられるのが本来だと言えます。例えば、雪国には雪国の、離島には離島の、山あいには山を中心とした暮らしかたがあり、そこでの時間の流れ・モノの往来などを踏まえた仕事が生まれ、働き方が形づくられてきました。
しかし、今のこの働き方改革の流れは、そういった「地域の特性で育まれた暮らし」という地盤を捉えずに、表面的なところで議論してしまっているようにも感じます。また、特に戦後の都心への一極集中の流れは、「都会に行けば仕事がある」「地方の暮らしは不便」という固定概念を強め、地域に根差した暮らしかたの魅力を見えなくしてしまったのではないかとも感じます。

Stay Home、Social Distance で、これまでの当たり前がとても貴重なものであったのだと気づかされたいまこの時期だからこそ、「ローカルと都市のあり方」「地域の暮らしから考える働き方」を考えていくことで、これからのわたしたちの幸せな生き方を描くヒントを見つけ出せるのでは、ということで、今回のこの読書会&セミナー開催に至りました。

◆オンライン読書会◆
「地域のつながりを起点とした幸せな経済のまわしかた」

課題図書は『経済成長なき幸福国家論(平田オリザ×藻谷浩介)』です。一回目の要約講義は、第一章。

この章は、著者の演劇人である平田オリザさんと経済人・藻谷浩介さんが、それぞれどのような文脈で地域を語るのか、という整理から始まります。
まずドキリとするのは、「下り列車に乗った先の地方で舞台をつくる」というオリザさんが表現する言葉。
特別な理由なく「就職は東京で」と決めて、ひたすらに上り列車に乗ってはたらく場を探していた自分の学生時代をふと思い出しました。

あの頃はまだインターネット出始めの時期。地方の大学だと唯一学内の回線に繋がったゴツいパソコンで、緊張しながらYahoo検索をして情報を集めていたものです。
就職氷河期である上に、広がる情報格差。でも、学生はそんなことに気づくはずもなく、「大学を出たらフルタイム正社員で働くものだ」という固定概念のもとで、一生懸命、都会でのキャリアを夢見て上り列車に乗っていたのでした。
運良くわたしは今の職場で働く縁をいただき、「まずはインターンから」「仕事は週3日分しかないから、あとは副業しても良い」「社労士資格ではなくキャリアコンサルタントを取ってみたら」等、矢萩が示すユニークな道筋に自分の変わり者精神が引き出され、今のキャリアを歩ませてもらっていますが、そのような「枠にはまらない」生き方をしているわたしのような人間にとっては、過干渉がない都会は暮らしやすいとも言えます。

一方、電車も車もたくさん動いて何でもモノが買える都会は、便利だけれども、震災やこのコロナ禍で露呈されたように「脆さ」があります。
東京一極集中であらゆる物理的なつながりは存在しているけれども、無縁社会という言葉にも表されるような”オモテには見えないつながり”の希薄さも内包している、都会。
そこには、「”経済成長=幸せ”という概念」がいつまでも残り、なにかひずみが生じていることにはうすうす気づきつつも、変わらなくても何とかなる生温さを持った日本社会の構造ができあがっているのではないかと感じます。
そのような状況を「東京中心発想のやばさ」とバッサリ言い切る著者が、これからの日本の生きる道として掲げるのが「文化」です。

ここではゲームやアニメの文化が取り上げられていますが、例えば、つい最近には、茅葺きや畳、左官など「伝統建築工匠の技・木造建築を受け継ぐための伝統技術」がユネスコ無形文化遺産に登録されました。また、同じく2013年に登録された和食文化も、日本が世界に誇る文化遺産です。
このような文化に焦点をあて、現代の資本主義社会において課題として浮き彫りになっているところに、文化をアップデートしながら取り入れ、課題解決をしていく地域づくりこそ、これからの日本に必要な道筋である、というわけです。
東京には江戸文化、関東一円にも日光東照宮を基点とした日光街道をはじめとするさまざまな文化遺産が存在しています。

文化に着目すれば、都会と地方・中央と周辺という分断ではなく、別の角度で地域のあり方を考えることができるでしょう。そして、目には見えない価値を大切に捉える視点は、お金ではない共感でつながるこれからの経済との相互作用もあり、地域にハレの空気を流し込んでくれるのではないかと思います。

このような「文化」に焦点をあてたまちづくりに取り組む地域のひとつとして頭に浮かぶのが、日光街道の東往還、利根川沿いの水運のまち・境(茨城県猿島郡)です。
江戸時代に水運で発展した河岸の文化を土壌に、ヒトが集う商業施設や美術館などをまちの人々と共に運営し、クラフトビール(さかい河岸ブルワリー)などの新たな価値を創りながら、起業家やヤングファミリーが暮らしやすいまちを展開しています。

そこには、力強いリーダーシップと共に、異なりを取り入れる越境人材的な存在があり、成長というよりは変化という言葉がぴったりなまちであるとも言えます。

読書会の特別講義の中で、ジャーナリストの浅川芳裕さんは、地域でスマートテロワールを推進する上での「放牧」という考え方をお話くださいました。
土地にひつじなどの動物を放すと、自由にあるきまわる中で徐々にエサ場や水飲み場、歩くルートといった秩序が自然とできていくわけだから、最初からルールや制度の枠組みに囚われず、まずは放牧の感覚で動いていけば良い。
そこには、人間中心ではなく自然を軸とした地域社会のデザイン、という考え方が重なります。
これからの地域のあり方を考える時に、数や規模、お金といった目に見える資産を指標とする枠組みを一度とっぱらって、そこにある自然や文化を中心としたデザインを描いてみる、ということがいま必要なのではないかと思うのです。

次回は第二章、「地方の活力に学べ」をお送り致します。