城台山日記

 城台山の麓で生まれ、毎日この山に登り、野菜・花づくり、読書、山登りをこよなく愛する年寄りの感動と失敗の生活日記です。

光の教会・安藤忠雄の現場 21.2.21

2021-02-21 17:15:57 | 面白い本はないか
 貴方はこの中で誰を知っていますか。フランク・ロイド・ライト、ル・コルビジェ、辰野金吾、丹下健三、磯崎新、黒川紀章そして今回の安藤忠雄。いずれも著名な建築家で、ライトは帝国ホテル(今は明治村にある)、コルビジェは西洋美樹館、辰野金吾は東京駅、丹下健三は東京都庁がその作品として有名である。それ以下の建築家の作品なら岐阜県にもある。磯崎新は多治見市にある現代陶芸美樹館、黒川紀章は大垣市のソフトピアジャパン、そして安藤忠雄は岐阜市にある国際会議場がその作品である(この時期こうした有名建築家の作品がぼこぼこ建った)。

 今回紹介する平松剛「光の教会・安藤忠雄の現場」は大学で建築、特に構造設計を学んだ著者が書いたノンフィクションである。おじさんとこの本との出会いは、武田徹「現代日本を読むノンフィクション」で紹介された沢山の中の一冊である。同じ著者が書いた「磯崎新の「都庁」」も面白そうであったが、今回は「光の教会」の方を選んだ。県図書館で本を借りるのは、まずは新刊本の中から面白そうな本をピックアップするのとこうした他の本で紹介された本を芋づる式に選んだ本、さらには新刊本のおいてあるまわりの書架を眺めて選ぶ。

 光の教会とその設計に取り組む安藤忠雄のイラストが魅力的

 安藤忠雄といえばテレビでも何回も取り上げられているので、ご承知の方も多いと思う。コンクリート打ちっ放しの外観、壁は特に有名である。プロのボクサーの経歴を持ち、高卒ながら東大の教授にまでなってしまった。岐阜市の職員で国際会議場建設の担当になった人によれば、彼との交渉は極めて大変だったと聞いた。自分の理想、アイデアにこだわる一方で事務所の職員の意見も良く聞く。無類の議論好きで、設計の途中で新たなアイデアが湧いてくる。これにつきあう工務店、赤字になることがわかっているのだが、建築家の夢を実現するために伴走してしまう。下手な解説はこれくらいにして、以下に同書から興味を惹いた箇所を引用する。

 有名な「住吉の長屋」 長方形が3等分され2階の両端の部屋は寝室、真ん中は中庭でトイレは1階にしかないので、一旦中庭に出てから階段を降りる必要がある

 「120人は収容可能な教会堂という要求である。坪50万円(50坪総額2500万円)の予算ではいかんともしがたい。原価で引き受けてくれる工務店を見つけなければ、とてもできあがらないだろう。しかし現実問題としてそんな都合のいい話に乗ってくれる工務店など果たして存在するのであろうか。施主(教会側)と建築家にいくら熱意や理想があろうとも、第三者である工務店を動かすのは基本的に金である。そんなことは十分分かっていた。しかし仮に偽善的な物言いであっても、人の想いが経済を超えることはできないものか?そんな瞬間を是非見てみたい」(もちろん建築家はこの話を受け、懇意にしている工務店に依頼することになる)
「芸術家であると同時に設計事務所の経営者でもある安藤にとって、茨木春日丘教会の仕事は他のものと意味合いが異なっていた。これを手がけることは事務所の金銭面の利益にはまったく寄与しない。明らかにマイナスである。(略)この教会は大げさに言えば、彼の社会に対する挑戦であり、批評でもあった。(この頃列島はリゾート法などにより乱開発が起きていた)」


 「水谷(建築事務所職員で今回「光の教会」の現場監督、これとは別に実際の工事を差配する工務店の現場監督がいる。彼は京大卒で学生時代から安藤事務所にアルバイトしていた)がアルバイトを通して見続けた建築家は、とにかくスタッフを叱り、いろいろな細かいことを絶えず気にしながら設計を行う人物だった。その真剣さ。」「安藤事務所はまさに弟子が建築の仕事を修行する場なのである。」

 (光の十字架というアイデアが出るのに半年以上を費やした)「茨木春日丘教会(光の教会)ではその印象から「光に人間の気持ちが全部集まるような教会ができないかものか」と彼は考えた。開口部を十字架の部分だけにすると「光の十字架」ができるでだろう。そしてその光の十字架に、そこに集まる人たちすべての気持ちが集まっていくというようにならないだろうか。」

 光の教会の最奥部に光が差し込むスリットが設けられている この光の十字架を強調するために室内は暗い
 

 「建築の現場は、監督を中心に、多業種にわたる下請け会社を組織して進められる。それら下請け会社はもちろん工務店の専属会社ではないから、それぞれ他にさまざまな物件の仕事の予定がある。(略)そこへ一箇所でも変更とか中断がでてくると、折角苦心して立てた予定が、がたがたに崩れてしまう。そうなると現場監督はつらい。あちこちに頭を下げて回らねばならない。」(工務店の社長の言葉)「私たちの仕事は、いろいろな業者や職人のかたがたの協力のうえに成り立っています。ですから私はこれから、そのいろいろな方々にご理解を求めていくわけです」(とにかく予算がないので、安い金で仕事をしてくれということになる。ますます現場監督は苦しくなる。)

 (各建築設計は安藤+スタッフ1名で行われる)安藤の言葉「スタッフと僕との間は、すごい緊張関係があって。どっちがどっちを押さえ込むか、という関係やから。施主と僕よりは、僕とスタッフの関係の方が緊張しているな。」
(安藤の言葉)「建築というのは生きモノだ、と僕は思っていまから、やっぱり自分が作ったモノは、自分が元気な間は気持ちをかけていく、気持ちと常にかけて、ちょっとずつでも良くなることを、自分でできる範囲でやりたいと思います。」「基本的に自分たちがその地域にこういう教会を持っている、こういう教会にいるという誇りを持てるようなモノを作りたいというのがわれわれの気持ちなんですね。」

 最後に著者は、一建築の誕生を建築の内側にいる人間がその知識を駆使してノンフィクションとした描き出したもので本格的なものは本書が初めてではないかと言っている。安藤忠雄という稀代の建築家の考え、生き方などがよくわかると同時に、一建築ができあがるまでの過程を余すことなく描き出していて、未知の世界へといざなう読書の醍醐味を味わうことができる一冊である。



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