今年の春からの山登りは、近場の山に咲く「花を追いかけて」を最大の目標にしている。3月下旬の福寿草(鈴鹿・鈴ヶ岳)、4月のイワザクラ(舟伏山)、山シャクヤク(飯盛山)、6月のキヌガサソウ・サンカヨウ他(籾糠山)などで、雨のため登れなかった山もある。そして、このあとは高い山の高山植物(森林限界の上に咲いている植物)を求めて登りたいところだが、6月下旬の八ヶ岳を除けば今のところ計画はない。
県図書館で工藤岳著「日本の高山植物ーどうやって生きているのか?」を見つけ、早速読んでみた。ずっと前に読んだ本で小泉武栄著「日本の山と高山植物」のがあった。この本をネタにして「日本の山と高山植物についての豆知識」(2021.4.16)というブログ記事を書いた。どちらも高山植物について書かれたものであるが、前者は大雪山をベースに30年以上高山植物を研究してきた著者により書かれた本であるのに対し、後者は高山や極地の植生分布と地経・地質の関わりまどを研究してきた著者により書かれた本で、少し内容が違っている。今回は前者の本、中でも興味を持ったところを中心に書いてみたい。
※前回のブログでは、森林限界を超える場所でのハイマツと高山植物のせめぎあい、すなわちハイマツがあるところではお花畑は存在できなこと、ハイマツは雪が遅くまで残るような場所では生きていけないこと(雪の深さとハイマツの高さがほぼ等しくなる。雪が多いと光合成ができる期間が短く生きていけない。)、そしてこのような場所にこそお花畑は集中することを書いた。
著者と高山植物の出会いは中学生の時に登った白馬岳で、そのあと大学生の時に日本の山を歩き回った。そのとき感じた大きな疑問が、「厳しい環境に生える高山植物は、なぜこんなきれいな花を咲かせるのだろうか」という素朴なものだった。そして、大雪山を訪れ、その圧倒的なスケールの高山帯に出くわし、その後北海道大学で研究を続けてきた。大学院生時代だった当時、高山植物に関する学術論文ほほとんどなかった。
花がきれいな理由とは? 私たち人間に見てもらうために美しいのだろうか?もちろんそんなことを考えている花はない。植物が花を作るのは、ただ一つの目的のためで、生物ならば全て同じで子孫を残すためということになる。植物は動物のように動くことはできない。ではこの動けない植物の生殖活動はどのように行われるのか。離れた相手に花粉を送り届けるためには、第三者の助けが必要となる。それが風の場合(風媒花)もあれば、昆虫や小動物の場合もある。昆虫等に運んでもらうためには、その動物を引き寄せる必要があり、これが花がきれいな理由ということになる。
※昆虫は花粉を食べる、あまりたくさん食べられては困るので花が昆虫に提供する食べ物として蜜が発達した。
両性花とは?被子植物のうち7割はひとつの花の中におしべとめしべの両方を持っている。繁殖のチャンスを増やすために、花粉を提供して他の個体が作る種子の花粉親(父親)にもなれるし、自ら種子を作って種子親(母親)にもなれる。しかし、ほとんどの植物が他の株の花粉を受け入れる(他家授粉)のは生き残る可能性を高めるためである。
花粉を運ぶ昆虫にはどんな虫がいるのか?
ハエの多いのにびっくりされるであろう 63ページから引用
ハエはとても重要な運び手である。そのわけは高山の短い夏の間でも数世代を繰り返すことができるからである。
66ページから引用
一方でハナバチ類の多くはマルハナバチで、この蜂はコロニーを作るので、女王蜂から産まれた働き蜂が運び手となる。
マルハナバチ
このハチは、野菜例えばトマトやナスの授粉のために利用されている。問題となっているのは、ハウスの中での授粉のために導入したセイヨウオオマルハナバチが野生化し、在来種を打ち負かしたり、交雑が進んだり、あるいは結実率が低下するなどの生態系のかく乱を引き起こしていることである。
120ページから引用 まさしく高山植物の開花に合わせた生活サイクルとなっている
7月後半から8月下旬にかけてが運び手の数が最も多くなり、授粉の成功率も高まる
ハエとマルハナバチの違いは?マルハナバチはハエと比べると訪れる花が格段に多いことである。そして、それぞれのハチは、その時々で特定の花を選んで利用することが多い(沢山の種類の花が咲いている中で不特定の花を訪れると授粉の効率は非常に悪くなる)。ハエは白や黄色の花を好む傾向があるのに対し、マルハナバチは、さまざまな波長の色を識別でき、特に紫色系に強く反応する。
97ページから引用 ニュージーランドの高山帯の花は全般的に花が小さく、目立たないものが多い。その理由として考えられるのは、ハエはいるもののマルハナバチなどハチ類がいないこと
マルハナバチがいるからこそ、日本の高山植物は多様であることができたことを理解出来たであろう。問題は、地球の温暖化によって、雪が融けだす時期が早くなり、それにマルハナバチの生活サイクルが追いつかなくなるとどうなるのだろうか。雪どけが早くなり、花が早く咲くようになるのだが、この時にはマルハナバチの働き蜂はまだいない。そうだとすると花粉を運んでくれるハチはいなくなる。ハエはいるだろうから、ニュージーランドのように今よりもずっと花の種類が少なくなる可能性が高くなる。加えて温暖化により森林限界(北アルプス2300m、南アルプス2700m、鳥海山1500m、大雪山1300m)が高くなり、高山植物の生息地域が小さくなるのも大きな問題である。
この本を読んでいて少し分からないことがある。高山植物の生育期間は6月~8月と非常に短くこの間に花を咲かせ、授粉を成功させ、種を結実させ、それが地面に落ちて発芽する。しかし、その頃には気温は下がり、雪が降る。発芽するのが翌年であっても時間は短い。高山植物はほとんどが多年草であるから(理由として種からの発芽、成長が難しい)雪の期間は根が残り、それが雪どけを待って発芽し、成長する。そうするとなぜ種を作る必要があるのだろうか。多年草であってもずっと咲き続けるわけでないと考えると他家受粉によって種を作り、常に株を更新していかないといけないのだと考えるのはどうであろうか。
県図書館で工藤岳著「日本の高山植物ーどうやって生きているのか?」を見つけ、早速読んでみた。ずっと前に読んだ本で小泉武栄著「日本の山と高山植物」のがあった。この本をネタにして「日本の山と高山植物についての豆知識」(2021.4.16)というブログ記事を書いた。どちらも高山植物について書かれたものであるが、前者は大雪山をベースに30年以上高山植物を研究してきた著者により書かれた本であるのに対し、後者は高山や極地の植生分布と地経・地質の関わりまどを研究してきた著者により書かれた本で、少し内容が違っている。今回は前者の本、中でも興味を持ったところを中心に書いてみたい。
※前回のブログでは、森林限界を超える場所でのハイマツと高山植物のせめぎあい、すなわちハイマツがあるところではお花畑は存在できなこと、ハイマツは雪が遅くまで残るような場所では生きていけないこと(雪の深さとハイマツの高さがほぼ等しくなる。雪が多いと光合成ができる期間が短く生きていけない。)、そしてこのような場所にこそお花畑は集中することを書いた。
著者と高山植物の出会いは中学生の時に登った白馬岳で、そのあと大学生の時に日本の山を歩き回った。そのとき感じた大きな疑問が、「厳しい環境に生える高山植物は、なぜこんなきれいな花を咲かせるのだろうか」という素朴なものだった。そして、大雪山を訪れ、その圧倒的なスケールの高山帯に出くわし、その後北海道大学で研究を続けてきた。大学院生時代だった当時、高山植物に関する学術論文ほほとんどなかった。
花がきれいな理由とは? 私たち人間に見てもらうために美しいのだろうか?もちろんそんなことを考えている花はない。植物が花を作るのは、ただ一つの目的のためで、生物ならば全て同じで子孫を残すためということになる。植物は動物のように動くことはできない。ではこの動けない植物の生殖活動はどのように行われるのか。離れた相手に花粉を送り届けるためには、第三者の助けが必要となる。それが風の場合(風媒花)もあれば、昆虫や小動物の場合もある。昆虫等に運んでもらうためには、その動物を引き寄せる必要があり、これが花がきれいな理由ということになる。
※昆虫は花粉を食べる、あまりたくさん食べられては困るので花が昆虫に提供する食べ物として蜜が発達した。
両性花とは?被子植物のうち7割はひとつの花の中におしべとめしべの両方を持っている。繁殖のチャンスを増やすために、花粉を提供して他の個体が作る種子の花粉親(父親)にもなれるし、自ら種子を作って種子親(母親)にもなれる。しかし、ほとんどの植物が他の株の花粉を受け入れる(他家授粉)のは生き残る可能性を高めるためである。
花粉を運ぶ昆虫にはどんな虫がいるのか?
ハエの多いのにびっくりされるであろう 63ページから引用
ハエはとても重要な運び手である。そのわけは高山の短い夏の間でも数世代を繰り返すことができるからである。
66ページから引用
一方でハナバチ類の多くはマルハナバチで、この蜂はコロニーを作るので、女王蜂から産まれた働き蜂が運び手となる。
マルハナバチ
このハチは、野菜例えばトマトやナスの授粉のために利用されている。問題となっているのは、ハウスの中での授粉のために導入したセイヨウオオマルハナバチが野生化し、在来種を打ち負かしたり、交雑が進んだり、あるいは結実率が低下するなどの生態系のかく乱を引き起こしていることである。
120ページから引用 まさしく高山植物の開花に合わせた生活サイクルとなっている
7月後半から8月下旬にかけてが運び手の数が最も多くなり、授粉の成功率も高まる
ハエとマルハナバチの違いは?マルハナバチはハエと比べると訪れる花が格段に多いことである。そして、それぞれのハチは、その時々で特定の花を選んで利用することが多い(沢山の種類の花が咲いている中で不特定の花を訪れると授粉の効率は非常に悪くなる)。ハエは白や黄色の花を好む傾向があるのに対し、マルハナバチは、さまざまな波長の色を識別でき、特に紫色系に強く反応する。
97ページから引用 ニュージーランドの高山帯の花は全般的に花が小さく、目立たないものが多い。その理由として考えられるのは、ハエはいるもののマルハナバチなどハチ類がいないこと
マルハナバチがいるからこそ、日本の高山植物は多様であることができたことを理解出来たであろう。問題は、地球の温暖化によって、雪が融けだす時期が早くなり、それにマルハナバチの生活サイクルが追いつかなくなるとどうなるのだろうか。雪どけが早くなり、花が早く咲くようになるのだが、この時にはマルハナバチの働き蜂はまだいない。そうだとすると花粉を運んでくれるハチはいなくなる。ハエはいるだろうから、ニュージーランドのように今よりもずっと花の種類が少なくなる可能性が高くなる。加えて温暖化により森林限界(北アルプス2300m、南アルプス2700m、鳥海山1500m、大雪山1300m)が高くなり、高山植物の生息地域が小さくなるのも大きな問題である。
この本を読んでいて少し分からないことがある。高山植物の生育期間は6月~8月と非常に短くこの間に花を咲かせ、授粉を成功させ、種を結実させ、それが地面に落ちて発芽する。しかし、その頃には気温は下がり、雪が降る。発芽するのが翌年であっても時間は短い。高山植物はほとんどが多年草であるから(理由として種からの発芽、成長が難しい)雪の期間は根が残り、それが雪どけを待って発芽し、成長する。そうするとなぜ種を作る必要があるのだろうか。多年草であってもずっと咲き続けるわけでないと考えると他家受粉によって種を作り、常に株を更新していかないといけないのだと考えるのはどうであろうか。