醸楽庵(じょうらくあん)だより 

主に芭蕉の俳句、紀行文の鑑賞、お酒、蔵元の話、政治、社会問題、短編小説、文学批評など

醸楽庵だより  789号  白井一道

2018-07-12 11:05:24 | 随筆・小説


  『時代閉塞の現状』石川啄木著 を読む


句郎 石川啄木が一九一〇年八月に書いた『時代閉塞の現状』という評論を読んだ。
華女 一九一〇年というと明治よね。
句郎 明治四三年かな。
華女 明治は四五年まであったのよね。
句郎 そう、明治四五年は七月二九日までのようだよ。七月三十日から大正元年らしいからね。
華女 日本という国の時間を天皇は支配しているのね。
句郎 天皇が亡くなり、新しい天皇が即位すると新しい時代が始まる。天皇が存在して、初めて新しい時間が始まる。
華女 天皇陛下は日本国の宇宙と時間を支配する絶対的な存在として君臨していると明治以来の日本政府は認識しているということなのよね。
句郎 天皇制はいろいろ曲折はあるが奈良時代から延々と続いてきている制度だからね。
華女 日本という国の特色というか、個性のようなものなのかもしれないわ。
句郎 石川啄木は明治末、時代閉塞の現状を嘆いている。「強権、純粋自然主義の最後および明日の考
察」と副題を付けて、当時の若者たちに希望を語ったものが、『時代閉塞の現状』という評論だと思うんだ。
華女 明治末から大正の初めに生きた若者たちは社会の閉塞感に苦しめられていたということなのね。
句郎 そう、仕事を求めても就職口がない。当時の旧制中学を卒業しても仕事が見つからない。
華女 若年失業者がいたということなのね。
句郎 若者の不満が出口を求めていたが、どこにもその不満の出口が見つからない状況があったんじゃないのかな。そのことを時代閉塞の現状と認識し、明日(未来)に向かってどうにかしよう。それには政治権力に働きかけることによって打開できる道があるに違いないとと啄木は述べていると私は理解した。
華女 明治末の政治権力を「強権」と啄木は言っているということね。
句郎 明治政府に対して国民に向いた政治をしてくれということなんじゃないのかな。
華女 若者にも、貧しい人にも仕事をということなのかしら。
句郎 明治政府の富国強兵政策は国民の生活を少しも豊かにしなかった。軍事強国への道は国民の生活を豊かにしない。そのような認識を啄木はおぼろげながらもっていたのじゃないのかな。
華女 そうよね。日本は日清戦争にも日露戦争にも勝利したにも関わらず、国民の生活は苦しく、若者には仕事がなく、閉塞感に苦しむということは、変だと啄木は感じたんじゃないのかしらね。
句郎 そうだよね。啄木が『時代閉塞の現状』を書いたのは一九一〇年だからね。日清戦争も日露戦争も終わり、第一次世界大戦の前夜とも言えるような時だよね。
華女 戦争は国民の生活を少しも豊かにすることはないということなのよね。
句郎 一九一〇年というと大逆事件が六月に起き、幸徳秋水や菅野スガらが天皇暗殺を企てたとして処刑されているからね。
華女 大逆事件とは、フレームアップ、冤罪だったんでしょ。
句郎 一九六〇年代には再審請求が出されているからね。社会主義者を弾圧した明治政府のでっちあげ事件かな。世論を誘導する政府の政治的詐術が大逆事件だったのかな。