醸楽庵(じょうらくあん)だより 

主に芭蕉の俳句、紀行文の鑑賞、お酒、蔵元の話、政治、社会問題、短編小説、文学批評など

醸楽庵だより  798号  白井一道

2018-07-22 05:40:01 | 随筆・小説


  山口の名酒「毛利」を楽しむ


侘輔 今日のお酒は一昨年の十二月、忘年会で楽しんだお酒、覚えている人、いるかな。
呑助 皆、忘れていると思いますよ。何という銘柄のお酒なんですか。
侘助 銘柄は「毛利」と言うんだ。
呑助 山口県の酒ですか。
侘助 正解、毛利元就、「三矢の教え」から想像したのかな。
呑助 子供ころ教わったような気がするな。
侘助 病床に伏した晩年の元就が三人の息子にたれた教訓かな。「一本の矢では簡単に折れるが、三本
纏めると容易に折れないので、三人共々がよく結束して毛利家を守って欲しい」と伝えた話だよね。
呑助 そうですよ。
侘助 戦前の小学校の道徳の教科書に載せられていた話みたいだ。
呑助 「毛利」なんていう銘柄のお酒を飲んだような記憶が全くないというのが実感ですかね。
侘助 坂長さんに聞き、うっすらととても美味しかったお酒だったような記憶が蘇った。
呑助 山口というとまず思い出すのは「獺祭」でしょう。それ以外思い出す酒がないような気がしますよ。
侘助 そうだよね。「獺祭」は圧倒的な人気を博したお酒だものね。
呑助 今日楽しむ「毛利」は「獺祭」に勝るとも劣らないお酒だということなんでしよう。
侘助 もちろん、そうだよ。坂長さんで「毛利」いかがですかと、提案され、いいなと思ったんだ。
呑助 今日楽しむ「毛利」の造りはどうなんですか。
侘助 ラベルを見ただけじゃよく分からないから、ネットで「毛利」を醸す山縣本店さんを検索すると「問い合わせ」という欄があったんだ。そこで早速、問い合わせのメールを送ると直ちに返信が来た。それによると五年前から杜氏をしているまだ若い蔵人が取り組んだ「無濾過原酒」という造りの酒が「毛利」のシリーズのようだ。
呑助 炭素濾過をしていないお酒なんですか。
侘助 炭素濾過をするとお酒の旨味も一緒に取ってしまうようだからね。
呑助 無濾過のお酒は、酒本来の味が楽しめるということですかね。
侘助 原酒だから水で加水し薄めていないお酒ですからね。
呑助 本物のお酒、それが無濾過原酒のお酒ですよね。
侘助 まがい物でない本物の酒を造りたいという杜氏の意気込みを蔵の社長が受け入れて造ったお酒が「毛利」なんじゃないのかな。
呑助 酒造米の銘柄は?
句郎 蔵のある山口県周南市の八代盆地にはナベヅルが飛来する田んぼがあるそうだ。その地域ではナベツル保護に地域で取り組んでいる。農家はナベ鶴保護のため減農薬の米作りに励んでいる。その地域を「ファームつるの里」というそうだ。「ファームつるの里」は盆地にある。盆地は気温の寒暖差が平地に比べて大きいから酒造米山田錦の生育はきっといいんじゃないかと思うよ。その地域の農家と酒造会社山縣本店さんは酒造米山田錦の栽培を契約している。その減農薬の山田錦で醸した酒が今日楽しむ「無濾過原酒純米大吟醸毛利」なんだ。精米歩合は五〇%、九号系の吟醸酵母で醸している。