明治150年に思う⑯
句郎 明治150年の歴史は日本に資本主義経済が導入、発展、絶頂を極め、黄昏を迎えた歴史だったのかな。
華女 学生だった頃、近代化とは西欧化だということを言っていた友人がいたわ。
句郎 西欧化とは、資本主義化ということなんじゃないのかな。
華女 近代化とは、資本主義化ということなのね。資本主義という経済の仕組みの本質は何なのかしら。
句郎 カール・マルクスが『資本論』の中で解明したことなんだと思う。資本論は凄い本だと思っているんだ。
華女 資本の本質とは、何だとマルクスは述べているのかしら。
句郎 極々平凡な当たり前のことを述べたに過ぎないと考えているんだ。資本とは労働者ということなんだ。
華女 そんなことを言えば、古代ローマ時代にも、中世鎌倉時代にも労働者という人々はいたんじゃないのかしらね。
句郎 そう、働く人がいなければ社会が成り立たないからね。マルクスが主張する「労働者」とは、自分の労働力を売ることなしには生きることのできない人々のことを言うんだ。
華女 ホームレスのような人を言うのかしら。
句郎 そうなんだ。資本主義という経済の仕組みが出来上がってくるころには大量のホームレスが出現していたんだ。
華女 どうしてそんなに封建社会の末期になるとホームレスが出現してきたのかしら。
句郎 商品流通が徐々に大規模化していったんだ。日本でも江戸時代元禄期になると地方の過剰人口、農家の次男や三男が仕事を求めて江戸に流れ込んできていたんじゃないのかな。
華女 イギリスでもそうだったのかしら。
句郎 「イギリスでは有名な「囲い込み運動」があったからね。オランダでの手工業としての毛織物業が活況を呈すると羊を飼育する牧羊業が盛んになるにしたがって有力者が土地を囲い込み、農業ができなくなった者たちがロンドンのような都市に集まりホームレスとなっていった。乞食をするにも鑑札が必要で、鑑札なしに乞食をし、捕まると鞭打ちの刑、三回鑑札なしで乞食をして捕まると処刑された。これをエリザベス朝の血の立法というものなんだ。
華女 エリザベス王朝とは人民に過酷な王朝だったのね。
句郎 このような過剰なホームレスの出現が労働者の誕生なんだ。このように労働者が誕生してくることをマルクスは「資本の原始的蓄積」とか「資本の本源的蓄積」と言っていることなんだ。すなわち労働者の誕生が資本の誕生なんだ。しかし労働者の誕生は資本になる可能性をもった存在にすぎないんだ。可能態として潜在的な存在として資本は存在しているということなんだ。
華女 都市の路上に出現したホームレスの群れの中から生まれてきた経済の仕組みが資本主義という経済だったのね。
句郎 資本主義経済の仕組みはイギリスで誕生したと言われているんだ。『資本論』を読んで感じることはイギリスの産業革命を哲学的に、経済学的に、政治的に解明した著書だということなんだ。
華女 産業革命を解明したことが資本主義の本質を究明したということなのね。
句郎 私はそんな感想をもっている。イギリス産業革命発祥の地はマンチェスターだと言われている。マンチェスターから鉄道で繋がっている港町がリバプールなんだ。世界で最初の実用的な蒸気機関車を用いた鉄道がリバプール・マンチェスター間だった。今、リバプールというとビートルズだけど。17世紀から18世紀のリバプールの港は奴隷貿易の中心地だったんだ。奴隷貿易で得た富が産業革命の資金になった。