醸楽庵(じょうらくあん)だより 

主に芭蕉の俳句、紀行文の鑑賞、お酒、蔵元の話、政治、社会問題、短編小説、文学批評など

醸楽庵だより  793号  白井一道

2018-07-17 12:08:46 | 随筆・小説


  明治150年に思う④


句郎 一八六八年、明治維新があった。徳川幕藩体制が崩壊し、新しい明治政府が成立した。このことをもって日本の近代社会が成立していくと教わってきたように思うね。
華女 四民平等の社会が実現し、徐々に新しい時代が始まったように思っているわ。
句郎 一八七一年(明治四年)十月、宮古島から首里へ年貢を輸送し、帰途についた琉球御用船が台風による暴風で遭難した。乗員は漂流し、台湾南部に漂着した。この日本人が台湾人に殺されるとい
う事件になった。このことを理由に明治政府は軍隊を台湾に派遣し、制裁した。話し合いによって解決するのではなく、出兵した。これが明治政府の侵略の始まりだった。
華女 明治政府は成立すると同時にすぐ侵略戦争を始めたのね。日本の近代化とは侵略戦争の始まりだとも言えるということなのね。
句郎 一八九四年、朝鮮で東学党の乱が起きる。この農民反乱は庚午農民戦争とも呼ばれている。「庚午」の年に起きた農民戦争だからね。当時の朝鮮
の農民たちは近代的な西洋の思想や学問は朝鮮の農民たちの暮らしを破壊するものだという素朴な考えを持つようになっていたんだ。そのような西学に対して地元古来の文化を尊重することを東学と言っていたんだ。近代化・西洋化は農民の生活破壊、朝鮮の植民地化だと直感したんじゃないかと思うんだ。だから現在の韓国ではこの農民反乱を東学農民革命と言っているらしい。朝鮮人にとって誇り高いできごとだったという認識なんじゃないのかな。
華女 その出来事に日本の明治政府と中国の清王朝が介入した結果が戦争になったのね。
句郎 そうなんだ。日清戦争の勃発だ。台湾出兵後十年の一八九四年に日本は朝鮮に出兵し、中国の清軍と戦った。清朝政府はアヘン戦争敗北後、軍事の近代化を進める洋務運動を進め、その成果が李鴻章が率いる北洋艦隊だった。圧倒的に清朝政府軍北洋艦隊の威力は日本軍を圧倒していたが、結果は日本軍の勝利に終わった。日本は朝鮮半島から満州への侵略を狙っていた。
華女 日本は明治政府が成立するとすぐ台湾に出兵し、成功すると直ちに朝鮮に出兵したのね。まさに近代化し、ヨーロッパ化すると侵略戦争を始めたわけね。
句郎 福沢諭吉が掲げたスローガン、「脱亜入欧」とは、同じ近隣のアジア諸国への侵略を西洋諸国と競い合ったということなのかな。
華女 明治日本の指導者たちは侵略戦争が日本の生きる道だという認識を持っていたということなのね。
句郎 そうなのかもしれないな。さらに日清戦争後、窮乏化した中国農民を助ける仇教運動が起きてくるんだ。中国の独立を守り、欧米諸国の植民地になることを防ごうとする運動の中から義和団が結成されてくると、この義和団を弾圧するするためにヨーロッパ諸国が出兵し、日本も西洋諸国に負けじと出兵する。
華女 日清戦争の十年後、一九〇四年に日露戦争が始まるのね。
句郎 明治時代とは侵略戦争をした時代だった。