醸楽庵(じょうらくあん)だより 

主に芭蕉の俳句、紀行文の鑑賞、お酒、蔵元の話、政治、社会問題、短編小説、文学批評など

醸楽庵だより  855号  白井一道

2018-09-19 08:04:10 | 随筆・小説
 

  渥美清・風天の句を読む



渥美さんの俳号は、「風天」。なんとわかりやすい俳号だろう。

お遍路が 一列に行く 虹の中  

赤とんぼ じっとしたまま 明日どうする

花びらの 出て又入るや 鯉の口 

乱歩読む 窓のガラスに 蝸牛

枝豆の 皮だけつまむ 太い指

好きだから つよくぶつけた 雪合戦

たけのこの 向う墓あり 藪しずか

蓋をあけたような 天で 九月かな

いつも何か 探しているよだな ひばり

ひばり 突き刺さるように 麦のなか

渥美清・風天最後の句
蟹悪さしたように生き

 この世に自分が存在することの不安を表現している。私はこの句をこのように読む。存在の不安なんだ。この世が自分の存在を拒否しているという認識が自分の存在に対して不安を抱かせるのだ。この世に自分は存在していいんだ。自分の存在を社会は認めるべきなんだという強い主張ができない。その気弱さが不安を生むのだ。自分の存在自体が悪さしているという認識を詠ったものが風天最後の句なんだ。