万能鑑定士Qシリーズの姉妹シリーズの誕生である。
万能鑑定士Qシリーズでは、凜田莉子の論理的思考(ロジカル・シンキング)に対し、莉子からの連絡を受けて、旅行添乗員・浅倉絢奈が持ち前のラテラル・シンキングで事件・問題解決へのヒントを軽やかに述べて協力してきた。その浅倉絢奈が主人公となり、難事件を次々に解決していく。その難事件の解決のプロセスで、逆に凜田莉子が時折登場するということになるという趣向だ。
さてこの第1作には、いくつかのテーマが設定されているようだ。私の印象として気がついたものを列挙してみる。
1) 浅倉絢奈がなぜ「特等添乗員α」と称されるようになったのか?
2) 『万能鑑定士Qの推理劇 Ⅳ』では、絢奈の婚約者として壱条那沖が登場している。 そもそも絢奈が壱条那沖と知り合うきっかけがどのようにして生まれたのか?
3) 横浜市立鴨居中学校卒の落ちこぼれだった絢奈が、添乗員派遣会社クオンタムの社員となり、添乗員の資格を得るまでの学力をどのようにして修得したのか?
4) 絢奈が持ち前のラテラル・シンキングをどのように事件解決のプロセスで発揮するのか? そもそもどんな事件に遭遇していくのか?
5) 横浜育ちの浅倉絢奈と波照間島育ちの凜田莉子とが知り合うようになったきかけはどのようにして生まれたのか?
こんなテーマがストーリー展開の中で織り込まれながら事件や謎解きエピソードが次々に発生していく。ちょっとした事件、エピソードが伏線となり、縦糸が緯糸と交差するように、交わる局面が生まれていき、全体の図柄の中に収まっていくというおもしろさがある。その展開プロセスは万能鑑定士Qシリーズと構成的には似ていて、その点でも姉妹シリーズといえる。
テーマ1は、この第1作のストーリー展開の帰結としてネーミングが生まれたといえる。それは添乗員派遣会社クオンタム内部での浅倉絢奈の位置づけが明確に確立された証なのだ。
テーマ2は、厚労省食品安全部監視安全課を率いる壱条那沖がニコノヤのバナナ不法輸入事件の摘発で失策し、観光庁観光産業課に左遷される。そして、観光産業課業務の一環としての視察の中で浅倉絢奈と出くわす。そしてある場所での絢奈のつぶやきからヒントを得て、古巣のバナナ不法輸入事件の解決に寄与しリベンジを果たす。そのプロセスとして描かれる。
万能鑑定士Qにおける凜田莉子と小笠原悠斗の関係とは対照的に、壱条那沖が浅倉絢奈に主体的に関わっていくというプロセスとして描かれて行くところが興味深い。
テーマ3は、絢奈のヒントから失策のリベンジを果たした壱条が、観光庁の業務とも大きく関わる添乗員を目指す浅倉絢奈に学力養成のチャンスを与える。その積極的関わり、そして絢奈がそのチャンスを利用する。壱条はかつて自分がその教えを受けた能登廈人を絢奈の教師とする。臨時教師能登と生徒絢奈の関わり方がけっこうおもしろおかしく描かれている。だが、その教育方法は絢奈の潜在能力を引き出すという徹底した個別対応方式であり、興味深い展開を示す。これは一つの読ませどころでもある。
画一的教育方式では、ユニークな潜在能力を秘める人間の能力を引き出すことができない場合があることを例示しているとも言える。凜田莉子と浅倉絢奈がその種の人間として描かれている。莉子に瀬戸内陸、絢奈に能登廈人が居なければ、これら両シリーズは存在しないのだ。なぜなら画一教育だけでは、この二人の落ちこぼれはそのままの状態のままだっただろうから。
テーマ4は、この作品を構成する各種事件・エピソードを語らないと説明は無理な話となる。それは本書を楽しみながら読んでいただき場面場面でラテラル・シンキングのプロセスを知っていただくことになる。
どんな事件・エピソードで発揮されるか、私流に仮名称を名づけて主なものを羅列してみよう。ニコノヤバナナ不法輸入事件、骨董品収集家神宮司宅への不法侵入事件、保護家出人の送還フェリー乗船後の失踪事件、スキー場ロッジ本館電源スイッチ選択、団体客宿泊宿探し、凜田・小笠原のイギリス入国トラブル、旅行企画詐欺・ニセ添乗員事件、タヒチのコランティーヌ島観光企画とレヴィアタン捜査事件。
旅行企画詐欺・ニセ添乗員事件、タヒチのコランティーヌ島観光企画とレヴィアタン捜査事件は一連の事件であり、この第1作での難事件といえる。
ラテラル・シンキングがどのように発揮されるかを例示しつつ、難事件でのラテラル・シンキングへとなだれ込んでいく。そして、最後の難事件にロジカル・シンキングの凜田莉子が協力する形で加わっていくのだから。そして、それも莉子が窮地に追い込まれるという形になるとは・・・・。万能鑑定士Qを愛読する人にはどうなるか楽しめるところだ。
テーマ5は、万能鑑定士Qの一場面としても登場し、ここでその時のエピソードが浅倉絢奈の海外添乗業務のプロセスでの一つのエピソードとして語られていく。
莉子と絢奈の協力チームの誕生である。どちらももとは落ちこぼれ・・・・。社会に向かう精神的な姿勢は二人に共通し純真である。今後のシリーズ作品が楽しみである。
この作品、能登廈人先生から生徒絢奈と一緒になって勉強できるという付録があるのもおもしろい。
こんな場面が書き込まれている。老人がホワイトボードに能登廈人と大書する。
「お読みになれますか」
「ええと・・・。のと・・・」
「いえと、です」
「ノットイエット? 覚えやすいですね」
「ノットイエット? 意味は?」
「え・・・・。意味ですか。ノットイエット。大島優子・・・・」
「違う!」
「は、はい?」
実に楽しい、かみ合わないやりとりではないか!
だが意外と著者はノットイエットから能登廈人という登場人物名を設定したのだろう。そんな気がする。
この第1作、コミカルさを楽しみながら、かつ絢奈とともに学習しながら読了した。
ご一読ありがとうございます。
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本作品に関連する用語をネット検索してみた。一覧にしておきたい。
水平思考(ラテラル・シンキング) :ウィキペディア
ツアーコンダクター → 添乗員 :ウィキペディア
旅程管理主任者とは :「TRAVEL & Conductor College」
旅程管理研修とは :「一般社団法人 全国旅行業協会」
旅程管理主任者証に関するQ&A :「一般社団法人 日本添乗サービス協会」
もと海外添乗員のぶっちゃけ話 山崎郁馬氏
ワーキングプア :ウィキペディア
ワーキングプアの年収の実態 :「平均年収.jp」
船舶登録 :ウィキペディア
タヒチ :「タヒチ観光局」
タヒチ島 :ウィキペディア
インターネットに有益な情報を掲載してくださった皆様に感謝します。
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(情報提供サイトへのリンクのアクセスがネット事情でいつか途切れるかもしれません。
その節には、直接に検索してアクセスしてみてください。掲載時点の後のフォローは致しません。
その点、ご寛恕ください。)
万能鑑定士Qに関して、読み進めてきたシリーズは次のものです。
こちらもお読みいただけると、うれしいです。
『万能鑑定士Qの攻略本』 角川文庫編集部/編 松岡圭祐事務所/監修
『万能鑑定士Qの探偵譚』
☆短編集シリーズ
『万能鑑定士Qの短編集 Ⅰ』
『万能鑑定士Qの短編集 Ⅱ』
☆推理劇シリーズ
『万能鑑定士Qの推理劇 Ⅰ』
『万能鑑定士Qの推理劇 Ⅱ』
『万能鑑定士Qの推理劇 Ⅲ』
『万能鑑定士Qの推理劇 Ⅳ』
☆事件簿シリーズは全作品分の印象記を掲載しています。
『万能鑑定士Q』(単行本) ← 文庫本ではⅠとⅡに分冊された。
『万能鑑定士Qの事件簿 Ⅲ』
『万能鑑定士Qの事件簿 Ⅳ』
『万能鑑定士Qの事件簿 Ⅴ』
『万能鑑定士Qの事件簿 Ⅵ』
『万能鑑定士Qの事件簿 Ⅶ』
『万能鑑定士Qの事件簿 Ⅷ』
『万能鑑定士Qの事件簿 Ⅸ』
『万能鑑定士Qの事件簿 Ⅹ』
『万能鑑定士Qの事件簿 ⅩⅠ』
『万能鑑定士Qの事件簿 ⅩⅡ』
万能鑑定士Qシリーズでは、凜田莉子の論理的思考(ロジカル・シンキング)に対し、莉子からの連絡を受けて、旅行添乗員・浅倉絢奈が持ち前のラテラル・シンキングで事件・問題解決へのヒントを軽やかに述べて協力してきた。その浅倉絢奈が主人公となり、難事件を次々に解決していく。その難事件の解決のプロセスで、逆に凜田莉子が時折登場するということになるという趣向だ。
さてこの第1作には、いくつかのテーマが設定されているようだ。私の印象として気がついたものを列挙してみる。
1) 浅倉絢奈がなぜ「特等添乗員α」と称されるようになったのか?
2) 『万能鑑定士Qの推理劇 Ⅳ』では、絢奈の婚約者として壱条那沖が登場している。 そもそも絢奈が壱条那沖と知り合うきっかけがどのようにして生まれたのか?
3) 横浜市立鴨居中学校卒の落ちこぼれだった絢奈が、添乗員派遣会社クオンタムの社員となり、添乗員の資格を得るまでの学力をどのようにして修得したのか?
4) 絢奈が持ち前のラテラル・シンキングをどのように事件解決のプロセスで発揮するのか? そもそもどんな事件に遭遇していくのか?
5) 横浜育ちの浅倉絢奈と波照間島育ちの凜田莉子とが知り合うようになったきかけはどのようにして生まれたのか?
こんなテーマがストーリー展開の中で織り込まれながら事件や謎解きエピソードが次々に発生していく。ちょっとした事件、エピソードが伏線となり、縦糸が緯糸と交差するように、交わる局面が生まれていき、全体の図柄の中に収まっていくというおもしろさがある。その展開プロセスは万能鑑定士Qシリーズと構成的には似ていて、その点でも姉妹シリーズといえる。
テーマ1は、この第1作のストーリー展開の帰結としてネーミングが生まれたといえる。それは添乗員派遣会社クオンタム内部での浅倉絢奈の位置づけが明確に確立された証なのだ。
テーマ2は、厚労省食品安全部監視安全課を率いる壱条那沖がニコノヤのバナナ不法輸入事件の摘発で失策し、観光庁観光産業課に左遷される。そして、観光産業課業務の一環としての視察の中で浅倉絢奈と出くわす。そしてある場所での絢奈のつぶやきからヒントを得て、古巣のバナナ不法輸入事件の解決に寄与しリベンジを果たす。そのプロセスとして描かれる。
万能鑑定士Qにおける凜田莉子と小笠原悠斗の関係とは対照的に、壱条那沖が浅倉絢奈に主体的に関わっていくというプロセスとして描かれて行くところが興味深い。
テーマ3は、絢奈のヒントから失策のリベンジを果たした壱条が、観光庁の業務とも大きく関わる添乗員を目指す浅倉絢奈に学力養成のチャンスを与える。その積極的関わり、そして絢奈がそのチャンスを利用する。壱条はかつて自分がその教えを受けた能登廈人を絢奈の教師とする。臨時教師能登と生徒絢奈の関わり方がけっこうおもしろおかしく描かれている。だが、その教育方法は絢奈の潜在能力を引き出すという徹底した個別対応方式であり、興味深い展開を示す。これは一つの読ませどころでもある。
画一的教育方式では、ユニークな潜在能力を秘める人間の能力を引き出すことができない場合があることを例示しているとも言える。凜田莉子と浅倉絢奈がその種の人間として描かれている。莉子に瀬戸内陸、絢奈に能登廈人が居なければ、これら両シリーズは存在しないのだ。なぜなら画一教育だけでは、この二人の落ちこぼれはそのままの状態のままだっただろうから。
テーマ4は、この作品を構成する各種事件・エピソードを語らないと説明は無理な話となる。それは本書を楽しみながら読んでいただき場面場面でラテラル・シンキングのプロセスを知っていただくことになる。
どんな事件・エピソードで発揮されるか、私流に仮名称を名づけて主なものを羅列してみよう。ニコノヤバナナ不法輸入事件、骨董品収集家神宮司宅への不法侵入事件、保護家出人の送還フェリー乗船後の失踪事件、スキー場ロッジ本館電源スイッチ選択、団体客宿泊宿探し、凜田・小笠原のイギリス入国トラブル、旅行企画詐欺・ニセ添乗員事件、タヒチのコランティーヌ島観光企画とレヴィアタン捜査事件。
旅行企画詐欺・ニセ添乗員事件、タヒチのコランティーヌ島観光企画とレヴィアタン捜査事件は一連の事件であり、この第1作での難事件といえる。
ラテラル・シンキングがどのように発揮されるかを例示しつつ、難事件でのラテラル・シンキングへとなだれ込んでいく。そして、最後の難事件にロジカル・シンキングの凜田莉子が協力する形で加わっていくのだから。そして、それも莉子が窮地に追い込まれるという形になるとは・・・・。万能鑑定士Qを愛読する人にはどうなるか楽しめるところだ。
テーマ5は、万能鑑定士Qの一場面としても登場し、ここでその時のエピソードが浅倉絢奈の海外添乗業務のプロセスでの一つのエピソードとして語られていく。
莉子と絢奈の協力チームの誕生である。どちらももとは落ちこぼれ・・・・。社会に向かう精神的な姿勢は二人に共通し純真である。今後のシリーズ作品が楽しみである。
この作品、能登廈人先生から生徒絢奈と一緒になって勉強できるという付録があるのもおもしろい。
こんな場面が書き込まれている。老人がホワイトボードに能登廈人と大書する。
「お読みになれますか」
「ええと・・・。のと・・・」
「いえと、です」
「ノットイエット? 覚えやすいですね」
「ノットイエット? 意味は?」
「え・・・・。意味ですか。ノットイエット。大島優子・・・・」
「違う!」
「は、はい?」
実に楽しい、かみ合わないやりとりではないか!
だが意外と著者はノットイエットから能登廈人という登場人物名を設定したのだろう。そんな気がする。
この第1作、コミカルさを楽しみながら、かつ絢奈とともに学習しながら読了した。
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水平思考(ラテラル・シンキング) :ウィキペディア
ツアーコンダクター → 添乗員 :ウィキペディア
旅程管理主任者とは :「TRAVEL & Conductor College」
旅程管理研修とは :「一般社団法人 全国旅行業協会」
旅程管理主任者証に関するQ&A :「一般社団法人 日本添乗サービス協会」
もと海外添乗員のぶっちゃけ話 山崎郁馬氏
ワーキングプア :ウィキペディア
ワーキングプアの年収の実態 :「平均年収.jp」
船舶登録 :ウィキペディア
タヒチ :「タヒチ観光局」
タヒチ島 :ウィキペディア
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万能鑑定士Qに関して、読み進めてきたシリーズは次のものです。
こちらもお読みいただけると、うれしいです。
『万能鑑定士Qの攻略本』 角川文庫編集部/編 松岡圭祐事務所/監修
『万能鑑定士Qの探偵譚』
☆短編集シリーズ
『万能鑑定士Qの短編集 Ⅰ』
『万能鑑定士Qの短編集 Ⅱ』
☆推理劇シリーズ
『万能鑑定士Qの推理劇 Ⅰ』
『万能鑑定士Qの推理劇 Ⅱ』
『万能鑑定士Qの推理劇 Ⅲ』
『万能鑑定士Qの推理劇 Ⅳ』
☆事件簿シリーズは全作品分の印象記を掲載しています。
『万能鑑定士Q』(単行本) ← 文庫本ではⅠとⅡに分冊された。
『万能鑑定士Qの事件簿 Ⅲ』
『万能鑑定士Qの事件簿 Ⅳ』
『万能鑑定士Qの事件簿 Ⅴ』
『万能鑑定士Qの事件簿 Ⅵ』
『万能鑑定士Qの事件簿 Ⅶ』
『万能鑑定士Qの事件簿 Ⅷ』
『万能鑑定士Qの事件簿 Ⅸ』
『万能鑑定士Qの事件簿 Ⅹ』
『万能鑑定士Qの事件簿 ⅩⅠ』
『万能鑑定士Qの事件簿 ⅩⅡ』