遊心逍遙記

読書三昧は楽しいひととき。遊心と知的好奇心で本とネットを逍遥した読後印象記です。一書がさらに関心の波紋を広げていきます。

『ラロックの聖母』 ザ・ベストハウス123『ラロックの聖母』研究会  幻冬舎

2014-11-13 09:39:52 | レビュー
 本書の副題は「ダ・ヴインチが残した幻の1枚か!?」である。
 2009年7月に出版されている。私がこの本を知ったのは、ダン・ブラウンの『ダ・ヴィンチコード』を読んだ後、何かの折にこの本のタイトルを目にしたからだ。「ザ・ベストハウス123」というテレビ番組で放映されていたことを知らなかった。本来ならこの名称でピンとくるべきだったのかもしれないけれど。
 第7章「『ラロックの聖母』を観た7人の日本人」の章を読んで、ああそうかと遅まきながら「なるほど!」と思った次第。というのは、この章で茂木健一郎、荒俣宏、ロンドンブーツ1号2号の田村亮、タレントの緑友利恵、松井絵里奈、飯沼誠司、ほっしゃんの7人が『ラロックの聖母』の絵に直に接したときの印象をエッセイに記しているからだ。7人7色の感想が小文にまとめられている。茂木、荒俣両氏の文がやはりこの章での読みどころではあるが・・・・。

 この第7章に至るまでの本書の構成をまずご紹介しておこう。
  第1章 奇跡の大発見『ラロックの聖母』
  第2章 レオナルド・ダ・ヴィンチの生涯を辿る
  第3章 専門家たちの反応
  第4章 見えてきたいくつかの謎
  第5章 現代科学が教えてくれた『ラロックの聖母』本当の姿
  第6章 『ラロックの聖母』は、本当にダ・ヴィンチの絵なのか?
そして、第7章の後に、資料として見開きページで「ダ・ヴィンチ作品が見られる美術館」が掲載され、地図上に美術館所在地と所蔵作品のコマ絵が示されている。さらに、4ページで「ダ・ヴィンチの生涯」として年表が載っている。見開きのプロローグは、「この絵はレオナルソ・ダ・ヴィンチの作品かもしれない」という書き出しで簡潔に本書のテーマについて語り、「その結論を下すのはあなただ」としめくくる。そしてエピローグには、3人組の発見者の一人からのメッセージが載せられている。
 本書は多分放映されたテレビ番組の内容をベースにしてまとめられたものだろう。133ページと短いが写真がかなり掲載され、読みやすくまとめられている。

 第1章は、フランスの南部、モンペリエ近くのラロック村に住む仲の良い3人が骨董店で、約3万円で1枚の絵を購入した。彼らはその絵を『ラロックの聖母』と名づける。この絵の煤けた汚れをパリの専門家に依頼する。彼らが抱いた、もしかしてレオナルド・ダ・ヴィンチの絵ではないか・・・という探究の旅の始まりが簡略にドラマタッチで描かれている。
 本書の第2章と巻末の年表を読むと、ダ・ヴィンチの大凡の生涯像と押さえどころの作品群について、エッセンスをつかめるのが便利である。より深くダ・ヴィンチを知るためのイントロとして役立つと思う。

 第3章はこの手の探究ものの定石である。様々な専門家の意見・反応、つまり賛否・疑問の併記をしている。専門家たちがどういう視点で鑑定するのか、どいう立論をするのかがおもしろい。そしてこの章は、第6章でさらに展開されていく。第6章では、ダ・ヴインチ研究の世界的権威であるとされるレオナルド・ダ・ヴィンチ博物館のアレッサンドロ・ヴェッツォーシィ館長の発言を記す。「これは15世紀初めから半ばに描かれた作品だと言えますね。少なくともレオナルド派の作品と言っていいでしょう」
 その上で、ドイツの歴史研究家、マイク・フォクト・ルエルセン女史の新しい学説の要点を取り上げている。その根拠が2つ簡明に記されている。現時点で、彼女は「これはダ・ヴィンチの作品だ」と断定する唯一の人物だそうである。この章の最後に、「『ラロックの聖母』を読み解く」という題で、池上英洋・恵泉女学園大学准教授(2009年時点)の一文が載っている。この辺り、読者自身が判断を下すための客観的視点づくり、情報提供のサポート役というところか。池上准教授は明らかにレオナルド派の作品であることは断言できる材料として、4つの理由を解説している。レオナルドの作品と言うにはまだまだ研究の余地があるというところか・・・・。想像する楽しみに触れ、「ぜひ、ご自分の目で確かめてください」を末尾の一文とされている。
 
 『ラロックの聖母』の絵そのものに関連して、私が一番関心を抱いたのは、第4章と第5章だった。第4章ではいくつかの謎が列挙されている。それらが作品の真の作者解明の糸口に繋がるのではないかという観点から。つまり、ダ・ヴィンチが描いている未完の聖母子像のクロッキーに含まれる謎、ダ・ヴィンチの手稿に残される1文の謎、『ラロックの聖母』が切り取られたものであるということと受胎を知らせる天使が描かれていないという謎、『ラロックの聖母』から微笑みと水は見つかるのかという謎。10ページの短い章であるが重要な論点を提示している章である。詳細は本文をご一読いただきたい。
 第6章は、現代科学を駆使した鑑定方法をどのように使ってみたかについて述べられている。その方法論だけご紹介しておきたい。
 鑑定1:スペクトル・フォト・メタによる分析(年代鑑定)
 鑑定2:赤外線、紫外線、X線照射による分析と顕微鏡による拡大分析
      →絵のオリジナルの姿の確認 
 鑑定3:ラジオグラフィー技術による分析(描き方、修正箇所などの鑑定)
 鑑定4:ルミエール・テクノロジー(マルチスペクトラル技法による撮影)
 鑑定5:絵に残された指紋(・掌紋)鑑定
これら鑑定による分析結果は・・・・。お楽しみに。
 鑑定専門家の知識経験とスキル、感性による美術品鑑定という手段以外に、現代科学がどのような分析アプローチを提供しているのかを概略でも知ることができる。
 
 絵画の鑑定とはどういうプロセスを経るものなのか・・・・それをなんとなく理解できて実に興味深く、参考になる。ダ・ヴインチ事始めの本としてはおもしろい本だと思う。

 ご一読ありがとうございます。

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本書の内容に関連する事項をネット検索してみた。一覧にしておきたい。

マドンナ オブ ラロック 公式サイト

Madonna of Laroque : From Wikipedia, the free encyclopedia
Art experts clash over 'Da Vinci' painting that cost £150 :"The Telegraph"
By Henry Samuel in Paris 7:53PM GMT 05 Nov 2008
The Madonna of Laroque, a painting by Vinci?

Ein echter Leonardo da Vinci vom Flohmarkt :"DIE WELT"
22.11.09
list of paintings by Leonardo da Vinci :"Evi"
The Sforza Isabella of Aragon :"kleio.org"

How a 'New' da Vinci Was Discovered :「TIME」
  By Jeff Israely Thursday, Oct. 15, 2009
Fingerprint unmasks original da Vinci painting :「CNN.com/europe」
  October 13, 2009 -- Updated 1543 GMT (2343 HKT)
  By Hilary Whiteman
Fingerprint reveals Leonardo da Vinci as creator of $150 million artwork
  Originally published Thursday, October 15, 2009 at 12:11 AM
  By ROB GILLIES              :「The Seattle Times」


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