表紙の図柄と翻訳書のタイトル、特に「10代からの」「図鑑」という言葉に関心を抱き手に取った。社会人となってから心理学に興味を持ち始め今に至るが、特定の分野を少し学ぶに留まっている。それ故、言葉としては図鑑という語に反応したのだろう。
まず表紙がおもしろい。上部中央に、ジグムント・フロイトがこちらを見つめている。その下には、ロダンの考える人像が配され、大脳、指さす右手、目などちょっと思わせぶりなイラストと英文語句などが散在している。「10代から」と記されているから、かなりやさしく説明された図鑑なのか、とふと思う。実際に読み始めると少し印象が変わった。この冠語はあくまでキャッチコピーだなと。しかし、嘘ではない。義務教育、高校時代を経て、順調に大学に進学するとすれば、10代なのだから。読後印象として言えば、大学の所謂教養課程で心理学入門を学ぶテキストくらいの内容と判断した。まとめ方の面白さ、イラストをふんだんに使ったユニークさなどを考えると、これをテキストにして、さらに担当の先生がプラスαのレクチャーを加えれば、心理学への興味は大いに高まるのではないかと思う。高校生でこの本に興味を抱く人なら、かなり心理学オタクの部類だろうと感じる。高校時代には、パブロフ、フロイトの名前と業績の一部や錯視図程度は知ってはいただろうけれどと、振り返ってみるならば・・・・。
翻訳書のタイトルは、たぶん本書の内容の心理学分野の網羅性とイラストの多様などからネーミングされたのだろう。表紙のフロイトの肩の位置に、「HEADS UP PSYCHOLOGY」
とあるのが本書の原題である。辞書を引くと、head up は<人、団体>を指揮する、・・・を率いる、という意味のようである。つまり、Xが心理学を率いたというくらいの意味だろうか。心理学の開拓者たちなんて意訳してもおもしろみはない。だけど、本書の内容はそういう感じである。
つまり、「心理学って何?」から始め、現在の心理学がどのように専門分化しその裾野を広げているかについて、その分野を開拓した心理学者のプロフィールと研究成果のエッセンスをわかりやすく説明する。そしてその分野の後継研究者の関心や論点、研究結果などにも触れていく。心理学の学問分野を網羅的にバランスよく解説している。比較的読みやすくてわかりやすい解説にとどめて、心理学入門ガイド的なまとめになっている。巻末には「心理学者人名録」(総数55人)、「用語解説」(98項目)が付いているので、「図鑑」の体裁は一応クリアーしていると言える。ただし、本文該当ページの索引という機能は備えていない。
本書は、冒頭の見開きページで「心理学って何?」と問題提起し、次に「心理学者はどんなことをするのか?」を語る。「学問としての心理学」「医療としての心理学」「心理学の社会的応用」という観点で心理学の分野を鳥瞰図的に整理する。本書は最初の「学問としての心理学」を中心とした解説になっている。そして、3つめに「研究方法」について触れる。そこでの第1文は「この本では心理学上きわめて重要な発見のいくつかを簡単に紹介しています。」で始まる。この一文、読後の判断として、きっちり実行されていると思う。
本書の構成と内容の一端をご紹介しておこう。
最初の太字の一行は、目次の章名である。その横に心理学のどの分野についての解説なのか、その名称を記す。そして、興味を引きそうな小見出しを一部紹介する(a)。次に、この研究分野を開発しその後の展開の礎となった研究者名(巻末に名前が載るが、プロフィールなどは本文の一部で紹介されている人)を紹介(b)し、この分野の発見事項の一端を本書から引用(c)する。
私を動かすものは何? 発達心理学
(a)どうして親は必要なのか?/なぜそんなふうにふるまうのか?
(b)イヴァン・パブロフ 行動主義心理学の土台を築く
犬の唾液分泌に関する実験「古典的条件付け」と、条件反射の「解除」
メアリー・エインズワース 子供の発達、特に母子関係の研究
愛着とは、一人の人間を別の誰かに身近に結びつけ、時間がたっても持続する
愛情の絆である。
(c)私たちは他者を通じて自分自身になる (レフ・ヴィゴツキー)
行動は「正の強化」と「負の強化」によって形づくられる (B・F・スキャナー)
脳はどう働くのか? 生物学的心理学
(a)心と脳は別のもの?/脳で何が起こっているか?/夢を見る
(b)サンティアゴ・ラモン・イ・カハル
神経システムの仕組みを研究し、ニューロン説を提唱
ヴィラヤヌル・ラマチャンドラン
「幻肢」に関する研究、共感覚現象と脳の領域のつながりを研究
(c)脳内の驚くほど入り組んだネットワークこそ、私たちをつくりあげているものだ。
(コリン・ブレイクモア)
もし脳内に生物学的な時計がなければ、私たちの生活は混沌としてしまい、
行動は秩序を欠いたものとなるだろう (コリン・ブレイクモア)
心はどう働くのか? 認知心理学
(a)知識とは?/記憶を信じてはいけない/自分を欺いているのでは?-思いこみの罠
(b)エリザベス・ロフタス
「長期記憶」が研究人生を決定づけるをテーマに研究
実際には起こってもいないことを信じこんでしまう場合がある。
ドナルド・ブロードベント
私たちが一度にひとつの声しか聞けないことを明らかにした。
(c)記憶の再生は、過去の経験に対する私たちの態度からなる想像的再構成だ。
(フレデリック・バートレット)
短期記憶は一度に7項目程度まで保持できる。 (ジョージ・アーミテージ・ミラー)
自分が愚かだと感じるようなことをしても、私たちは自分がしたことを
正当化する方法を見つけようとする。 (エリオット・アロンソン)
必要、動機、期待--どれも知覚に影響を与える。(ジェローム・ブルーナー)
自分らしさとは? 差異心理学
(a)私ってどんな人間?/人格は変わるか?/正常とは?/根っからの悪人っている?
(b)ゴードン・オルポート 人格心理学の創始者とみなされる
私たちの人格は固定したものではない。一貫して変わらない特性もあるが、
時とともに変化する特性や限られた状況でしか姿を見せない特性もある。
ジグムント・フロイト 精神療法に大きな影響を与えた
催眠と「談話療法」、夢分析
夢の解釈は、心の無意識の働きを知るための王道である。
人は自分自身のコンプレックスを取り除こうと骨を折るべきではなく、
コンプレックスとの調和をはかるべきである。
(c)精神異常の性質を理解することは医者の努めだ。 (エミール・クレペリン)
ある種の状況では、私たち「正常な」成人もかなりの割合であまり好ましいと
はいえない行為に及んでしまう。 (エリオット・アロンソン)
よい人生のプロセスとは・・・・・・人生の流れの中に自分自身でしっかりと船出
していくことを意味する。 (カール・ロジャース)
私の居場所はどこ? 社会心理学
(a)なぜ「いい人」が悪いことをするのか?/仲間意識と集団思考/恋におちる
(b)ソロモン・アッシュ 同調性に関する研究で有名
人間の心というのは、偽りよりも真実の発見に向いた器官だ。
スタンレー・ミルグラム 服従についての実験で有名
責任感の消失こそ、権威の服従がもたらす最も重大な帰結である。
(c)さまざまな人々があ緊急事態を目撃すると、みな他の誰かがなんとかする
だろうと思い込む。 (フリップ・ジンバルドー)
態度とは信念と価値観が結合したものである。 (ダニエル・カッツ)
集団思考では、集団の価値は単に都合のよいものであるだけでなく、
もともと正しく善いものだとみなされる傾向がある。(ウィリアム・H・ホワイト)
権威がうまく働かないときは、権威の使い方を加減するのではなく、まったく
別の方法で影響を与えることを考えなくてはならない。(ダグラス・マクレガー)
人が経験する愛の総量は、親密さと情熱と責任の絶対的な強さによって決まる。
(ロバート・スタンバーク)
ほんの一部のご紹介だが、ここから関心を抱かれたら、本書を開いてみてほしい。
読みやすい図鑑と言える。
ご一読ありがとうございます。
本書で取り上げられた心理学の分野がネット上でどう説明されているか。少し検索してみた。一覧にしておきたい。
心理学 :ウィキペディア
発達心理学とは? :「メンタルヘルス情報サイト」
発達心理学とは? 3分で理解する発達心理学で学べる7つのコト :「心理学の時間ですよ!」
脳科学と心理学の違いとは?その本質を知ろう! :「iDEAR」
認知心理学ってどんな学問? :「箱田研究室」
認知心理学 :「コトバンク」
認知心理学 :「科学辞典」
差異心理学 :「コトバンク」
進化心理学 :ウィキペディア
社会心理学とは :「心理学総合案内こころの散歩道」
社会心理学 :「コトバンク」
夢分析の心理学 記事一覧 :「夢分析の心理学」
精神分析学 :ウィキペディア
行動心理学とは?仕事や恋愛で使える16の心理学&学習に役立つ本を紹介! :「Smartlog」
インターネットに有益な情報を掲載してくださった皆様に感謝します。
(情報提供サイトへのリンクのアクセスがネット事情でいつか途切れるかもしれません。
その節には、直接に検索してアクセスしてみてください。掲載時点の後のフォローは致しません。
その点、ご寛恕ください。)
まず表紙がおもしろい。上部中央に、ジグムント・フロイトがこちらを見つめている。その下には、ロダンの考える人像が配され、大脳、指さす右手、目などちょっと思わせぶりなイラストと英文語句などが散在している。「10代から」と記されているから、かなりやさしく説明された図鑑なのか、とふと思う。実際に読み始めると少し印象が変わった。この冠語はあくまでキャッチコピーだなと。しかし、嘘ではない。義務教育、高校時代を経て、順調に大学に進学するとすれば、10代なのだから。読後印象として言えば、大学の所謂教養課程で心理学入門を学ぶテキストくらいの内容と判断した。まとめ方の面白さ、イラストをふんだんに使ったユニークさなどを考えると、これをテキストにして、さらに担当の先生がプラスαのレクチャーを加えれば、心理学への興味は大いに高まるのではないかと思う。高校生でこの本に興味を抱く人なら、かなり心理学オタクの部類だろうと感じる。高校時代には、パブロフ、フロイトの名前と業績の一部や錯視図程度は知ってはいただろうけれどと、振り返ってみるならば・・・・。
翻訳書のタイトルは、たぶん本書の内容の心理学分野の網羅性とイラストの多様などからネーミングされたのだろう。表紙のフロイトの肩の位置に、「HEADS UP PSYCHOLOGY」
とあるのが本書の原題である。辞書を引くと、head up は<人、団体>を指揮する、・・・を率いる、という意味のようである。つまり、Xが心理学を率いたというくらいの意味だろうか。心理学の開拓者たちなんて意訳してもおもしろみはない。だけど、本書の内容はそういう感じである。
つまり、「心理学って何?」から始め、現在の心理学がどのように専門分化しその裾野を広げているかについて、その分野を開拓した心理学者のプロフィールと研究成果のエッセンスをわかりやすく説明する。そしてその分野の後継研究者の関心や論点、研究結果などにも触れていく。心理学の学問分野を網羅的にバランスよく解説している。比較的読みやすくてわかりやすい解説にとどめて、心理学入門ガイド的なまとめになっている。巻末には「心理学者人名録」(総数55人)、「用語解説」(98項目)が付いているので、「図鑑」の体裁は一応クリアーしていると言える。ただし、本文該当ページの索引という機能は備えていない。
本書は、冒頭の見開きページで「心理学って何?」と問題提起し、次に「心理学者はどんなことをするのか?」を語る。「学問としての心理学」「医療としての心理学」「心理学の社会的応用」という観点で心理学の分野を鳥瞰図的に整理する。本書は最初の「学問としての心理学」を中心とした解説になっている。そして、3つめに「研究方法」について触れる。そこでの第1文は「この本では心理学上きわめて重要な発見のいくつかを簡単に紹介しています。」で始まる。この一文、読後の判断として、きっちり実行されていると思う。
本書の構成と内容の一端をご紹介しておこう。
最初の太字の一行は、目次の章名である。その横に心理学のどの分野についての解説なのか、その名称を記す。そして、興味を引きそうな小見出しを一部紹介する(a)。次に、この研究分野を開発しその後の展開の礎となった研究者名(巻末に名前が載るが、プロフィールなどは本文の一部で紹介されている人)を紹介(b)し、この分野の発見事項の一端を本書から引用(c)する。
私を動かすものは何? 発達心理学
(a)どうして親は必要なのか?/なぜそんなふうにふるまうのか?
(b)イヴァン・パブロフ 行動主義心理学の土台を築く
犬の唾液分泌に関する実験「古典的条件付け」と、条件反射の「解除」
メアリー・エインズワース 子供の発達、特に母子関係の研究
愛着とは、一人の人間を別の誰かに身近に結びつけ、時間がたっても持続する
愛情の絆である。
(c)私たちは他者を通じて自分自身になる (レフ・ヴィゴツキー)
行動は「正の強化」と「負の強化」によって形づくられる (B・F・スキャナー)
脳はどう働くのか? 生物学的心理学
(a)心と脳は別のもの?/脳で何が起こっているか?/夢を見る
(b)サンティアゴ・ラモン・イ・カハル
神経システムの仕組みを研究し、ニューロン説を提唱
ヴィラヤヌル・ラマチャンドラン
「幻肢」に関する研究、共感覚現象と脳の領域のつながりを研究
(c)脳内の驚くほど入り組んだネットワークこそ、私たちをつくりあげているものだ。
(コリン・ブレイクモア)
もし脳内に生物学的な時計がなければ、私たちの生活は混沌としてしまい、
行動は秩序を欠いたものとなるだろう (コリン・ブレイクモア)
心はどう働くのか? 認知心理学
(a)知識とは?/記憶を信じてはいけない/自分を欺いているのでは?-思いこみの罠
(b)エリザベス・ロフタス
「長期記憶」が研究人生を決定づけるをテーマに研究
実際には起こってもいないことを信じこんでしまう場合がある。
ドナルド・ブロードベント
私たちが一度にひとつの声しか聞けないことを明らかにした。
(c)記憶の再生は、過去の経験に対する私たちの態度からなる想像的再構成だ。
(フレデリック・バートレット)
短期記憶は一度に7項目程度まで保持できる。 (ジョージ・アーミテージ・ミラー)
自分が愚かだと感じるようなことをしても、私たちは自分がしたことを
正当化する方法を見つけようとする。 (エリオット・アロンソン)
必要、動機、期待--どれも知覚に影響を与える。(ジェローム・ブルーナー)
自分らしさとは? 差異心理学
(a)私ってどんな人間?/人格は変わるか?/正常とは?/根っからの悪人っている?
(b)ゴードン・オルポート 人格心理学の創始者とみなされる
私たちの人格は固定したものではない。一貫して変わらない特性もあるが、
時とともに変化する特性や限られた状況でしか姿を見せない特性もある。
ジグムント・フロイト 精神療法に大きな影響を与えた
催眠と「談話療法」、夢分析
夢の解釈は、心の無意識の働きを知るための王道である。
人は自分自身のコンプレックスを取り除こうと骨を折るべきではなく、
コンプレックスとの調和をはかるべきである。
(c)精神異常の性質を理解することは医者の努めだ。 (エミール・クレペリン)
ある種の状況では、私たち「正常な」成人もかなりの割合であまり好ましいと
はいえない行為に及んでしまう。 (エリオット・アロンソン)
よい人生のプロセスとは・・・・・・人生の流れの中に自分自身でしっかりと船出
していくことを意味する。 (カール・ロジャース)
私の居場所はどこ? 社会心理学
(a)なぜ「いい人」が悪いことをするのか?/仲間意識と集団思考/恋におちる
(b)ソロモン・アッシュ 同調性に関する研究で有名
人間の心というのは、偽りよりも真実の発見に向いた器官だ。
スタンレー・ミルグラム 服従についての実験で有名
責任感の消失こそ、権威の服従がもたらす最も重大な帰結である。
(c)さまざまな人々があ緊急事態を目撃すると、みな他の誰かがなんとかする
だろうと思い込む。 (フリップ・ジンバルドー)
態度とは信念と価値観が結合したものである。 (ダニエル・カッツ)
集団思考では、集団の価値は単に都合のよいものであるだけでなく、
もともと正しく善いものだとみなされる傾向がある。(ウィリアム・H・ホワイト)
権威がうまく働かないときは、権威の使い方を加減するのではなく、まったく
別の方法で影響を与えることを考えなくてはならない。(ダグラス・マクレガー)
人が経験する愛の総量は、親密さと情熱と責任の絶対的な強さによって決まる。
(ロバート・スタンバーク)
ほんの一部のご紹介だが、ここから関心を抱かれたら、本書を開いてみてほしい。
読みやすい図鑑と言える。
ご一読ありがとうございます。
本書で取り上げられた心理学の分野がネット上でどう説明されているか。少し検索してみた。一覧にしておきたい。
心理学 :ウィキペディア
発達心理学とは? :「メンタルヘルス情報サイト」
発達心理学とは? 3分で理解する発達心理学で学べる7つのコト :「心理学の時間ですよ!」
脳科学と心理学の違いとは?その本質を知ろう! :「iDEAR」
認知心理学ってどんな学問? :「箱田研究室」
認知心理学 :「コトバンク」
認知心理学 :「科学辞典」
差異心理学 :「コトバンク」
進化心理学 :ウィキペディア
社会心理学とは :「心理学総合案内こころの散歩道」
社会心理学 :「コトバンク」
夢分析の心理学 記事一覧 :「夢分析の心理学」
精神分析学 :ウィキペディア
行動心理学とは?仕事や恋愛で使える16の心理学&学習に役立つ本を紹介! :「Smartlog」
インターネットに有益な情報を掲載してくださった皆様に感謝します。
(情報提供サイトへのリンクのアクセスがネット事情でいつか途切れるかもしれません。
その節には、直接に検索してアクセスしてみてください。掲載時点の後のフォローは致しません。
その点、ご寛恕ください。)