山好きでかつ警察小説を愛読する人にはのめり込める作品だ。特に後立山連峰の鹿島槍ヶ岳、五竜岳辺りを登山した経験がある人には、冬山登山のスリリングな感触をヴァーチャルに味わいながら事件の成り行きに引きこまれることだろう。
奥書を読むと、本書は「STORY BOX」の2015年4月号~2017年5月号に連載され、改題、加筆修正して2020年1月に単行本として刊行されている。
冒頭は、桑崎裕二が浜村隆をパートナーにして、天狗ノ鼻に到着し、テントは持参しているが、そこに雪洞を作って一泊し翌早朝に鹿島槍ヶ岳の北壁に挑むという山行の場面描写から始まる。雪洞作りは浜村への指導でもある。
桑崎は大学時代山岳部に所属していた。山好きが高じて登山と仕事の両立を望み、ひらめいたのが山岳救助隊。その結果、大学卒業後、長野県警に奉職し、現在は県警山岳遭難救助隊に所属する。昨年が入隊5年目で、涸沢常駐隊のチームリーダーとなった巡査部長である。高度な登攀経験を積んでいることから、八木副隊長の信頼も厚い。
浜村は桑崎より2歳下。地元の松本市出身、高卒で長野県警の警察官となり一昨年に県警山岳遭難救助隊に入隊した。高校ではワンダーフォーゲル部に所属していたという。警察官としてのキャリアは桑崎より長いが、浜村は入隊後の年数と山のキャリアを加味して桑崎には大先輩として敬意を払っている。この二人がこのストーリーの中軸となって行く。
浜村がアイスクライミングに興味を示しだし桑崎に要望したことがきっかけで、休暇をとってこの山行を桑崎が実行したのだった。だが、それがとんでもない事件に二人がかかわっていく契機となる。
天狗ノ鼻で桑崎が先に雪を掘り始めた時、浜村が眼下のカクネ里の下流近くで幕営している3人のパーティーがいることに気づいた。北壁登攀のためのベースキャンプとは考えにくい場所であり、桑崎は山行のルートとしては不審に思い、また勘違いして迷い込んでいたとしたらまずいという不安をも覚えた。落ち着きが悪い思いから、桑崎は本部に連絡だけは入れておいた。その時点で、遭難届は出ていないという。
桑崎たちは翌朝3時に雪洞を出発。北壁を目指す。その時点で、カクネ里のテントのあったあたりは真っ暗で、動きはみられなかった。桑崎・浜村の北壁登攀の描写が続く。
午後1時過ぎに鹿島槍北峰に立つ。天候の悪化は予想より早まりそう。桑崎たちは天狗尾根を下降し、天狗ノ鼻で前日に出会った別パーティの行動の様子を見ることにした。登頂が遅いので、彼らの遭難の危惧を考慮したのだ。
天狗ノ鼻からカクネ里を覆うガスにわずかの切れ目ができ、例のパーティの幕営地あたりが垣間見えた。テントはなかった。だが、テントのあった場所、雪の上に俯せに横たわり動いている様子のまったくない人の姿を、桑崎は双眼鏡を最大にズームして視認した。それが実質的な事件の始まりとなる。
県警山岳遭難救助隊の一員として、そのままに見過ごすわけには行かない。桑崎たちは本部と連絡を取った後、現地に下降して行く。現地で死亡した女性を発見。それも他殺死体だった。後は殺人事件として捜査一課の仕事になる。現場検証の必要性から桑崎たちが現場周辺を触るわけには行かない。
天候は悪化。桑崎たちは事件現場に支障を及ぼさない場所でテント泊し、本部と連絡を取り合う。翌日天候の回復に合わせてヘリを飛ばしてもらい、死体にビーコンを取り付ける作業だけして、桑崎たちは撤収することに。だが、レスキューヘリが現場近くに到着し、地上1mほどの高さでホバリングし、死体近くに移動してくれている矢先に、カクネ里の上流で雪崩が発生した。まさに危機一髪で桑崎・浜村は機内に転げ込む。ビーコンを取り付ける予定で表層の雪を掘り出しておいた死体に、桑崎がビーコンを取り付けるゆとりも無かった。死体は300mほど駆け下る雪崩に呑み込まれてしまった。
県警本部庁舎に戻った桑崎は捜査一課の刑事富坂から事情聴取を受ける。当初、富坂はこの死体発見という事実すら受け入れようとしない様子だった。雪山の現場、それも雪崩に流されたことから二の足を踏んでいるとすら桑崎は感じた。
翌日正午すぎ、大遠見山附近で停滞しているパーティから110番に救難要請が入る。東京からの3人のパーティ。男性2名、女性1名。女性の体調が悪化しているという。女性が低体温症になっているのは間違いがなさそう。桑崎と浜村が先遣隊となり、さらに緊急出動の体制が組まれる。救難要請の交信から、遭難者の一人は原口豊とわかる。現地に到着した桑崎は、そのパーティの装備や服装からその3人がカクネ里で幕営していたパーティだと確信した。だが、男性二人は既に死亡していた。女性は低体温症の症状が出ているが何とか生きていた。その原口は4年前の11月に剱岳で救難要請をし、富山県警のヘリで救助されたが、県警の扱いについて裁判に訴えるという一悶着を起こしていた人物でもあった。
3人が所持していた運転免許証あるいは健康保健証から、原口豊、湯沢浩一、木下佳枝と身元が判明した。
次の日、撤収の準備として、遭難者のテントと荷物の片付けを救助隊の稲本がしていて、ザックの中から人間の指が入れられた半透明の食器容器を見つけた。桑崎は言いがたい慄きを覚えた。
また、桑崎が原口と救難要請に対する交信をしていた時点で、大谷原の駐車場にここ数日、品川ナンバーのSUVが駐まっているという連絡が大町署の地域課から入っていた。その車が盗難車である事実がわかり、さらに車から湯沢浩一の指紋が検出されたのだ。
さまざまな状況証拠が累積していくが、事件を関連付け殺人事件を裏付ける確実な物証は出て来ない。3人のパーティによる死体遺棄や死体損壊の容疑は明かである。
そんな状況下で、捜査本部が立ち上がる。富坂が雪山が絡む不可解な一連の事件にやっとやる気を見せ始める。捜査本部ができてから大町署の名物刑事山谷が加わる。一方、桑崎と浜村はこの一連の事件に当初から関わっていたことから、捜査本部の一員として加わることを要請される。
カクネ里の死体を確認した桑崎は俯せの女性の写真を撮っていた。その喉元には引っ掻き傷があり間違いなく吉川線だった。写真から検視官も同じ判断をしていた。それともう一つ、その死体は凍結していたという事実があった。この季節にカクネ里あたりで凍結することはあり得ない。では、どこで凍結したのか。桑崎にはわからない。
病院に搬入されて治療を受けていた木下佳枝が遂に亡くなってしまう。
一連の事件がどのように関係するのか、しないのか。事件に関係して直接証言できそうな人は居なくなった。身元が判明したことから家族・親族並びに周辺の人々への聞き込み、確認捜査が進展し、少しずつ捜査情報が集まり、見えなかった筋が明らかになっていく。原口豊の素性を洗うことから、大町出身の資産家の名前が浮上してくることに。
事件との関係の有無は不明ながら、捜査すべき事項が増えて行く。
このストーリー、最後のステージまで後立山連峰の雪山が関係していく。
救難要請が八峰キレットから入る。第12章は、悪天候中を桑崎・浜村・稲本の3人がパーティを組み、五竜岳を越えて八峰キレットまで救助活動に赴く雪山での行動が描写されていく。事件を解決するためにも、この救助活動は必須となる。
登山の好きな人は、悪天候の雪山での登攀描写に引きこまれていくことだろう。雪山の状景を思い描きながらイメージを膨らませることで、特に雪山登山経験者は臨場感を追体験できるのではないかと思う。
最後の第13章で、累積されてきた事実情報を踏まえて、事件の謎が解明されることに・・・・・・。
捜査本部が立った後、徐々に腰が引けていく警察組織のトップ層と、何としても事件を解決したいと思う富坂と山谷の両刑事。富坂・山谷と桑崎・浜村がこのストーリーでは事件捜査側の主役になっていく。捜査過程における警察のトップ層とベテラン刑事たちとのコントラストが興味深い。
「警視正以上の警察官は国家公務員で、その任命権は国家公安委員会が握っている。つまり、うちの刑事部長も帳場のある大町署の署長も、みんな国家公安委員会が任命する役職だ。そういう仕組みなら、政治が介入する余地も十分あるわけでね」「情けない話だが、それが実態だからどうしようもない」(p233)というベテラン刑事の愚痴も飛び出してくる。
一方、確実な物証を基礎に事件を捜査していく立場の富坂刑事たちと、山岳遭難救助という立場で一連の事件を捕らえて行く桑崎たちとの間の考え方や思いのコントラストが描かれて行く。警察組織もどこに所属するかで大きくものの見方が変わる。この点もおもしろい。
本書表紙の中央に「山岳捜査」というタイトル、左上隅に「Mountain Investigation」と記されている。investigation という英単語は今まで、調査、研究という意味でしか使ったことがなかった。手許の辞書を引くと、「調査」という太字での訳語の続きに、「捜査、取り調べ」という意味も普通のフォントで併記されていた。犯罪の捜査は detection という単語を想起し、investigation とは結びつけることがなかった。知っているつもりの英単語も意外とその意味の広がりを理解していない。investigation という単語を遅ればせながら再認識した。お粗末な話だが・・・・・。
いずれにしても、エンタテインメント性にも優れ、楽しめる作品である。
ご一読ありがとうございます。
この作品に出てくる山についてネット情報を調べてみた。その一部を一覧にしておいたい。
鹿島槍ヶ岳 :「日本アルプス登山ルートガイド」
キレット小屋から鹿島槍ヶ岳 その1 続きにその2、その3あり。
鹿島槍ヶ岳 :ウィキペディア
鹿島槍北壁正面ルンゼ 20160320~21 :「千種アルパインクラブ」
鹿島川源流 カクネ里 :「長野県の山岳」
五竜岳 :「日本アルプス登山ルートガイド」
八峰キレット小屋から五竜岳 その2~その5がつづく。
八峰キレット|鹿島槍ヶ岳~五竜岳を1泊2日テント泊 :YouTube
【テント泊登山】国内屈指の難関ルート八峰キレットに挑む|北アルプス後立山縦走:YouTube
1週間で24件の遭難事故、下山まで集中力を切らさないように! 島崎三歩の「山岳通信」 第158号 :「YAMAKEI ONLINE」
五十音順・長野県の山岳データ ホームページ
インターネットに有益な情報を掲載してくださった皆様に感謝します。
(情報提供サイトへのリンクのアクセスがネット事情でいつか途切れるかもしれません。
その節には、直接に検索してアクセスしてみてください。掲載時点の後のフォローは致しません。
その点、ご寛恕ください。)
この印象記を書き始めた以降に、この作家の作品で読んだものは次の小説です。
こちらもお読みいただけると、うれしいかぎりです。
『公安狼』 徳間書店
『ビッグブラザーを撃て!』 光文社文庫
『時の渚』 文春文庫
『白日夢 素行調査官』 光文社文庫
『素行調査官』 光文社文庫
『越境捜査』 上・下 双葉文庫
『サンズイ』 光文社
『失踪都市 所轄魂』 徳間文庫
『所轄魂』 徳間文庫
『突破口 組織犯罪対策部マネロン室』 幻冬舎
『遺産 The Legacy 』 小学館
奥書を読むと、本書は「STORY BOX」の2015年4月号~2017年5月号に連載され、改題、加筆修正して2020年1月に単行本として刊行されている。
冒頭は、桑崎裕二が浜村隆をパートナーにして、天狗ノ鼻に到着し、テントは持参しているが、そこに雪洞を作って一泊し翌早朝に鹿島槍ヶ岳の北壁に挑むという山行の場面描写から始まる。雪洞作りは浜村への指導でもある。
桑崎は大学時代山岳部に所属していた。山好きが高じて登山と仕事の両立を望み、ひらめいたのが山岳救助隊。その結果、大学卒業後、長野県警に奉職し、現在は県警山岳遭難救助隊に所属する。昨年が入隊5年目で、涸沢常駐隊のチームリーダーとなった巡査部長である。高度な登攀経験を積んでいることから、八木副隊長の信頼も厚い。
浜村は桑崎より2歳下。地元の松本市出身、高卒で長野県警の警察官となり一昨年に県警山岳遭難救助隊に入隊した。高校ではワンダーフォーゲル部に所属していたという。警察官としてのキャリアは桑崎より長いが、浜村は入隊後の年数と山のキャリアを加味して桑崎には大先輩として敬意を払っている。この二人がこのストーリーの中軸となって行く。
浜村がアイスクライミングに興味を示しだし桑崎に要望したことがきっかけで、休暇をとってこの山行を桑崎が実行したのだった。だが、それがとんでもない事件に二人がかかわっていく契機となる。
天狗ノ鼻で桑崎が先に雪を掘り始めた時、浜村が眼下のカクネ里の下流近くで幕営している3人のパーティーがいることに気づいた。北壁登攀のためのベースキャンプとは考えにくい場所であり、桑崎は山行のルートとしては不審に思い、また勘違いして迷い込んでいたとしたらまずいという不安をも覚えた。落ち着きが悪い思いから、桑崎は本部に連絡だけは入れておいた。その時点で、遭難届は出ていないという。
桑崎たちは翌朝3時に雪洞を出発。北壁を目指す。その時点で、カクネ里のテントのあったあたりは真っ暗で、動きはみられなかった。桑崎・浜村の北壁登攀の描写が続く。
午後1時過ぎに鹿島槍北峰に立つ。天候の悪化は予想より早まりそう。桑崎たちは天狗尾根を下降し、天狗ノ鼻で前日に出会った別パーティの行動の様子を見ることにした。登頂が遅いので、彼らの遭難の危惧を考慮したのだ。
天狗ノ鼻からカクネ里を覆うガスにわずかの切れ目ができ、例のパーティの幕営地あたりが垣間見えた。テントはなかった。だが、テントのあった場所、雪の上に俯せに横たわり動いている様子のまったくない人の姿を、桑崎は双眼鏡を最大にズームして視認した。それが実質的な事件の始まりとなる。
県警山岳遭難救助隊の一員として、そのままに見過ごすわけには行かない。桑崎たちは本部と連絡を取った後、現地に下降して行く。現地で死亡した女性を発見。それも他殺死体だった。後は殺人事件として捜査一課の仕事になる。現場検証の必要性から桑崎たちが現場周辺を触るわけには行かない。
天候は悪化。桑崎たちは事件現場に支障を及ぼさない場所でテント泊し、本部と連絡を取り合う。翌日天候の回復に合わせてヘリを飛ばしてもらい、死体にビーコンを取り付ける作業だけして、桑崎たちは撤収することに。だが、レスキューヘリが現場近くに到着し、地上1mほどの高さでホバリングし、死体近くに移動してくれている矢先に、カクネ里の上流で雪崩が発生した。まさに危機一髪で桑崎・浜村は機内に転げ込む。ビーコンを取り付ける予定で表層の雪を掘り出しておいた死体に、桑崎がビーコンを取り付けるゆとりも無かった。死体は300mほど駆け下る雪崩に呑み込まれてしまった。
県警本部庁舎に戻った桑崎は捜査一課の刑事富坂から事情聴取を受ける。当初、富坂はこの死体発見という事実すら受け入れようとしない様子だった。雪山の現場、それも雪崩に流されたことから二の足を踏んでいるとすら桑崎は感じた。
翌日正午すぎ、大遠見山附近で停滞しているパーティから110番に救難要請が入る。東京からの3人のパーティ。男性2名、女性1名。女性の体調が悪化しているという。女性が低体温症になっているのは間違いがなさそう。桑崎と浜村が先遣隊となり、さらに緊急出動の体制が組まれる。救難要請の交信から、遭難者の一人は原口豊とわかる。現地に到着した桑崎は、そのパーティの装備や服装からその3人がカクネ里で幕営していたパーティだと確信した。だが、男性二人は既に死亡していた。女性は低体温症の症状が出ているが何とか生きていた。その原口は4年前の11月に剱岳で救難要請をし、富山県警のヘリで救助されたが、県警の扱いについて裁判に訴えるという一悶着を起こしていた人物でもあった。
3人が所持していた運転免許証あるいは健康保健証から、原口豊、湯沢浩一、木下佳枝と身元が判明した。
次の日、撤収の準備として、遭難者のテントと荷物の片付けを救助隊の稲本がしていて、ザックの中から人間の指が入れられた半透明の食器容器を見つけた。桑崎は言いがたい慄きを覚えた。
また、桑崎が原口と救難要請に対する交信をしていた時点で、大谷原の駐車場にここ数日、品川ナンバーのSUVが駐まっているという連絡が大町署の地域課から入っていた。その車が盗難車である事実がわかり、さらに車から湯沢浩一の指紋が検出されたのだ。
さまざまな状況証拠が累積していくが、事件を関連付け殺人事件を裏付ける確実な物証は出て来ない。3人のパーティによる死体遺棄や死体損壊の容疑は明かである。
そんな状況下で、捜査本部が立ち上がる。富坂が雪山が絡む不可解な一連の事件にやっとやる気を見せ始める。捜査本部ができてから大町署の名物刑事山谷が加わる。一方、桑崎と浜村はこの一連の事件に当初から関わっていたことから、捜査本部の一員として加わることを要請される。
カクネ里の死体を確認した桑崎は俯せの女性の写真を撮っていた。その喉元には引っ掻き傷があり間違いなく吉川線だった。写真から検視官も同じ判断をしていた。それともう一つ、その死体は凍結していたという事実があった。この季節にカクネ里あたりで凍結することはあり得ない。では、どこで凍結したのか。桑崎にはわからない。
病院に搬入されて治療を受けていた木下佳枝が遂に亡くなってしまう。
一連の事件がどのように関係するのか、しないのか。事件に関係して直接証言できそうな人は居なくなった。身元が判明したことから家族・親族並びに周辺の人々への聞き込み、確認捜査が進展し、少しずつ捜査情報が集まり、見えなかった筋が明らかになっていく。原口豊の素性を洗うことから、大町出身の資産家の名前が浮上してくることに。
事件との関係の有無は不明ながら、捜査すべき事項が増えて行く。
このストーリー、最後のステージまで後立山連峰の雪山が関係していく。
救難要請が八峰キレットから入る。第12章は、悪天候中を桑崎・浜村・稲本の3人がパーティを組み、五竜岳を越えて八峰キレットまで救助活動に赴く雪山での行動が描写されていく。事件を解決するためにも、この救助活動は必須となる。
登山の好きな人は、悪天候の雪山での登攀描写に引きこまれていくことだろう。雪山の状景を思い描きながらイメージを膨らませることで、特に雪山登山経験者は臨場感を追体験できるのではないかと思う。
最後の第13章で、累積されてきた事実情報を踏まえて、事件の謎が解明されることに・・・・・・。
捜査本部が立った後、徐々に腰が引けていく警察組織のトップ層と、何としても事件を解決したいと思う富坂と山谷の両刑事。富坂・山谷と桑崎・浜村がこのストーリーでは事件捜査側の主役になっていく。捜査過程における警察のトップ層とベテラン刑事たちとのコントラストが興味深い。
「警視正以上の警察官は国家公務員で、その任命権は国家公安委員会が握っている。つまり、うちの刑事部長も帳場のある大町署の署長も、みんな国家公安委員会が任命する役職だ。そういう仕組みなら、政治が介入する余地も十分あるわけでね」「情けない話だが、それが実態だからどうしようもない」(p233)というベテラン刑事の愚痴も飛び出してくる。
一方、確実な物証を基礎に事件を捜査していく立場の富坂刑事たちと、山岳遭難救助という立場で一連の事件を捕らえて行く桑崎たちとの間の考え方や思いのコントラストが描かれて行く。警察組織もどこに所属するかで大きくものの見方が変わる。この点もおもしろい。
本書表紙の中央に「山岳捜査」というタイトル、左上隅に「Mountain Investigation」と記されている。investigation という英単語は今まで、調査、研究という意味でしか使ったことがなかった。手許の辞書を引くと、「調査」という太字での訳語の続きに、「捜査、取り調べ」という意味も普通のフォントで併記されていた。犯罪の捜査は detection という単語を想起し、investigation とは結びつけることがなかった。知っているつもりの英単語も意外とその意味の広がりを理解していない。investigation という単語を遅ればせながら再認識した。お粗末な話だが・・・・・。
いずれにしても、エンタテインメント性にも優れ、楽しめる作品である。
ご一読ありがとうございます。
この作品に出てくる山についてネット情報を調べてみた。その一部を一覧にしておいたい。
鹿島槍ヶ岳 :「日本アルプス登山ルートガイド」
キレット小屋から鹿島槍ヶ岳 その1 続きにその2、その3あり。
鹿島槍ヶ岳 :ウィキペディア
鹿島槍北壁正面ルンゼ 20160320~21 :「千種アルパインクラブ」
鹿島川源流 カクネ里 :「長野県の山岳」
五竜岳 :「日本アルプス登山ルートガイド」
八峰キレット小屋から五竜岳 その2~その5がつづく。
八峰キレット|鹿島槍ヶ岳~五竜岳を1泊2日テント泊 :YouTube
【テント泊登山】国内屈指の難関ルート八峰キレットに挑む|北アルプス後立山縦走:YouTube
1週間で24件の遭難事故、下山まで集中力を切らさないように! 島崎三歩の「山岳通信」 第158号 :「YAMAKEI ONLINE」
五十音順・長野県の山岳データ ホームページ
インターネットに有益な情報を掲載してくださった皆様に感謝します。
(情報提供サイトへのリンクのアクセスがネット事情でいつか途切れるかもしれません。
その節には、直接に検索してアクセスしてみてください。掲載時点の後のフォローは致しません。
その点、ご寛恕ください。)
この印象記を書き始めた以降に、この作家の作品で読んだものは次の小説です。
こちらもお読みいただけると、うれしいかぎりです。
『公安狼』 徳間書店
『ビッグブラザーを撃て!』 光文社文庫
『時の渚』 文春文庫
『白日夢 素行調査官』 光文社文庫
『素行調査官』 光文社文庫
『越境捜査』 上・下 双葉文庫
『サンズイ』 光文社
『失踪都市 所轄魂』 徳間文庫
『所轄魂』 徳間文庫
『突破口 組織犯罪対策部マネロン室』 幻冬舎
『遺産 The Legacy 』 小学館