院内刑事シリーズの第4弾。文庫書き下ろしとして2020年11月に刊行された。
短編連作集の趣が強い作品である。各章が特定のテーマで一応一話としてまとまっている。そこで描かれたイベントのある部分が、このストーリー全体との関わりを潜めている。ストーリーの終盤では今までの事象がジグソウパズルの一片のように、一つの図柄のなかに収まっていく。そんな構成になっている。
医療法人社団敬徳会の理事長・住吉幸之助に請われて、廣瀬知剛は敬徳会傘下の総合病院・川崎殿町病院のリスクマネジメント担当顧問になった。廣瀬の発案で敬徳会傘下の病院には、組織として院内交番が設けられた。廣瀬が面談採用した優秀な元警察官である牛島隆二は外来、前澤真美子は病棟、と分担して危機管理を担当する。いわば院内刑事である。元看護婦長だった持田奈央子が川崎殿町病院の危機管理担当責任者である。病院の看護婦長としての持田の実績が、院内交番の機能と必要性、効果への認識を一層高めていた。廣瀬は顧問という立場から病院のリスクマネジメントを監督し、必要な手を打つ立場である。このストーリーのおもしろさは、病院内で起こるあるいは持ち込まれる問題事象を如何にリスクマネジメントの視点から回避・緩和・解消・解決し、さらなる対策をとっていくかである。そんな危機管理対応のエピソード集と言える。
第一に興味深い点は、問題事象をリスクマネジメント(危機管理)の立場で即座に受けとめ、速やかに解決策を実施する実行力の冴えにある。さらに廣瀬が一歩先の手を打っていくかどうかの展開にある。読者はこの視点と事件対応プロセスを楽しむことになる。
章を追いながら、読後印象のコメントを含めて、少しご紹介して行こう。
<プロローグ>
大型クルーズ船で新型コロナウィルス集団感染が発生し、横浜入港という事態が起きた。廣瀬がそれを知ったことに端を発する。感染症内科医長半田は防衛省副大臣から大型船入港に協力する要請を請けることに。廣瀬は即座にこの新型コロナウィルスへの対策を打ち始める。パンデミックの発生にどう対処できるか。リアルタイムな問題事象のストーリーが始まっていく。
読者は、フィクションとして描き出される廣瀬たちの行動に、現実のコロナ禍の発生・進展を重ね合わせ、病原菌に対するリスクマネジメントの側面を対比的に読み進め考えることになる。このリアルタイム性が現実社会への批判的側面を内包している故に考えさせられる点を含んでいる。そこに対比的おもしろさが生まれてくる。
<第一章 派閥争い>
廣瀬はパンデミックを想定して住吉理事長とその対策・アクションを取り始める。
前澤は病院内の観察から、看護師間の派閥の動き、院外の職域労働組合の浸透の兆候を捕らえ、廣瀬に報告した。看護師長の座を狙った副師長間の派閥抗争が浮かびあがる。その兆候が描かれる。大きな組織は何処も同じ・・・・と思う。これがどう絡んでいくのか。
<第二章 産科の苦悩>
VIP棟の下層階にある産科の特別室に入院する月岡香苗に焦点があたる。国会議員を父に持つ若手芸能人。彼女はLGBTであることでカミングアウトした。インターネットで購入した精子で妊娠し、転院してきた。転院は赤坂の本院の産科医長が開業医からの願いを受けたものだった。臨月まで1ヶ月近くあるのだが、赤ちゃんが十八トリソミー症候群だと判明した。染色体異常症の一種。
背景を含めて特殊な事例が浮かびあがる。前段描写の章となる。この後どう展開するのか。
<第三章 ドクターヘリ>
川崎殿町病院に第二ヘリポートが建設されるに至った経緯とその第二ヘリポートを使う事態が描かれる。新生児へのオペのために緊急搬入が必要となったのだ。ヘリの着陸状況が思わぬ形の影響を生み出すに至る。緊急手術は成功した。だが、廣瀬は第二ヘリポートの使用について改善点を見つけていた。
ヘリポートは緊急医療処置との対応関係で捕らえられ、リスクマネジメント視点が盛り込まれている。ナルホドと思う。
<第四章 パンデミック>
新型コロナウィルス感染の最初期の対応状況、および大型クルーズ船への右往左往の対応に対し、明治28年(1895)に後藤新平が日清戦争帰還兵に対して行った検疫、感染症対策事業が対比的に語られる。廣瀬の目を借りて著者の批判精神が現れているように思う。
廣瀬の指導の下で、川崎殿町病院がどのようなパンデミック対策を講じていくか。並びに感染患者の受け入れ状況が描かれていく。
その最中に常識が通用しない一人のコロナ感染者が現れ暴れる状況が点描される。
パンデミックの一側面をリスクマネジメントの視点から描写する。
<第五章 ストーカー>
牛島の居る院内交番に消化器内科の看護師柘植美里が相談に訪れる。患者・大谷国男にストーカーされているという。牛島は勿論廣瀬に状況報告する。それが契機となる。
このストーカー問題に、廣瀬と牛島がどう対処していくかが読ませどころ。
廣瀬は、院内の防犯カメラの映像分析、ストーカーの人物像の洗い出し、古巣である警視庁の寺山理事官との緊密な連携、牛島の行動に対する指示など、適切な手段を講じ、ストーカー対応を進めていく。廣瀬は牛島にストーカーの心理を分析する。「ストーカーにとって、自分自身の執っているストーカー行為は全てが正当行為なのです。これを邪魔する行為に攻撃をするのは正当防衛なんですね」(p238-239)と。
併せて、大谷国男関連で、ソーシャルエンジニアリング攻撃、ルート権限、アドミニストレーター権限、トラステッドインストーラーというIT絡みの話題も出てきて興味深い。
<第六章 院内感染>
院内感染がテーマとなる。なぜ起こるのか。万全の体制を作る廣瀬はそれでも院内感染の起こる要因を住吉理事長に説明する。
再び、自分はコロナ感染者だと言い、院内で暴れる男が出てくる。牛島が対応する。牛島は、現行犯人逮捕手続(乙)と供述調書を作成して、県警から来た捜査員に身柄とともに渡すのだからおもしろい。廣瀬はこの事件について記者会見を実施し、風評被害への対処に怠りがない。これもまた、ナルホドと思う。
この章のおもしろさは、第二章に登場した月岡香苗の父、月岡孝昭参議院議員の名前が出てくるところである。ここから、世界平和教の内部分裂がらみの新たな展開が進展する。宗教と政治家が絡むと、ろくな話はない。今どこかの国で、政治家と宗教絡みの論議が盛んなように・・・・・。
このストーリー、状況は北朝鮮系のパチンコ業者がからむ形で、さらに一歩複雑さを増して行く。なぜか。それについてはこの章を読んでいただきたい。
<第7章 労働組合と内部告発>
第一章が前段とみると、こちらが後段になる。2020年春の医療法人社団敬徳会におけるベースアップ交渉の状況から話が始まる。その交渉は、一方で労働組合内部ではベースアップ交渉に絡めた付帯意見について、一種の論争が生まれる。一方、インターネットのあるサイトに、病院批判の内容が公開された。医事課の松原主事がそれを発見し、廣瀬に報告した。それは強い悪意を感じされる内容だったからだ。廣瀬は内部告発の背景と真相の解明を始める。
廣瀬は寺山理事官に相談を投げかける。寺山理事官は、その内容から廣瀬に元ハイテク捜査官中藤慎二を紹介する。廣瀬と中藤がタッグを組むことで、おもしろい展開となっていく。勿論寺山理事官には己の職務領域に絡む側面があり、廣瀬をサポートする。
この顛末はなかなか興味深い。
<エピローグ>
いくつかトピック的に事案が取り上げられていく。
1.川崎殿町病院内の看護師人事の発表。これは、今後のこのシリーズに何等かの影響を及ぼしていくだろう。内部告発の事実がわかった後のアフターにも触れていく。
2.住吉理事長が厚生労働省の審議会仲間から感染症専門医師を一人推挙された。住吉理事長は、廣瀬に最終面談をするように依頼する。この最終面談の顛末が描かれる。これがおもしろい。廣瀬はその若い医師の人物評価を天ぷら店での会食、2カ所のバーの梯子を通じて行うというもの。
3.新型コロナウィルスの中国陰謀説。一つの仮説が廣瀬と住吉理事長の話材になる。
4.コロナ禍での病院経営について。廣瀬の次の発言には重みがあると感じる。
「・・・・医は仁術ではありますが、そこに経営手腕が伴わなければ『仁』を語る意味がありません。職員を弱らせてしまう経営者に医療を語る資格はないと思います。」(p327)
「エクモを持っていながらも、これを使うことができるスタッフがいない病院がある・・・・という笑い話のようなところもあるわけですからね。」(p328)
5.PCR検査を医療側から捕らえた意味について。こういう視点を持っていなかった。
6.月岡香苗の出産とアフター(退院まで)。
7.廣瀬の立場と行動。
実に、盛りだくさんなまとめになっている。盛り込まれた内容が幅広いのでこうならざるを得ないのかもしれないが、語りたいことがいろいろあったということでもある。
病院側からみた新型コロナウィルスへの対処が、リスクマネジメントという視点からリアルに取り上げられている。医療としての対処。そこに様々な局面で生まれそうな話が枝葉として絡められていく。ここがおもしろい。
このフィクションで重要な指摘と感じること。それは廣瀬と前澤の会話で前澤が語った一文である。
「新型コロナウィルス医療従事者の『こころ』をどう守るか・・・・ですね。」(p343)
ご一読ありがとうございます。
本書に関連してネット検索した事項を、一覧にしておきたい。
新型コロナウイルスに関するQ&A(一般の方向け) :「厚生労働省」
国内の発生状況など :「厚生労働省」
都内の最新感染動向 :「東京都」
新型コロナウイルス感染症 :「日本医師会」
ダイヤモンド・プリンセス号新型コロナウイルス感染症事例における事例発生初期の疫学
:「NIID国立感染症研究所」
クルーズ船「コスタ・アトランチカ号」における新型コロナウイルス感染症クラスター発生事案検証報告書 :「長崎県」
「対策が数日早ければ…」後悔 クルーズ船集団感染1年 :「日本経済新聞」
クルーズの再開に向けた安全対策について :「国土交通省」
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックに対する大学病院としての取り組み
:「産学官連携ジャーナル」
新型コロナウイルス感染症に関する検査について :「厚生労働省」
各都道府県の無料検査事業サイト [新型コロナウィルス感染症対策] :「内閣官房」
なおも消えないウイルス起源の陰謀論 :「日経サイエンス」
コロナウイルスと陰謀論―― 感染症危機と米中対立 :「フォーリン・アフェアーズ・リポート」
インターネットに有益な情報を掲載してくださった皆様に感謝します。
(情報提供サイトへのリンクのアクセスがネット事情でいつか途切れるかもしれません。
その節には、直接に検索してアクセスしてみてください。掲載時点の後のフォローは致しません。
その点、ご寛恕ください。)
こちらの本も読後印象を書いています。お読みいただけるとうれしいです。
『院内刑事 フェイク・レセプト』 講談社文庫
『鬼手 世田谷駐在刑事・小林健』 講談社文庫
『電子の標的 警視庁特別捜査官・藤江康央』 講談社文庫
『ヒトイチ 内部告発 警視庁人事一課監察係』 講談社文庫
『ヒトイチ 画像解析 警視庁人事一課監察係』 講談社文庫
『ヒトイチ 警視庁人事一課監察係』 講談社文庫
『警視庁情報官 ノースブリザード』 講談社文庫
『院内刑事 ブラックメディスン』 講談社+α文庫
『院内刑事』 講談社+α文庫
===== 濱 嘉之 作品 読後印象記一覧 ===== 2021.9.14現在 1版 21冊
短編連作集の趣が強い作品である。各章が特定のテーマで一応一話としてまとまっている。そこで描かれたイベントのある部分が、このストーリー全体との関わりを潜めている。ストーリーの終盤では今までの事象がジグソウパズルの一片のように、一つの図柄のなかに収まっていく。そんな構成になっている。
医療法人社団敬徳会の理事長・住吉幸之助に請われて、廣瀬知剛は敬徳会傘下の総合病院・川崎殿町病院のリスクマネジメント担当顧問になった。廣瀬の発案で敬徳会傘下の病院には、組織として院内交番が設けられた。廣瀬が面談採用した優秀な元警察官である牛島隆二は外来、前澤真美子は病棟、と分担して危機管理を担当する。いわば院内刑事である。元看護婦長だった持田奈央子が川崎殿町病院の危機管理担当責任者である。病院の看護婦長としての持田の実績が、院内交番の機能と必要性、効果への認識を一層高めていた。廣瀬は顧問という立場から病院のリスクマネジメントを監督し、必要な手を打つ立場である。このストーリーのおもしろさは、病院内で起こるあるいは持ち込まれる問題事象を如何にリスクマネジメントの視点から回避・緩和・解消・解決し、さらなる対策をとっていくかである。そんな危機管理対応のエピソード集と言える。
第一に興味深い点は、問題事象をリスクマネジメント(危機管理)の立場で即座に受けとめ、速やかに解決策を実施する実行力の冴えにある。さらに廣瀬が一歩先の手を打っていくかどうかの展開にある。読者はこの視点と事件対応プロセスを楽しむことになる。
章を追いながら、読後印象のコメントを含めて、少しご紹介して行こう。
<プロローグ>
大型クルーズ船で新型コロナウィルス集団感染が発生し、横浜入港という事態が起きた。廣瀬がそれを知ったことに端を発する。感染症内科医長半田は防衛省副大臣から大型船入港に協力する要請を請けることに。廣瀬は即座にこの新型コロナウィルスへの対策を打ち始める。パンデミックの発生にどう対処できるか。リアルタイムな問題事象のストーリーが始まっていく。
読者は、フィクションとして描き出される廣瀬たちの行動に、現実のコロナ禍の発生・進展を重ね合わせ、病原菌に対するリスクマネジメントの側面を対比的に読み進め考えることになる。このリアルタイム性が現実社会への批判的側面を内包している故に考えさせられる点を含んでいる。そこに対比的おもしろさが生まれてくる。
<第一章 派閥争い>
廣瀬はパンデミックを想定して住吉理事長とその対策・アクションを取り始める。
前澤は病院内の観察から、看護師間の派閥の動き、院外の職域労働組合の浸透の兆候を捕らえ、廣瀬に報告した。看護師長の座を狙った副師長間の派閥抗争が浮かびあがる。その兆候が描かれる。大きな組織は何処も同じ・・・・と思う。これがどう絡んでいくのか。
<第二章 産科の苦悩>
VIP棟の下層階にある産科の特別室に入院する月岡香苗に焦点があたる。国会議員を父に持つ若手芸能人。彼女はLGBTであることでカミングアウトした。インターネットで購入した精子で妊娠し、転院してきた。転院は赤坂の本院の産科医長が開業医からの願いを受けたものだった。臨月まで1ヶ月近くあるのだが、赤ちゃんが十八トリソミー症候群だと判明した。染色体異常症の一種。
背景を含めて特殊な事例が浮かびあがる。前段描写の章となる。この後どう展開するのか。
<第三章 ドクターヘリ>
川崎殿町病院に第二ヘリポートが建設されるに至った経緯とその第二ヘリポートを使う事態が描かれる。新生児へのオペのために緊急搬入が必要となったのだ。ヘリの着陸状況が思わぬ形の影響を生み出すに至る。緊急手術は成功した。だが、廣瀬は第二ヘリポートの使用について改善点を見つけていた。
ヘリポートは緊急医療処置との対応関係で捕らえられ、リスクマネジメント視点が盛り込まれている。ナルホドと思う。
<第四章 パンデミック>
新型コロナウィルス感染の最初期の対応状況、および大型クルーズ船への右往左往の対応に対し、明治28年(1895)に後藤新平が日清戦争帰還兵に対して行った検疫、感染症対策事業が対比的に語られる。廣瀬の目を借りて著者の批判精神が現れているように思う。
廣瀬の指導の下で、川崎殿町病院がどのようなパンデミック対策を講じていくか。並びに感染患者の受け入れ状況が描かれていく。
その最中に常識が通用しない一人のコロナ感染者が現れ暴れる状況が点描される。
パンデミックの一側面をリスクマネジメントの視点から描写する。
<第五章 ストーカー>
牛島の居る院内交番に消化器内科の看護師柘植美里が相談に訪れる。患者・大谷国男にストーカーされているという。牛島は勿論廣瀬に状況報告する。それが契機となる。
このストーカー問題に、廣瀬と牛島がどう対処していくかが読ませどころ。
廣瀬は、院内の防犯カメラの映像分析、ストーカーの人物像の洗い出し、古巣である警視庁の寺山理事官との緊密な連携、牛島の行動に対する指示など、適切な手段を講じ、ストーカー対応を進めていく。廣瀬は牛島にストーカーの心理を分析する。「ストーカーにとって、自分自身の執っているストーカー行為は全てが正当行為なのです。これを邪魔する行為に攻撃をするのは正当防衛なんですね」(p238-239)と。
併せて、大谷国男関連で、ソーシャルエンジニアリング攻撃、ルート権限、アドミニストレーター権限、トラステッドインストーラーというIT絡みの話題も出てきて興味深い。
<第六章 院内感染>
院内感染がテーマとなる。なぜ起こるのか。万全の体制を作る廣瀬はそれでも院内感染の起こる要因を住吉理事長に説明する。
再び、自分はコロナ感染者だと言い、院内で暴れる男が出てくる。牛島が対応する。牛島は、現行犯人逮捕手続(乙)と供述調書を作成して、県警から来た捜査員に身柄とともに渡すのだからおもしろい。廣瀬はこの事件について記者会見を実施し、風評被害への対処に怠りがない。これもまた、ナルホドと思う。
この章のおもしろさは、第二章に登場した月岡香苗の父、月岡孝昭参議院議員の名前が出てくるところである。ここから、世界平和教の内部分裂がらみの新たな展開が進展する。宗教と政治家が絡むと、ろくな話はない。今どこかの国で、政治家と宗教絡みの論議が盛んなように・・・・・。
このストーリー、状況は北朝鮮系のパチンコ業者がからむ形で、さらに一歩複雑さを増して行く。なぜか。それについてはこの章を読んでいただきたい。
<第7章 労働組合と内部告発>
第一章が前段とみると、こちらが後段になる。2020年春の医療法人社団敬徳会におけるベースアップ交渉の状況から話が始まる。その交渉は、一方で労働組合内部ではベースアップ交渉に絡めた付帯意見について、一種の論争が生まれる。一方、インターネットのあるサイトに、病院批判の内容が公開された。医事課の松原主事がそれを発見し、廣瀬に報告した。それは強い悪意を感じされる内容だったからだ。廣瀬は内部告発の背景と真相の解明を始める。
廣瀬は寺山理事官に相談を投げかける。寺山理事官は、その内容から廣瀬に元ハイテク捜査官中藤慎二を紹介する。廣瀬と中藤がタッグを組むことで、おもしろい展開となっていく。勿論寺山理事官には己の職務領域に絡む側面があり、廣瀬をサポートする。
この顛末はなかなか興味深い。
<エピローグ>
いくつかトピック的に事案が取り上げられていく。
1.川崎殿町病院内の看護師人事の発表。これは、今後のこのシリーズに何等かの影響を及ぼしていくだろう。内部告発の事実がわかった後のアフターにも触れていく。
2.住吉理事長が厚生労働省の審議会仲間から感染症専門医師を一人推挙された。住吉理事長は、廣瀬に最終面談をするように依頼する。この最終面談の顛末が描かれる。これがおもしろい。廣瀬はその若い医師の人物評価を天ぷら店での会食、2カ所のバーの梯子を通じて行うというもの。
3.新型コロナウィルスの中国陰謀説。一つの仮説が廣瀬と住吉理事長の話材になる。
4.コロナ禍での病院経営について。廣瀬の次の発言には重みがあると感じる。
「・・・・医は仁術ではありますが、そこに経営手腕が伴わなければ『仁』を語る意味がありません。職員を弱らせてしまう経営者に医療を語る資格はないと思います。」(p327)
「エクモを持っていながらも、これを使うことができるスタッフがいない病院がある・・・・という笑い話のようなところもあるわけですからね。」(p328)
5.PCR検査を医療側から捕らえた意味について。こういう視点を持っていなかった。
6.月岡香苗の出産とアフター(退院まで)。
7.廣瀬の立場と行動。
実に、盛りだくさんなまとめになっている。盛り込まれた内容が幅広いのでこうならざるを得ないのかもしれないが、語りたいことがいろいろあったということでもある。
病院側からみた新型コロナウィルスへの対処が、リスクマネジメントという視点からリアルに取り上げられている。医療としての対処。そこに様々な局面で生まれそうな話が枝葉として絡められていく。ここがおもしろい。
このフィクションで重要な指摘と感じること。それは廣瀬と前澤の会話で前澤が語った一文である。
「新型コロナウィルス医療従事者の『こころ』をどう守るか・・・・ですね。」(p343)
ご一読ありがとうございます。
本書に関連してネット検索した事項を、一覧にしておきたい。
新型コロナウイルスに関するQ&A(一般の方向け) :「厚生労働省」
国内の発生状況など :「厚生労働省」
都内の最新感染動向 :「東京都」
新型コロナウイルス感染症 :「日本医師会」
ダイヤモンド・プリンセス号新型コロナウイルス感染症事例における事例発生初期の疫学
:「NIID国立感染症研究所」
クルーズ船「コスタ・アトランチカ号」における新型コロナウイルス感染症クラスター発生事案検証報告書 :「長崎県」
「対策が数日早ければ…」後悔 クルーズ船集団感染1年 :「日本経済新聞」
クルーズの再開に向けた安全対策について :「国土交通省」
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックに対する大学病院としての取り組み
:「産学官連携ジャーナル」
新型コロナウイルス感染症に関する検査について :「厚生労働省」
各都道府県の無料検査事業サイト [新型コロナウィルス感染症対策] :「内閣官房」
なおも消えないウイルス起源の陰謀論 :「日経サイエンス」
コロナウイルスと陰謀論―― 感染症危機と米中対立 :「フォーリン・アフェアーズ・リポート」
インターネットに有益な情報を掲載してくださった皆様に感謝します。
(情報提供サイトへのリンクのアクセスがネット事情でいつか途切れるかもしれません。
その節には、直接に検索してアクセスしてみてください。掲載時点の後のフォローは致しません。
その点、ご寛恕ください。)
こちらの本も読後印象を書いています。お読みいただけるとうれしいです。
『院内刑事 フェイク・レセプト』 講談社文庫
『鬼手 世田谷駐在刑事・小林健』 講談社文庫
『電子の標的 警視庁特別捜査官・藤江康央』 講談社文庫
『ヒトイチ 内部告発 警視庁人事一課監察係』 講談社文庫
『ヒトイチ 画像解析 警視庁人事一課監察係』 講談社文庫
『ヒトイチ 警視庁人事一課監察係』 講談社文庫
『警視庁情報官 ノースブリザード』 講談社文庫
『院内刑事 ブラックメディスン』 講談社+α文庫
『院内刑事』 講談社+α文庫
===== 濱 嘉之 作品 読後印象記一覧 ===== 2021.9.14現在 1版 21冊