『源氏物語』を代表的な例として、十二単や衣冠、束帯という言葉を知り、雛人形を目にし、また、戦国時代以降の時代物映画を通して、狩衣、裃(かみしも)、肩衣、袴、羽織なども目にしてきた。博物館を訪れれば、染織工芸品として小袖などキモノの展示を部分的にみることができる。
長い日本の歴史の中で連綿として格式のある衣類が変化・変容、発展しながら引き継がれてきた。格式ある衣類は「装束」と称される。それは「有職故実」の世界に繋がっている。
「有職故実」は、「(古いことに精通していること)朝廷や武家古来の儀式・礼法・法令などに関する定型、およびそれを研究する学問。公家については藤原実頼(小野宮流)、藤原師輔(九条流)のニ家が祖とされ、武家に関しては伊勢氏・小笠原氏が有職家として成立」(『日本語大辞典』講談社)と説明される。また手許にある石村貞吉著『有職故実』(講談社学術文庫)の下巻に「服装」という見出しで、「我が国の上代の衣服は筒袖の衣と、ずぼんに似た褌とから成り、・・・・・・」という書き出しから始まり、連綿と115ページにわたり文字だけで説明されていく。「有職故実」参照文献の一冊だが、私のような素人には敷居が高い。必要に応じ部分参照する程度にとどまる。
手許の『源氏物語図典』(小学館)を例にとれば、「衣服」の項で平安時代の装束や衣服について、イラストが適切に挿入され詳しく説明されている。『源氏物語』という時代に特化しているので有用だが、当然ながら服飾史という視点では時代が限定されていることになる。
関連用語を部分的に知り、何となくイメージは持っていても「装束」の全体をきっちりとイメージでき理解している人は少ないのではないか。私自身未だに正確にそれぞれの装束の部位名称も含めて、全体の姿を適切にイメージすることができない。さらに歴史的変遷という視点ではあまり考えたことがなかった。
冒頭の表紙で装束の実例がわかる。本書では古代から現代までの「装束」の形をイラストでトータルに描き出し、その装束の特色や時代背景を簡略に解説するとともに、その装束の部位名称を明記し、必要に応じ簡潔な解説が付記されている。
イラストで全体イメージを捉え、時代背景と特色の解説で歴史的な位置づけを知ることができる。それがどのように変化・変容し発展していくかは、イラストを対比的に見比べることで、時代の変遷を容易に理解できる。図解のメリットが存分に発揮されている。
目次を参考に、本書の構成の大枠をまとめると次のとおりである。
第1章 古代~平安時代初期の装束 古代~飛鳥時代頃/ 奈良~平安初期
第2章 平安時代の装束 平安10世紀頃/ 平安11世紀頃/ 平安12世紀頃
第3章 鎌倉時代の装束 鎌倉時代
第4章 室町~戦国時代の装束 室町時代/ 戦国時代
第5章 江戸時代の装束 江戸時代
第6章 明治時代以降の装束 明治時代以降
第7章 現代の装束 現代
なお、第1章に入る前に、「装束の基本1 装束の部位名称」「装束の基本2 装束にまつわるQ&A」という基礎知識が、導入部としてイラスト付きでまとめてある。
この解剖図鑑をイメージする一助として、表紙右上のイラストについて、ご紹介しておこう。これは、第2章の「平安10世紀頃 女性」として、「唐風から国風十二単の誕生」の見出しの中で最初に登場するイラストである。このイラストそのものの見出しは「古代風の正装 物具装束(もののぐしょうぞく)」。イラストに明記されている部位名称の数は11。列挙してみよう。名称の後の☆は、説明が付記されていることを意味する。宝髻(☆)、唐衣の襟(☆)、領巾(☆)、唐衣(☆)、表着、五衣、単、紅の長袴(☆)、裙帯(☆)、裳(☆)、衵扇(☆)である。読者にはこの部位名称をどのように読むのかから始まるのだが・・・・。本書ではルビが振られている。ご自分で調べていただくか、本書を開いてみてほしい。
この「物具装束」が、唐風から国風へと変容していき、「女房装束」となる。いわゆる「十二単」。ここは見開きのページで、右に「物具装束」、左に「女房装束」が対比となっている。女房装束のイラストに付記された部位名称は10。そのうち8つに説明がついている。
また、第7章を除き、各章末尾にはコラムが1~3個載せてある。参考にコラムの見出しをご紹介しておきたい。
女性天皇の装束/ 天皇の冠/ 冠の変遷/ 平安~室町時代頃の女子の装束
平安~室町時代の男子の装束/ 衣紋道について/ 文様の基本/
重ね色目の基本/ 江戸時代の子どもの装束と髪型/ 冠のかぶり方/
女性の髪型の変遷/ 戦後の宮中装束
装束について通史的に図解した解剖図鑑なので、普通の庶民の衣服の歴史は対象外である。それだけで別の一冊の解剖図鑑が成立するのかもしれない。あるいは、装束以上に通史として捉えるのが難しいのかもしれない。あってほしい気はする。
装束の全体を通史としてイメージしやすくなる本であり、わかりやすくて楽しめる。本書は2021年3月に初版が刊行された。
「装束」への入門書として有用だ。私にとっては、上記『有職故実』の「服飾」への架橋になる本になった。
ご一読ありがとうございます。
本書に関連して、ネット情報で相乗効果を生み出し、手軽にアクセスできるサイトがあるか少し検索してみた。一覧にしておきたい。
綺陽装束研究所 ホームページ ⇒本書著者の主宰する研究所
服制の歴史
装束の種類(衣冠)
日本服飾史 ホームページ (風俗博物館)
平安装束 :ウィキペディア
女房装束とは :「きもの用語大全」
冠と烏帽子 :「綺陽装束研究所」
日本の冠 :ウィキペディア
有職故実 :ウィキペディア
「有職故実」って何でしょう :「昭和女子大学」
有職故実
インターネットに有益な情報を掲載してくださった皆様に感謝します。
(情報提供サイトへのリンクのアクセスがネット事情でいつか途切れるかもしれません。
その節には、直接に検索してアクセスしてみてください。掲載時点の後のフォローは致しません。
その点、ご寛恕ください。)
長い日本の歴史の中で連綿として格式のある衣類が変化・変容、発展しながら引き継がれてきた。格式ある衣類は「装束」と称される。それは「有職故実」の世界に繋がっている。
「有職故実」は、「(古いことに精通していること)朝廷や武家古来の儀式・礼法・法令などに関する定型、およびそれを研究する学問。公家については藤原実頼(小野宮流)、藤原師輔(九条流)のニ家が祖とされ、武家に関しては伊勢氏・小笠原氏が有職家として成立」(『日本語大辞典』講談社)と説明される。また手許にある石村貞吉著『有職故実』(講談社学術文庫)の下巻に「服装」という見出しで、「我が国の上代の衣服は筒袖の衣と、ずぼんに似た褌とから成り、・・・・・・」という書き出しから始まり、連綿と115ページにわたり文字だけで説明されていく。「有職故実」参照文献の一冊だが、私のような素人には敷居が高い。必要に応じ部分参照する程度にとどまる。
手許の『源氏物語図典』(小学館)を例にとれば、「衣服」の項で平安時代の装束や衣服について、イラストが適切に挿入され詳しく説明されている。『源氏物語』という時代に特化しているので有用だが、当然ながら服飾史という視点では時代が限定されていることになる。
関連用語を部分的に知り、何となくイメージは持っていても「装束」の全体をきっちりとイメージでき理解している人は少ないのではないか。私自身未だに正確にそれぞれの装束の部位名称も含めて、全体の姿を適切にイメージすることができない。さらに歴史的変遷という視点ではあまり考えたことがなかった。
冒頭の表紙で装束の実例がわかる。本書では古代から現代までの「装束」の形をイラストでトータルに描き出し、その装束の特色や時代背景を簡略に解説するとともに、その装束の部位名称を明記し、必要に応じ簡潔な解説が付記されている。
イラストで全体イメージを捉え、時代背景と特色の解説で歴史的な位置づけを知ることができる。それがどのように変化・変容し発展していくかは、イラストを対比的に見比べることで、時代の変遷を容易に理解できる。図解のメリットが存分に発揮されている。
目次を参考に、本書の構成の大枠をまとめると次のとおりである。
第1章 古代~平安時代初期の装束 古代~飛鳥時代頃/ 奈良~平安初期
第2章 平安時代の装束 平安10世紀頃/ 平安11世紀頃/ 平安12世紀頃
第3章 鎌倉時代の装束 鎌倉時代
第4章 室町~戦国時代の装束 室町時代/ 戦国時代
第5章 江戸時代の装束 江戸時代
第6章 明治時代以降の装束 明治時代以降
第7章 現代の装束 現代
なお、第1章に入る前に、「装束の基本1 装束の部位名称」「装束の基本2 装束にまつわるQ&A」という基礎知識が、導入部としてイラスト付きでまとめてある。
この解剖図鑑をイメージする一助として、表紙右上のイラストについて、ご紹介しておこう。これは、第2章の「平安10世紀頃 女性」として、「唐風から国風十二単の誕生」の見出しの中で最初に登場するイラストである。このイラストそのものの見出しは「古代風の正装 物具装束(もののぐしょうぞく)」。イラストに明記されている部位名称の数は11。列挙してみよう。名称の後の☆は、説明が付記されていることを意味する。宝髻(☆)、唐衣の襟(☆)、領巾(☆)、唐衣(☆)、表着、五衣、単、紅の長袴(☆)、裙帯(☆)、裳(☆)、衵扇(☆)である。読者にはこの部位名称をどのように読むのかから始まるのだが・・・・。本書ではルビが振られている。ご自分で調べていただくか、本書を開いてみてほしい。
この「物具装束」が、唐風から国風へと変容していき、「女房装束」となる。いわゆる「十二単」。ここは見開きのページで、右に「物具装束」、左に「女房装束」が対比となっている。女房装束のイラストに付記された部位名称は10。そのうち8つに説明がついている。
また、第7章を除き、各章末尾にはコラムが1~3個載せてある。参考にコラムの見出しをご紹介しておきたい。
女性天皇の装束/ 天皇の冠/ 冠の変遷/ 平安~室町時代頃の女子の装束
平安~室町時代の男子の装束/ 衣紋道について/ 文様の基本/
重ね色目の基本/ 江戸時代の子どもの装束と髪型/ 冠のかぶり方/
女性の髪型の変遷/ 戦後の宮中装束
装束について通史的に図解した解剖図鑑なので、普通の庶民の衣服の歴史は対象外である。それだけで別の一冊の解剖図鑑が成立するのかもしれない。あるいは、装束以上に通史として捉えるのが難しいのかもしれない。あってほしい気はする。
装束の全体を通史としてイメージしやすくなる本であり、わかりやすくて楽しめる。本書は2021年3月に初版が刊行された。
「装束」への入門書として有用だ。私にとっては、上記『有職故実』の「服飾」への架橋になる本になった。
ご一読ありがとうございます。
本書に関連して、ネット情報で相乗効果を生み出し、手軽にアクセスできるサイトがあるか少し検索してみた。一覧にしておきたい。
綺陽装束研究所 ホームページ ⇒本書著者の主宰する研究所
服制の歴史
装束の種類(衣冠)
日本服飾史 ホームページ (風俗博物館)
平安装束 :ウィキペディア
女房装束とは :「きもの用語大全」
冠と烏帽子 :「綺陽装束研究所」
日本の冠 :ウィキペディア
有職故実 :ウィキペディア
「有職故実」って何でしょう :「昭和女子大学」
有職故実
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