遊心逍遙記

読書三昧は楽しいひととき。遊心と知的好奇心で本とネットを逍遥した読後印象記です。一書がさらに関心の波紋を広げていきます。

『源氏物語の京都案内』  文藝春秋編   文春文庫

2022-10-05 16:17:15 | レビュー
 瀬戸内寂聴訳『源氏物語』全十巻(講談社文庫)を読み通すときに、併行して読んだ本が2冊ある。その内の一書がこの文庫本。2008年3月に刊行されている。『源氏物語』が書かれて1000年経て、源氏ブームが熱くなっている時に、編集出版された本だ。

 なぜ、この本を併読したのか。本書の編集が、源氏五十四帖の帖単位で行われていて、タイトルにあるとおり、物語と京都案内を結びつけているという点にあった。もとは京都市内、現在は宇治市に在住し、京都は日頃の行動範囲である。しかし、『源氏物語』とリンクさせて京都を見れば、また違った京都が見えるきっかけになるかもしれない。また、この本もしばらく書架に眠っていたから、この際読み通そうか・・・・という次第だった。

 「はじめに」に本書の編者が次のことを述べている。(p7-10)
「およそ一千年前に、光君や紫上が登場する長編が、藤原道長という最高権力者の庇護のもと、紫式部と呼ばれた才女を中心として生まれ、それは時代を超えて、愛され、読まれ続けてきたこと、これは本当です」
「平安時代の人々が読んだ『源氏』と、鎌倉時代の人が想像した『源氏』と、江戸時代の人が想像した『源氏』と、現代人の『源氏』は全く違います。」
その上で「現代の読者には、現代の楽しみがあるのです」という立場から、「気軽に源氏と京都を楽しめるようなガイド」を目指すので楽しんでくださいという訳だ。

 「はじめに」の末尾に、本書の構成を読者のためにきっちり説明している。それを簡略に要約すれば、本書のイメージづくりをしていただけるだろう。
 五十四帖は全て4ページでまとめてある。写真はすべてカラー写真。
  第1ページ 簡略にその帖のあらすじを解説
  第2ページ 上半分に関連系図や人間関係図。下半分に<ちょっと読みどころ>
  第3ページ 上部に茶碗の写真、その帖に関連する観光スポットと京菓子を紹介
  第4ページ 第1~3ページにリンクする様々な写真(風景、美術工芸品、寺社等)
「厳密に平安時代の遺跡を追うのではなく、現代の私たちが『源氏』のイメージを膨らませることができる、そのような所を選びました」という方針での選択。つまり、読者が気軽に楽しめるという点に主眼が置かれている。そのリンクは比較的ゆるいものもある。逆に、そういう繋がりを連想できるか・・・という見方もできておもしろい。
 
 瀬戸内訳源氏の一帖を読み終えてから、本書の「簡略なあらすじ」「ちょっと読みどころ」を読むというパターンを繰り返した。訳の全文を読んでから読むと、その要点をうまくとらえてあることにうなずき、かつ復習にもなった。相乗効果があったように思う。
 逆に、源氏を現代語訳であっても全文を読まずに、この本だけを通読すると、『源氏物語』五十四帖のごく簡略なあらすじ、ストーリーの流れ自体を理解できることになる。入門編としての手軽さは十分カバーされている。

 本書を読んでみて、改めて気づいたことが2つある。一つは、観光スポットとして本書に取り上げられている場所で、未訪のところがまだあったこと。大半は訪れているのだが・・・・。落ち穂拾い的に未訪先の探訪をこれからやってみようと思う。
 二つ目は、京菓子の菓子鋪がこんなにあるのかということ。デパ地下に出店する京菓子の老舗として見知っている店は勿論ここに入っている。初めて名を知る菓子舗が各所に数多くあることを知り、今後の市内探訪の楽しみができた。菓子鋪の佇まいがどのような状況かということ。本書に掲載の菓子が現在も商品として並んでいるかということなど。今後の探訪に、源氏に絡めた菓子鋪・京菓子探訪を副次的に加えることができそうである。

 第3ページの上部右に、毎回その帖にリンクする図柄の茶道で使う茶碗がカラー写真で掲載されている。写真が小さいのが難点なのだが、源氏の各帖にリンクする茶碗があるというのは、おもしろい試みだ。末尾に「五十四帖茶碗 個人蔵」と一行記されているに留まる。詳細が不詳なのが残念。

 第4ページの写真の取り合わせが結構楽しめる。

 本書の興味深いところは、五十四帖の4ページ構成にとどめていないところだろう。
 教養レベルを高める視点が付け加えられている。
*「宇治十帖 浮舟の悲劇を追って」という実質22ページの瀬戸内寂聴さんの小論が転載されている。
*「比べてみる『現代語訳』」という文がその次に続く。
 ここでは、まず「若菜 上」の場面を取り上げ、瀬戸内寂聴訳と原文を対比し説明する。その後で、現代語訳の歴史を振り返ると言う視点に踏み込んで、与謝野晶子、谷崎潤一郎、円地文子、田辺聖子、橋本治の訳が対比的分析的に例示されている。
 さらには、『源氏物語』のマンガ化として、大和和紀と小泉吉宏の作品例に言及している。
 今では現代語訳から『源氏物語』世界に入る登り口が多様化し広がっている。その一端を知るのにも役立つ。36ページにまとめられた小論である。

 最後に、気分転換が用意されている。「チャート式性格判断<あなたはどのタイプ?>」というもの。女性編と男性編がある。源氏物語に登場する人物タイプのいずれに該当するかというものである。
 どういう人物を選んでいるか? その点だけ列挙してみよう。関心度が増すかも・・・・。

 女性編(15タイプ):女三の宮、浮舟、夕顔、末摘花、空蝉、紫の上、玉鬘、源典侍           
           朝顔、藤壺、明石君、弘徽殿女御、朧月夜、葵上、六条御息所
 男性編(14タイプ):薫、光源氏、頭中将、夕霧、桐壺帝、匂宮、蛍宮、横川僧都
           明石入道、朱雀帝、惟光、右大臣、鬚黒、柏木
 
 これらの人物名を読むだけで人物像を連想できるなら、あなたは既に源氏ワールドにかなり馴染んでいることだろう。
 この性格判断を試みてから、源氏ワールドに入っていくのも、おもしろいかもしれない。
 この性格判断をやってみた。光源氏タイプではなかった。それならどのタイプ? ・・・「言わぬが花」ということで。

 『源氏物語』への誘いとして、肩が凝らずに手頃に読める一書だと思う。
 ご一読ありがとうございます。

こちらもお読みいただけるとうれしいです。
『源氏物語』 全十巻  瀬戸内寂聴訳  講談社文庫


最新の画像もっと見る

コメントを投稿