うたたね日記

アニヲタ管理人の日常を囁いております。

just the two of us

2024年03月08日 00時04分08秒 | ノベルズ

キラは1人、海岸通りの道を黒いリアウィングの車を走らせていた。

 

数日前、カガリが提唱した世界平和監視機構、通称『コンパス』の、その創設メンバーに自分の名を見つけた。

(―――「嫌ならいいんだぞ。無理しなくて。」)

そう言ってくれた双子の片割れ。つい数か月前まで戦火に焼かれる祖国を見つめ、なすすべなく泣き叫んでいた彼女はもうそこにはいなかった。

(―――「いや、僕も戦うよ。この混乱した世界から、少しでも戦いの火種を消したい。」)

一人で行くつもりだった。

だが、こんな自分にラクスも共に戦うと言ってくれた。

たった一人で戦うことの、例えようもない孤独と辛さをずっと味わい続けてきた自分に、ラクスは側にいて支えてくれるという。

これだけで、どれだけ自分の心は支えられただろう。

 

(早速カガリに報告しよう。借りた車も返さなきゃ。)

キラはラクスを送った後、一人アスハ邸に急いだ。門の開閉をセキュリティーに頼めば、玄関では既に顔見知りの侍従が待ち構えていた。

「これはキラ様。」

「こんばんは。カガリに伝えたいことがあって来たんですけど・・・もしかしてまだ仕事中ですか?」

もうすっかり日は沈んでいる。だけどカガリは寸暇を惜しんで奔走している。キラがこうして考えている間にも、片割れは皆を支える術を必死に探し出して。

(カガリのためにも、僕らも頑張らないと。)

その決意を直接伝えようと思ったが、

「いえ、御戻りではあるのですが・・・その・・・」

何故か侍従は歯に物の挟まったかのように言いよどむ。平常心を保とうと表情は落ち着いて見えるが、言葉の端に困惑が聞いて取れた。

「その、ご迷惑でしょうか?」

「まさか、そのような!ですが・・・ゴホン。少々お待ちいただいてもよろしいでしょうか?」

「はい・・・」

侍従が恭しく礼を取って、一度奥に消える。

どうしたのだろう。もしかして根を詰め過ぎて体調が悪いとか?

最近通信で会話しても、カガリの顔色が悪かった。少し痩せたように見えたし。

MSで戦うだけの自分と違って、世界を相手にしているカガリのことを思うと、改めてこの道を選ぼうと心に刻んだんだ。少しでも彼女を安心させてあげたい。

すると奥から侍従が足早に戻ってきた。

「お待たせいたしました。その・・・直接お話になれるかはわかりませんが、とりあえず招いて良いとのことでしたので。」

「直接話せない?なのに、招いて良い?」

文脈がおかしい。キラは小首をかしげつつも、その意図を問おうとしたが、侍従はすぐに背を向け歩き出している。慌てて先を行く侍従の後を追った。だがその行く先がどうにも見慣れない。

「今日は応接室じゃないんですか?」

いつもだったら概ねカガリは例えキラやラクスだろうと、来客は応接室で対応するのに。

だが、すでに間接照明だけに抑えられた広々としたダイニングを通りぬけ、案内されたのはその先にある広いリビング。

大理石のローテーブルを挟んで、ゆったりと大きなソファーが対面している。その背もたれの向こうに、濃紺の髪をした見慣れた後頭を見つけた。

「もしかして、アスラン?」

その声に反応して、彼は首だけ振り向きキラの方を見やる。

アスランはブルーコスモスの動向を探るため、自分たちよりも早く「ターミナル」への出向となったと聞いていた。

その彼がここに居るなんて。久しぶりに話ができると思い、キラは弾む心持で声をかける。

「君も何かの報告で―――」

「シーッ」

キラの言葉を途中で遮り、アスランは唇の上に人差し指を立てた。しかも友人との再会を喜ぶでもなく、明らかに不機嫌だ。口を開かずとも「邪魔するな!」と言わんばかりの『あっち行けオーラ』がキラに向けて発散され続けている。

アスランから露骨にこんな態度をされたことがないキラは戸惑い佇む。そんなキラを見てか、アスランは視線でキラを促す。促した先は、対面するソファー。そこに座れ、ということだろう。

気圧されながらも、キラがソロソロとその場に向かう。だが次の瞬間、紫の瞳が捉えたのは、とんでもない絵図だった。

「ちょっと!君、何やってるのさ!!」

 

―――続きはこちらから。

 

***

 

2024年3月8日

毎度恒例。今年も来ました「アスカガ運命の出会い記念日」SSをお届けします!

上の写真と中身は全く関係ございません(笑)
21回目となる記念日の今年は、珍しくキラ視点でキラが絡むストーリーに仕立ててみました。
今まで大体アスカガ二人きりの話ばかり作ってきた気がしますが、今回はちょっと視点を変えてみようと思いまして。
割といつもならシリアスで、自然な絡みが多いアスカガ傾向ですけれど、劇場版でもう公式があそこまで「アスラン、カガリに一直線!!(笑)」としてくれたのなら、もはや遠慮はいりません!(笑)
なので、めちゃくちゃイチャイチャさせました♥(/ω\)イヤン
Rは付きませんしセクシーでもないのですが、アスランには思う存分、カガリ様にイチャイチャ&スリスリ♥としてもらおうと。でなきゃあんな妄想を突然できないだろう(爆!)

カガリは寝ちゃってますが、この無防備な顔をじ~~~~~~~~~~~っくりと眺めて、キス待ち顔とか妄想のイメトレしているんだと思いますよ?
キラじゃないけど「あの後、二人はどうなったんだろう?」と書いてて自分も思ったw どうなったかは、皆様のご想像にお任せしつつ♪

あとなんでいきなりキラを絡ませたか、といえば、今月の「HJ」で監督のインタビューが掲載されていましたが、「キラが今回動いた(コンパスに所属して鎮圧活動に助力した)のはカガリが動いたから。カガリが動かなければキラも動かず、キラが動かなければラクスも動かない」というのを見まして。
「なんだよ!結局カガリを守りたいんじゃないか!この弟君は♥」って双子スキーが萌えました♥(*´Д`)ハァハァ
何のかんの言って、無印の時も、運命の時も、キラが動き出す(というか動かざるを得なくなった)きっかけって、全部カガリが始点なんですよね。無印は地下のドッグまでカガリを追いかけて(避難させようとして)いったところでストライク&アスランと出会ってしまい。
運命の時は一番はラクスが狙われたからですけど、カガリを結婚式から奪取したのもキラの判断で、そこからAAが動き出す始点になった。
そうして今回の劇場版も、カガリが発起人となってコンパスを創設し、その創設メンバーとして助力することとなった(多分コンパスが創設されなければ、ザフトでしたね)。
いつも思うのですが、この双子がきっかけで種の世界は動き出すという。双子尊い✨双子様様<(_ _)>平伏~。
そんなキラ君にライバル出現!というか、アスカガの二人のことは、もうすでに恋仲だと認めてはいると思います。でも多分「清い関係✨」ならば許せるけど、そこから先に手を出そうものならちょっと…(#・∀・) って感じはあるんじゃないかなって。
いつも姉ちゃんの後を追っかけてますから(笑)、ここに別の男が(たとえ親友だろうと)割り込んでくるのはちょっとイラっと来るというか。そんなんじゃないかなって。「失恋」って書きましたけど、姉や妹が結婚するときって、一抹の寂しさみたいなものがあるんじゃないかな。特に双子の場合、全く知らない同士で出会い(再会?)、つらい時に寄り添ってくれて、ピンポイントで慰めてくれて。そんなカガリが別の男に取られてしまう、というのは、たとえラクスがいるとしても、それはそれ。心中穏やかに、というわけにはいかないかな、というのも込めて書き込んでみました。

こうなると、今年の双子誕生日はどうなるんだろう…?
もちろん「それはそれ。これはこれ。」で行こうと思います(笑)

 

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心の扉を開く鍵

2024年02月15日 19時57分48秒 | ノベルズ

紅に染まり行くオーブ・オノゴロ島の港。
その斜陽を背に受けながら、<ゴゴゴゴ>という轟音と共に舞い降りてくる疾風にカガリの髪が激しく煽られる。
降り立ったその神々しき機体―――マイティ―ストライクフリーダム―――そこから一組の男女がリフターでゆっくりと降りてくる。

二人がこの地に降り立ったのを待って、カガリが走り出す。
「ラクスーーーーーーッ!!」
オーブ一国を担う立場もはばからず、カガリは両手を広げ、文字通り全身でラクスを抱きしめた。
「よかった・・・ラクスが無事で・・・」
抱き着いた彼女はもう顔を涙でクシャクシャにしている。
「ありがとうございます。カガリさんも、オーブもご無事でよかったですわ。」
「うん…本当によかった。」
涙を乱暴に腕で拭い、カガリも笑顔で答える。
ラクスを優しく映す金眼は、彼女のすぐ隣に立つ弟に向けられた。
「キラ。お疲れ様だったな。」
「うん、ありが―――」
「ところでお前、肝心なところで、また銃使えなかったんだってな。」
労わりの視線を期待した弟は、言葉を封じられた上に、姉の鋭い視線に射抜かれ、硬直した。
「あ、あれは、ラクスが敵を振り切って走ってきてくれたから、僕が庇おうと―――」
「黙れ。キサカからの報告によるとその結果、敵から見事に急所を銃口で狙われたそうじゃないか。ラクスを庇うのは結構。だがお前が撃たれたらラクスはどうなるんだ?」
1年前、あれだけ己の非力さに打ちひしがれ、涙にくれたカガリはもういない。一言一言発する言葉の的確さと重みに、キラもウズミと対したとき同様の圧を受けた。
「・・・」
「何だ、何も言い返せないのか?それで良く准将とか言えるな。」
「それはコンパスで、拝命された階級がそうだったから。」
「私は今そんなことを問うているわけではない。もういい、報告があった時から決めていたことだ。キサカ。」
「はっ!」
3年前、カガリと再会したときから、彼女に付き従っているレドニル・キサカがこれぞ見本とばかりの敬礼をする。
「コイツに銃と体術をみっちり仕込め。」
「了解しました。」
そう言うが早いか、キサカの腕がむんずとキラを掴む。
「え?ちょっと、今から!?僕はミレニアムに帰還して報告を―――」
「さぁ、参りましょう。キラ様。」
「え?ちょっと待って下さ――――」
有無を言わさずズルズルと引きずられていくキラ。カガリはそれを見送って振り返る。
「それからザラ一佐。」
「はっ!」
カガリの側で控えていたもう一人は、流石は元ザフトレッド。先ほどまで穏やかに見守っていたが、キラとは違ってこういう場面でも隙はない。と思ったが、
「お前は散々っぱら、キラのこと殴ってくれたそうだな。」
「え、あ、あれはキラの目を覚ますために仕方なく―――」
「コンパス准将に鉄拳食らわすなんて言語道断。お前もみっちり始末書いてこい!」
「カガリ!?いくら何でもそれは―――」
「全治2日の傷害だぞ。オーブ軍として自国防衛のための武力行使は認めるが、私怨での殴り合いは我がオーブ軍の理念にはない!さっさと書いてこい。ちゃんとメイリンに添削してもらってこいよ。いいな?」
「・・・了解しました。」
顔中に不満を張り付けるアスランだったが、カガリの一睨みに仕方なく敬礼した。

「あらあら・・・」
あのアスランでさえ、カガリを前に狼狽するとは。婚約時代にさえ一度として見たことがないアスランの表情に、ラクスは呆気にとられる。
見事すぎるカガリの采配に、あの激闘を戦い抜いた勇者二人がなすすべもなく連れられて行く。
「フフフ。お見事ですわね。流石はオーブ代表首長ですわ。」
「・・・よかった。」
「え?」
「ラクスが笑ってくれて。今までプラントとの通信で、仕事以外のプライベートのこともちょっと話したりしただろう?でもラクス、笑ってなかったから。」
「私が、ですか?」
「うん。口元は柔らかかったけど、心から楽しそうじゃなかったから。」
「カガリさん・・・」
ラクスは目を見開く。
確かに盟友として、コンパスの発起人として、カガリとは仕事上で通信をすることはよくあり、更に弟(?)であるキラのことも家族の情もあってか気にかけているため、プライベートのこともいくばくか話してはいたが。
一体何時の間に、見透かされていたのだろう。
ラクスの関心をよそに、カガリは紅から紫へと変わる空を見上げ言い出した。
「ラクス。あのな、もうコンパスの総裁の座を降りてもいいんだぞ。」
「カガリさん!?」
突然の提案に流石のラクスも驚く。と同時に心の奥が<キュ>と締め付けられる。

それは、やはり自分がアコードだから、だろうか。
人の心を読み取り、それによって人を統治する。その頂点に立つ人物として作られた自分。
コンパスの総裁として、武力も、その権限も持つラクス。
コンパスは現在凍結されているとはいえ、もし活動が再開したら、

(私は、キラをはじめとする皆を、心のままに戦場に送り出す、危険人物だと・・・!?)

ラクスは苦し気に唇をかむ。
そう思われても仕方がない。
オルフェをはじめ、あれだけの戦闘と破壊を行ったアコードたち。
彼らと同じ”生物”だとしたら、まさに自分は脅威の存在でしかない。

カガリはもう知っているのだろうか?ラクスが彼らと同じだということを。

ラクスはギュッと握りこぶしを作る。彼女にしては珍しい行為だ。
そして伏し目がちにした視線を上げ、ラクスは苦し気に口にした。
「カガリさんにお話があります。私は実は、アコ―――」
「ラクスは”ラクス”だ。」
言葉を遮り、カガリがラクスを見やる。その金眼はいつもと同じ、真っ直ぐだ。
「コーディネーターだろうと、ナチュラルだろうと、人は同じだ。ただちょっと人より優れている能力を持っていたとしても、心は同じ人間だ。自尊心が強かったり、逆に卑屈になりやすかったり。頭がいいのにハツカネズミになったり、グルグル同じところを何度も行ったり来たりする、皆、変わらないただの人間だ。だから、ラクスは「人間」だ。何であっても「ラクス」であることに変わりない。」
「・・・」
ラクスは瞬時思う。
(心を読み取ってはいけない!)と
だが、精神感応しなくてもわかる。カガリの心は真っ白だ。

普通人間には裏と表がある。
光が強ければ、そこに挿す影がまた濃くなる。

なのに―――カガリは裏も表も「真っ白」でしかないのだ。

それはキラと同じ「ラクス」を「ラクス」として、信じ、心を許してくれる、カガリそのままの裏も表もない真っ白な一つの心。

カガリは続ける。
「コンパス総裁の辞任のことは、変に誤解したら悪いから、ちゃんと言うぞ? コンパスを創設したときから・・いや、メサイア戦を終えて帰還したときからかな、キラの様子がおかしかったんだ。なんか・・・こう・・・世界中の責任を全部背負わなきゃいけない!みたいな感じでさ。」
カガリが再び空を見上げた。既に紫から藍色へと色を変える空には輝く星と、プラントの灯りが映りだしている。
「それで思ったんだ。キラはもう戦う場所にいさせないほうがいいなって。戦場で誰よりも強いからとか、議長を倒した責任を取らなければいけない、とかいう使命感を持たなくていいんだ。アイツは操縦桿を握れる限り、自分がやらなきゃ!って思いこんでいるだろう。でも、アイツが私と出会って、MSに、ストライクに乗らなければ、普通の学生だったんだ。根本は只の根の優しい争いを好まないヤツなんだ。」
「えぇ。その通りですわ。優しすぎるのです、彼は・・・」
「でも、今顔を見て分かった。キラは今この瞬間、ラクスのために生きようとしているし、ラクスも・・・そうなんだろう?」
「はい。」
「だから、ラクスもキラのために生きてくれるなら、二人でもう争いの中に身を投じることなんて必要ない。言い方は悪いが適材適所。優しくて争いを嫌う二人が戦場に出ることは心を壊す。だからもう、傷つかなくていいぞ。」
「カガリさん・・・」

カガリは小さく深呼吸すると、ラクスに近づいた。そして
<ギュ>
先ほど抱きしめられた時とは違う。別の感情がラクスの中に流れてくる。
キラとは違う温かさで、太陽のような眩しい光。

「よしよし。たった一人で監禁されて、男に権力と力で思い通りにさせられそうになったんじゃないのか?凄く怖かっただろう?どんな力を持って行ようと、特別な存在だろうと、ラクスは1人の普通の女の子だ。よく頑張ったな。でももう大丈夫。キラも、アスランも、私もいるからな。」

ラクスの目に自然と涙が溢れてくる。

何故分かったのだろう。
同じ女性だから、だろうか。

ううん、違う。
これはカガリが持つ力だ。

組み込まれた遺伝子の力ではない。
カガリという人間が持って生まれた天賦の才。
心を読んだり、操る能力ではない。
ただ優しく、温かく、触れてくれるのだ。

同時にふと思い返す。

アスラン―――婚姻統制の名の下、婚約者として出会った彼は無口だが大切にしてくれた。
でも、心はどうだっただろう。
血のバレンタインで母親を亡くして以降、彼は心を曇らせたままだった。
父や軍の命令に従う彼は、確かに上から見れば「いい子」なのだが、彼の意志がどこにも感じられなかった。

なのに、今はどうだろう。
カガリと出会い、まるで別人のように彼女の前では泣いたり怒ったり、素直な自分を吐き出して。
一時期、二人はすれ違う人生を歩み出したかに見えたが、二人の絆はそれを乗り越えている。
どんなに遠く離れていても、二人の目指す未来は同じ。
揺るがぬ絆が二人を結び付けている。

アスランの心をラクスは開くことはなかった。
でもカガリはいとも簡単に開いた。彼の一人抱え込むかたくなな心の扉を。

心を読むのではない。心に押し入るのではない。
自らその心を開かせる魔法の鍵―――それが「カガリ・ユラ・アスハ」の力。

 

(私も、今は心を開いていいですか?)

「えぇ。怖かったです・・・とても・・・」
カガリの背に腕を回し、顔を埋めるラクス。
その背を優しく、そして力強く、自分と変わらない大きさの掌が撫ぜてくれる。
アコードも、コーディネーターも、ナチュラルも関係ない。
母のような優しさと、それでいて心を預け合える親友の頼もしさ。
ラクスの目から温かな雨が降り出した。
「頑張ったな、偉いぞ。誰が褒めなくても私が褒めてやる!」
「はい!」
キラにしか見せなかった涙をカガリにも預ける。
そんなラクスにカガリはちょっとだけおどけて見せる。
「これからもどんどん頼って良いんだぞ?・・・というか、私の方が頼りっぱなしなんだけどな。」
そう言って笑うカガリ。ラクスも涙を乾かした。
「ありがとうございます。」
「あ、それと、キラと一緒に生きるっていうことは、後々私の義妹になるっていうことでいいんだよな?」
「そうですわね。そうなればいいと願ってますわ。」
「だったら、その・・・「お義姉ちゃん」って呼んでもいいんだぞ///」
「あらあら、ウフフ♪とても嬉しいです。では」

ラクスは両腕を伸ばして、今度は自らカガリに抱き着き、目を閉じる。

「ただいま戻りました。お義姉さま・・・」

 

・・・Fin.

 

 

***

 

はい。種自由その後の勝手に大妄想です(笑)
普通此処では「アスカガ」を書くところなのでしょうが、あえて「カガラク」を妄想いたしました。

今回の劇場版のテーマが「愛」と「資格」だということは、監督はじめ様々なメディアで報じられておりますが、かもした的にはここに「対話」というキーワードも感じております。
勿論、キララクは会話が少なくてすれ違ったことで、今回の危機を迎えましたが、ちゃんと互いに誰よりも「愛している」と口にできたことで、最強の絆を武器に戦うことができました。
一方のアスカガですが、こちらは劇場本編の中では、一言も対話しておりません。
でもちゃんとリモートコントロールだったり、劇中に隠された「カガリがアスランに探らせたり、二人で相談し合って事前に国民を避難させたり、ムゥさんを先に宇宙に送った」というコミュニケーションは取っているのですが、やはりシュラとの戦いにおいて、自らの命を任せる&任せられる、という対話以上の絆と信頼とそして愛情♥(笑)を見せつけてくれました。運命ですれ違った二人でしたが、こうしてみると、キララクの危機は運命の時のアスカガの危機と同じで、こと恋愛に関してはアスカガが一歩先に進んでいる感じですね。キララクはしょうがないと思います。キラはフレイのこともあるし、議長のこともあって、自分が背負いこんでしまった業が多すぎましたから。

で、もう一つがアコードたちですよ。
対話しないです。だって必要ないもん。テレパスで通じ合いますから。
でも、その対話がなかったことで、彼らは敗北しました。相手の心の隙をつくことばかりに頼りすぎて、相手がどんな思いをしているのか、聞くこともなかったですから。だからいきなり心を覗いて見たら、ステラちゃんに飲み込まれたり、破廉恥妄想ビーム(笑)にやられるんですよ。これがもうちょい人となりとかを対話することで見聞きしていたら、「あ~コイツ、過去にそんなことがあったんだ・・・じゃぁ心覗いたらヤバいかも」というのがあるいはあったかもしれません。

そんな「使えない(アスラン談)」能力ですが、無自覚に使っている気がするのがカガリです。
勿論アコードたちみたいに、鮮明に読み取れるわけじゃありませんが、誰かが、今、どうして苦しんでいるのか。それを察して必要な言葉や行動を取っているんですよ、無自覚に。運命の時は殆ど描写がなかったんですが、無印の時は傷ついたキラに寄り添ったり、「どうしたいんだ?」「どうすればいい?」と相手が話しやすい形で、相手も何時しか話し出している、という。顕著なのが24話のアスランとですよ。途中でアスラン「もうよそう、こんなことをお前と話していたって何にもならない」って切っちゃいましたが、それまでは口にしなかった胸の内を語りましたし、更に31話で思いっきり親友を殺してしまった苦悶を吐き出させました。
カガリはナチュラルですし、当然読心力なんて持っていません。
天性なんでしょうね。人の心の扉を開かせるの。
そう思ったら、アコードという運命を背負わされたラクスとカガリで対話させてみたらどうなるかな?と思って妄想してみたところ・・・「やっぱり「よしよしヾ(・ω・`)」に落ち着きました(笑)」 キラと一緒だね☆

というか、最後はラクスに「お姉さん」と呼ばせたかったんです♥
ラクスって、キラ以外あまり人に頼ったり甘えたりする人ではないので、皆の精神的支柱になってますけど、本当は普通の女性だとしたら、キラ以外に「同じ女性として腹を割って話ができる相手」があってもいいんじゃないかと。
そう考えたら、やっぱりカガリ一択になりましたw
是非義理の姉妹としてこれからも仲良くしてほしいですわ♥

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両手を広げて

2024年02月06日 22時09分48秒 | ノベルズ

「ほら、こっち向けって。」
「大丈夫だよ、このくらい―――痛っ!」

オーブ・オノゴロ島の地下にある海中ドッグ。
その一角に設けられた医務室で、カガリは大型の絆創膏を両手で端を引っ張りながら、どう貼ろうかと「う~ん・・・」と顔をしかめている。
一方彼女と対しているキラは、左頬に擦過傷、加えて幾分か顔の各所が腫れあがっている。

つい先日、ラクスがファウンデーションに攫われたこと、更に部下のアグネスもファウンデーションに連れていかれたこと。加えてファウンデーションに核ミサイルが撃ち込まれたことで、乗組員とキラたちコンパス出撃組が脱出し、ここまで連れ帰ってきた連絡を受けたカガリは、モニターに映った片割れの姿を見て、酷く衝撃を受けた。
1年前まで、あれほど自分を支え、叱咤してくれた頼もしい弟は、今や魂の抜け殻のようだった。
直ぐに駆けつけたかったが、何しろ核の件が先だ。情報収集に加え、各国からコンパスへ、特にキラへの批難が世界中から集まってくる。
「キラはそんなことはしないっ!!」
代表だということも忘れて、思わず私情で叫んでしまったが、根拠はなくとも正論だと信じている。
数日もしないうちに、ファウンデーションからユーラシアをはじめとした各国への宣戦布告ともとれる声明の発表があった。
アスランからは「自作自演の上で、自らの正当性を図った宣戦布告」と言い切っていた。
いつ何時も冷静な彼が判断した結論だ。おそらく間違いはないだろう。
コンパスの活動の凍結。手段は封じられた。動けばオーブは彼らの攻撃の口実を作ることになる。

ファウンデーションから出された「戦いを回避したくば、ディステニープランの受け入れよ」という条件は、勿論今でもNo!の一言だ。議会にかけるまでもない。
だがあくまで「代表は緊急議会中だ」と容認させるために、執務室を抜け出したカガリはドッグに向かう。
と、そこから出てきたのは、アスラン。
だが
「ん?」
彼が珍しく右手を振っている。どこかにぶつけたのだろうか。
「どうした?アスラン。」
「いや、ちょっと喝を入れたらな、こうなったよ。」
そう言って苦笑しつつ、すれ違い様、カガリの肩にポンと手を置くアスラン。その微笑みはこの大事を前に何故かとても穏やかだった。
「キラのこと、見てやってくれ。」
その手をそのままヒラヒラさせてアスランはハンガーに向かって行った。
(キラと何かあったんだろうか?)
そうして、足早にドッグの待機室に入ってみれば、目に飛び込んだのは顔を腫らした上に血まで滲んでいるキラの姿。
「キラ!?どうしたんだよ、!」
「カガリこそ、どうしてここへ?」
「決まっているだろ!お前が心配だったから!!」
「そう・・・ごめんね。カガリ大変なのに心配させて。」
何故かズタボロなのに、この菫色の瞳には光が戻っていた。先日命からがら逃げかえってきたときは、まるで死んだみたいな目をしていたのに。
それを見てカガリは瞬時に悟った。

―――「ちょっと喝を入れた」

(そうか、アスランがキラを取り戻してくれたんだな…)

「ほら、ちょっとこっちに来い。手当してやるから。」
「大丈夫だよ・・・」
「大丈夫なもんか!そんな顔でドッグの中ウロウロされたら、それこそ他の職員に余計な心配を積算させるだけだぞ。」

そう言ってカガリは無理矢理医務室にキラを連れ入れた。

キラが殴り合いをしたなんて見たことがない。しかも相手はあの親友中の親友であるアスランだ。
「言わんこっちゃない。アスランに本気で殴られたら顔だの口の中だの、切れて当然だ。」
「殴られてないよ。全部ガードしたもん。」
「ガードできたのは褒めてやるが、それだけ腫らして「ガードできました!」って言っても、オーブじゃ誰も褒めてくれないぞ。コンパスで体術教えてもらっていなかったのかよ?さもなくば一時的にザフトにいた時に訓練させてもらったとか…」
「そんなことはしなかったよ。赴任したと思ったらいきなり「コンパス起ち上げる!」って言ったのカガリじゃない。」
「まぁ、それはそうだが・・・ほら、せめてその頬の腫れ位、冷やしておけよ。ラクスがその顔見たら、泣いて卒倒するかもしれないぞ。」
ラクスの名を出した時、一瞬彼の口元が苦みを帯びたように引き攣った。
「・・・泣かないよ、ラクスは。」
どこかまだ投げやりに、視線を外す。自信のない時の彼の癖だ。カガリは瞬時、声を低く抑えてそれを制した。
「見かけで判断するな。「心の中で」だよ。・・・気になっていたんだが、お前ら、ちゃんと会話しているのか?」
カガリに冷却ジェルを押し付けられ、キラは顔をゆがめる。ゆがめた理由はそれだけではないことは、カガリにはちゃんとわかっている。
「・・・カガリの言う通りだよ。僕ら、最近お互い忙しくて、すれ違って、ラクスが今、何を望んでいるのか、全然わからなかった・・・」
俯くキラ。カガリは「フー」と一つため息をついて、その俯き顔をその頭上から見やる。
「それでアスランから鉄拳食らった、ってわけか。」
「だから命中してないって。」
「自慢にならん。お前、アスランに向かって行ったとき、どんな風に拳打ち出したんだよ?」
「え?えっと・・・こう?」
そう言ってキラは素直に大きく振りかぶって、拳をカガリに向ける。が―――
<パシッ!>
「え?」
<ズドン!>
「痛っ!」
一瞬何が起きたのか、キラは目をぱちくりさせる。気づけば、カガリに向けたはずの拳が、いつの間にかねじ伏せられ、椅子に座っていたはずの自分が冷たいリノリウムの床に寝転がされていた。
「何するのさ、カガリ!僕、けが人だよ!?」
「ホー、認めたな。”けが人”って。」
「え、あ!その―――」
「互角、あるいは自分の実力以上の相手に、真正面から拳を振り上げてどうする。脇ががら空きだぞ。脇は右に肝臓、左に脾臓。そこに蹴りの一発でも入れられたら、お前いくらコーディネーターでもこの世にいないぞ?」
まるで小笠原流師範の様に、椅子に座ったまま、優雅にキラの拳を往なした上に、青天(※上向きに寝転がされる。一番屈辱な負け方💧)にしたカガリ。尚も説教は続く。
キラが衝撃に痛む腰を摩りながら座りなおせば、腕を組んだ師範、もといカガリは更に説明する。
「だから脇を締めろ。そしてどちらから攻撃を受けてもいいように、視野は広くもて。相手の踏み込みを見た瞬間、脇をガードしながら、反対の足で踏みきって相手の足や胴を攻撃しろ。基本中の基本だ。」
「・・・僕は今、怪我の治療を受けているんじゃなかったっけ?」
「こういう機会でもないと、お前に体術防御も教えてやれんだろ。ま、いいさ。ラクスを連れて戻ってきたら、顔を出せ。キサカに特訓つけてもらうから。」
「もう戻った後の話?」
「あぁ。そうだ。」
カガリは相変わらず胸を張って見下ろすように言ってのける。

キラもわずかだが目を見開く。
1年前、あれだけ涙を流し、傷つき、自分を犠牲にしながらオーブを救おうとした、悲劇のヒロインはもうここにはいない。
オルフェのことだ。ディステニープランを拒否し続けるオーブは自由の象徴。象徴が強ければ人が集まる。だとすれば、次の攻撃目標は「オーブ」。
だけどカガリはまるで臆することもなく、「ラクスを連れて戻ってきたら」と当たり前のように言ってくれた。
その言葉に、揺らぎは一つもない。
「カガリは・・・怖くないの?」
「キラ?」
「僕は、怖かったよ?議長の主張を否定して、その責任を取らなきゃ、って。早く平和にすることが、僕の使命だって思いこんでいた。皆が「議長を倒したんだから、責任とれよ!」って言っているみたいで。早く平和にして、僕のためについてきてくれたラクスが、安心して大好きな歌を歌えるようにしなきゃって。カガリはさ、今オーブが焼かれるかもしれない時なのに、なんでそんなに落ち着いているの?」
吐き出した後、物憂げに見上げてくる菫色の瞳。だがカガリは臆することなく、そして今度は視線の高さをキラに合わせ、カガリは屈むようにしながら微笑んだ。
「決まっているだろ?信用しているからさ。お前のことも、アスランのことも。そしてAAやミレニアムの皆、それから・・・ラクスのことも。」
菫が見開く。何でこんなに彼女は迷いがないのだろう。
「カガリは、アスランとずっと離れていたでしょ?それでもアスランのことで不安になることはないの?」
カガリは口元を緩める。そしてキラの頭をポンポンと軽くたたき、撫ぜた。
「一つもなかったぞ。私たちはあれだけ敵対して、傷ついて、迷って・・・それでも乗り越えてきたんだ。乗り越えた後で気づいたんだ。どんなに進む道は違っていたとしても、その先にある―――夢は同じだって。」
「――!」
キラは1年前を思い出す。
国を選び、アスランの手を離したカガリ。そしてその背を見送ったアスランの晴れやかな表情と、言葉―――

―――「焦らなくていい。夢は・・・同じだ。」

あの時、二人は乗り越えていたんだ。今キラとラクスが面している危機を。
恋に関して奥手のアスランと、自分のことにはとんと鈍いカガリ。
気づかないうちに、二人はそれを乗り越えて、心は距離を越えたんだ。

「そう・・・だね。」
「キラとラクスの夢も、同じだろう?だったら焦らなくていい。きっとラクスは今も待っているぞ。自分と一緒に夢を目指して歩いていける、お前のことをさ。」
「うん…」

目の奥が熱くなってくる。
本当に不思議だ。
カガリと話すと、ラクスとはまた違った安心感を受ける。
血が繋がっているから、なんだろうけれど、きっと「カガリ」だから。
「カガリ」だから、君もこんなに心を許しているんだろうね、アスラン。

すると
<フワ・・・キュ>
「か、カガリ!?」
カガリが両腕を思いきり広げてきたと思ったら、いきなり抱きしめられ、キラが困惑する。が

「よしよし。大丈夫。大丈夫だから…」
「・・・」

あぁ、これだ・・・
まるで泣きじゃくった後、母に抱かれて、慰められているような。

あの頃は、まだその理由がわからなかった。
でも今ならわかる、肉親としての情愛。
ラクスとはまた違った意味で、大事な存在、もう一人の自分。

キラの心が凪いでいく。すると、ゆるりとその腕から解放された。

「よし、落ち着いたみたいだな。」
「ありがとう、カガリ。ラクスを迎えに行ってくるよ。」
「あぁ、ラクスと会えたら、今の私みたいに、思いっきり両腕を広げて、精一杯ラクスを抱きしめてやれよ!」
「うん、わかった。」

その時、アナウンスが医務室の天井から流れる。
<パイロットは直ぐに第1ハンガーに集合して。今機体の準備をしたので、最終チェックをお願い。>
エリカ・シモンズの声に、キラは立ち上がる。その表情にもう迷いの色はない。
「行ってくるね、カガリ。」
「行ってこい、キラ。」

走り行く弟の背中を見送るカガリ。
彼は気づいていただろうか。
初めて抱きしめた時より、もうずっとその背の高さも、肩の幅も広くなっていることに。
そして、心もまた一つ大きくなっていたことも。

「さて、私も動かないと。先ずは国民の避難を優先させなきゃな。」


必ずみんな揃って帰ってこい。

お前たちが帰ってくる故郷は、何時でもここにある様に、

私も守ってみせるから―――

 

・・・Fin.

 

***

 

劇場版、まだ6回しか見ていないので、消化しきれていないですが、キラカガSSを勢いで書いてみました。
キララク的には当然ながら、アスカガも一安心(なのか?あの妄想は!?(゚Д゚;))な本編でしたが、夢見ていた「双子会話」の部分が全然なかったので、ここはひとつ、妄想を働かせてみました♥
双子とね、シンカガの会話が見たかったんですよ。
双子に関しては、無印も運命も、双子は繋がっているので(厳しいこと言ったりもありましたが、基本キラはカガリを助けているし支えている)ので、安心してはいるんですが、見たかったな~~!!(*´Д`)
シンとカガリも見たかった!!でもシンがあれだけアスランにキャンキャン(笑)吠えているところを見ると、やっぱり”アスハのことは嫌い!”なのかもしれませぬ。でも多分カガリの方は、もうそんなシンも受け入れるだろうなって。アスランがどんなにシンがキャンキャン言おうと横柄な態度を取ろうと、全然スルーしてますから、カガリもニッコリ笑ってやり過ごしそうw

双子、双子・・・サンリオコラボはリトルツインスターズ(キキ&ララ)で双子だったらよかったのに~と思いつつも、一番&2番人気のキャラを双子が独占したから、それはそれで良し!

小説版の方で、双子の会話シーンとか補完で出てないかな?
今はそれがちょっと楽しみです♥

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最強で最弱の男

2024年02月04日 21時14分11秒 | ノベルズ

「―――以上で報告を終わります。」
<わかった。ご苦労だったな、メイリン。>

画面の向こうから送られてきた労りと微笑みに、一気に緊張の解けたメイリンは「フー」と脱力して、背もたれに体を預けた。
<フフフ♪>
そんなメイリンを見てか、向こうでカガリがさらに楽しそうに笑うものだから、”いけない”とばかりに、メイリンはまたピン!と背筋を伸ばす。
(そうよ、相手はオーブ代表首長なんだから、失礼な態度はしちゃだめじゃない!!)
叱責されるのでは…と内心ドキドキしてきたが、カガリは自分もリラックスするように、一度席を離れると、紅茶を入れたカップを持って座り直した。
<いや、そんなこと気にするな。メイリンも何か飲んだらどうだ? 慣れない報告できっと口も乾いただろうから。>
「な?」と軽くウインクされて、メイリンはうなずく。確かに口も喉もカラカラだ。
いつもの提示報告はアスランが行うのだが、生憎現在の監視対象であるファウンデーションに動きが見えたため、そちらに急遽向かったのだ。大事な報告を代わりに任されたと思うと、仕事が信頼されているようで嬉しいが、やはり緊張で生唾ばかり飲み込んでいたのを、カガリには悟られたらしい。

メイリンもいつも使っているマグカップにコーヒーを淹れ戻ると、カガリが柔らかな笑みを見せた。
<急な出向だったけど、変わりないか?何か必要なものがあったら、遠慮なく言ってくれ。>
「いえ、大丈夫です!むしろ自分なんかがお役に立てる仕事ができて嬉しいです!」
本当にそう思う。ZAFTを脱走後、戻る場所を失った自分に、オーブ軍に籍を貰って最後の戦いに出てからかれこれ一年。もうプラントに自分は戻る資格はないのでは?と不安になっていた矢先、カガリからそのまま引き続きオーブ軍所属として正式に採用され、こうして情報戦線の最前線へ引き抜かれた。
(いつの間に私の特技を見抜いてくれたんだろう…アスランさんから聞いたのかな?)
だがAAに救出されて以降、今になるまで二人がメイリンの処遇について話していた形跡はない。だとしたら、カガリの一存だろうかと、当初は不思議に思ったものだ。
しかし、しばらくカガリと会話を続けるうちに、メイリンはカガリへの印象を変えた。

初めて彼女を見かけたのはミネルバ艦内だった。
シンと言い争い、というか殆どシンが怒りをぶつけていたが、それに言い返せずに視線を外す彼女が、本当にあのオーブの代表なのかと思うほど、幼く弱弱しく見えたものだ。
(でも…)
最後の戦いを前に、彼女は国を選んだ。
彼への想いより、自分のやるべきことを選んだのだ。

それだけではない。
あの離別以降、本当に強くなったと思う。
ラクス様…いや、クライン総統と並んで女神と称される彼女。
確かにクライン総統は素晴らしい。歌で人々を癒すことも、カリスマ的指揮力で戦いを制したあの能力も、コーディネートされた能力なのかはわからないが、例えコーディネーターであってもその力を鍛え上げない限りはいきなり発揮できるものではない。自ら人に悟られず養っていたのだろう。その力は「最高」の一言に値する。
メイリンにとって憧れであり、尊敬に値する。

しかし、メイリンにとってはカガリも憧れの存在となっていった。

クライン総統と違ってナチュラルの彼女には、人を魅了する力も、説得する力も、計り知れない努力と忍耐の上に築かれたに違いない。
オーブを再建し、コンパスを創設し、世界各国に協力を求め、何度も掛け合いながら、厳しい言葉にも決して彼女はあきらめなかった。
同時にMSの開発にも携わり、ヤマト准将をはじめ、コンパスへのバックアップも行い、そして―――こうしてメイリンにも居場所を与えてくれた。
ナチュラルの・・・しかも自分と3つしか離れていない年齢の女の子が、これだけ広い視野で皆の背を押してくれる力を携えて。
しかも、彼女はこれも気づいていたのか、メイリンには憧れの人、アスランの傍に椅子を用意してくれた。
最初はそれだけでもう十分幸せだった。だけど、やっぱり満たされると次の欲が生まれてしまう。
でも、彼の視線の先はいつだって―――・・・

<それにしても、本当にこの短期間でよくこれだけの情報をまとめてくれた。礼を言わなければならないな。>
「いえいえ!私は自分の仕事をしたまでです!」
会話の途中だったことを忘れ、慌ててメイリンは現実世界に自分を引き戻す。
<いや、誇っていいと思うぞ?これだけの膨大なデータを処理する仕事量、キラとも十分張り合えるさw>
「え?とんでもないっ!ヤマト准将なんて、恐れ多いです!私全然強くないですし!!」
<そうか?メイリンはとても強いと思うぞ。>
「私が、ですか!?とんでもないです!」
慌てて右手をブンブンと振って否定する。
たかが元ZAFTの一般兵。姉のルナマリアのように赤服にもなれず、ただやれることは電子通信機器くらい。前線で戦うこともできず、内心劣等感を感じていたくらいだ。
すると、画面の向こうでカガリがティーカップをソーサーに置いてほほ笑んだ。
<だってあのアスランの脱走を手伝った上に、後ろ盾も殆どないこのオーブ軍の一員として志願してくれたんだぞ?あれだけの重傷を負いながらも、それでも戦いから逃げなかった勇気は賞賛以外の何物でもない強さだ。>
「そんな///」
成り行きとはいえ、確かにあの時の自分の行動には、自分でもびっくりする。
あの時、自分はどんな感情を持っていたのか、それが原動力になったことは間違いないが。
<それにな―――>
カガリはソーサーを机に置くと、頬杖をついて画面の向こうのメイリンをのぞき込む。
<キラは弱いぞ?MSの操縦は確かに敵うやつはいないだろうけどさ。要は演算処理能力がめちゃくちゃ早いんだ。だけど銃の腕はからっきしだし、腕っぷしだって、私に勝ったことすらないんだぞ。>
「えぇっ!?アスハ代表にも敵わないって、本当ですか!?」
メイリンは思わず口にしかけたコーヒーを吹き出しそうになった。カガリはおかしそうに笑う。
<あはは!そうだぞ。私がまだAAに同行していた時に腕相撲やってな。一回も勝ったためしないんだ。もうフラガ一佐にめちゃくちゃ絞られてさ。大体男のくせにバーベル50㎏も持ち上げられないって、今でも信じられん!>
「…それはアスハ代表がすごすぎるのでは…」
<そうか?そんなことはないと思うが・・・それにな。>
カガリが急に神妙な顔つきになる。
<アイツは心の方もそんなに強くはないんだ。確かに一回行動を決めると、雲が晴れたみたいに自分の役目を全うしようとする責任感は良いんだが、その分ストレスがたまると当たり散らして、そうやって自分をもっと傷つけようとするんだ。以前も友人のアーガイル事務次官に酷いこと言い散らして。それで自分をもっと傷つけているのが、見ていて痛々しくてな。…今はラクスがいてくれるから、大丈夫だと思うけど…>
少し怪訝な顔つきになったカガリを見て、メイリンは思った。
(あ、「お姉さん」の表情だ)
カガリとキラが双子の姉弟という話はアスランから聞いている。どういういきさつで二人がナチュラルとコーディネイターになったのかはわからない。でもこの表情のカガリを見ると、ルナマリアが自分のことを心配しているときとよく似ている。
<今はちょっと心配なんだ。ラクスと通信したとき、彼女も疲れて見えたんだ。>
「コンパスを軌道に乗せるまでは、やはりクライン総統といえど、なかなか難しいのではないでしょうか。」
コーヒーカップを両手で包みながら、コクリと一口飲みこむ。
<いや、なんていうか…うまく説明できないんだが、こう、「すれ違っている」というか、「話ができていない」感じがするんだ。>
「そんな…確かにヤマト准将は今ミレニアムで各地を厭戦していますけれど、ちゃんとお休みの時はクライン総統と過ごされていると聞きますよ?」
<うん、そうなんだが…>
カガリが視線を外して考え込む。
<言葉を重ねても分かり合えないこともある。こんなに近くにいても、すれ違ったり、ほんの小さなきっかけで、あれだけ信じていた相手を信じられなくなることもあるんだ。信頼を築くのは大変な時間がいるが、崩れる時は一瞬だからな。…まぁ、あの二人なら大丈夫だと思うが。>

ここもメイリンが不思議で尚且つ、尊敬するところだ。
双子、というと何か普通の人にはないシンパシーを感じることもあるだろう。
でもカガリの場合、それだけじゃない、天性の感受性というべきだろうか。キラに限らず、他者の心の痛みや苦しみに直ぐに気付き、ラクスとは全く別の方向から、相手が癒される形で手を差し伸べるのだ。ヤマト准将、そして、きっと彼も―――
(いいなぁ・・・)
こんなにアスハ代表から心配されているということは、少なくとも彼らを愛している人がここにいる、ということだ。愛していなければ、心配などしないだろう。
「そうでしたか。でも代表がおっしゃるように、ヤマト准将がそこまでお強くない、というのであれば、やはり最強の男の人はアスランさん、ということですね。だってMSの腕もヤマト准将に匹敵しますし、銃の腕もナイフも体術も、ZAFTの教官さえ敵わなくって、今でもアスランさんの成績を抜いた人はいないんですよ!!」
興奮気味に立ち上がって話したメイリン。
まるで自分のことのように自慢してしまうのは、やはりまだ憧れているからだろうか。・・・ううん、今は同僚だから余計に自慢しておきたい。それだけだ。
だが、カガリは小首をかしげる。
<そうか?アイツも、それこそキラ以上に滅茶苦茶弱いぞ?>
「え?」
キョトンと丸まった金の瞳。思わずメイリンもキョトンとしてしまう。
「え、えぇっ!?それはないですよ!!だって「アスランさん」ですよ!?そりゃ確かにシンに撃墜されたことはありますけど、あれは私を庇って無理な戦闘をしなかっただけで―――」
<そうじゃないんだ。アイツは本当に馬鹿だぞ?>
あの「アスラン・ザラ」を―――「頭脳明晰」「眉目秀麗」を体現したような人を「馬鹿」って言いきるなんて人、初めてだ。
メイリンは尚も応戦する。
「そんなことありません!ZAFTの筆記試験だって、そこらの大学レベルより難しい専門問題を全教科満点だったんですよ!!」
だが、カガリはちょっと困ったように、言葉を選び出した。
<ん~~~というよりさ、確かに頭もいいし、切れるんだろうけど、アイツ、たぶん小さいころからひたすら「優秀」で通ってきたから、自分の知らない世界を見せつけられると、妙に自信が揺らぐんだよ。自分は間違ったことは言っていない、優秀で今まで間違ってきた経験がこれっぽっちもなかったんだろうな。・・・でも世界はそれだけじゃない。私やアイツがいまだに知らないことだってある。キラはまだその辺受け入れいいけれど、アスランはガッチガチだったからさ。おかげで自分がしてしまった失敗への後悔とか自責が半端ないんだ。それでいつまでもクヨクヨして、同じところぐるぐる何度も回って…本当にハツカネズミみたいなやつだったんだ。>
「…」
メイリンは絶句する。
あのアスランさんが、ハツカネズミって!?
ZAFTの特権階級ともいわれる「FAITH」にまで上り詰めた人なのに。
<でもさ。>
つぶやき始めたカガリの表情は優しい。
<人間は失敗したっていいんだ。何度も後悔してもいい。いけないのは「そこから何も学ばない」ということだ。>
「…」
<アイツは、すごい時間かかったけど、ちゃんと自分で一歩踏み出してきた。そして素直に「どうすればよかったんだろうか?」って聞けるようになったんだ。すごいことだと思わないか?自分の自信と価値観を絶対揺るがさなかった人間が、自分と周りの変化に気づいて、人を頼れるようになったんだぞ。>
「人を…頼る…」
カガリは頷く。
<弱くってもいいんだ。全てにおいて神のように完璧な人間なんてこの世にいない。でも失敗から自分の弱いところを見つけて、それを受け入れて、協力を求める。人間とはそれでいいし、そうあるべきだと思う。それが一番自然な姿なんだろう。>

―――「メイリン、これをやっておいてくれないか?」
―――「すまない。今日はこっちを任せるよ。」
―――「ありがとう。流石はメイリンだな。」

ごく当たり前のことだと思っていたけれど、彼にとってはそれはとてつもない大きな壁を乗り越えたんだろう。
そして、それを気づかせてくれたのは―――

<メイリン、色々面倒かけてすまない。仕事だけでも大変だと思うけど、そういうことだから、アスランのこと、よろしくな。>

そういって画面の向こうで笑う彼女。

この二人はキラとラクスのように寄り添える距離にいない。
なのに、この安心したような花笑みを見るだけで、まるで彼女の隣にアスランが寄り添っているように見える。

そういえばカガリと通信をしているときのアスランも、緊張感があるはずなのに、どこか…そう、声色とか、言葉遣いが、柔らかいのだ。そして、彼女を見るあの瞳も―――

その時の表情と同じ時を見たことがある。
彼が重要かつ危険な任務に出る時だ。
一人で胸の上にそっと手を当てて、何かに触れながら語りかけるようにしている。それが終わった瞬間、顔を上げた彼の瞳にはとてつもない力が宿っている。隙もなく、冷静沈着で、間違いなく”最強の男”に変化する。
その彼の背を優しくも力強く支えている…彼女の幻影

遠く離れているほどに、まるですぐそこにいるような。

(あぁ…やっぱり素敵だな。この二人って)

メイリンは素直に認める。
遠距離恋愛は難しい、と姉がぼやいていたことがあるが、本当の愛を捧げあって、強い絆を結んでいる相手なら、距離なんて一気に飛び越えるのだ。
それが―――本当の愛

そしてこの二人は、それを互いに口にすることもなく、それでもちゃんと分かり合っているんだ。

「いいなぁ~」
<へ?どうした?メイリン>
「あぁ!いえいえ、何でもありません!」
慌ててコーヒーを置き敬礼してみせると、カガリはまたクスクスと笑い出した。
<すまないな、久しぶりにメイリンと話せたもんだから、つい長話になってしまった。>
「いえ、こちらこそ!代表もお忙しくていらっしゃるのに。」
<こうしたおしゃべりも、ある意味貴重な情報収集だ。じゃぁともかく無理はしないで、何かあったらすく連絡をくれよ。>
「わかりました!」

画面の向こうで彼女が頷くと、モニターはブラックアウトした。
と、そこに
「今戻った。」
「あ、お帰りなさい、アスランさ…いえ、ザラ一佐。」
「今、カガリの声が聞こえたような気がしたんだが…」
礼儀にうるさい彼が敬称を間違えられたことにも気に留めず、目の前のメイリンより彼女の声を探している。
メイリンは思わずクスっと笑いを零す。
「どうした?何かおかしなことでも、」
「いいえ、何でもありません。コーヒー飲みますか?もちろん、虎のじゃありませんからご安心を♪」
「ありがとう、頼むよ。」
コートを脱ぎ始めたアスランの背を横目で見つつ、メイリンはポット片手にコーヒーを注ぐと、ふと窓の外を見やる。彼女がいるオーブは、あちらの空の向こうだ。

代表、貴方はご存じですか?
貴女が辛そうだと、彼の顔も辛そうになって
貴女が笑うと、彼も凄く嬉しそうな顔をしているんですよ。

メイリンは自然と唇を開いた。

「大丈夫です、代表。貴女がいる限り、アスランさんは間違いなく今「世界最強の男」ですから!」

 

・・・Fin.

 

***

 

突発でまたカキカキしてしまいましたw
劇場版本編前の設定で、カガリ&メイリンです。
運命本編をリアタイで見た時のかもしたは、カガリとメイリンの関係について考えたことはなかったんです。正直。ただ別宅にも上げた「Heliopause」にも書いた通り、「メイリンはアスランに憧れているけど、アスランの胸の内にはカガリがいて、それを消すことはできない」と自分自身気づいている、という感じかな、と受け取っていました。
でも今回の劇場版を見て、メイリンは同僚(というか上司)としてアスランをサポートしている、というスタンスでそれ以上でも以下でもない関係かな、と感じております(6回まで見た現時点で)。ズゴックやインジャ弐式のサポートもバッチリしていて、作戦の重要な部分でしっかりと能力を発揮して。運命の時はどこかまだ(アスラン脱走までは)姉に依存というか、いわゆる「妹」ならではの甘えみたいなところもあったんですけど、脱走以降はもう自分の考えと信念で動いてますものね。メイリンはしっかり者ですよ。ホーク姉妹はしっかり者です。
だからカガリともいい関係が築けているんじゃないかな?多分ミリアリアともいい関係だと思います。なんかターミナル出向部も含めて、オーブ軍皆いい関係を結べているように見えます。
続編・・・そういえば、先週アンケートで「続編があったら見たいですか?」という質問があって、「もちろん見たい!」にチェック入れましたけど、別に媒体は劇場版じゃなくてもいいと思ってます。後藤先生の小説でもいいし、漫画でもいい(※作画にもよりますけど)。まぁできれば「動いて声が付いている」のが最大嬉しいですけどね♪ なので(完全受注販売でもいいので)円盤とかあったら最高ですね☆ 
カガリが代表の座をトーヤ君に譲って、それ以降のドラマでもいいですし、引退する前に何かエピソードがあって、結果新たな道を共に歩んでいくアスカガ、みたいなのがあってもいいなぁ~(*´▽`*)

それまでまだ死ねないので、「(推しを)愛しているから、いやでも仕事をするんです!」とラクス様のお声ではっぱかけてもらって、明日もまた頑張って生きていきます(`・ω・´)ゞ

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触れたい唇

2024年01月30日 22時05分27秒 | ノベルズ

「まいったな…」

鏡に映った自分の表情を見て、思わず失笑する。
碧い光の中に刃を隠した瞳。涼しげな口元も鼻筋も、特に変わっては見えない。
だが、自分にだけはわかる。どこか生気が失われているのだ。

理由は―――「ただ一つ」

洗面台に両手をつき、青い前髪を垂らしながらゆっくりと目をつぶり、ただ一言、

「カガリ…」

彼女の顔を、名を思い出すだけで心臓が音を立てる。
だが、今の自分にあの歓喜が湧き上がらないのだ。

数か月前、彼女に呼び出された先で、謎の食べ物”もん…”なんとかに付き合わされ、彼女に勧められるまま口にしたものは、何とも奇妙なものだった。まぁ、味は悪くなかったが。
美味しかったのは、目の前で満足そうにそれをほおばる彼女の笑顔。
久しぶりに会い、二人きり(実際はSPに囲まれていたが)になって、大事な仕事の報告をするはずだったのに、何故か初めてのデートの様力んでしまった自分を見透かしたような、彼女の言葉と笑顔であっという間に緊張が解けた。
瞬間、湧き上がってくる耐えがたい望み

(―――もっと一緒にいたい!)

あの後、SPに囲まれ、それでも彼女との時間を少しでも作りたくて、彼女を抱くと軽々と壁の上に駆け上がる。
「うわぁ!」
あの時受けた彼女の細い腕―――首筋に回ったそれが触れるだけで、あれだけいとも簡単に飛べたのだ。今自分一人で駆け上れ、と言われても、その気力は全くない。
首に回された腕の力、顔にまとわりつく金の髪、そして彼女の香りと、間近で輝く金の瞳。
あれだけ味わったはずなのに、たった数か月で、まるで何年も断食しているかのように身体の全てに力が入らないのだ。

「何をしているんだ、俺は…」

頑張れよ、代表―――そう言って彼女を見送ったはずなのに、自分の方が先に渇望してしまうとは。

いけない。そのまま軽く首を横に振って、気持ちを切り替える。ロンググローブを両の腕にはめ、コートをひっかけ任務に向かう。

ふと
「ん?」
コートのポケットの中に入れていたUSBメモリ。中身は大した内容ではない。
それこそ数か月前、カガリに手渡したものと同じ型式のものだ。
一応、あの後入り続けた情報を集めていたものだが、さして重要性があるわけでもない。でなければこんなポケットに無造作に入れているわけはない。
だが、触れて思った―――(これは口実になるか)と。

「メイリン、急用ができた。少し遠方に出るので暫く戻れないかもしれない。」

出向先のターミナル本部で、先ほど脱いだばかりのコートに腕を通しながら、彼女に振り返らずアスランは告げた。
「お出かけですか?しかも遠方って…」
データのやり取りは確かに地球の裏側、オーブとファウンデーションの距離位など数秒もせずに届く。
重要な情報であっても、メイリンの組んだ10000桁の乱数中継により、ハッキングされる心配は1ミクロンの心配もない。
メイリンが怪訝な表情になったが、ふと彼女の目が何かに気づいて見開いた。
「あ、そうか!もうそろそろ補給が必要な時期ですね。」
少し揶揄い気味な彼女の口調に、少し口元をまげて眉を顰めるアスラン。
「補給?何のことだ?」
「いえ、何でもありません。気を付けて、ご・ゆ・っ・く・り、いっていらしてください♪」

そう言ってメイリンは手元のノートパソコンを閉じると、その向こうでニッコリと笑って見せた。

 

***

 

アスランがオーブに到着すると、もうすっかり日が暮れていた。
「まいったな、気流が乱れていなければもっと早く着けたのに。」
口では不服を申し立てていても、心は早鐘の様に一路、行政府へと車を走らせる。
もうカガリはアスハ邸に帰っているだろうか。
そうして内閣府の警備員に、普段は持ち歩かない認証カードを見せつける。
「これはザラ一佐!」
一斉に敬礼してみせる彼らに気にも留めず、口早に
「カガ…アスハ代表はどこに?」
「まだ執務室の方にお出でです。」
その声を背にしてアスランの足は早まる。小走りに、そして何時しか大理石の階段を音を立てて駆け上がった。

「はぁ、はぁ、」
少し上がった息を整える。目の前には見慣れた執務室のドア。その隙間から、まだLEDの柔らかな温かみのある光が零れている。
アスランは、ノックを忘れ手早くノブを回した。
「カガリ。」
開け放ったそこに、彼女はいた。

いたのだが、トレードマークの金髪はピクリとも動かない。

「カガリ?どうしたんだ!?」

足早に重厚なデスクに近づくと、光に揺れる金髪が、小さく波打っていた。
「スー、スー、」
カガリはいた。ただし、机に突っ伏し、心地よさそうに寝息を漏らして。
「はぁ…」
アスランは一安心し、肩で息をつく。そしてそのまま彼女の机に腰を付け、恐る恐る指先でその揺れる髪に触れる。

柔らかくて、温かい…

次第に指だけではなく、手のひらで、そっと彼女の頭を撫ぜる。
「ん…」
「カガリ?」
目覚めたか、と思ったが、彼女は顔を横に向けると一瞬吐息を漏らしただけで、またも安らかな夢の中に戻ってしまった。
いつの間にか遠慮なく、彼女の髪から指先で遅れ毛を払い、指の背でその頬に触れる。
(柔かい…)
ナチュラルメイクの彼女の頬をなぞると、素肌に触れているようでアスランの中に熱が湧き上がる。
「カガリ…」
いつの間にかアスランは彼女の寝顔に顔を近づけていた。
右の人差し指の先で、そっと触れるか触れないかの感覚で、唇に触れる。
潤いのある柔らかなそれは、頬と違って温かく、生々しさをもってアスランに女性を意識させる。
薄いルージュ、零れ落ちる寝息、けぶる睫毛はピクリとも動かず、安心しきって眠り姫は目覚める様子はない。

(ゴクリ)

自身の喉が鳴ったことにアスランは気づかない。

今なら、唇が触れ合えるのでは…?

顔を寄せる。唇に彼女の吐息を感じる。

(もう少し…)

アスランもそっと目を細め、重なる瞬間を待ち望む。

 

 

「クシュン!」
「っ!?」

目の前でその小さな唇が開き、くしゃみ一つ。
持ち前の反射神経で、顔にかかることはなかったが、
「…ムードが台無しだな。」
そう言って苦笑する。そして
「カガリ、風邪をひくぞ。」
その細い肩を揺するが、
「ううん…」
やっぱり眠り姫は簡単に目覚めない。
相当疲れているのだろう。コンパスが立ち上がって、何とか軌道に乗り始めたところにフリーダム強奪事件やファウンデーションの影が潜み始めたのだ。当然終戦締結を結んだところで、各所の火種はまだまだ残っている。それを一人でこの双肩に背負っているのだ。
(できれば君の隣で、君を支えたいのに…)
まだそれは叶わぬ願いと知っている。立場が違う。でも目指す先の夢は一緒だ。何時か二人の人生が重なるときが来るだろう。それまでは、自分がやるべきことをやるまでだ。

もうしばらくすれば秘書官や屋敷からの迎えが来るだろう。
それまでこの姫の眠りは俺が守ろう。

アスランは黙ってコートを脱ぎ、その背にかけてやる。
その瞬間、カガリがふと力が抜け、微笑んだように見えた。
「…全く」
寝顔と微笑み一つで、男一人を虜にしてくれる。本人は全く自覚もないのに。そこが困りものなのだが。
だったら、せめてこれくらいは許してくれよ。

そう心の中で呟き、アスランは柔らかなその頬に、そっと口づける。
そしてそのままゆっくりとドアを閉じた。

 

空港に向かう車の中、ハンドルを握りながら、片手でふと自分の唇を指先でなぞる。
「これで暫くは充電がもつかな。」
苦笑すると急にうすら寒さを感じる。
「しまった!コート―――…」
一瞬ブレーキを掛けそうになったが、アスランはそのままアクセルを踏みなおす。

「そうだ。今度はコートを取りに行く口実が出来たな。」

小さく微笑み、再び口角の上がった唇に触れながら、アスランはあの感触の余韻を楽しむのだった。

 

・・・Fin.

 

===

劇場版公開以降、初めてのSSです。
正直、まだ特典小説も2回しか読んでおらず、劇場本編の内容も十分に咀嚼できていない状態ですので、核のためらったんですが、暫くSSらしいもの書いていないので、リハビリとしてちょっとUPしてみました。

多分落ち着いたら、どんどん書き出すと思います(笑)

いいのよ、誰に読まれなくても。
自分の中の熱を発散させたいだけなので。
同人とはそういうものです♥(´∀`*)ウフフ

 

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